2024/4/5 2024/4/5
外国人相続
在日ブラジル人の相続手続きとは?相続登記の必要書類と注意点を解説
日本とブラジルの関わりは深く、過去には日本からブラジルへ多くの移民が渡りました。そのため、日本在住のブラジル人や、日本の不動産などの財産を持っているブラジル人もいるでしょう。本記事では、在日ブラジル人の相続にはどのような手続きが必要なのかを解説します。
今回の記事のポイントは、下記のとおりです。
✓ 在日ブラジル人の相続は日本の民法に従って行う
✓ ブラジル人である被相続人が亡くなったら、遺言書の有無の確認、法定相続人の確認、相続財産の確認を経て、遺産分割協議書を作成し相続登記する ✓ 相続登記には戸籍を証明する書類が必要であり、ブラジル国籍の相続人については出生証明書や婚姻証明書を取り寄せる必要がある ✓ ブラジル在住の相続人には、遺産分割協議書への実印の代わりとなるサイン証明書を取得してもらう必要がある ✓ ブラジルから書類を取り寄せたり翻訳したりするためには時間がかかるため、早めの着手が大切 |
在日ブラジル人を被相続人とする場合には、日本人のみの相続とは異なる書類が必要です。相続を行う際の準拠法や必要な手続きも理解しておきましょう。
1.被相続人がブラジル国籍の場合の準拠法
日本の国際私法によると、ブラジル国籍の方が日本で亡くなった場合は、本国であるブラジルの法律に従うとしています。ブラジルの法律では、財産の所在地を問わず、被相続人が住所を有する国の法律を適用するとしています。このため、ブラジル国籍の被相続人が日本で亡くなられた場合の準拠法は日本の民法です。
2.遺産相続手続きの大まかな流れ
まずは遺産相続にまつわる流れを大まかに見ていきましょう。
亡くなってからの日数 | 実施する事項 |
当日~2日以内 | ・親族への連絡
・葬儀の準備 |
1か月前後を目安に | ・遺言書の有無の確認
・法定相続人の調査・確定 ・相続財産の調査・確定 ・遺産分割協議の着手 |
適宜 | ・相続登記 |
遺産相続に関することのほかにも、市区町村役場での手続きや年金に関する手続きも必要です。期限の設けられている手続きには以下のものがあります。
亡くなってからの日数 | 実施する手続き |
手続きを行う場所 |
2日以内 | 死体火葬許可申請書 | 市区町村役場 |
7日以内 | 死亡届の提出 | 市区町村役場(被相続人の本籍のある地、死亡地の市区町村役所、または届出人の所在地) |
10日以内 | 厚生年金の受給者死亡届
国民年金の年金受給権者死亡届(報告書) |
年金事務所など
年金事務所など |
14日以内 | 厚生年金の年金受給権者死亡届(報告書)
被相続人の介護保険資格喪失届 世帯主の変更届 |
年金事務所など
年金事務所など 市区町村役場 |
1か月以内 | 遺言書の検認手続き | 家庭裁判所 |
3か月以内 | 相続放棄・限定承認の申述 | 家庭裁判所 |
4か月以内 | 被相続人の準確定申告 | 税務署 |
10か月以内 | 相続税の申告 | 税務署 |
3.ブラジル人が被相続人の時に相続登記で必要な書類
ブラジル国籍の被相続人の財産について相続をするには、被相続者・相続者それぞれについての書類をそろえなければなりません。ブラジルでは日本と異なり、戸籍制度がないため、戸籍謄本に代わる書類で被相続人と相続人の関係を証明する必要があります。必要な書類を見ていきましょう。
3-1.被相続人の死亡証明書
本国又はブラジル総領事館でブラジルの死亡証明書を取り寄せます。
なお、在日ブラジル人は住民票を取得できます。亡くなったブラジル人についても住民票の除票を取得できるため、ブラジルの死亡証明書と住民票の除票で死亡の事実と死亡日を証明できます。
3-2.出生証明書
被相続人と相続人である子の関係を証明するものとして、出生証明書も必要です。出生証明書は本国から取り寄せるか、ブラジル総領事館に申請して発行してもらわなければなりません。
ブラジル在住の相続人がいる場合も、相続人であることを証明する書類が必要です。ブラジルには戸籍制度がないため、出生証明書を取得してもらう必要があります。
3-3.婚姻証明書
被相続人が結婚している場合は、被相続人と配偶者の関係を証明するため、婚姻証明書も身分証明書類となります。本国でブラジル人と結婚している場合や、被相続人が日本人と国際結婚している場合は、ブラジル総領事館に届出を行っているはずであり、婚姻証明書もブラジル総領事館から取得可能です。
3-4.上申書
死亡証明書、出生証明書、婚姻証明書だけでは、被相続人に他に相続人がいないことを証明できないため、相続人全員の上申書を作成し署名又は記名押印の上、相続関係を証明します。上申書には、日本在住の相続人は印鑑証明書、ブラジル在住の相続人は、署名を認証する公証人の宣誓供述書を添付します。
3-5.相続人の住民票
日本国内の相続人については、住所を証明する住民票を取得します。
ブラジル在住の相続人がいる場合も、住所証明書が必要です。ブラジルには住民票がないため、住民票の代わりとして、現地の公証人による宣誓供述書を作成してもらわなければなりません。
3-6.遺産分割協議書
日本に住所を有する在日ブラジル人の財産の相続は、日本の法律に従って、相続人同士が話し合うことで行います。協議によって決まった内容を遺産分割協議書に記載し、相続人全員の印鑑登録された実印を押印します。
日本在住の相続人は印鑑証明書を取得できるため、遺産分割協議書に印鑑証明書を添付します。ブラジル在住の相続人は実印を持たないため、本人の署名を現地の公証人が署名を認証する宣誓供述書を発行してもらい、添付しなければなりません。
4.ブラジル人が亡くなった際の相続の注意点
在日ブラジル人には、ブラジル在住の相続人がいることが多いものです。そのため、日本人のみの相続と違って注意すべき点もあります。具体的な注意点を以下で確認しましょう。
4-1.書類の取得や手続きは早い内から始める
必要な書類の取得や手続きには早めに着手することが大切です。ブラジル在住の相続人に関する必要書類を取得するためには、時間がかかります。書類がそろうのを待っている間に、必要な手続きの期限となってしまうことも考えられます。相続のほかにすべきことが多い中でも、早めに手をつけて確実に相続の準備を進めていきましょう。
4-2.被相続人の住所を証明する書面
ブラジル本国や大使館から取り寄せる書類は、ポルトガル語で記載されています。日本の法務局で相続登記をする際には、日本語の翻訳を添付しなければなりません。自分での対応が難しければ、専門家に翻訳を依頼することも視野に入れましょう。
5.まとめ
本記事では、在日ブラジル人の相続について解説しました。内容をまとめると、以下の通りです。
✓ 在日ブラジル人の相続は日本の民法に従って行う
✓ ブラジル人である被相続人が亡くなったら、遺言書の有無の確認、法定相続人の確認、相続財産の確認を経て、遺産分割協議書を作成し相続登記する ✓ 相続登記には戸籍を証明する書類が必要であり、ブラジル国籍の相続人については出生証明書や婚姻証明書を取り寄せる必要がある ✓ ブラジル在住の相続人には、遺産分割協議書への実印の代わりとなるサイン証明書を取得してもらう必要がある ✓ ブラジルから書類を取り寄せたり翻訳したりするためには時間がかかるため、早めの着手が大切 |
被相続人の住所が日本にある場合は、日本人のみの相続と同様に話し合いで遺産分割を行えます。ただし、登記に必要な書類には取り寄せや翻訳の必要なものがあるため、早めに取り掛かることが大切です。
この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)
相談実績5000件超、実務経験10年以上の経験を持つ司法書士。
海外にまつわる相続やビジネスに関する法律、契約書作成、コンプライアンスに関するアドバイスなど、幅広い分野に対応。近年は、当事者の一部が海外に居住するケースなど国際相続の相談が多く、精力的に取り組んでいる。