2023/6/7 2024/4/29
外国人の不動産登記
不動産登記・商業登記における外国人のカタカナとローマ字表記: ルールとポイントを解説
不動産登記・商業登記の手続きをスムーズに進めるためには、必要な書類や手続きに関する情報を事前に確認し、カタカナ表記が正確であることを確認しておくことが重要です。また、カタカナ表記に誤りがあると本人の特定ができず、将来、不動産や商業登記を行う際にスムーズに手続きができないなど支障が出る可能性があります。
今回の記事のポイントは以下のとおりです。
✓ 不動産登記・商業登記においては、原則ローマ字による氏名住所の表記はできない
✓ 不動産・商業登記の登記申請に際して、外国人の氏名等をローマ字からカタカナへ表記を改める際の明確な基準はない ✓ 登記実務上は、本人の住民票又は印鑑証明書など公的書類に通称名がカタカナで表記されていればその表記を用いるが、ない場合には原音に近いカタカナ表記に改める必要がある ✓ 英語圏の氏名は、アルファベットを原音のカタカナ表記に変換し、日本と同じく「氏→名」の順に並び替える。なお、氏と名の間にスペースは設けられず、「、」「・」もしくは姓名を続けて記載するなどが必要 ✓ 漢字圏であれば、日本で用いられている漢字での登記は可能 ✓ 2024年4月1日から改正により、外国人個人が不動産の所有者となる不動産登記については、日本語のほか、ローマ字併記とローマ字証明が必要となる |
本記事では、不動産登記・商業登記に使用する外国人の氏名のカタカナ表記について中心にまとめました。
ぜひご覧ください。
1.不動産登記・商業登記とは
1-1.不動産登記とは?
不動産登記とは、土地や建物などの不動産に関する権利(所有権や抵当権など)の移転や設定を公示するための手続きです。これにより、権利関係の明確化と安定が図られます。
1-2.商業登記とは?
商業登記とは、企業や個人事業主の基本的な情報(設立、役員、資本金など)を公示するための手続きです。これにより、企業活動の透明性が向上し、信用の確保が図られます。
2.不動産登記と商業登記におけるカタカナの使用方法
不動産登記・商業登記においては、外国人の氏名、住所を日本語のカタカナ又は漢字で表記することが求められます。
2-1.カタカナでの表記ルール
登記制度は元々は日本人を対象とした制度であり、日本語を使用すべきであることから、登記制度において外国人の氏名・住所を登記する場合であってもローマ字表記が認められていません。そのため、カタカナによる表記に改めたうえで登記申請をし、登記上もカタカナによって住所氏名が記載されます。そのため、外国人の氏名・住所を原語の発音に近い形で表記する必要があります。
なお、外国人個人が所有者となる不動産登記については、後述するとおり、2024年4月1日から、法令改正及び法務省通達によりローマ字併記が求めらるように改正されました。
2-2.カタカナ変換の注意点
不動産・商業登記の登記申請に際して、外国人の氏名等をローマ字からカタカナへ表記を改める際の明確な基準はありません。実務上は、本人の住民票又は印鑑証明書など公的書類に通称名がカタカナで表記されていれば、その表記を用いますが、日本に住所がない場合や通称欄の記載がない場合には、本人を特定する観点から、依頼者に口頭で発音を確認し、原語の発音をカタカナ表記にできるだけ正確に再現する必要があります。
3.カタカナ表記の典型的な例とその対処法
一般的な対処法は下記の通りです。
3-1.英語圏の氏名の登記
英語圏の名前をカタカナに変換する際は、まずアルファベットをローマ字読みに変換し、それをカタカナに置き換えます。
例えば、”John Smith” はカタカナ表記をすると「ジョン・スミス」となります。ただし、登記をする際には単純にカタカナ表記にするだけではなく、日本の氏名表記と同様に、「姓→名」の順に表記が必要です。
先ほどの例で言うと、”John Smith” は「スミス・ジョン」の順に表示します。また、姓と名の間に空白を用いることはできないので、姓名を続けて表示するか、「・」「、」で区切ります。
したがって、“John Smith”は、 「スミス・ジョン」「スミス、ジョン」「スミスジョン」という表記に改めて登記します。
ミドルネームについては、適宜、入れることも省略もどちらも可能です。
もし、ミドルネームを入れるのであれば、「Elon Reeve Musk」であれば、「マスク・イーロン・リーヴ」「マスク・イーロン」などの表記が可能です。
英語圏の名前の特徴と対応策
英語圏の名前には、「ン」や「ム」などの鼻母音が多く含まれるため、カタカナ表記に注意が必要です。
また、”th” や “v” などの発音がカタカナには存在しないため、それらの音をできるだけ近いカタカナで表現することが求められます。
例えば、“th” は「ス」や「ズ」で代用し、”v” は「ブ」や「ウ゛」で表記することが一般的です。
3-2.中国圏の氏名の登記
漢字圏の場合には、日本では漢字が用いられているため、氏名住所を漢字で登記できます。
住民票、印鑑証明書、外国発行の公的書類に漢字で氏名が記載されていれば、漢字表記での登記が可能です。ただし、漢字は日本国内で通用している漢字、すなわち法務省で登録されている漢字でなければなりません。中国や韓国などの日本語として用いられていない漢字、文字は登記ができません。その場合には、英語圏と同様に、氏名をカタカナで表記する必要があります。
漢字からカタカナへの変換
中国語圏の名前をカタカナに変換する際は、漢字をピンイン(中国語のローマ字表記)に変換し、それをカタカナに置き換えます。
例えば、「李」という名前はピンインで “Li” となり、「リ」とカタカナ表記されます。
4.外国人個人が所有者となる不動産登記については、ローマ字併記が必要
2024年4月1日からの法改正および法務省通達により、不動産登記の際には外国人個人所有者の氏名を日本語(カタカナまたは漢字)で登録するとともに、ローマ字(大文字のアルファベット)での併記が求められるようになります。
不動産登記上、外国人の氏名について外国も人を使用することは認められていないため、日本語(カタカナ、漢字)を使用する実務運用となっていました。カタカナ表記では、パスポート(旅券)や在留カードに記載されている氏名の表示(アルファベット表記)では氏名を一致しているかの確認ができず、不動産登記上の所有者であるとの本人確認が困難となってしまうという問題がありました。
そのため、2024年4月1日から外国人の住所証明書の取り扱いの見直しに併せて、外国人の氏名のローマ字併記するよう取り扱いが改正されました。
4-1.ローマ字併記は不動産の所有者となる外国人個人が対象
ローマ字での併記は、不動産の所有者となる外国人個人が対象となります。外国法人は対象とされません。
所有権の登記事項ではなく、外国人所有者の名前を補完する情報として扱われます。なお、この表記は、中国や韓国のように名前が漢字で表される外国人であっても、ローマ字での名前の併記が必須です。
外国人個人の所有権登記にのみローマ字併記が適用され、地上権や賃借権、抵当権など他の権利に関してはこの併記は適用されません。また、外国法人の所有者に関しては、ローマ字での併記は認められていません。
4-2.ローマ字併記の方法
所有者名の日本語での表示には、ローマ字名があってもカタカナに変換し、名前間のスペースなどは用いずに連結するか、区切りとして「・」「、」を使用します。
所有権登記名義の氏名の補足事項としてのローマ字表示では、外国人所有者の名前の表音を全大文字のローマ字で示し、名前の間にスペースを入れることは認められていますが、「・」などの区切り記号は使用できません。
ローマ字名の表示も日本と同じく「氏」→「名」の順で表示します。から始めます。氏名に「Ⅲ」、「Ⅳ」又は「Ⅸ」等のローマ数字を含む場合には、それをローマ字で表記することが可能です。
4-3.ローマ字併記するには、ローマ字氏名を証明する情報が必要
ローマ字名を証明するための書類としては、中長期在留者はローマ字名が記載された住民票の写し、短期在留者や海外居住者は有効期間内のパスポート(旅券)のコピーが必要です。
以下、外国人ごとに必要なローマ字証明書を整理すると下記の通りです。
住民票がある場合
外国人本人の住民票
海外居住外国人など、住民票がない場合
ローマ字氏名が表記されたページが含まれているパスポート(旅券)のコピー
※パスポートのコピーは、以下の要件を満たす必要があります。
- 登記申請受付日においてパスポートが有効であること
- ローマ字氏名並びに有効期間の記載および写真の表示のコピーであること
- パスポートのコピーに「原本と相違ない」旨の記載および署名又は記名押印があること
パスポートと一体となった宣誓供述書がある場合
外国人本人の本国又は居住国の公証人が作成した宣誓供述書とパスポートのコピーが一体となった書面を、外国人の住所証明情報として登記申請に用いた場合には、その書面をもってローマ字証明の書面として用いることができます。
住民票及びパスポートがない外国人の場合
住民票、パスポートがない外国人の場合には、所有者となる外国人ローマ字氏名、当該ローマ字氏名が当該者のものであることに相違ない旨及び旅券を所持していない旨が記載された本人の署名又は記名押印がされた上申書を用意する必要があります。
5.まとめ
本記事では、不動産登記・商業登記における外国人のカタカナ表記について解説しました。
内容をまとめると、以下のとおりです。
✓ 不動産登記・商業登記においては、原則ローマ字による氏名住所の表記はできない
✓ 不動産・商業登記の登記申請に際して、外国人の氏名等をローマ字からカタカナへ表記を改める際の明確な基準はない ✓ 登記実務上は、本人の住民票又は印鑑証明書など公的書類に通称名がカタカナで表記されていればその表記を用いるが、ない場合には原音に近いカタカナ表記に改める必要がある ✓ 英語圏の氏名は、アルファベットを原音のカタカナ表記に変換し、日本と同じく「氏→名」の順に並び替える。なお、氏と名の間にスペースは設けられず、「、」「・」もしくは姓名を続けて記載するなどが必要 ✓ 漢字圏であれば、日本で用いられている漢字での登記は可能 ✓ 2024年4月1日から改正により、外国人個人が不動産の所有者となる不動産登記については、日本語のほか、ローマ字併記とローマ字証明が必要となる |
不動産登記・商業登記における外国人のカタカナ表記は、登記簿の統一性を保ち、権利関係や企業情報の明確化に役立ちます。カタカナ表記のルールや注意点を押さえ、正確な表記をすることが大切です。手続きをスムーズに進めるために、事前に必要な情報や書類を確認しておきましょう。
この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)
相談実績5000件超、実務経験10年以上の経験を持つ司法書士。
海外にまつわる相続やビジネスに関する法律、契約書作成、コンプライアンスに関するアドバイスなど、幅広い分野に対応。近年は、当事者の一部が海外に居住するケースなど国際相続の相談が多く、精力的に取り組んでいる。