- Geminiの「Gem」が2026年10月20日に終了するという通知が見つかったと報じられている(Googleの公式発表は未確認)
- 後継の「Skills」は、現時点では仕事用アカウントで使えないとされていて、士業事務所にとっては他人事ではない
- だからこそ、AIに渡すべきは毎回のプロンプト(指示)ではなく、事務所の判断基準そのもの
- 基準をドキュメントに置いてAIに読ませれば、ツールが変わっても資産は残る
- 僕の事務所では、新規の問い合わせを「社内の誰に回すか、社外のどこにご案内するか」を1枚のシートにして、AIに読ませている
- 入って間もない職員でも、聞き取った内容を貼り付けるだけで、その日から窓口として機能するようになる
- ただし司法書士は正当な事由がなければ依頼を拒めない。断るための道具にしてはいけない
AIを使う士業事務所が増えてきて、次に起きるのは“作り込んだものが消える”という問題です。
ここ数年、僕はブログでもセミナーでも、紙をデータにして、クラウドに載せて、AIに任せていきましょうという話をしてきました。実際にその順番で進めてきた先生方も増えています。ところが、いざ本気で作り込み始めた矢先に、こういうニュースが飛び込んでくるわけです。
今回は、新規の問い合わせをAIに振り分けさせる、という一つの例で書いていきます。でも、ここでお伝えしたい考え方は、相続手続でも不動産の売買でも、どの業務にもそのまま使えるものです。
Geminiの「Gem」が10月に終わる? 作り込んだ資産はどこに残るのか
「Gems are retiring October 20」という通知
2026年8月に入って、Geminiアプリの中から「Gems are retiring October 20」という未公開の通知文が見つかった、という報道が出ました。Gemというのは、Geminiに自分専用の指示をあらかじめ覚えさせておける機能です。ChatGPTでいうGPTs、ClaudeでいうProjectsと同じようなものだと思ってください。
ここは大事なところなので先に書いておきますが、これはまだGoogleの公式発表ではありません。アプリの中身を解析した人が見つけた文言をもとに、複数のメディアが報じている段階です。だから「10月20日に廃止が決まった」と断定するのは、まだ早い。
後継の「Skills」が、仕事用アカウントで使えないという話
僕が引っかかったのは、廃止そのものよりも、移行先の条件のほうでした。
報じられているところによると、Gemの後継は「Skills」という機能で、これはGoogle AI ProまたはUltraの契約が必要で、しかも個人アカウント限定で、仕事用(Google Workspace)のアカウントでは使えないとされています。さらに、自動で移行してくれる仕組みも今のところ示されていない。
これ、士業事務所からすると相当まずい話です。だって、事務所としてWorkspaceを導入して、事務所のアカウントでGemを作り込んできた先生ほど、行き先がなくなるということですから。個人アカウントで仕事の情報を扱うわけにもいきません。
これはGoogleだけの話ではない
でも、ここでGoogleを責めても仕方がないんです。そうなんです、これはGoogleに限った話ではありません。
ChatGPTのGPTsも、ClaudeのProjectsも、提供している会社の都合でいつでも仕様が変わります。名前が変わることもあれば、料金プランが変わることも、対象アカウントが変わることもある。僕たちが業務で使っているAIの機能は、全部”借り物”だということです。
借り物の上に事務所の財産を積み上げてはいけない。今回の件で僕がいちばん強く思ったのは、そこでした。
結論。AIに渡すべきは「指示」ではなく「事務所の判断基準」
毎回プロンプトを書き直しているうちは、AIは道具のまま
では、どうすればいいのか?
多くの先生は、AIを使うときに毎回プロンプトを書いています。「相続の相談メールが来たので、返信の下書きを作って」「この面談メモをきれいにまとめて」といった具合です。もちろんそれでも仕事は速くなります。でも、この使い方をしている限り、AIはずっと”その先生専用の道具”のままです。
なぜかというと、うまくいったプロンプトが先生の頭の中とチャット履歴の中にしかないからです。職員に渡せないし、ツールを乗り換えたら消える。今回のGemの件で困るのも、まさにこのタイプの使い方をしていた人たちです。
基準をドキュメントに置き、AIには毎回それを読ませる
僕がおすすめしているのは、逆の作り方です。
事務所の判断基準を、GoogleドキュメントでもWordでも、なんなら1枚のスプレッドシートでもいいので、AIの外側に置いておく。そして、AIを使うときは毎回「まずこの資料を読んでください。そのうえで、この相談にどう対応するか答えてください」という渡し方をする。
たったこれだけの違いなんですが、意味はまるで変わります。だって、事務所の財産がAIの機能の中ではなく、自分たちのドライブの中に残るからです。
ツールを乗り換えても、資産は1分で移せる
この形にしておくと、Gemが終わっても、GPTsの仕様が変わっても、痛くも痒くもありません。参照するドキュメントのリンクを新しいツールに貼り直すだけです。極端な話、AIを全部やめて紙に印刷したって、そのシートは職員のマニュアルとして機能します。
AI活用というと、どうしても”どのツールを使うか”の話になりがちですが、本当に効いてくるのは、そこではないと僕は思っています。
実例:新規の問い合わせをAIに振り分けさせる
1枚のシートに書いてある5つの列
僕の事務所では、実際にこの形で運用しているシートがあります。新規のお問い合わせを受けたときに、どう対応するかを決めるためのものです。
構造はいたってシンプルで、列は5つしかありません。イメージとしては、こんな形です。

列1:業務の種類
相続登記、家族信託、成年後見、相続放棄、といった分類です。
列2:相手の状態
ここがいちばん大事な列です。「対象となる本人が事務所のエリア外に住んでいる」「費用だけ知りたいと言っている」「すでに相続人の間で裁判になっている」など、受付の段階で聞き取れる事実を書きます。
列3:対応の方針
面談に誘導するのか、しないのか。しないなら、どういう理由でしないのか。
列4:実際に伝える言葉
そのまま読み上げられる文章を書いておきます。ここを用意しておかないと、担当者が自分の言葉で説明しようとして、事務所ごとに言うことが変わってしまいます。
列5:つなぐ先
ここには、事務所の”中”と”外”の両方を書きます。社内の誰に回すのか、社内で受けないなら外のどこをご案内するのか。ここが空欄の行を作らないのが、後で書くいちばん大事なルールです。
つなぐ先の半分は”社内”です。誰に回すかまで決めておく
このシートを作るとき、多くの先生が外部の紹介先ばかり書いてしまいます。でも、実際に来る問い合わせの大半は、自分の事務所で受けられる案件です。だから、社内の振り分けこそ丁寧に書いてください。
うちの場合はこんな形です。
不動産の売買・決済
決済は日程がすべてなので、不動産の登記を担当しているチームへ直行させます。仲介業者さんからのお電話か、個人のお客様からかで最初の聞き取りが変わるので、そこも列2に書いてあります。
家族信託
信託は組成の設計が入るので、信託を担当している者へ回します。ご本人の判断能力が微妙だというお話が出たときは、成年後見の可能性も併せて検討するので、その旨も書いてあります。
遺言・相続登記・相続手続
相続手続を担当しているチームへ。ここがいちばん件数が多いので、面談の希望日時まで受付で聞き取ってしまう、というところまで決めています。
誰の担当か決まっていないもの
これも必ず書きます。うちでは日替わりの「当番」を決めていて、担当が決まっていない一般のお問い合わせはその日の当番が窓口になる、というルールにしています。“宙に浮く行”を作らないことが大事です。
チーム制でやっている事務所ならチーム名で、個人で分担しているなら担当者名で構いません。大事なのは、相談の入口と、社内の誰かが、必ず1対1でつながっている状態を作ることです。
職員は問い合わせの内容をコピペするだけ
運用は簡単です。問い合わせフォームの内容や、電話で聞き取ったメモを、そのままAIに貼り付ける。AIには先にこのシートを読ませてあるので、「この相談は列2のこの行に当てはまりそうです。対応はこう、伝える言葉はこう、つなぐ先は社内の誰それです」と返ってきます。
職員は、その提案を見て、自分の判断で最終的に決める。この”最後は人が決める”というところは、後で詳しく書きます。
新しく入った職員が、初日から電話を取れるようになる
この仕組みを作って、いちばん効果を感じたのは新しく入った職員の立ち上がりでした。
士業事務所に入ったばかりの職員にとって、いちばん怖いのは電話です。「相続の相談なんですが」と言われても、何を聞けばいいのか、誰に回せばいいのか、まったく分からない。だから先輩の手が空くまで保留にしてしまうか、聞き取りが足りないまま取り次いで、担当者がもう一度かけ直すことになる。
でも、この形にしておけば、こう言えるようになります。
「一度確認いたしますので、少しお時間をいただけますか」
そう言って保留にして、聞き取った内容をそのままAIに貼り付ける。数秒で「この相談は誰に回すか」「その場でどこまで答えていいか」が返ってきます。
つまり、入って間もない職員が、その日から”窓口”として機能するということです。問い合わせフォームからのメールも同じで、内容をコピペすれば、返信の下書きと担当者の割り振りまで出てきます。
もちろんAIの答えをそのまま鵜呑みにさせてはいけません。でも、ゼロから調べさせるのと、たたき台を見せて判断させるのとでは、育つ速さがまるで違います。先輩に聞くにしても、「これで合っていますか」と聞ける状態で聞けるのは大きいです。
専門分野が交差する相談ほど効果が大きい
この仕組みがいちばん効くのは、実は専門分野が交差する相談です。
うちでいうと、外国人のお客様からのご相談がそうです。ビザの話なのか、会社設立の話なのか、不動産の売買なのか、相続なのか。それによって、うちで受けるのか、提携している行政書士の先生にお願いするのか、税理士の先生につなぐのかが変わってきます。
これ、受付の職員が判断するのは本当に難しい。だって、入管法の在留資格の一覧なんて頭に入っているわけがないですから。でも、判断の分かれ目をシートに書いてAIに読ませておけば、「これは在留資格の話が絡むので、提携先の先生へ」という一次仕分けができるようになります。
これまで所長に確認しないと止まっていた案件が、止まらなくなる。 これがいちばん大きい変化でした。
ここを外すと危ない。「断るための道具」にしてはいけない
司法書士は、正当な事由がなければ依頼を拒めない
ここからが、この記事でいちばん書きたかったところです。
こういう仕組みの話をすると、必ず「面倒な案件を効率よく断るための道具ですね」と受け取る方がいます。でも、それは絶対に違います。
司法書士法21条には、こう書かれています。
司法書士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼(簡裁訴訟代理等関係業務に関するものを除く。)を拒むことができない。
正当な事由がないのに依頼を断れば、それ自体が法律違反です。懲戒の対象にもなります。効率化のために作ったシートが、懲戒の火種になったら本末転倒でしょう。
書くのは「受ける・受けない」ではなく「どこにつなぐか」
だから、シートに書くべきなのは「受ける・受けない」の判定ではありません。「この相談は、誰が対応するのがいちばん早く解決するか」です。
実際、うちのシートを改めて見返してみると、純粋に断っている行はほとんどありませんでした。ほとんどの行が、こうなっています。
すでに相続人の間で争いになっている案件なら、これは非弁行為に当たるので僕たちは扱えない。だから弁護士会をご案内する。成年後見で、ご本人が事務所のエリアから遠く離れて住んでいるなら、かかりつけ医の診断書を取るところから現地の情報が必要になるので、僕たちがやるとかえって時間がかかる。だから、ご本人の住所地のリーガルサポートや家庭裁判所をご案内する。
理由と、つなぐ先。この2つが必ずセットになっている。これが正当な事由の中身であり、同時に相談者にとっても最短ルートなんです。
基準がない事務所のほうが、実は危ない
そう考えると、話は逆になります。
基準を紙に落としていない事務所のほうが、実は危ないんじゃないか。だって、その日の担当者の気分や忙しさで受けたり受けなかったりしているわけですから。なぜその判断をしたのかを、後から説明できません。
基準を書き出すのは、断るためではなく、なぜその判断をしたのかを説明できるようにするためです。そしてこれは、AIに読ませるかどうかとは関係なく、事務所としてやっておいたほうがいいことだと思っています。
最終判断は人がする、とシートに書いておく
もう一つ、必ずやっておいてほしいことがあります。
シートの冒頭に、「AIが出すのは候補であって、最終的な対応は必ず担当者が判断する」と書いておくことです。AIは平気で間違えますし、シートに載っていないパターンの相談も当然来ます。そのときにAIの答えをそのまま読み上げてしまったら、事故になります。
書いてあるかどうかで、職員の使い方が本当に変わりますので、これは面倒くさがらずに入れてください。
今日から作れる。最初の1枚の作り方
まず、直近1か月の問い合わせを20件並べる
いきなり完璧なシートを作ろうとすると、必ず挫折します。だから、こう始めてください。
直近1か月の問い合わせを20件、時系列で並べる。それだけです。
「誰が対応したか」「なぜそう判断したか」を1行ずつ書く
次に、その20件それぞれに、誰が対応したか、そしてなぜそう判断したかを1行ずつ書いていきます。
やってみると分かるんですが、ここがいちばんしんどくて、いちばん価値のある作業です。「なんとなく」「いつもそうしているから」としか書けない行が必ず出てきます。それが、事務所の中で言語化されていない判断です。
そこを埋めていくと、20件のうち15件くらいは、数パターンに収まることに気づくはずです。まずはそのパターンだけシートにすればいい。残りの5件は、出てきたときに追記していけばいいんです。
置き場所より、AIから参照できることが大事
形式は、Googleドキュメントでも、Wordでも、スプレッドシートでも構いません。判断が分岐するものはスプレッドシートのほうが書きやすいですが、手順そのものを書くならドキュメントのほうが楽です。
一つだけ気をつけるとしたら、AIから参照できる場所に置くことです。事務所のパソコンのデスクトップに置いてあるファイルは、AIには読めません。Googleドライブなど、クラウド上に置いてください。
このあたりの、そもそも資料をどうやってクラウドに載せるかという話は、前に書いた記事のほうが詳しいので、まだの先生はこちらから読んでみてください。
士業のAI活用は紙のデータ化から!業務効率化を実現するクラウド構築術
データ化・音声入力の次にやるべきこと。士業事務所を”AI秘書化”して業務を丸ごと任せる仕組みづくり
手順書がある業務は、すべて同じ形にできる
今回は新規の問い合わせを例にしましたが、この形が使えるのはここだけではありません。
相続手続の進め方、不動産売買の決済までの必要書類チェック、外国人のお客様への対応、遺言書作成の面談で必ず聞くこと。すでに手順書やチェックリストがある業務は、全部そのままAIに読ませる資料にできます。むしろ、事務所に眠っている古いマニュアルほど、掘り起こす価値があります。
それぞれの具体的な作り方については、また別の記事で書いていこうと思います。
副産物。基準が言葉になると、人も育つ
所長の頭の中にしかなかった判断が、渡せるようになる
最後に、これは僕がやってみて初めて気づいたことなんですが。
このシートを作る本当の価値は、AI活用ではないかもしれません。
士業事務所って、判断のほとんどが所長の頭の中にあります。だから職員は、少しでも迷うと所長に聞きに来る。所長は毎日それに答えているうちに一日が終わる。これ、多くの事務所で起きていることだと思います。
シートを作るというのは、その頭の中を外に出す作業です。一度出してしまえば、職員は自分で調べて、自分で判断できるようになります。AIはその手伝いをしているだけで、本体は”基準が言葉になったこと”のほうなんです。
AI導入の本当の効果は、時短ではなく判断の標準化
AI導入というと、どうしても「何時間削減できました」という話になりがちです。もちろん時間は減ります。でも、僕が事務所でやってみて実感しているいちばんの効果は、そこではありません。
誰が対応しても同じ答えになる、という状態です。
これは事務所の品質そのものですし、人を採用したときの立ち上がりの速さにも直結します。そしてこれは、Gemが終わろうが、新しいAIが出てこようが、事務所に残り続ける財産です。
まとめ
- Geminiの「Gem」が2026年10月20日に終了するという通知が見つかったと報じられている(Googleの公式発表は未確認)
- 後継の「Skills」は、現時点では仕事用アカウントで使えないとされていて、士業事務所にとっては他人事ではない
- だからこそ、AIに渡すべきは毎回のプロンプト(指示)ではなく、事務所の判断基準そのもの
- 基準をドキュメントに置いてAIに読ませれば、ツールが変わっても資産は残る
- 僕の事務所では、新規の問い合わせを「社内の誰に回すか、社外のどこにご案内するか」を1枚のシートにして、AIに読ませている
- 入って間もない職員でも、聞き取った内容を貼り付けるだけで、その日から窓口として機能するようになる
- ただし司法書士は正当な事由がなければ依頼を拒めない。断るための道具にしてはいけない
Gemが10月に終わるかもしれない、というニュースは、正直なところ僕にとってはいい機会でした。おかげで、自分の事務所がAIの機能に寄りかかっていないかを点検できたからです。
AIのツールは、これからも変わり続けます。名前も、料金も、使えるアカウントの条件も。だから、そこに事務所の財産を預けてはいけない。預けるべきなのは、自分たちのドライブの中にある1枚のドキュメントのほうです。
そして、その中身を作る作業は、AIには代われません。どういう相談を、どういう理由で、誰につなぐのか。それを決めるのは、資格を持って責任を負っている僕たち自身です。司法書士には依頼に応じる義務があって、断るには正当な事由が要る。その事由を言葉にしておくことは、効率化である前に、専門家としての誠実さの問題なんだと思います。
まずは、直近の問い合わせ20件を並べるところからで大丈夫です。完璧なシートを作ろうとしなくていいので、書けるところから書いてみてください(^^)/
AIを事務所の仕組みにする方法を、セミナーでお話ししています
今回書いたような、事務所の判断基準をドキュメントにしてAIに読ませる具体的なやり方は、記事だけではどうしても伝えきれない部分があります。
実際にどんなシートを作り、どのツールにどう読ませ、職員にどう使ってもらうのか。僕の事務所で実際に動いているものをお見せしながら、AI実務自動化セミナーでお話ししています。ご興味のある先生は、こちらからご覧ください。



























