2024/4/8 2024/4/8

外国人相続

在日アメリカ(米国)人の相続|相続法の適用と相続登記手続きを解説

国際結婚をすると、お互いがそれぞれの本国で財産を持っているという状態が発生することも多いでしょう。もしも外国籍の配偶者が亡くなってしまったら、残された家族は遺産の相続手続きをしなければなりません。

しかし、海外の遺産に関する手続きや制度は、日本とは異なる点も多いものです。国ごとの相続の違いについて知っておかなければ、相続が必要となったときに苦労することが考えられます。

今回の記事のポイントは、下記のとおりです。

✓ 相続をするにはまずどの地域の法律に従うか(準拠法)を確認する必要がある

✓ アメリカの場合は日本のように全国で法律が共通しているのではなく、州によって法律が異なる

✓ アメリカの州の多くは、動産(金融資産を含む)は被相続人の住所・居所の法律不動産は所在地法が適用されることが多く在日アメリカ人の相続は、日本国内の動産・不動産ともに日本法が適用されることが多い

✓ アメリカでの相続は相続人同士の話し合いではなく、裁判所によるプロベートを行い、遺言書や法定相続分に従って遺産を分割する

✓ 日本法に沿った相続では戸籍に関する書類が必要だが、アメリカには戸籍謄本、住民票、印鑑証明書がないため代替書類(死亡証明書、婚姻証明書、出生証明書、宣誓供述書)を本国から取り寄せる必要がある

✓ 専門家を頼る場合は、海外関連の実績や他の専門家との連携、コミュニケーションの取りやすさなどを重視する

本記事では、多くの国の中でもアメリカ国籍を持つ配偶者の遺産相続について、わかりやすく解説します。

1.被相続人がアメリカ国籍の場合の準拠法

国際結婚をしている場合で、アメリカ国籍の配偶者が亡くなった際には、遺産の相続が必要です。遺産の持ち主である亡くなった方を「被相続人」遺産を引き継ぐ残された家族・親族の方を「相続人」と呼びます。

遺産の中に日本にあるものとアメリカにあるものがあれば、両方の遺産について手続きをしなければなりません。その場合に、どちらの国の法律に従って処理をするのかを押さえておく必要があります。遺産の種類における基本的な準拠法は、以下のようになります。

遺産の種類 所在がアメリカの場合 所在が日本の場合
不動産 アメリカの州の法律に従う 日本の法律に従う
動産 被相続人の住所・居所に適用される法律に従う

動産(金融資産なども含む)については、被相続人の住所・居所の法律が適用されます。そのため、被相続人の住所が日本にある場合は、日本の法律が準拠法となります。被相続人の国籍ではなく、住所である点に注意しましょう被相続人の住所がアメリカにある場合は、アメリカの法律に従います。アメリカは州によって法律が異なっているため、どの州の法律が準拠法になるのかも確認しなければなりません一般的に、被相続人がより密接に関係している州の法律に従うことになります。

不動産については、アメリカの法律では一般的に所在地法が適用されます。これは不動産が所在する地の法律に従うというものです。そのため、被相続人が所有していた日本の不動産には日本法を、アメリカの不動産にはアメリカの州法を適用して、相続手続きを行います。

2.米国(アメリカ)と日本の相続制度の違い

アメリカも日本も、遺産を相続する手続きが必要であることは共通していますが、相続制度の内容は大きく異なります。以下ではアメリカと日本の相続制度の違いについて、相続の方法や根拠となる法律、税金に関することなどから解説します。

2-1.アメリカの相続では原則プロベートが必要

日本では、相続人同士による話し合いによって遺産の分割や相続が行われます。一方アメリカの相続では、まず裁判所の手続きの中で遺産の人格代表者(Personal Representative・PR)が選ばれ、裁判所の監督の元で財産の管理や整理、納税などの手続きを行います。

法律に従って遺産分割を行う前に、こうしたプロベートと呼ばれる手続きを経なければなりません。遺言書がない場合は、州ごとに定められている法定相続分に従って分割します。プロベートは、相続に関して英米法体系の国で広く使われている制度です。

プロベートは一般的に現地の弁護士に依頼するものです。調査の手間がかかり、相続人に遺産が分割されるまでの時間がかかることを避けるためにプロベートを回避する方法もあります。ただし事前の手続きや準備が必要であり、相続することになってからでは回避できません。そのため、ロベートを避けてスムーズに家族に遺産を相続したい場合は、被相続人の生前から対策を講じておく必要があります

2-2.財産の所在地などで適用される州の法律が異なる

日本の遺産相続は全国共通の民法に従いますが、アメリカの遺産相続は州ごとに定められた法律に従います。どの州の法律が適用されるかは、財産の所在地や被相続人の住所・所在などによって変わります州ごとに法律の内容も異なっており、プロベートの手続き方法や法定相続分の割合が異なることもあるため、注意が必要です。

2-3.遺産税の納税義務者は被相続人になる

日本では、遺産を分割したあと相続人それぞれが遺産の額に基づいた相続税を納付しなければなりません。一方アメリカでは、相続税に相当する遺産税の納付義務者は被相続人となっています。

遺産税の納付は、亡くなった人に代わって、遺産の人格代表者であるPRが行います。遺産税や弁護士費用などの経費を差し引いた残りの遺産を分割するため、相続人が税金を納付する必要はありません

3.在日アメリカ人が亡くなった場合の相続手続き

以下では具体的な相続手続きの手順を見ていきましょう。アメリカに国籍を有する、日本在住の配偶者が亡くなった場合を考えます。動産・不動産の両方について把握し、相続人の住所や財産の所在地を踏まえて、財産ごとに適切な相続の手続きを行う必要があります。さまざまな財産がある場合は混同しないよう、注意が必要です。

3-1.遺言書があるかを確認する

まずは遺言書があるかどうかの確認を行います。遺言書は被相続人が遺産を誰にどのように分配するのかをあらかじめ書面などにして残すものです。一般的には、手書きで書かれた「自筆証書遺言」と、公証人の筆記によって作成し公証役場で保管する「公正証書遺言」があります。こうした日本の民法に従った様式のもののほかに、被相続人の本国法に従って作成された遺言書も有効となる場合があります

3-2.相続人について調査し確定させる

遺産を相続する権利のある法定相続人について調査します。準拠法に沿って、誰が相続人になるかの調査が必要です。

被相続人が日本人の場合は戸籍から調べられますが、被相続人が外国籍の場合には戸籍がありません。そのため、相続人について調べるためには、被相続人の出生証明書や婚姻証明書など、被相続人との関係性のわかる書類を取り寄せる必要があります。

必要書類を外国から取得するには、時間も労力もかかりますとくに普段から関わりのない場合は、どのような親族がいるのか、どこに住んでいるのかなどがわからないことも少なくありません。自分での調査や確定が難しい場合は、専門家に依頼することも方法の1つです。

3-3.相続する財産について調査し確定させる

相続の手続きをするべき財産にはどのようなものがあるのかについても調査し、確定させなければなりません。日本とアメリカの両方について調査し、他の国に持っている財産がないかも確認する必要があります。

アメリカに財産がある場合は、相続に必要なプロベートが始まるまで、財産は凍結されます。財産についての情報も一切得られない場合が多くあり、被相続人が亡くなってからの調査は困難となるでしょう相続税の納付期限に間に合わなくなるという事態も考えられます。

こうした事態を避けるため、生前に国外にある財産の内容や状況を確認しておくことをおすすめします。その上で、プロベート回避のために生前信託などの対策を進めておくことで、いざ相続をしなければならないというときにスムーズに進むでしょう。

3-4.遺産分割協議を行い書類を作成する

相続人と相続財産を確定させたら、日本にある財産については相続人同士が遺産分割の話し合いを行います。話し合いの結果決まった内容は、遺産分割協議書にまとめましょう。

話し合いとはいっても、相続人全員が集まって直接協議することまでは求められていません。電話やメールなどで合意した内容を遺産分割協議書にまとめ、印鑑登録された全員分の実印を押印すればよいとされています。

ただし、相続人に外国人がいる場合は注意が必要です。外国には印鑑登録制度や実印はないため、相続人の署名を公証人が認証した「宣誓供述書」を遺産分割協議書に添付することで実印の代わりとなります宣誓供述書については、次の章で解説します。

3-5.相続登記の申請書を作成し登記申請を行う

最後に、相続の内容を登記します。登記申請書類とともに、戸籍謄本や住民票、遺産分割協議書などを法務局に提出します。相続人に外国人がいる場合は、戸籍謄本や住民票がないため、代替書類を準備しなければなりません詳しい書類は次章で解説します。

申請内容に不備がなければ、登記が完了し「登記識別情報通知」が交付されます。

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4.日本国内不動産の相続登記の必要書類

相続手続きでは、被相続人の相続関係を証明する書類を集め、相続人を確定させなければなりません。また、相続した不動産を法務局で登記する際にも、さまざまな書類が必要です。

相続手続きに必要な書類には戸籍を証明するものが含まれますが、多くの国には戸籍制度がなく、戸籍書類を発行してもらえません。そのため、外国人の被相続人、相続人がいる場合は、日本の戸籍に記載される出生・婚姻・死亡などを確認できる、代替書類を準備する必要があります。

代替書類は現地の言葉で記載されるため、登記の際には日本語訳文も添付しなければならないことも知っておきましょう。書類を取り寄せるには時間がかかるため、早めに取り掛かることをおすすめします。以下では、相続に必要な書類がない場合の5つの代替書類について紹介します。

4-1.出生証明書

本国での出生を証明する、出生証明書も必要です。出生証明書は、出生時にアメリカ国籍を取得したことを証明する、身分証明書類の1つです。アメリカでの出生証明書は、大使館や領事館で申請し、ワシントンの米国国務省から取り寄せなければなりません。

4-2.婚姻証明書

婚姻証明書は、結婚していることを証明するもので、身分を証明する書類の1つです。日本で入籍した場合は戸籍から確認が可能ですが、国外で結婚した場合はその国から婚姻証明書を取り寄せる必要があります

4-3.死亡証明書

死亡証明書は、外国人の被相続人の本国に発行してもらう必要があります。

アメリカの場合は、大使館で英語の「死亡報告書」を発行してもらえます。外国籍の被相続人が日本で亡くなった場合は、市区町村の役所や役場に死亡届を提出するとともに、大使館や領事館にも死亡届の提出が必要です

4-4.住民票、印鑑証明書、宣誓供述書

宣誓供述書とは、書類の内容に間違いがないことを第三者の面前で宣誓し、認証を受けた書類のことです。

相続登記では、相続人の住民票、印鑑証明書が必要です。日本国内の相続人は住民登録しているため、市区町村役場にて住民票、印鑑証明書が取得可能です。しかし、アメリカでは住民票、印鑑証明制度がないため、他の書類で代替する必要があります。

遺産分割協議書には、相続人全員の印鑑登録された実印の押印が必要です。しかし、外国には印鑑登録制度がないため、外国人の相続人は実印での押印ができません。そこで、外国人の相続人は遺産分割協議書に署名し、本人の氏名住所、本人が署名したことを現地の公証人によって認証してもらいます。この「署名」を認証した宣誓供述書を作成することによって、日本における住民票と印鑑証明書に代わる書類として利用できます。

相続関係を証明するためには、上申書が必要

死亡証明書、出生証明書、婚姻証明書だけでは他に相続人がいないことを証明できないため、相続人が他にいないことを相続人全員で書面で証明した上申書を作成します。遺産分割協議書と同じく、日本国内の相続人は印鑑証明書を添付します。アメリカ居住の相続人は印鑑証明制度がないため、署名について公証人から認証を受けることで印鑑証明書の代わりとなります。在日領事館又は相続人居住地の公証役場にて認証してもらうことで成立します。

5.相続人が外国籍になる場合の専門家の選び方

相続人に外国人がいる場合は、上記の書類の手配が必要であり、時間も手間もかかります。自分での対応が難しい場合は、専門家を頼るのも1つの方法です。以下では、外国人の相続人がいる場合に、手続きや調査を依頼する専門家を選ぶポイントを3つ紹介します。

5-1.海外関連の相続税申告の実績・経験が豊富か

日常的に依頼している専門家がいる場合でも、海外の相続手続きや税申告には専門的な知識を要するため、依頼が難しいこともあります。そのため、依頼を検討している専門家のホームページを事前に見て、専門知識や得意分野について確認するとよいでしょう。もし面談をする機会があれば、海外関連の実績や経験がどれくらいあるか質問してみることもおすすめです

海外関連の手続きや申告の経験が豊富であれば、安心して任せられます。国によって相続制度や手続きは異なるため、対応経験のある国も確認しておくとよいでしょう。

5-2.他の専門家との連携が取れるか

依頼を考えている専門家が、他の分野の専門家との連携が取れるかどうかも確認しましょう。相続には、相続税に関する申告を行う税理士や、関連手続きに関する理解の深い司法書士、プロベートを行う国であれば弁護士など、さまざまな専門家が関わります。専門家同士で連携してもらうことで、情報の共有や資料の取得依頼・受領などをスムーズに進められるでしょう。

5-3.担当者と話しやすい・説明がわかりやすいか

専門家に依頼する際は、面談で情報の共有や資料の受け渡しなどを行います。その中で、話しやすい担当者であれば必要な情報を伝えやすいでしょう。加えて、何気ない会話の中で財産の漏れが見つかることもありえます。ある程度の話しやすさがあると、コミュニケーションがスムーズに取れます

また、海外関連の相続は制度や手続きが複雑であり、わかりやすい説明を得られるかもポイントです。質問しやすい雰囲気や話し方の専門家を選ぶとよいでしょう。理解しやすい説明を受けられ、納得して任せられる専門家を選ぶと安心です。

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6.まとめ

本記事では、アメリカ国籍の配偶者の相続について解説しました。内容をまとめると、以下の通りです。

✓ 相続をするにはまずどの地域の法律に従うか(準拠法)を確認する必要がある

✓ アメリカの場合は日本のように全国で法律が共通しているのではなく、州によって法律が異なる

✓ アメリカの州の多くは、動産(金融資産を含む)は被相続人の住所・居所の法律不動産は所在地法が適用されることが多く在日アメリカ人の相続は、日本国内の動産・不動産ともに日本法が適用されることが多い

✓ アメリカでの相続は相続人同士の話し合いではなく、裁判所によるプロベートを行い、遺言書や法定相続分に従って遺産を分割する

✓ 日本法に沿った相続では戸籍に関する書類が必要だが、アメリカには戸籍謄本、住民票、印鑑証明書がないため代替書類(死亡証明書、婚姻証明書、出生証明書、宣誓供述書)を本国から取り寄せる必要がある

✓ 専門家を頼る場合は、海外関連の実績や他の専門家との連携、コミュニケーションの取りやすさなどを重視する

相続人が主体となって話し合いを行う日本の相続と違って、アメリカでは裁判所を通した相続の手続きが必要です。相続の資格を持つ人が海外にいる場合もあるため、複雑な手順や手続きを踏まなければなりません。海外関連の実績や経験が豊富な専門家を見つけておくと、万が一の事態にも安心です。相続が始まってから海外の財産に関する情報を取得することは難しいため、所有する財産に関する情報を共有しておくことも大切です。

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この記事の監修

斎藤 竜(さいとうりょう)

司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士

斎藤 竜(さいとうりょう)

相談実績5000件超、実務経験10年以上の経験を持つ司法書士。
海外にまつわる相続やビジネスに関する法律、契約書作成、コンプライアンスに関するアドバイスなど、幅広い分野に対応。近年は、当事者の一部が海外に居住するケースなど国際相続の相談が多く、精力的に取り組んでいる。

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