2024/7/3
2025/4/16
外国人相続
外国人や海外居住者の贈与税の仕組みと申告手続きをわかりやすく解説

外国人や海外居住者が関わる贈与税の仕組みは、一般的な贈与税に比べて複雑で理解しにくいかもしれません。本記事では、基本的な贈与税の概念から納税地や贈与財産の所在地の判定基準、具体的な課税対象となるケースや課税対象外のケースまで、わかりやすく解説します。
今回の記事のポイントは以下のとおりです。
✓ 贈与税とは、個人が年間110万円超の財産を無償で受け取ると課税される税である
✓ 贈与税は、現金、株式、不動産などが対象である ✓ 受贈者が申告し、税務署に納付する義務がある ✓ 贈与税がかかるケースとして、著しく低額での財産譲渡や無償の債務免除などが挙げられる ✓ 贈与税がかからないケースとして生活費や教育費、個人間の贈答品などが挙げられる ✓ 受贈者の住所や国籍によって贈与税課税範囲が異なり、 国内住所の有無や一時居住者かどうか、さらには贈与者の状況によって異なる ✓ 外国人・海外居住者が贈与税の対象となるかの判断は「国籍」「在留資格」と「過去10年以内に日本国内に住所があるか」「贈与財産が国内財産か、海外財産か」から判断する ✓ 無制限納税義務者に該当する場合は全世界の贈与財産、制限納税義務者に該当する場合には国内財産が贈与税の対象となる ✓ 贈与税の申告は翌年の2月1日から3月15日の間で行う ✓ 贈与税の申告方法はe-Tax、郵便、税務署の専用ボックスなどがある ✓贈与税の支払い方法は、キャッシュレス・コンビニ納付・クレジットカード・窓口などがある |
外国籍や海外居住者の人が関わる場合、贈与税の取り扱いは複雑になります。
課税の範囲が変わったり、全ての財産の贈与税の対象になることもあります。
ご自身で対応しミスをしてしまった場合、追徴課税や事後調査で指摘されることも考えられます。
当事務所では、60分の無料相談を受けておりますので、お気軽にお問い合わせください。
外国人や海外居住者が贈与の当事者となった場合、贈与税の課税関係が複雑になります。国内の贈与であれば比較的理解しやすい贈与税ですが、国境を越えた贈与となると課税の有無や申告・納税方法など、把握しておくべきポイントが複雑になります。
本記事では、そうした外国人や海外居住者が関与する場合の贈与税について、その仕組みから具体的な手続きまで、わかりやすく解説します。
贈与税の基本を押さえつつ、贈与を受けた財産が課税対象となるかどうかを明確に区別し、課税対象となった場合の申告方法と支払い方法について把握していきましょう。
1.贈与税とは
個人が年間110万円超の財産を無償で受け取った場合、受け取った側に課される税金が「贈与税」です。国内の財産を受け取った場合には、受け手の年齢や国籍を問わず課税されます。
贈与税は、贈与する側を「贈与者」受け取る側を「受贈者」と呼び、原則として支払い義務が発生するのは受贈者です。課税対象となる財産は現金のほか、株式や不動産なども含まれます。
贈与があった年の1月1日から12月31日までの1年間において、受贈者はこの期間に受け取った全ての贈与財産を申告し、税務署に納付しなければなりません。申告や納付を怠ると、ペナルティの対象となるため注意が必要です。
1-1.贈与税の適用
贈与税は、財産を受け取った人が申告する税金であり、年齢や国籍に関係なく適用されます。国内の財産を贈与された場合だけではなく、海外の財産を贈与された日本在住者も対象となるため、海外への財産移転による節税効果はありません。
日本在住者が海外送金を受けた場合でも、日本の贈与税の対象となるケースもあるため注意が必要です。
1-2.贈与税がかかるケースとかからないケース
贈与税は、親から子への財産譲渡や個人間の贈与に対して課税されるものです。しかし、すべての財産移転が贈与税の対象になるわけではありません。
生活費や教育費など、特定の条件を満たす場合や、個人間の慣習的な贈答品については贈与税が課されないケースもあります。ここでは、贈与税がかかるケースとかからないケースについて解説します。
贈与税がかかるケース
贈与税は、1年間に受領した贈与財産の合計額から基礎控除額110万円を差し引いた金額に対して課税されます。通常は現実の贈与財産に対してのみ課税されますが、一定の事由により経済的利益を享受した場合にも「みなし贈与」として課税対象となる場合があります。
【贈与とみなされる例】
- 著しく低い金額で財産譲渡を受けた
- 返済能力がないにもかかわらず、親族などから多額の借金をした
- 対価の支払いなしに債務の免除を受けた
- 自身が保険料を支払っていないにもかかわらず、生命保険や損害保険の保険金を受領した
- 対価を払わずに不動産や有価証券の名義変更を受けた
このように、形式上は贈与とみなされないものの、実質的に無償で経済的な利益を受けたと判断される場合には、贈与税の課税対象となる可能性があるため注意しなければなりません。適切な対策を講じるためにも、専門家への相談をおすすめします。
贈与税がかからないケース
贈与税が課せられない対象には、いくつかの種類があります。主な対象は、以下のとおりです。
- 生活費や教育費を扶養義務の範囲内でその都度必要に応じて渡す場合
- 奨学金支給のための特定公益信託
- 個人間で香典、花輪代、年末年始の贈答品、見舞い品や祝品を受け取る場合
- 法人から個人への財産移転(贈与税ではなく、所得税の対象)
生活費はその人の日常生活に必要な費用を指し、教育費は授業料や教材費などを含みます。ただし、将来の教育費として一括で現金を渡すと贈与とみなされます。
2.外国人・海外居住者が関わる場合の贈与税の課税対象
外国人や海外居住者が贈与を受ける場合、贈与税の課税対象となるかどうかは、贈与者や受贈者の居住地や国籍により異なります。ここでは、どのようなケースで課税対象となり、どのような場合に課税されないかについて解説します。
2-1.贈与者と受贈者の住所・国籍による判定基準
贈与税の課税対象は、贈与者と受贈者の住所や国籍によって異なります。
外国人、海外居住者が関わる贈与税の判定については、下記の国税庁で公表されている表を用いて判定します。
※下記の黒色の部分が課税対象、白色の部分は課税対象ではありません。
「贈与者または受贈者が外国人」「海外に住所がある」「財産が国外にある」などの状況ですと課税対象と判断が難しいケースも少なくありません。
当事務所では、60分の無料相談を受けておりますので、お気軽にご相談ください。
(注1)「一時居住者」とは、贈与の時において在留資格(出入国管理及び難民認定法別表第1の上欄の在留資格をいいます。以下同じです。)を有する人で、その贈与前15年以内に日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下である人をいいます。
(注2)贈与の時において在留資格を有する人で、日本国内に住所を有していた人をいいます。
(注3)贈与の時において日本国内に住所を有していなかった贈与者であって、その贈与前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある人のうちいずれの時においても日本国籍を有していなかった人をいいます。
(注4)上記の表の※1の区分に該当する受贈者が平成29年4月1日から令和4年3月31日までの間に非居住外国人(平成29年4月1日から贈与の時まで引き続き日本国内に住所を有しない人であって、日本国籍を有しない人をいいます。)から贈与により財産を取得した場合は、国内財産のみが課税対象になります。
(注5) 上記の表の※2の区分については、贈与者が「国外転出時課税の納税猶予の特例」の適用を受けていた場合は、その贈与者が贈与前10年を超えて日本国内に住所を有したことがなかったとしても、これに含まれる場合があります。
「No.4432 受贈者が外国に居住しているとき(国税庁)」を引用
ポイントは「国籍」「在留資格」と「過去10年以内に日本国内に住所があるか」「贈与財産が国内財産か、海外財産か」です。この4点に注意をして贈与を行う必要があります。
2-2.全世界の財産が贈与税の課税対象になるケース
上記2‐1の表で黒く塗られている箇所に該当する場合は、「無制限納税義務者」に該当し国内財産か国外財産かにかかわらず全世界の贈与財産が課税対象となります。
受贈者が外国に居住地を移した日本人であっても、日本国籍を有し10年以内に国内に住所があった人は、国内に住所がある人(一時居住者を除く)同様に「無制限納税義務者」であり、全世界の贈与財産が贈与税の対象です。
受贈者が10年以内に国内に住所がなかった日本人と日本に住所がない外国人のケースにおいて、贈与者が次に該当する場合には、同様に無制限納税義務者に該当し、全政界の贈与財産を対象に贈与税を納めなければなりません。
- 贈与者が日本国内に住所を有する場合
- 贈与者が10年以内に国内に住所があった場合
2-3.日本国内財産のみが贈与税の課税対象になるケース
上記2‐2の表の黒塗り部分の「無制限納税義務者」以外の人は、「制限納税義務者」に該当します。「制限納税義務者」が、以下の贈与者から贈与を受けた場合には、日本の財産のみに対して贈与税が課税されます。海外財産の贈与については、日本の贈与税の対象外となります。
- 贈与の時において在留資格を有し、日本国内に住所を有していた外国人
- 贈与の時において日本国内に住所を有していなかった外国人贈与者であって、その贈与前10年以内のいずれかの時において日本国内に住所を有していたことがある人のうちいずれの時においても日本国籍を有していなかった人
- 10年以内に国内に住所がない日本人及び外国人
また、扶養している子供や孫への生活費や教育費の海外送金については贈与税がかかりません。ただし、贈与税の非課税かどうかの判断は名目ではなく実質で行われます。そのため、教育費や生活費として送金されたお金でも、実際にその用途で使われていなければ贈与税が課税されます。
2-4.贈与税がかからないケース
一方、日本の贈与税の課税対象にならないケースとしては、制限納税義務者に対する海外財産の贈与が該当します。具体的には下記のようなケースです。
- 母国の親から日本一時居住者である外国人(在留資格があり、贈与前15年以内に日本国内に住所を有していた期間の合計が10年以下の者)に対する仕送り(海外財産である金銭の贈与)
- 海外居住の外国人から海外居住の外国人に対する海外財産の贈与
- 過去10年以内に国内に住所がない日本人から海外居住の外国人または過去10年以内に国内に住所がない日本人に対する海外財産の贈与
このように、どの財産について日本の贈与税がかかかるかは「国籍」「在留資格」と「過去10年以内に日本国内に住所があるか」「贈与財産が国内財産か、海外財産か」から慎重に判断する必要があります。
3.贈与税の申告と支払いについて
贈与税は、適切に申告し期限内に支払いを済ませることが重要です。ここでは、贈与税の申告方法と支払い方法について解説します。贈与税に関する基本的な手続きを理解し、スムーズに進めるためのポイントを紹介します。適切な手続きを行い、税務上のトラブルを回避しましょう。
3-1.贈与税の申告方法
贈与税の申告と納税には一定の期限が設定されています。受領者は贈与があった翌年の2月1日から3月15日までに、申告の手続きを完了しなければなりません。申告書の提出方法は、e-Taxによるオンライン申告・郵便・信書便・税務署の時間外収受箱への投函から選択が可能です。
申告期限を過ぎた場合や実際の金額を過小申告した際には、本税に加算税が上乗せされます。また納税が遅延すれば、その期間に応じて延滞税が加算されます。受贈者は期限を誤ることなく適切に対応しましょう。
3-2.贈与税の支払い方法
納付方法は、次のとおりです。
キャッシュレス納付 | キャッシュレス納付以外の納付方法 |
ダイレクト納付(e-Taxによる口座振替) | コンビニ納付(QRコード) |
インターネットバンキング等 | コンビニ納付(バーコード) |
クレジットカード納付 | 金融機関または所轄の税務署の窓口で納付 |
スマホアプリ納付 |
贈与税は原則として一括で金銭納付しますが、多額の納税が困難な場合には延納が認められます。延納は一定条件の下で5年以内の年賦払いにする方法です。
延納を受けるためには、以下の3要件を満たす必要があります。
- 申告納税額が10万円を超えていること
- 一括納付が困難な理由を有すること
- 担保を提供すること(ただし、納税額が100万円以下で3年以下の場合は不要)
手続きとしては、納期限までに延納申請書と担保関係書類を税務署に提出します。税務署長の許可が必要であり、延納税金には年率6.6%の利子税がかかります。
4.まとめ
本記事では、外国人や海外居住の人が関わる贈与の贈与税について解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。
✓ 贈与税とは、個人が年間110万円超の財産を無償で受け取ると課税される税である
✓ 贈与税は、現金、株式、不動産などが対象である ✓ 受贈者が申告し、税務署に納付する義務がある ✓ 贈与税がかかるケースとして、著しく低額での財産譲渡や無償の債務免除などが挙げられる ✓ 贈与税がかからないケースとして生活費や教育費、個人間の贈答品などが挙げられる ✓ 受贈者の住所や国籍によって贈与税課税範囲が異なり、 国内住所の有無や一時居住者かどうか、さらには贈与者の状況によって異なる ✓ 外国人・海外居住者が贈与税の対象となるかの判断は「国籍」「在留資格」と「過去10年以内に日本国内に住所があるか」「贈与財産が国内財産か、海外財産か」から判断する ✓ 無制限納税義務者に該当する場合は全世界の贈与財産、制限納税義務者に該当する場合には国内財産が贈与税の対象となる ✓ 贈与税の申告は翌年の2月1日から3月15日の間で行う ✓ 贈与税の申告方法はe-Tax、郵便、税務署の専用ボックスなどがある ✓贈与税の支払い方法は、キャッシュレス・コンビニ納付・クレジットカード・窓口などがある |
贈与税は個人が他人から財産を無償で取得した場合に課される税金であり、海外事情が関係する場合には、受贈者と贈与者がおかれている状況の組み合わせにより課税範囲が決まります。
外国人や海外居住者が関わる贈与の贈与税は複雑な制度ですが、上記の点に留意すれば適切に対応できます。ご自身の状況と照らし合わせて課税対象になるかどうかを見極めていくことが重要です。
この記事の監修

司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)
相談実績5000件超、実務経験10年以上の経験を持つ司法書士。
海外にまつわる相続やビジネスに関する法律、契約書作成、コンプライアンスに関するアドバイスなど、幅広い分野に対応。近年は、当事者の一部が海外に居住するケースなど国際相続の相談が多く、精力的に取り組んでいる。