2024/5/1 2024/5/1

外国人相続

シンガポール人の相続|相続手続きと日本の不動産の相続登記の流れを解説

シンガポールにおける財産の相続には「プロベート」という裁判所経由の手続きを経なければなりません。本記事では、在日シンガポール人の相続について、相続開始からの流れについて順を追って解説します。また相続登記における必要書類についても詳しく紹介します。

今回の記事のポイントは以下のとおりです。

【シンガポールでのプロベート手続き】

✓ シンガポール人が被相続人の場合、相続に関してはシンガポールの法律が適用される

✓ シンガポールの国際私法によれば、在日シンガポール人の相続は、シンガポール所在の不動産に関してはシンガポールの法律その他の財産については日本の法律が適用される

✓ シンガポール所在の不動産以外であっても、シンガポールに財産を有する場合は、シンガポールのプロベート手続きに従わなければならない

✓ プロベート(Probate)とは、遺産の分配を目的とした裁判所の手続きであり、プロベート手続きは、裁判所の管理下での清算手続きを経なければならないため、遺産分割には時間がかかる(1〜3年)

✓ シンガポールには相続税の制度はないが、在日シンガポール人の相続においてはシンガポールにある財産にも日本の相続税が課される

✓ プロベート手続きを代理人に依頼するための費用は、単純なケースでも総費用は100万円以上かかり、シンガポールにおける財産移転は、150万円程度が損益分岐点であると一般的に言われている

【日本での相続登記手続き】

✓ 日本の法律に基づく相続登記手続きでは、相続人の国籍は関係ない

✓ 戸籍制度が存在しない国では出生証明書」「結婚証明書」「死亡証明書」「宣誓供述書などを用いて相続関係の証明をする

✓ 宣誓供述書は、在日領事館や本国の公証人から認証を受け、その翻訳文を添付する必要がある

✓ 被相続人の配偶者が外国籍である場合、被相続人の戸籍に記載された結婚の事実により相続関係を確認できることもある

日本における遺産相続では、故人の財産は基本的に全ての相続人のものとされます。遺言書が存在すれば、その指示に従って財産が分けられ、遺言書がなければ相続人が協議を行い、遺産を分配します。大きな争いがなければ、裁判所を介することは少ないです。しかし、シンガポールの財産については、「プロベート手続き」という裁判所の管理下での手続きを経る必要があり、遺産の分割には時間がかかります。

本記事では、在日シンガポール人が亡くなった場合の準拠法やシンガポールにおける手続き、相続登記の必要書類などについて解説します。

1.シンガポールの相続税

現在のシンガポールでは、相続税や贈与税はありません。かつては、シンガポール国籍の人が亡くなった際には、5%または10%の相続税が課されていました。しかし、2008年2月15日にこの制度は廃止されました。

ただしシンガポールでは無税であっても、被相続人と相続人のどちらかが日本に居住している場合には、日本での相続税の申告が必要です。シンガポールでの財産は、プロベート手続きという法的な手続きを要するため、遺産分割までには時間(1〜3年)がかかるため注意しましょう。

2.在日シンガポール人が亡くなった場合の準拠法

日本の通則法36条によれば、相続は被相続人の国籍に基づく法律が適用されます。したがって、シンガポール人が被相続人の場合、シンガポールの法律が適用されます

シンガポールの相続法は、日本との大きな違いがあるため、その違いを理解することが重要です。

 

日本の法律では、相続は被相続人の国籍に基づいて決定され、遺産の種類や所在地に関係なく、一貫した法律が適用されます。これを「相続統一主義」と呼びます。一方シンガポールでは、財産が不動産か動産かによって適用される法律が異なる「相続分割主義」です。

具体的には、シンガポール人の被相続人が亡くなった場合のケースでは、以下の適用です。

シンガポールの相続法(相続分割主義)

不動産の相続 不動産の所在地の法律が適用される
動産の相続 被相続人の住所地の法律が適用される

ただし、動産などの不動産以外の財産であっても、シンガポールにある財産については、プロベート手続きを経る必要があります

シンガポールの相続法には、日本の相続法にはないもう一つの大きな違い「プロベート手続き」があります。以下にプロベート手続きの概要と流れ、必要書類について解説します。

3.遺産が日本国外にある場合に行うプロベートとは

プロベート(Probate)とは、シンガポールにおける遺産の分配を目的とした裁判所の手続きを指します。シンガポールなど英国法を基にした国々では、日本とは異なり不動産や資産の名義変更・銀行口座の解約・資金移転などの手続きを行う際に、プロベート手続きを経なければなりません。プロベートの申立ては、裁判手続きが必要なため、通常は現地の弁護士が代理人として申立てを行います

3-1.プロベートにかかる費用や時間

プロベートの手続きは、費用の総額が事前に把握しづらいという問題点があります。現地の弁護士費用や公証人費用、各種税金、手数料などケースにより異なるためです。また、相続財産の種類や遺言の有無なども費用の額に影響します。

プロベート費用の大部分はシンガポールの弁護士や会計士の報酬が占め、単純なケースであっても総費用が100万円未満で収まるケースは少ないのが実情です。

また手続き開始から、シンガポールの資産が相続人の日本における銀行口座に入金されるまでの平均期間は約1年〜1年半であり、長いもので3年といわれています。

相続財産の内容や諸般の事情により費用や期間は異なりますが、最も簡単なケースと仮定しても相続財産150万円程度が損益分岐点とされているため、慎重に検討するようにしましょう。

3-2.プロベートの流れ

裁判所(Family Justice Courts)に申立てを行いますが、遺言書があるかどうかで申立て手続きが異なります。

  • 遺言書がある場合:「遺言執行人(Executor)」の承認
  • 遺言書がない場合:「遺産管理人(Administrator)」の選任

遺言執行人または遺産管理人は、裁判所の監督下において財産目録等の作成や清算を行い、残った財産のみが相続人や受遺者に分配されるのが一般的な流れです。

3-3.プロベート申立ての必要書類

プロベート申立てを行うには、必要な全ての添付書類を用意する必要があります。通常、必要とされる書類は以下のとおりです。

  • 遺言書
  • 出生証明書
  • 婚姻証明書
  • 死亡証明書
  • 宣誓供述書(相続人の範囲等に関する弁護士の法律意見書)
  • 被相続人の資産に関する書類
  • 被相続人の債務についての書類

状況によっては追加の書類が必要になることもあります。また、日本の公的機関が作成した書類にはアポスティーユ(付箋による外務省の証明)の取得が必要です。個人や民間団体が作成した書類は、日本の公証役場での認証、外務省での証明書の取得、そして駐日シンガポール大使館での認証が必要です。

日本語で書かれた書類は、翻訳者が宣誓を行ったうえで翻訳する必要があります。ただし、シンガポールの公認翻訳者による翻訳が求められる場合もあります。

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4.シンガポール人の日本国内の不動産相続手続きと必要書類

シンガポール国籍を持つ人が日本国内の不動産を相続する際の手続きと、その過程で必要となる書類について詳しく解説します。主な流れは以下のとおりです。

  • 遺言書の有無を確認する
  • 相続財産と相続人を確認する
  • 遺産分割協議を行う
  • 相続登記(不動産の名義変更)を行う
  • 相続税の申告・支払いを実施する

特に留意すべきは、戸籍に代わる証明書類をシンガポールから取り寄せる必要がある点です。

4-1.遺言書の有無を確認する

相続が発生した際、まず遺言書が存在するかどうかを確認しましょう。在日シンガポール人も日本の方式に従い、遺言を作成することができます。遺言書が存在する場合には、その遺言書の内容に基づいて相続手続きを進めます。そこで遺言書には以下の3つのタイプがあります。

  • 自筆証書遺言:自筆で書いた遺言
  • 公正証書遺言:公証人が内容を証明し、公証役場で保管される遺言
  • 秘密証書遺言:内容を秘密にして作成し、その存在のみを公証役場で証明する遺言

これらの遺言書は、それぞれ作成方法や保管場所が異なるため「故人の自宅」や「法務局(遺言書保管制度)」「公証役場」など、遺言書があると思われる場所を探さなければなりません。

ただし「自筆証書遺言」または「秘密証書遺言」が見つかった場合、家庭裁判所で「検認」の申立て(遺言書保管制度の場合は不要)を行い、遺言書の内容や状態を確認しなければなりません検認前に遺言書を開封してしまうと、5万円以下の罰金が科せられる可能性もあるため、注意が必要です。

遺言書が存在しない場合、法定相続人が被相続人の財産を引き継ぎます。ただし、遺産の相続は「全ての相続人が遺産の分配方法を協議する(遺産分割協議)」方法と「法定相続分に従って自動的に分配されるもの(法定相続)」の2つの方法があります。

前者の遺産分割協議を選択する場合には、遺産分割協議書が必要です。

4-2.相続財産と相続人を確認する

相続手続きを開始するためには、まず相続人を特定しなければなりません。相続人の特定を行うには、故人の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取得し、養子や婚外子がいるかどうかを確認します。

不動産が相続財産に含まれている場合、年に1回送られる「固定資産税課税明細書」を用いて、その所在地と固定資産税評価額を確認します。もし固定資産税課税明細書が見つからない場合は、市区町村の役所で「固定資産評価証明書」を取得しましょう。

これらの証明書は、相続登記を行う際に必要です。また、不動産が複数の市区町村に存在する場合、各市区町村の固定資産税課税明細書や固定資産評価証明書を用いて、相続する全ての不動産を確認しなければなりません。

4-3.遺産分割協議を行う

遺産の分割について話し合うことになった場合、遺産分割協議が必要です。遺産分割協議には特定の手順は存在しませんが、分割協議では全ての相続人の同意を得なければなりません。未成年の相続人がいる場合、その代理人の参加も必要です。後々の問題を避けるために、協議の結果は「遺産分割協議書」に記録し、全ての相続人が署名と実印を押印します。

4-4.相続登記(不動産の名義変更)を行う

日本の法律に基づく相続手続きでは、相続人の国籍は問題とされません。外国籍の相続人でも、日本国籍の相続人と同じように、相続人としての権利と義務を有します。

相続登記の際の主な必要書類

相続登記申請の際に必要とされる主な書類は以下のとおりです。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 不動産取得者の住民票
  • 遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書
  • 相続登記の申請書
  • 固定資産評価証明書
  • 不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)
  • 相続人全員の住民票

ただし、シンガポールには戸籍制度がないため、戸籍に代わる証明書類をシンガポールから取り寄せる必要があります。

シンガポール籍の被相続人の必要書類

相続人を特定し、相続登記するためには「故人が生まれてから亡くなるまでの戸籍(戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍)」が必要です。これらの資料を集めることで、相続人の特定が可能です。ただし、シンガポールには戸籍制度がないため、戸籍等に代わる証明書類を準備しなければなりません。

戸籍謄本がない場合

戸籍制度が存在しない国では「出生証明書」「婚姻証明書」「死亡証明書」「宣誓供述書などを用いて相続関係を確認します。出生証明書では、被相続人である親と子の身分関係、婚姻証明書では被相続人とその配偶者の身分関係、死亡証明書では被相続人の死亡の事実を証明できます。また、被相続人が日本人でその配偶者がシンガポールなどの外国籍である場合、被相続人の戸籍謄本に記載された結婚の事実により、相続関係を確認できることもあります。

しかし、これらの書類だけでは、被相続人に他に相続人がいないということを完全に証明できません。そこで、宣誓供述書を作成し、「私たちは被相続人の相続人であり、他に相続人がいない」ということを宣誓し、在日領事館や公証人から認証を受けます。これらの書類は外国語で作成されるため、相続手続きに使用する際にはその翻訳文を添付する必要があります。

住民票がない場合

日本国内の不動産の相続登記を進める際には、相続人の住民票の写しも必要です。相続人が外国籍でも、中長期滞在者や特別永住者などは住民票の写しを入手できます。しかし、日本で住民登録を行っていない人に対しては住民票の写しは発行されません。そうした場合には、現地の公証人に宣誓供述書の作成を依頼します。

印鑑証明書がない場合

遺産分割協議書には、印鑑登録された実印を押し、全ての相続人からの印鑑証明書を添えます。相続人が外国籍でも、中長期滞在者や特別永住者などは日本で住民登録と印鑑登録が可能です。

印鑑登録のない場合には、遺産分割協議書に署名し、署名が本人のものであることを証明するために、署名を証明した宣誓供述書を取得しなければなりません。宣誓供述書は、シンガポールの公証人に依頼します。

4-5.相続税の申告・支払いを実施する

日本国内の家屋や不動産の相続が行われると、相続税が課されます。しかし、全ての相続が相続税の対象となるわけではなく、相続分の総額が基礎控除額を超えた場合のみ相続税が発生します

相続税の総額が判明した段階で、申告書を作成しましょう。相続税の申告書を提出しても、税務署から通知や納付書が送られてくることはないため、自分で納付書を取得し、納付を行わなければなりません

納付書は、最寄りの税務署で入手できます。相続税は基本的に現金一括払いとなるため、支払期限までに現金を準備しておきましょう。

5.まとめ

本記事では、日本在住のシンガポールの方が相続する際に知っておきたい事柄について解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。

【シンガポールでのプロベート手続き】

✓ シンガポール人が被相続人の場合、相続に関してはシンガポールの法律が適用される

✓ シンガポールの国際私法によれば、在日シンガポール人の相続は、シンガポール所在の不動産に関してはシンガポールの法律その他の財産については日本の法律が適用される

✓ シンガポール所在の不動産以外であっても、シンガポールに財産を有する場合は、シンガポールのプロベート手続きに従わなければならない

✓ プロベート(Probate)とは、遺産の分配を目的とした裁判所の手続きであり、プロベート手続きは、裁判所の管理下での清算手続きを経なければならないため、遺産分割には時間がかかる(1〜3年)

✓ シンガポールには相続税の制度はないが、在日シンガポール人の相続においてはシンガポールにある財産にも日本の相続税が課される

✓ プロベート手続きを代理人に依頼するための費用は、単純なケースでも総費用は100万円以上かかり、シンガポールにおける財産移転は、150万円程度が損益分岐点であると一般的に言われている

【日本での相続登記手続き】

✓ 日本の法律に基づく相続登記手続きでは、相続人の国籍は関係ない

✓ 戸籍制度が存在しない国では出生証明書」「結婚証明書」「死亡証明書」「宣誓供述書などを用いて相続関係の証明をする

✓ 宣誓供述書は、在日領事館や本国の公証人から認証を受け、その翻訳文を添付する必要がある

✓ 被相続人の配偶者が外国籍である場合、被相続人の戸籍に記載された結婚の事実により相続関係を確認できることもある

まずは、遺言書の有無とシンガポールに財産があるかどうかの確認をしましょう。シンガポールには相続税の制度はありませんが、シンガポールにある財産であっても日本の相続税が課されるため、注意が必要です。

シンガポール所在の財産に関するプロベート手続きは、裁判所の管理下での清算手続きを経なければならないため、遺産分割には1〜3年の時間がかかります。また、プロベート手続きや相続登記などでは、遺言書の有無で手続きが異なってくることも把握しておきましょう。

このように、シンガポール側との書類のやり取りや翻訳、日本での登記申請などで手間と時間の多くを費やされてしまうことが予想されます。あらかじめ相続・登記の専門家に相談しておくことが重要です。

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この記事の監修

斎藤 竜(さいとうりょう)

司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士

斎藤 竜(さいとうりょう)

相談実績5000件超、実務経験10年以上の経験を持つ司法書士。
海外にまつわる相続やビジネスに関する法律、契約書作成、コンプライアンスに関するアドバイスなど、幅広い分野に対応。近年は、当事者の一部が海外に居住するケースなど国際相続の相談が多く、精力的に取り組んでいる。

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