2023/6/5 2024/5/1
外国人相続
【外国人の相続】外国籍の相続手続きと相続登記の必要書類・注意点を解説
外国人が相続手続きをするときは、手続きが複雑になることがあります。また、外国人が被相続人になるときも、いくつか注意点があります。
今回の記事のポイントは以下のとおりです。
✓ 外国人の相続には、相続統一主義や相続分割主義、本国法主義などのルールがある
✓ 日本では原則として、相続統一主義かつ本国法主義で相続手続きをおこなう ✓ 外国人が日本又は海外で作成した遺言でも、遺言作成時の国籍地、住所地等で作成した国の法律の方式に適合していれば有効。ただし、遺言の成立及び効力は本国法で判断する ✓ 相続人・被相続人の国籍にかかわらず、日本の不動産の相続には相続登記手続きが必要 ✓ 日本の不動産の相続登記では戸籍・住民票・印鑑証明書が必要だが、これらの制度がない国では、「死亡証明書」「出生証明書」「婚姻証明書」「宣誓供述書」などの代替書類とその翻訳文を用意する ✓ 日本の財産を相続する場合には、相続税が課税される。原則として、国内外のすべての財産が相続税の課税対象となるが、相続人・被相続人ともに日本国内に住所がないなど一定の要件を満たす場合には、国内財産のみが相続税の対象となる |
本記事では、日本国内の財産について被相続人・相続人のいずれかが外国人のときの相続についてまとめました。
被相続人や相続人が外国人のとき、あるいは財産が外国にあるときの相続を国際相続と呼びますが、国際相続は考え方が複雑です。
基本のルールを紹介し、ケースに分けて説明します。また、相続後の登記手続きについても紹介します。ぜひご覧ください。
1.外国人の相続(国際相続)とは?
外国人や外国にかかわる相続を国際相続と呼びます。国際相続には、主に次の相続が含まれます。
国際相続とは……
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なお、このうち相続財産が外国にあるときは、外国のルールで相続の手続きをおこなうことが一般的です。一方、日本国内の財産を外国人である被相続人が所有していたケースや、相続人に外国人が含まれる場合、どの国の法律で相続手続きをしていけばいいのか、判断に悩むことがあります。
2.国際相続の基本ルール
国際相続のルールは、国によって異なります。また、アメリカのように州ごとに法律が変わる場合は地域によっても異なります。そのため、複数の地域に財産を持っている場合や、異なる国籍の相続人がいるときは、少し複雑に感じるかもしれません。
国際相続では、どの国の法律に基づいて相続手続きを行うのかを確認する必要があります。
国際相続のルールを覚えておくと、すべての国・地域のルールをシンプルに分類できます。
まずは基本となるルールについて見ていきましょう。
2-1.国際相続では被相続人の国籍を基準に適用する法律が決まる
人が亡くなった時に、どの国の法律を適用するかについては、法の適用に関する通則法(以下、「通則法」といいます。)に基づき判断します。
通則法第36条では、下記の通り規定しています。
(相続) 第三十六条 相続は、被相続人の本国法による。 |
つまり、被相続人が日本人であれば、日本の民法(本国法)にしたがって相続します。相続人の中に外国人がいる場合でも、日本の法律にしたがって財産を相続します。
被相続人が外国人であれば、被相続人の国籍がある国の法律(本国法)に基づいて相続します。そのため、財産の種類に関わらず日本で亡くなった方はその方の本国の法律が適用されます。
- 日本で日本人が亡くなった場合→財産の種類によらず日本の法律が適用
- 日本で外国人が亡くなった場合→その外国人の本国の法律が適用される
被相続人が外国人の場合には、日本の財産をどの国の法律で相続するかは、その外国人の本国法を調べる必要があります。通則法第41条では、下記の規定があります。
含まれます。
(反致) 第四十一条 当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。 |
この条文の中にある「法に従えば日本法によるべきとき」とは、亡くなった方の国籍の法律によって、”日本の法律”に従って相続するという規定になっていれば日本の法律で相続するということを意味しています。このように、日本における相続について、通則法第36条の規定により外国人の本国の法律の適用を検討したところ、日本の法律に送り返されて日本の法律を適用させることを「反致」といいます。このように、国際相続では、外国人の本国法の取り扱いの確認が重要です。
海外で発生した相続についての取り扱いについては、国ごとに下記のいずれかのルールを採用しています。
- 相続統一主義
- 相続分割主義
以下、相続のルールの考え方について解説します。
2-2.相続統一主義
相続統一主義とは、財産の種類に関わらず、全ての財産について同じ国の法律が適用されることです。
たとえば、日本は相続統一主義の国です。通則法第36条において「相続は、被相続人の本国法による」と定められているためです。そのため、日本で日本人が亡くなったときは、相続人が外国人であっても、日本の法律にしたがって財産を相続します。
本国法主義
相続統一主義は、さらに次の2つのルールに分けられます。
- 本国法主義
- 住所地法主義
本国法主義とは、被相続人の本国(国籍)の法律で相続が実施されるルールです。
本国法主義が採用されている国・地域で相続が発生すると、その国・地域のルールではなく、亡くなった方の本国(国籍がある国)のルールが適用されます。そのため、亡くなった方の国籍の法律が本国法主義を採用している場合には、日本国内の財産は日本の法律に反致されず、外国の法律に従って相続されます。
住所地法主義
住所地法主義とは、被相続人の国籍基準ではなく、被相続人が最後に居住した地(住民票がある国・地域)の法律が適用されるというルールです。日本で住所地法主義の外国人の相続が発生した場合には、亡くなった方の国籍ではなく住民票がある国・地域の法律で相続が実施されます。
たとえば、住所地法主義の外国人が日本で亡くなったとしましょう。国籍は外国であっても、最後に居住した国・地域である日本の法律に反致され、日本の法律に則って相続が実施されます。
このように亡くなった外国人の本国法のルールが「本国法主義」であるときは、外国人の本国の法律に則って相続の手続きがおこなわれます。しかし、外国人の本国法のルールが「住所地法主義」であるときは、外国人が日本に住民票を置いていたのであれば、反致により日本の法律に則って相続の手続きがおこなわれます。
2-3.相続分割主義
相続分割主義とは、相続する財産によって異なる国・地域の法律が適用されるルールです。たとえば、不動産についてはその所在地の法律、それ以外の財産については被相続人の本国または住所地の法律を適用しています。
相続分割主義の国・地域の外国人が亡くなると、財産の種類ごとに適用される法律が異なるため、相続の手続きや納税が複雑化します。日本国内の不動産は、日本に反致し、日本の法律を適用することになります。しかし、動産については、亡くなった方の最後の住所地が海外であれば本国法、最後の住所地が日本であれば、日本の法律を適用することになります。
亡くなった国・地域の相続に詳しい、現地の法律専門家に相続手続きを依頼し、正しい相続と納税がおこなえるようにすることが大切です。
また、相続手続きを依頼する法律専門家が、信頼できる人物であることも大切なポイントです。とりわけ事情がわかりにくい海外で相続が発生したときは、依頼する人選を間違えたばかりに高すぎる手数料を支払うことになったり、相続が正しくおこなわれなかったりする可能性があります。場合によっては大使館や領事館にも相談し、適切に相続手続き・納税を進めていくようにしてください。
2-4.国際相続と遺言
国際相続において、在日外国人が日本国内、在外日本人が海外で作成した遺言は有効であるかという点と、効力があるのかという点の確認が必要です。
遺言書の作成の方式の準拠法
日本では、外国で作成された遺言書も、一定の条件を満たせば認められます。具体的には、「遺言の方式の準拠法に関する法律」第2条に基づき、以下のいずれかの法律に適合していれば、方式として認められることが定められています。
- 行為地法
- 遺言者が遺言の成立または死亡の当時国籍を有していた国の法
- 遺言者が遺言の成立または死亡の当時住所を有していた地の法
- 遺言者が遺言の成立または死亡の当時常居所を有していた地の法
- 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法
このように、日本に居住する在日外国人は上記の行為地、住所地、常居所地として日本法で遺言を作成することができます。また、海外に居住する在外日本人も現地法にもとづき海外で遺言を作成することができます。なお、日本の大使館がある国においては、公証人の職務は領事が行う(民法第984条)とされているので、大使館において日本法による公正証書遺言、秘密証書遺言を作成することができます。
遺言の成立と効力
遺言の成立とは、遺言作成時の遺言者の遺言が作成できる能力(例えば年齢制限など、日本では満15歳から作成可能)の有無による遺言の成立の問題をいいます。また、遺言の効力とは、遺言の効力発生時期、撤回の効力(日本では、新しい遺言と古い遺言の内容が抵触したら古い遺言の抵触する部分は撤回したものとみなされる)などの問題を指します。これらは、法の適用に関する通則法第37条第1項にて「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による」と規定されており、遺言者の本国法によって判断します。
すなわち、外国人が日本で方式に適合した遺言を作成しても、作成方式以外の遺言の成立や遺言の効力の問題は本国法で判断することになります。
日本の方式で作成した遺言書が海外の資産に対して効力があるのかは資産所在国の法律による
日本で作成された遺言書が海外の資産に対して効力があるのかかどうかは、その資産所在国の法律を確認する必要があります。実際に、日本で作成した遺言が有効であったとしても、その国で遺言書を持ち込み手続きができるかは、現地の金融機関や登記所が、日本と現地の法律を理解しているかによって時間と費用がかかってしまう可能性があります。
円滑に相続手続きを行うことを優先するのであれば、資産所在国ごとに現地の法律にもとづき遺言書を複数作成したほうがスムーズにできます。それぞれの遺言は、資産がある国のみ有効とすることを明記しておくことで、それぞれの遺言が重複してしまい、先につくった輸銀後無効とならないようにしておきましょう。
国際相続と遺言は、日本、海外の法律が絡むため、適切な法的アドバイスを受けながら慎重に行う必要があります。
3.被相続人が外国人(外国籍)の場合
日本で相続が発生した場合、被相続人が日本人であれば日本の法律に則って相続が実施されます。しかし、被相続人が外国人(外国籍)のケースでは、相続に日本の法律が適用されないこともあるため注意しましょう。
相続の手続きを正しく実施するためには、まずどの法律が適用されるか見極めなくてはいけません。日本で亡くなった方が外国人の場合の適用法の見つけ方について説明します。
3-1.原則として被相続人の本国法で相続を実施する
日本は相続統一主義・本国法主義です。原則として、被相続人の本国法(国籍がある国・地域の法律)で相続が実施されます。
たとえば、日本で亡くなった方がフランス国籍であれば、フランスの法律で相続が実施されます。そのため、外国籍の方が亡くなると、日本ですべての相続手続きをおこなうことが難しくなるかもしれません。外国籍の方の本国の法律に詳しい専門家に相談し、正しく相続手続きをおこなうようにしてください。
3-2.本国法によっては日本法が適用されることがある
日本で亡くなった方が外国籍の場合は、被相続人の国籍がある国・地域の法律で相続が実施されます。本国法が住所地法主義のときは、日本法で相続を実施します。
この場合は、日本の法律で不動産を相続することになります。相続手続きを専門とする司法書士などに相談し、滞りなく相続手続きや納税が実施されるようにしましょう。
3-3.被相続人が外国人でも日本の相続税が課税される
被相続人が外国人であっても、国内外を問わず相続により取得したすべての財産について日本の相続税が課税されます。ただし、一定の条件をみたす場合には、日本国内の財産のみが日本の相続税の対象となります。
被相続人・相続人ともに外国人の場合
被相続人・相続人がともに外国人であり、なおかつ次の条件をすべて満たすときには、日本にある財産にのみ日本の相続税が課せられます。
- 相続人(外国籍)の住所が日本以外、もしくは、在留資格がある国内一時居住者(15年以内で国内住所が10年以下)
- 被相続人(外国籍)は10年以内に日本国内住所がない非居住被相続人、もしくは10年以内に日本に住所があったことはあるが相続開始のときに日本に住所がない非居住被相続人、あるいは在留資格がある国内住所の外国人被相続人
被相続人が外国人、相続人が日本人の場合
被相続人が外国人、相続人が日本人の場合において、次の条件をすべて満たすときは、日本にある財産にのみ相続税が課せられます。
- 相続人(日本人)の住所が10年以内に日本以外
- 被相続人(外国籍)は10年以内に日本国内住所がない非居住被相続人、もしくは10年以内に日本に住所があったことはあるが相続開始のときに日本に住所がない非居住被相続人、あるいは在留資格がある国内住所の外国人被相続人
4.被相続人が日本人・相続人が外国人(外国籍)の場合
日本で亡くなった被相続人が日本人で、相続人が外国人(外国籍)の場合の相続について見ていきましょう。
4-1.被相続人が日本人の場合は、日本の法律で相続する
たとえば次のようなケースでは、被相続人が日本人、相続人が外国人となります。
- 配偶者が外国人(外国籍)
- 配偶者が外国人(外国籍)で、配偶者との間の子や養子も外国籍
- 配偶者は日本人だが、子の出生地が外国で、子のみ外国籍
- 日本人として生まれた子が、国籍を外国籍に変更している
- 子が外国人と結婚して外国籍の子(被相続人にとって孫)が生まれ、子が亡くなっているため代襲相続が発生している
日本は本国法主義のため、被相続人が日本人であれば、原則として日本の法律で相続が実施されます。相続人が外国人のときも例外ではありません。
4-2.被相続人が日本人の場合、外国籍の相続人も日本で相続税がかかる
相続人の国籍によらず、日本人が日本で亡くなったときは日本の法律で相続をおこないます。相続税も国内外を問わず相続により取得したすべての財産について日本の相続税が課税されます。
ただし、相続人が外国籍であり、なおかつ次の条件をすべて満たすときには、日本にある財産にのみ日本の相続税が課せられます。
- 相続人(外国籍)の住所が日本以外、もしくは、在留資格がある国内一時居住者(15年以内で国内住所が10年以下)
- 被相続人(日本人)が10年以内に国内に住所がない
5.日本国内の不動産を相続するときは相続登記が必要
適用される法律にかかわらず、日本国内の不動産は相続登記となります。相続登記とは、相続した財産の名義を相続人に書き換えることです。相続財産に日本国内の不動産が含まれているときは、相続人の名義に書き換える「所有権移転登記」を実施しましょう。
相続登記の手続きは、被相続人、相続人が日本国籍か、外国国籍かによって必要な書類の取り寄せ方法が異なります。特に、次のケースでは少々トラブルが生じることがあります。
- どの国の法律で相続手続きを行うのかの判断が難しい
- 相続登記に必要な書類を準備できない
- 外国在住で日本国内の相続登記手続きが申請することが難しい
- 外国文書で作成された書類の翻訳が必要
どの国の法律で相続手続きを行うかの判断は、国際相続のルールの項で解説しました。それでも、どの国の法律で相続手続きをするべきか不安に感じる方は、外国人の相続に詳しい専門家に相談して確認しましょう。
以下、外国人の相続登記における注意点について、解説していきます。
5-1.外国人の相続登記に必要な書類
外国人の場合は、相続登記に必要な次の書類を準備できない可能性があります。
- 戸籍謄本
- 印鑑証明書
- 住民票
相続人が外国籍の場合は、日本に戸籍謄本がありません。相続登記においては、被相続人と相続人の関係を示すために戸籍謄本が求められます。そのため、戸籍謄本がなくても、被相続人と相続人の関係を明らかにできれば、戸籍謄本の代わりの書類として利用することが可能です。
たとえば、台湾など相続人の本国に戸籍制度があれば、その国の戸籍謄本に相当する書類によって代行できることがあります。戸籍制度がない場合には、被相続人と相続人の関係を示す書類が用意できません。
戸籍制度がない国での戸籍謄本に代わる代替書類
戸籍制度がない場合には、身分を明らかにする証明書としては、「外国人住民票」「閉鎖外国人登録原票」「死亡証明書」「出生証明書」「婚姻証明書」が該当します。各書類の相続登記における役割は下記の通りです。
- 外国人住民票・閉鎖外国人登録原票:日本国内居住外国人の死亡者の住民票に相当
- 死亡証明書:被相続人の死亡を証明する
- 出生証明書:被相続人と相続人の親子関係を証明する
- 婚姻証明書:被相続人と配偶者の婚姻関係を証明する
日本に居住している外国人については、「外国人住民票」を居住地の市区町村役場で取得できます。なお、2012(平成24)年7月8日以前に日本に居住している外国人の情報については、外国人登録制度で登録されていたため、「閉鎖外国人登録原票」を出入国在留管理庁に開示請求する必要があります。
また、「死亡証明書」「出生証明書」「婚姻証明書」については、本国、在日大使館等で取得する書類となりますが、各国で書類の取得方法が異なっているため、事前に取得方法を在日大使館等で確認する必要があります。
相続登記で相続関係の証明が必要な事項
相続登記では、戸籍謄本を集め、①被相続人が死亡したという事実、②相続人が誰と誰であるという事実、③他に相続人がいないという事実を証明する必要があります。しかし、上記の死亡証明書、出生証明書、婚姻証明書を揃えても、①と②は証明できますが、被相続人について他に相続人がいないことを証明することができません。
そのため、死亡証明書、出生証明書や婚姻証明書のほかに、あるいは相続人の本国の在日領事館や本国の公証人の認証を受けた、「被相続人の相続人は〇〇等であり、それ以外に相続人は存在しない」旨が記載された宣誓供述書を相続人全員が作成し、③の代替書類として用意する必要があります。
宣誓供述書は、印鑑証明書の代替書類にもなる
印鑑証明書は、遺産分割協議書作成にあたって必要となります。。外国では基本的に印鑑登録の制度がないため、遺産分割協議書に捺印する相続人の印鑑の代わりにサイン(署名)を用います。サインが本人のものであることを証明するために、サインが相続人のものであることを認証したサイン証明書又は宣誓供述書を本国の公証人に依頼して取得し、印鑑証明書の代わりにします。
宣誓供述書は、住民票の代替書類にもなる
相続登記の手続きには、住民票が必要です。相続人が中長期在留者あるいは特別永住者であるときは、外国籍であっても住民票は取得できます。しかし、短期在住者や外国に居住している場合は住民票はありません。この場合も、戸籍謄本と同じく、相続人の住所を認証した本国の公証人に宣誓供述書を作成してもらいましょう。
ただし、かつて日本国籍を持っていた場合には、例外的に日本の在外公館で住民票の代わりの書類として活用できる居住証明書を受け取れることがあります。
5-2.相続登記に必要な宣誓供述書の作成は司法書士がおすすめ
外国人や海外在住の日本人が日本の財産を相続する際には、日本国内の手続きとは異なる注意点があります。宣誓供述書の作成と認証、専門家との連携を通じて、必要な書類を適切に準備し、手続きを進めることが重要です。これにより、国際的な相続手続き円滑に進めることが可能になります。
特に海外の手続きに詳しい司法書士と相談してすすめることで、相続登記に必要な宣誓供述書の作成も含めて一括でサポートしてもらうことができます。
5-3.外国在住で手続きが難しいとき
相続登記は相続財産がある場所を管轄する税務署でおこないますが、外国に在住している場合は訪日が難しく、手続きをおこなえない可能性もあるでしょう。その場合は、次の方法を利用することで、訪日なしに手続きをおこなえます。
- 遺産分割協議は電話やメールでおこなう
- 相続人が行方不明の際には日本国内で不在者財産管理人を裁判所で選任し、相続手続きを代行してもらう
5-4.外国の書類を相続登記で使用する際は、和訳文が必要
「死亡証明書」「出生証明書」「婚姻証明書」「宣誓供述書」など、外国語で作成された書類を日本の相続登記で利用する際には、和訳した翻訳文が必要です。
翻訳文を作成する翻訳者となる資格は必要なく、誰でも翻訳できます。作成した翻訳文には、翻訳者名を記載する必要はありますが、翻訳日や翻訳者の住所を記載する必要はありません。翻訳者の署名又は記名押印が必要ですが、翻訳者の印鑑証明書は必要ありません。
必ずしもその全文を翻訳する必要はなく、証明に関係する部分を除き、訳文を記載した書面に翻訳を省略した事項を記載することにより、翻訳を省略することができます。
翻訳は自分で行っても構いませんが、法的な文章の訳文が必要となります。国際相続に詳しい専門家や翻訳会社に依頼して作成してもらうほうがスムーズに相続登記を行えます。
5-5.相続登記を申請するには、登録免許税の納付が必要
所有権移転登記をするときは、所有権を有することになった相続人に相続税だけでなく登録免許税が課せられます。原則として、土地に関しては不動産の価額の0.4%、建物に関しても不動産価額の0.4%の税率です。
相続を専門とする司法書士などに相談し、相続登記を正しくおこないましょう。
6.外国人の相続における相続税申告の注意点
外国人が相続人となる場合でも、相続した財産によって相続税を納付しなくてはいけません。相続税の対象が、国内外すべての財産か、日本国内の財産のみを対象とするかは、先述した通り、日本国内に被相続人、相続人の住所があるか、ないかなどの要件によって異なります。
6-1.相続税申告は10か月以内の申告期限がある
相続税は、相続人が相続発生を知った翌日から10ヶ月以内に申告・納付することが決まりとなっています。
相続人が外国に居住しているときなどは、被相続人が亡くなったことや自分に相続の権利があることを知るのに時間がかかるかもしれません。そのようなときでも、相続を知った日の翌日から10ヶ月以内には相続税の申告・納付をおこなう必要があるため、迅速に行動することが求められます。
なお、相続税を期限までに納付しないときは、延滞税などが発生することもあります。国際相続を専門とする税理士などに相談し、速やかに手続き・納税を進めていきましょう。
6⁻2.外貨建ての財産については円貨に換算する
被相続人が外貨建ての財産を所有していた場合は、日本円に換算して相続税額を計算しなくてはいけません。原則として、次のルールで日本円換算します。
- 資産:被相続人が亡くなった日の対顧客直物電信買相場(TTB)で日本円換算
- 債務:被相続人が亡くなった日の対顧客直物電信売相場(TTS)で日本円換算
たとえば現金や預金、債券、株式などの金融資産は、いずれも亡くなった日のレートに沿って日本円換算し、相続税の計算に用います。なお、相続税の申告手続きの際には、レート証明書も必要です。
外国にある不動産については、その国のルールで価額を割り出す必要があります。現地の不動産会社や相続の手続きを専門におこなう機関などに依頼し、妥当性のある価額を計算してもらいましょう。
また、亡くなった日のレートで日本円に換算し、相続税額を計算する手続きも必要になります。そのため、外貨としての資産・債務がなく、外国不動産のみ海外資産がある場合も、レート証明書が必要です。
7.まとめ
本記事では、外国人が相続するときや、外国人が被相続人となるときに知っておきたい事柄について解説しました。
内容をまとめると、以下のとおりです。
✓ 外国人の相続には、相続統一主義や相続分割主義、本国法主義などのルールがある
✓ 日本では原則として、相続統一主義かつ本国法主義で相続手続きをおこなう ✓ 外国人が日本又は海外で作成した遺言でも、遺言作成時の国籍地、住所地等で作成した国の法律の方式に適合していれば有効。ただし、遺言の成立及び効力は本国法で判断する ✓ 相続人・被相続人の国籍にかかわらず、日本の不動産の相続には相続登記手続きが必要 ✓ 日本の不動産の相続登記では戸籍・住民票・印鑑証明書が必要だが、これらの制度がない国では、「死亡証明書」「出生証明書」「婚姻証明書」「宣誓供述書」などの代替書類とその翻訳文を用意する ✓ 日本の財産を相続する場合には、相続税が課税される。原則として、国内外のすべての財産が相続税の課税対象となるが、相続人・被相続人ともに日本国内に住所がないなど一定の要件を満たす場合には、国内財産のみが相続税の対象となる |
日本では相続統一主義・本国法主義を採用しているため、被相続人が日本人のときは日本で相続税がかかります。また、日本の不動産を相続するときは、相続人の国籍にかかわらず登記手続きが必要です。
原則として、相続税の申告・納税は、相続があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に実施しなくてはいけません。期限内に申告・納税しないときは延滞税などが発生することもあります。
スムーズに相続手続きや納税を済ませるためにも、状況ごとのルールを理解しておきましょう。また、登記手続きなどに迷ったときは、司法書士などの専門家のサポートを受けることも必要です。早めに準備を開始し、スムーズな相続・不動産登記を実現しましょう。
この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)
相談実績5000件超、実務経験10年以上の経験を持つ司法書士。
海外にまつわる相続やビジネスに関する法律、契約書作成、コンプライアンスに関するアドバイスなど、幅広い分野に対応。近年は、当事者の一部が海外に居住するケースなど国際相続の相談が多く、精力的に取り組んでいる。