2024/7/11 2024/11/20
外国人ビザ
経営管理ビザに必要な事業計画書の書き方とは?ポイントと注意点を解説
日本で外国人が会社経営をし、事業を展開するには「経営・管理」のビザを取得しなければなりません。経営・管理ビザ取得には様々な必要書類がありますが、その中でも、重要な書類が「事業計画書」です。
今回の記事のポイントは下記の通りです。
✓経営管理ビザの申請条件として学歴・職歴は条件とされていないが、①実現性のある事業計画、②事業規模(資本金500万円以上又は常勤職員2名以上)、③事業所の確保が求められている
✓事業計画書は、経営管理ビザを申請する際に審査で重要視される書類であり、審査官が申請者の事業の実現可能性を評価するための基礎資料となる ✓事業計画書には、事業の内容・起業の動機、市場規模、取引先(仕入れルート、販売ルート)、売上と経費の収支計画、マーケティング(集客・宣伝)、経営に必要な知識、関連業務経験、日本語能力などを盛り込み実現可能性な計画であることを示す必要がある ✓事業計画書は日本語で作成し、裏付け資料を用意する。また、経営者が行う業務を明確にすることが必要 |
今回の記事では、経営管理ビザにおける重要書類である「事業計画書」の作り方とポイント、注意点について解説します。
1.経営管理ビザとは?
日本で外国人が会社経営をし、事業を展開するために必要なビザは、「経営・管理」のビザです。経営・管理ビザ取得には様々な条件が必要ですが、基本として定められている要件は下記の通りです。
1-1.経営管理ビザの概要
経営管理ビザは、日本で事業を経営・管理する外国人に対して発行される在留資格です。
このビザを取得することで、外国人は日本国内に滞在して、会社を設立し、事業活動を行うことができます。経営管理ビザは、外国人が日本国内で新たなビジネスを立ち上げるだけでなく、既存の事業の管理にも適用されるため、起業家や日本国内に招聘される外国人経営者にとって重要なビザとなります。
1-2.経営管理ビザの対象者と申請条件
経営管理ビザの対象者と申請条件は次の通りです。
経営管理ビザの対象者
経営管理ビザの対象者は、主に以下のような外国人です。
- 新規事業を立ち上げる起業家: 日本で新たに事業を開始し、経営または管理を行う予定の外国人
- 既存事業の管理者: 日本国内にある既存の事業を管理するために招聘される外国人
- 日本支店の設立を計画している外国企業の日本支店長: 日本に支店を設立し、その支店の経営または管理を行う予定の外国企業の日本支店長
経営管理ビザの申請条件
経営管理ビザを申請するためには、以下の条件を満たす必要があります。
実現性のある事業計画を示すこと
事業計画が具体的で実現可能であることが求められます。詳細は後述します。
事業規模(資本金500万円以上又は常勤職員2名以上)を満たすこと
経営管理ビザを取得するためには、事業規模の要件を満たす必要があります。具体的には、以下のいずれかを満たす必要があります。
- 資本金の額が500万円以上であること
- 常勤職員が2名以上いること
設立当初から常勤職員を雇用するのは経営上経費がかかるため、一般的には資本金500万円以上を用意することがほとんどです。
事業所を確保していること
事業を運営するための事務所や店舗など、実際に使用する場所が確保されており、営業を開始できる状況となっていることが必要です。
学歴・職歴は要件とされていない
日本で会社を経営していくためには、「事業規模(資本金500万円以上又は常勤職員2名以上採用)基準」「事業所の存在・確保基準」を満たす必要があります。経営管理ビザでは、就労系ビザに必要とされる学歴や職歴要件が条件として要求されない点が特徴です。つまり、日本で事業を立ち上げるための資金(500万円以上)さえあれば、ビザの申請を行うことが可能です。
これらの条件を満たすことができれば、経営管理ビザを取得するための第一歩を踏み出すことができます。そして、重要となるのが、具体的かつ実現可能な事業計画書の作成です。
1-3.家族や友人を日本に呼び寄せる場合の注意点
経営管理ビザを利用して家族や友人を日本に呼ぼ寄せたいというご相談を受ける機会が多くあります。
このようなケースにおいては、特に通常以上に慎重な対応が必要です。。特に家族や親戚を招く際には、入国管理局による審査がより厳格になる傾向があります。これは、経営管理ビザ制度を悪用した偽装入国を防ぐための措置です。
残念ながら、実際の経営活動を伴わず、単に身内を日本に呼び寄せる目的で経営管理ビザを取得しようとするケースが散見されます。このような不適切な利用は、当局の厳しい監視対象となっています。
したがって、家族や知人が真に経営管理ビザの取得を希望する場合、申請準備には特別な配慮が必要です。入国管理局は、申請者の事業経験、学歴、起業の具体的な目的と内容、さらには日本語能力まで、多岐にわたる要素を綿密に審査します。このようなケースでは、申請者の経営能力と事業計画の実現可能性を明確に示すことが不可欠です。また、日本での事業が単なる名目上のものではなく、実質的な経済活動を伴うことを証明する必要があります。
招聘する側も、単なる個人的な関係だけでなく、その人物の専門知識や経験が事業にとって真に必要であることを説明できるよう準備しておくことが重要です。綿密な事業計画書を作成し、そして招聘の必要性を裏付ける具体的な証拠を用意することで、審査をスムーズに通過できる可能性が高まります。
2.経営管理ビザ申請に必要な事業計画書の書き方
事業計画書は、経営管理ビザを申請する際に審査で重要視される書類です。審査官が申請者の事業の実現可能性を評価するための基礎資料となります。事業計画書には下記の項目について説明する必要があります。
- 事業の内容
- 起業の動機と市場規模
- 取引先(仕入れルート、販売ルート)
- 売上と経費の収支計画
- マーケティング(集客・宣伝)
- 経営に必要な知識、関連業務経験、日本語能力
以下では、事業計画書の各項目について具体的な書き方と事例を交えて説明します。
2-1.事業の内容
事業計画書の最初に記載する項目は、事業の全体像です。審査官にとって、まず事業の全体像を把握することが重要です。
事業概要には、具体的にどのような事業を行うのかを簡潔に記載します。例えば、事業の種類、提供するサービスや製品の内容、事業の目標などを明確にします。事業の全体像をわかりやすく示すことで、審査官に対して事業の具体性と実現可能性をアピールできます。
記載例
当社は、東京に拠点を置き、日本国内および海外市場向けに高品質な日本製化粧品の販売を行います。主な取扱商品は、スキンケア製品、メイクアップ製品、およびヘアケア製品であり、〇〇社や〇〇社の人気商品を中心に取り扱います。目標は、初年度の売上高1,000万円を達成し、3年以内に年商5,000万円を目指します。
2-2.起業の動機と市場規模
次に、なぜそのビジネスを始めようと思ったのか、そして市場規模について説明します。この部分では、事業を立ち上げる動機とその背景、さらに市場の現状と可能性について具体的に記載します。
市場調査の方法としては、ターゲット市場の規模、成長性、競合状況などを分析し、その結果を基にビジネスの優位性を示します。具体的なデータや統計を用いることで、説得力を高めることができます。信頼できる調査データを収集し、根拠として活用しましょう。
記載例
起業の動機は、日本製化粧品の高い信頼性と品質が海外に認知されていると強く感じたためです。
特に中国市場では、「日式(日本製)=高級」というブランドへの憧れが強く、日本製化粧品の需要が増加しています。2020年の中国における化粧品輸入総額は160億ドルを超え、そのうち日本製品は39億ドル(24.7%)を占めています。この市場成長を背景に、日本製化粧品の輸出販売を決意しました。
2-3.取引先(仕入れルート、販売ルート)
事業計画書には、取引先についての詳細な情報も含める必要があります。どのような仕入れルートや販売ルートを持っているのかを明示することで、事業の信頼性を高めます。
取引先の信頼性を示すためには、契約書や覚書、取引先の企業情報などを添付します。これにより、ビジネスの実態があることを証明できます。具体的な取引先情報は、事業の信頼性と安定性を裏付ける重要な要素です。
記載例
仕入れ先: 〇〇社(契約書あり)、〇〇社(契約書あり)
販売先: 中国国内の大手百貨店〇〇店、オンラインプラットフォーム〇〇(契約書あり)
当社は、既に〇〇社および〇〇社との取引契約を締結しており、安定した商品供給が可能です。また、中国国内の販売先とも基本契約を結んでおり、初年度からの売上見込みが立っています。
2-4.売上と経費の収支計画
事業計画書の中でも重要な部分が、売上と経費の収支計画です。これは、事業の経済的な実現可能性を示すために不可欠です。最低でも1年、できれば3年分を記載します。
収支計画を立てる際には、現実的な数字を基に計画を作成します。売上見込み、経費、利益予測などを具体的に記載し、その根拠も明示します。経費支出予定実績や市場調査の結果を活用し、信頼性のある計画を提示しましょう。
記載例
売上見込み: 初年度は月平均売上100万円、年間売上1,200万円を見込む。
経費: 初年度の総経費は800万円(商品仕入れ500万円、事務所賃貸料120万円、広告費100万円、人件費80万円)。
利益予測: 初年度の純利益は400万円を目指す。
収支計画の根拠: 市場調査によると、日本製化粧品の需要は年々増加しており、既存の販売契約に基づいて初年度の売上目標を設定しました。
2-5.マーケティング(集客・宣伝)
マーケティング戦略は、事業の成功に不可欠な要素です。事業計画書には、どのようにして顧客を集め、製品やサービスを宣伝するかを詳細に記載する必要があります。これにより、審査官に対して事業の集客力と市場での競争力を示すことができます。
どのような手法でターゲット市場にリーチし、製品やサービスをどのように宣伝するかを明確にします。
記載例
当社は、オンラインとオフラインの両方のチャネルを活用したマーケティング戦略を展開します。主なターゲット市場は中国の富裕層および美容に関心の高い若年層です。以下の手法を用いて集客および宣伝を行います。
- SNSマーケティング:
– WeChat、WeiboなどのSNSプラットフォームを活用し、ブランド認知度を高めます。
– 定期的にコンテンツを投稿し、フォロワーとのエンゲージメントを強化します。
– インフルエンサーとのコラボレーションを通じて、製品のレビューや使用感を紹介します。 - ECサイトでの販売:
– タオバオ、天猫、アリババなどの中国の主要ECサイトに出店し、オンライン販売を行います。
– 各ECサイトでプロモーションキャンペーンを実施し、初回購入者に対する割引や特典を提供します。 - 百貨店での販売:
– 中国国内の主要都市にある高級百貨店と提携し、販売スペースを確保します。
– 百貨店内で定期的にポップアップイベントを開催し、顧客に直接製品を体験してもらいます。 - 美容サロンとの提携:
– 美容サロンやエステティックサロンと提携し、当社製品を取り扱ってもらいます。
– 美容サロンの顧客に対する特典として、当社製品のサンプルを配布します。
2-6.経営に必要な知識、関連業務経験、日本語能力
経営者自身のスキルや経験についても記載します。これは、経営者が事業を成功させるために必要な能力を持っていることを証明するためです。
経営者の過去の職務経験、関連業務での実績、専門知識、そして日本語能力を具体的に示します。例えば、過去に成功させたプロジェクトや取得した資格などを記載します。これにより、審査官に対して経営者の能力と信頼性をアピールできます。
記載例
- 経営者のスキル:
– 10年以上の化粧品販売業界での経験
– 中国語、日本語、英語のトリリンガル
– 〇〇大学経済学部卒業
– 前職では、中国市場向けに日本製化粧品のマーケティング戦略を成功させ、売上を3倍に拡大した実績があります。
– 日本語能力試験N1を取得しており、日本語でのビジネスコミュニケーションに問題はありません。
詳細かつ具体的な情報を盛り込むことが重要です。これらの項目を詳細に記載することで、事業計画書はより説得力を持ち、経営管理ビザの取得がより確実になります。具体的かつ実現可能な計画を事業計画書に記載することが必要です。
3.事業計画書作成のポイントと注意点
事業計画書は、審査官に対して事業の安定性と継続性を立証する書類であり、注意を払って作成する必要があります。ここでは、事業計画書作成の際に特に注意すべきポイントと注意点について説明します。
3-1.事業計画書は日本語で作成する
経営管理ビザの申請書類は日本語で作成する必要があります。これは、日本の出入国管理庁に提出する書類であるため、正確な日本語で、端的に内容をまとめることが求められます。
文書の誤字脱字を避け、読みやすい文体で記載し、専門用語や業界用語は必要に応じて解説を加えるなどしましょう。そして、日本語の表現に自信がない場合は、専門家に事業計画書の作成を依頼するなども検討してください。
3-2. 事業計画書の裏付け資料を用意する
事業計画書の内容を補強するためには、下記のような裏付け資料を添付することが有効です。これにより、事業の信頼性と具体性を高めることができます。
- 契約書
取引先との契約書や覚書を添付し、実際のビジネス関係を証明します。 - 見積書、カタログ
商品の仕入れや販売に関する見積書やカタログを示すことで、収益予測の根拠を示します。 - マーケットリサーチ資料
市場調査結果や統計データを添付し、市場規模や需要を証明します。
3-3.経営者が行う業務を明確にする
経営管理ビザを申請する際、経営者としてどのような業務に従事するのかを明確に示すことが重要です。申請者が具体的に経営業務に集中し、適切な役割を果たしていることを証明する必要があります。経営者は経営業務に専念することが求められます。
以下に、業務内容を明確にするためのポイントを説明します。
飲食店、物販店など店舗経営の場合
飲食店の場合、経営者が調理業務に専ら従事することは認められません。
経営者は経営全般の管理と運営に集中し、調理は専門の調理師に任せる必要があります。ただし、経営者が一部の現業活動に関与することは可能であり、それが主たる業務でない限り問題ありません。
経営者が経営業務を明確に行っていることを証明するために、経営者の日々の業務スケジュールを具体的に示すことが有効です。例えば、経営者がどのような業務にどの程度の時間を割いているのか、週ごとの業務スケジュールを具体的に記載することで、経営業務に専念していることを強調できます。
店舗経営以外のビジネスの場合
IT企業の経営者がエンジニア業務に主に従事することも認められませんが、コンサルティング会社やデザイン会社の経営者など、高度な専門知識を必要とする業務については、一部の現業活動に関与することが認められる場合もあります。しかし、その割合については注意が必要であり、基本的には経営業務と現業のバランスを保つことが求められます。
これらのポイントを押さえ、経営者が行う業務を明確に記載することが、経営管理ビザの申請において重要です。業務内容を詳細に説明し、経営業務に専念していることを示すことで、経営管理ビザ取得の成功率を高めることができます。
4.まとめ
✓経営管理ビザの申請条件として学歴・職歴は条件とされていないが、①実現性のある事業計画、②事業規模(資本金500万円以上又は常勤職員2名以上)、③事業所の確保が求められている
✓事業計画書は、経営管理ビザを申請する際に審査で重要視される書類であり、審査官が申請者の事業の実現可能性を評価するための基礎資料となる ✓事業計画書には、事業の内容・起業の動機、市場規模、取引先(仕入れルート、販売ルート)、売上と経費の収支計画、マーケティング(集客・宣伝)、経営に必要な知識、関連業務経験、日本語能力などを盛り込み実現可能性な計画であることを示す必要がある ✓事業計画書は日本語で作成し、裏付け資料を用意する。また、経営者が行う業務を明確にすることが必要 |
これらのポイントを押さえて具体的かつ信頼性のある事業計画書を作成することが、経営管理ビザの取得において非常に重要です。審査官に対して事業の安定性と継続性を効果的にアピールすることで、ビザ取得の成功率を高めることができます。
この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)
相談実績5000件超、実務経験10年以上の経験を持つ司法書士。
海外にまつわる相続やビジネスに関する法律、契約書作成、コンプライアンスに関するアドバイスなど、幅広い分野に対応。近年は、当事者の一部が海外に居住するケースなど国際相続の相談が多く、精力的に取り組んでいる。