2024/2/6 2024/2/27

外国人相続

在日中国人の相続手続きガイド│相続分や必要書類について解説

在日中国人の相続手続きは、中国にある不動産を除き日本の法律が適用されます。中国の相続は、日本の相続法とは異なる点もあるため、どの国の法律が適用されるのか、あらかじめ確認しておくことが重要です。また、戸籍に代わる証明書類としての「公証書」を中国から取り寄せる必要も生じます。

 今回の記事のポイントは以下の通りです。

✓ 日本に住んでいる中国人が亡くなった場合、ほとんどのケースにおいて、相続手続きは日本の相続法に基づいて行われる

✓ 中国の相続法は、日本のように相続割合が決められておらず、相続順位も異なる

✓ 日本の戸籍に似た中国の「戸口簿」は十分な証明にはなりえないため、被相続人と相続人の関係を証明するための「公証書」が必要である

✓ 公証書は中国本国の公証処(公証役場)で申請し、日本語に翻訳する必要がある

相続手続きに関しては日本人と基本的に同じだが、帰化の状況や家族の関係性により必要な書類や手続きについて異なる場合がある

本記事では、在日中国人の相続手続きに関する中国法の規定や相続分、必要書類についてまとめました。必要書類のうちの公証書についても紹介しています。

 相続手続きの流れや適用される法律、必要となる書類に関し事前に知っておくことで、スムーズな相続手続きが可能となります。

1.在日中国人の遺産相続における準拠法

在日中国人の相続手続きをすすめていくためには、日本の相続法か中国の相続法のどちらかを適用するかという判断をまず行うことが重要です。それが「準拠法」の問題です。日本の法律である「法の適用に関する通則法」には、「相続は、被相続人の本国法による」と明記されており、相続に関しては亡くなった人の国籍を持つ国の法律が適用されます。

したがって、日本で亡くなった在日中国人の相続手続きは、中国の法律に基づいて行われ、中国の法律においては「動産」は被相続人の住所地の法律、「不動産」は所在地の法律が適用されると定められています。

財産の種類

被相続人が
「在日中国人」
について適用される法律
被相続人が
「中国居住中国人」
について適用される法律

日本の不動産

日本の法律

日本の法律

日本の動産
(銀行預金等)

中国の法律

中国にある動産
(銀行預金等)

中国にある不動産

中国の法律

 ただし、後述する遺言書や未成年者が相続人となる場合の遺産分割協議書作成(中国では親権者が未成年者の代わりに遺産分割協議を行うことができる利益相反行為として特別代理人の選任は不要)など、中国の法律を考慮する必要があります。

2.中国の相続法における法定相続人・相続割合と代襲相続

例えば、日本国内の不動産の相続など、準拠法が日本法であれば、法定相続人の範囲と相続分は日本法で適用することになりますが、在日中国人が所有する中国国内の不動産や中国居住中国人が所有する日本の銀行預金などは中国法が適用されます。

日本の相続法とは異なり中国の相続法の基本原則は、相続人の相続割合は均等が原則となっています。

以下、中国法における相続人、相続割合について、解説します。

2-1.法定相続人と相続割合

相続順位は以下のとおりであり、父母が第1順位となっているのが大きな特徴です。

第1順位である配偶者、子、父母全てが存在しない場合には、第2順位の相続人が相続人となります。「子の配偶者」が義父母を扶養していた場合などは第1順位の相続人になることがあります。

相続の順位 中国の場合 日本の場合
第1順位 配偶者・子・父母 配偶者・子
第2順位 兄弟姉妹
父方の祖父母
母方の祖父母
父母
第3順位 兄弟姉妹

配偶者の連れ子や事実婚の配偶者も相続人となる

血のつながりのない被相続人の配偶者の連れ子(継子)でも、被相続人との間に扶養関係にあれば子と同様に相続人になります。また、事実婚関係にあると認定された配偶者も状況によっては法定相続人として認められます。

法定相続割合

中国の相続法では、同一順位の相続人間では、相続分は均等となります。

日本の相続法では、相続人の配偶者、子、父母のように相続人が誰か(配偶者と子が相続人の場合は、それぞれ2分の1、配偶者と父母が相続人の場合は、それぞれ3分の2、3分の1、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、それぞれ4分の3、4分の1)により相続分が異なる点と違いがあります。

被相続人の意思とは関係なく、被相続人の一定割合の財産額を相続人が取得できる「遺留分」という制度は日本と異なりありません。その代わりに、遺産分配に際しては扶養義務の有無による遺産の分配額や、生活に特段の困難があり、かつ労働能力を欠く相続人への遺産分配の配慮などが求められ、相続人以外の者でも、被相続人への扶養の状況によって適当な遺産分配を受けることができます。

中国法では配偶者の取り分が多い

中国ではとくに夫婦間で財産契約を結んでいない場合、結婚中に得た財産は夫婦共有財産となり、収入の有無や額に関わらず、両者は平等な権利を持ちます。その結果、被相続人の財産のうち半分は夫婦共有財産として配偶者に帰属し、残りの半分のみが配偶者を含めた法定相続人の遺産相続の対象となります。

在日中国人相続の先決問題として、相続人である身分を判断する必要がある

在日中国人の日本国内の不動産や動産(銀行預金等)の”相続”では、日本の相続法が適用されます。この場合、第一順位の相続人として配偶者と子が相続人に該当します。

そこで、問題となるのが誰が子、配偶者といった相続人となる有効な身分を有するのか判断することです。相続人と被相続人との身分関係の認定については、当事者が中国籍の場合には、中国法で認定をします。

たとえば、継父母と継子の親子関係ですが、日本では養子縁組をしていない限り、継子(配偶者の連れ子)は相続人となりません。しかし、出生以外の事由による嫡出親子関係の成立については、通則法30条1項により、日本法ではなく中国法が適用されます。

法の適用に関する通則法

(準正)

第三十条 子は、準正の要件である事実が完成した当時における父若しくは母又は子の本国法により準正が成立するときは、嫡出子の身分を取得する。

中国法では、被相続人と扶養関係にあった継子(血のつながっていない配偶者の連れ子)との間に養子縁組関係がなかったとしても、親子関係の成立を認め、実子と同じく相続人となります(中華人民共和国民法典第1072条)。

このように被相続人と誰の間で有効な親子関係や夫婦関係が成立しているのかという判断については、どの国の法律が適用されるのか準拠法を確認し、中国法による場合には、中国の婚姻法や養子縁組法などを確認して判断しなければなりません。

2-2.代襲相続

代襲相続とは、もともと相続人になるはずの人がすでに亡くなっていた場合に、亡くなった人の子供が相続人となる制度です。日本法では、相続人である子が先に亡くなった場合は孫、兄弟姉妹が先に亡くなっていたのであれば、兄弟姉妹の子である甥姪に代襲相続権があります。

中国法も同様に、子が先に亡くなった場合は「孫」、兄弟姉妹が先に亡くなった場合は「甥や姪」が代襲相続人となります。

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3.中国人の作成した遺言書の扱いについて

遺言の方式について、遺言の方式の準拠法に関する法律に規定があります。

(準拠法)

第二条 遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。

一 行為地法

二 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法

三 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法

四 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法

五 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

中国人が作成した遺言書は、作成時または死亡時の住所国又は国籍法である中国法に適合していれば有効です。そのため、在日中国人は、日本の方式(自筆証書遺言、公正証書遺言など)で遺言書を作成する方法を用いることも、中国法にもとづき遺言を作成することもできます。

ただし、日本法での相続では遺留分を、中国法に基づく相続では、労働能力のない相続人に対する遺産留保を考慮する必要があります。

4.中国人の日本国内財産の相続手続きに関する必要書類

中国人の日本国内財産の相続手続きに関する主な必要書類として、以下の6点が挙げられます。

  • 相続確定のための公証書
  • 死亡証明書
  • 遺産分割協議書
  • 相続人の出生証明書
  • 結婚公証書
  • その他の資料

家族の関係や過去の手続きの場所など、さまざまな要素により必要な書類は異なる可能性があります。とくに「公証書」については、中国本国の公証処(公証役場)で申請し、日本語に翻訳する必要があります。これには時間と労力がかかるためあらかじめ留意しておきましょう。

なお、中国で作成された書類については、日本での相続手続きに使用する際には日本語への翻訳分が必要です。

4-1.相続確定のための公証書

日本の戸籍に似た中国には戸籍制度がなく、日本の戸籍制度に近い中国の「戸口制度」があります。ただし、この戸口制度は住民登録を目的としているものであり、日本の戸籍制度のように相続人を確定するための身分情報の掲載が少ないため、これだけでは相続関係証明に不十分となっており、公証書が別途必要です。

公証書は中国の公証処の公証員(日本でいうと公証役場の公証人)によって作成されます。公証員の面前で、申請人が被相続人の死亡の事実、申請人が相続人である事実、申請人の住所、生年月日、続柄、出生地等の情報、他に相続人がいないことを内容とする宣誓供述した書面に公証員の認証を受けることで準備することができます。

4-2.死亡証明書

被相続人が中国人の場合、日本国内で相続手続きを行う際には、被相続人の死亡を証明する書面が必要となります。

在日中国人であれば、「外国人住民票」「閉鎖外国人登録原票の写し」「国公立病院の死亡診断書」が必要です。中国国内在住の中国人であれば、公務員が認証した死亡証明書、中国大使館が発行する死亡証明書などの被相続人の死亡を証明する書面を取り寄せます。

4-3.遺産分割協議書

遺産分割協議書は、相続人全員が参加し合意した遺産分割の内容を記録した文書であり、相続人全員が同じ文書を1部ずつ保持します。

遺言書が存在せず、法定相続分と異なる分割を行う場合や、遺言書に記載されていない財産が見つかった場合に必要となる協議書です。遺産分割協議書には、相続人全員の署名と実印が必要で、印鑑証明書も添付する必要があります。

相続人が日本に住民票登録をしていれば、住所所在地の市区町村役場で印鑑証明書を取得可能です。

中国在住の中国人の印鑑証明書の代替書類

相続人が中国在住の中国人の場合には、下記のいずれかの方法で印鑑証明書に代わる書面として取り扱いことができます。

公証員の面前で遺産分割協議書に署名し、認証を受ける方法

相続人自らが公証処の公証員の面前で遺産分割協議書に署名し、公証人が認証する方法です。中国語で作成した遺産分割協議書に公証人が認証したという奥書をもらい「声明書」という形で書類を用意します。

なお、公証処によっては、日本の戸籍謄本や不動産の登記簿謄本、固定資産評価証明書を求めらえることもあります。

署名もしくは印鑑を証明する公証書を作成する方法

公証員に署名した遺産分割協議書についての認証を受ける方法ではなく、相続人の署名又は印鑑が本人のものであるということを認証した公証書を作成するという方法です。公証書を印鑑証明書の代わりに活用できます。

ただし、日本の提出機関によっては、公証処の署名又は印影と、遺産分割協議書に署名又は捺印した印影が同一かどうかの判断ができないケースもあるので、署名又は捺印する際には、同一のものとなるように注意して作成することが必要です。

4-4.相続人の出生証明書

所有権移転登記の申請には、相続人を確定するための被相続人の出生から死亡までが記載されている「戸籍謄本」の提出が必要です。しかし、相続人が中国籍の場合、戸籍謄本が存在しないため「出生公証書」を用いて出生の証明をします。

出生公証書は、相続人が生まれた際に出生届けを提出した地域で作成・認証の申請を行います。出生公証書の作成・認証には「身分証明書」「戸口簿」「病院から発行された出生証明書」「証明写真」などの提出が必要です。

4-5.結婚公証書

日本で国際結婚をした場合、中国人配偶者は帰化しなければ中国国籍のままの状態です。日本人の配偶者の戸籍には、中国人との結婚の事実が記載されるものの、中国人配偶者自身の戸籍は存在しません。

中国人配偶者が相続人になるためには、日本の戸籍謄本と同様の内容について「結婚公証書」を用いて証明する必要があります。結婚公証書は、中国本国で届けを出した地域の公証処(公証役場)で取得します。

4-6.その他の資料

相続手続きに関しては日本人と基本的に同じですが、帰化の状況や家族の関係性により必要な書類や手続きについて異なる場合があります。とくに、手続きに必要な証明書類には注意が必要です。

中国人には日本の戸籍に相当するものがないため、相続人を特定したり相続財産を移転したりする際に、戸籍謄本を身分証明書類として使用することはできません。その代わりとして、公証書の取得が必要です。公証書の取得と日本語への翻訳は時間と労力がかかるため、専門家に依頼することをおすすめします。

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5.まとめ

本記事では、在日中国人の相続手続きに際しての相続分や必要書類について解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。

✓ 日本に住んでいる中国人が亡くなった場合、ほとんどのケースにおいて、相続手続きは日本の相続法に基づいて行われる

✓ 中国の相続法は、日本のように相続割合が決められておらず、相続順位も異なる

✓ 日本の戸籍に似た中国の「戸口簿」は十分な証明にはなりえないため、被相続人と相続人の関係を証明するための「公証書」が必要である

✓ 公証書は中国本国の公証処(公証役場)で申請し、日本語に翻訳する必要がある

相続手続きに関しては日本人と基本的に同じだが、帰化の状況や家族の関係性により必要な書類や手続きについて異なる場合がある

日本に住む中国人が相続する場合、中国本土の不動産以外は日本の法律に従います。ただし、中国の相続法は日本とは異なる部分がいくつかありますので、事前にチェックすることが大切です。さらに、戸籍の代わりになる「公証書」という書類を中国で取得する必要があります。相続の手順や法律、書類などをあらかじめ把握しておけば、相続の手続きがスムーズに進められます。

手続きに必要な書類が揃わない場合や、自力での手続きが難しいと感じる場合は、中国における相続の専門家に依頼するのもひとつの方法です。

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この記事の監修

斎藤 竜(さいとうりょう)

司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士

斎藤 竜(さいとうりょう)

相談実績5000件超、実務経験10年以上の経験を持つ司法書士。
海外にまつわる相続やビジネスに関する法律、契約書作成、コンプライアンスに関するアドバイスなど、幅広い分野に対応。近年は、当事者の一部が海外に居住するケースなど国際相続の相談が多く、精力的に取り組んでいる。

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