2023/6/8 2024/2/27
外国人の不動産登記
渉外登記とは?外国人の不動産・相続手続きの基本と手続きをわかりやすく解説
外国人の不動産取引や相続をサポートする方々にとって、渉外登記の手続きや必要書類、関連する法律や税制上の注意点などを網羅的に理解することは大変重要です。
そこで今回は、日本国内での外国人向け不動産取引や相続において重要な手続きである渉外登記について詳しく解説していきます。
渉外登記の基本概念から、手続きに必要な書類や申請方法、専門家の役割と選び方に至るまで、渉外登記に関する知識と渉外登記の手続きを円滑に進めるためのポイントをお伝えします。
今回の記事のポイントは下記の通りです。
✓ 渉外登記は、日本国内での外国人による不動産取引や相続に関する登記手続きを指す
✓ 渉外登記において必要書類は多岐にわたるが各書類の有効期限や原本が還付できるかの確認が必要。不動産登記規則に基づき、不動産取引の登記において提出した署名証明書は原本還付できない ✓ 国際相続や国際贈与の際は、税制上の注意点や節税対策を理解することが重要。被相続人と相続人の国籍や居住地域、居住年数によって、国内財産のほか国外財産も含まれるのかどうか取り扱いが異なる ✓ 渉外登記手続きを円滑に進めるためには、弁護士、税理士、司法書士などの専門家のサポートが不可欠。専門家選びの際には、知識・経験、費用などを考慮して選ぶ |
それでは、まず渉外登記とは何か、その意義や手続きについて概観していきましょう。
1. 渉外登記とは – 外国人向け不動産取引・相続の必須知識
渉外登記とは、日本国内での外国人による不動産取引や相続に関する登記手続きのことを指します。具体的には、外国人が日本の不動産を取得・譲渡した場合や、相続人が外国籍の場合など、外国人が関与する不動産取引や相続において、法的な手続きとして必要となる登記です。
渉外登記の主な目的は、外国人による不動産取引や相続が正当であることを確認し、日本の法制度の下で適切に管理されることを保証するためです。これにより、外国人が安心して日本の不動産市場に参入できる環境が整備されるとともに、不動産の所有権や権利関係が明確になり、トラブルが防げます。
渉外登記には、不動産取得に関する登記や、不動産の売買に関する登記、さらには遺産分割協議書に基づく相続登記など、さまざまな種類があります。外国人が関与する不動産取引や相続が円滑に進むためには、これらの登記手続きを適切に行うことが欠かせません。
また、渉外登記は、日本の登記法や民法などに基づく手続きであり、一定のルールや手続きが求められます。そのため、外国人向け不動産取引や相続をサポートする方々にとって、渉外登記の手続きや関連法令について理解し、適切な対応ができることが大切です。
次の項目では、渉外登記の手続きに必要な書類や申請方法について詳しく解説していきます。
2.渉外登記の必要書類と申請方法
渉外登記の手続きに必要な書類は、不動産売買と不動産相続の場合で異なります。また、日本国内に住所がある外国人と海外居住の外国人とでは、必要な書類も異なります。以下に、それぞれの場合に必要とされる一般的な主な書類を挙げます。
2-1.渉外登記ー不動産売買
- 外国人のパスポートのコピー
- 外国人の住民票(日本国内に住所がある場合、住民基本台帳カードのコピーでも可)
- 不動産の登記事項証明書
- 印鑑証明書(日本国内に住民票登録がある場合)※
- 売買契約書
海外居住者の場合、印鑑証明書の代わりとなる署名証明書が必要です。
2-2.渉外登記ー不動産相続
- 外国人のパスポートのコピー
- 外国人の住民票(日本国内に住所がある場合、住民基本台帳カードのコピーでも可)
- 不動産の登記事項証明書
- 印鑑証明書(日本国内に住民票登録がある場合)
- 遺産分割協議書
- 戸籍謄本(または戸籍抄本)
※戸籍制度がない国であれば出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書あるいは宣誓供述書など
2-3.署名(サイン)証明書
海外居住の日本人、外国人の場合、不動産売買、相続ともに署名(サイン)証明書が必要です。これは、日本人の場合は日本大使館、外国人の場合は現地公証人に依頼し、署名が本人のものであることを証明します。
なお、元日本国籍者は、失効した日本のパスポートや戸籍謄本(抄本)があれば、日本の大使館で署名証明を受けられる場合があります。
2-4.戸籍
海外の多くの国では、戸籍制度がないことが多く、『身分登録制度』が戸籍制度の代わりとなっています。そのため、相続関係を確認するためには、出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書あるいは宣誓供述書などが必要となります。宣誓供述書は「私は被相続人の相続人である」ということを宣誓し、在日領事館や公証人の認証を得るものです。
これらの書類は外国語で作成されるため、相続手続きに使用するときはその訳文を添付する必要があります。なお、過去に日本国籍があった場合は、過去の戸籍から相続関係を確認できる場合があります。また、被相続人の配偶者が外国籍の場合は、被相続人の戸籍に婚姻の事実が記載されるので、それにより相続関係を確認できる場合があります。
2-5.渉外登記の申請方法
渉外登記の申請方法には、主に以下の3つがあります。申請書の提出先の窓口はいずれも法務局です。
- 管轄の法務局へ直接持ち込む
- 郵送で申請する
- オンライン手続きを利用する
それぞれの方法には、手続きの手順や注意点が異なります。
直接法務局へ持ち込む場合は、窓口で手続きが完了するまで待機する必要がありますが、対面で手続きができるため、質問や確認がしやすいというメリットがあります。
一方、郵送やオンライン手続きは、自宅や事務所から申請できる利便性があるものの、書類の不備や手続きの誤りがあると、手続きが遅れるリスクがあります。そのため、事前に書類を確認し、適切な形式で提出できるように準備しておくことが望ましいです。
3.渉外登記の手続きを円滑に進めるためのポイント
渉外登記の手続きは、外国人向けの不動産取引や相続において重要なプロセスです。円滑な手続きのためには、いくつかのポイントに注意することが求められます。ここでは、渉外登記の手続きをスムーズに進めるためのポイントを紹介します。
3-1.署名(サイン)証明書の有効期限を確認する
渉外登記に必要な署名(サイン)証明書の有効期限は、提出先によって異なります。
不動産相続手続きに使用する場合、有効期限の定めがないことが多いですが、不動産売買に使用する場合など3ヶ月以内のものを求められることがあります。
金融機関に提出する場合は、3ヶ月以内や6ヶ月以内が多いですが、これも法律で明確に決まっているわけではありません。サイン証明書の取得には時間や手間がかかるため、有効期限内に手続きが進められない場合は、事前に相手方と交渉しておくことが大切です。
3-2.原本還付ができるかどうかの確認
原本還付とは、提出した証類の原本を手続きが終了した後に返却してもらうことを指します。これにより、同じ書類を他の手続きにも使用することができます。
渉外登記にあたって、法務局に書類を提出する場合は、申請書にコピーを添付し、原本還付を希望する旨を明記すれば、原本が返却されます。しかし、法務局において不動産取引の登記に関する手続きで提出した署名(サイン)証明書は、原本還付ができません。これは、不動産登記規則の第55条第1項但し書きにより定められています。したがって、不動産取引の登記においては原本還付を受けることができない点に注意が必要です。
一方で、金融機関など他の機関に提出する場合も、事前に原本還付の可否を確認し、可能であれば返却をお願いすることが望ましいです。ただし、一部の金融機関では原本還付ができないという回答があるため、事前に確認しておくことが重要です。
3-3.適切なサポートを受ける
渉外登記の手続きは複雑であり、適切なサポートが必要です。不動産取引、相続手続きに慣れている司法書士や弁護士に相談し、手続きを進めることが望ましいです。また、法令や制度が変更されることもあるため、最新の情報を確認し、適切な手続きができるように注意しておくことも重要です。
3-4.関連する連絡先や窓口を把握する
渉外登記の手続き中にトラブルが発生した場合、迅速に対応できるよう、関連する連絡先や窓口を把握しておくことが役立ちます。例えば、法務局や在外公館の連絡先を事前に調べておくと、手続きの途中で問題が生じた際にすぐに連絡が取れるため、スムーズに対応が可能です。
3-5.文書の翻訳や認証に注意する
渉外登記では、外国語で作成された書類の翻訳が必要となることがあります。翻訳は正確であることが求められるため、信頼性の高い翻訳者や翻訳会社に依頼することも検討すべきです。また、外国の公証人や在外公館による認証が必要な場合もありますので、手続きに関する知識や経験が豊富な専門家に相談し、適切な対応ができるように心掛けましょう。
3-6.期限やスケジュールを把握しておく
渉外登記の手続きは、多くの書類や手続きが関わるため、期限やスケジュールを把握しておくことが重要です。期限を逃すと手続きが遅れたり、罰則が科せられたりすることがありますので、十分に注意して進めましょう。また、手続きの進捗状況を確認することで、次に行うべき手続きや準備するべき書類が明確になり、円滑に進めることができます。
4.渉外登記と相続税・贈与税
渉外登記においては、相続税や贈与税との関係も重要なポイントです。特に、外国人が日本国内の不動産を相続や贈与で受ける際には、税制上の注意点がいくつか存在します。
4-1.渉外登記と相続税
外国人が日本の不動産を相続する場合、相続税が課税されます。日本国内にある財産については、被相続人が日本人、外国人いずれも相続が発生した場合には日本の相続税が課税されるのです。このような状況下では、遺産の価値に応じた相続税が発生するため、適切な申告と納税が求められます。
国際相続においては、被相続人が所有していた財産への課税対象として、日本国内の不動産や預貯金などの財産に加えて、「国外の財産」も課税対象の財産に含めるのか?というポイントがあります。
判断するポイントは、「被相続人及び相続人両方の居住地」です。被相続人又は相続人のどちらか一方が相続時に日本国内に居住していた場合(一定の短期滞在外国人は除く)には、国内財産及び国外財産に対して相続税が課税されます。
日本に居住していない外国籍の(日本国籍を有していない)相続人は、被相続人が相続開始時10年以内において日本国内に居住していれば国内財産及び国外財産に対して相続税が課税されますが、被相続人の住所が日本国内に10年以内に住所がなければ国内財産に対してのみ課税されます。
このように、相続税について国外財産が課税対象に含まれるかどうかは、被相続人と相続人の国籍や居住地域、居住年数などが関係します。
4-2.渉外登記と贈与税
贈与税に関しても、外国人が日本国内の不動産を贈与される場合には、注意が必要です。贈与の際には、贈与税が課税となります。この場合も、相続税と同様に贈与を受ける外国人が日本に居住しているか、贈与者が日本国籍を持っている場合など、日本の贈与税法の適用範囲内に入るケースが該当します。つまり、贈与者が外国に10年超在住しており、かつ、受贈者も外国に10年超在住もしくは外国国籍であれば、国内財産のみが贈与税課税対象となり海外財産は含みません。
節税対策としては、相続や贈与のタイミングを適切にコントロールすることが重要です。例えば、相続税の基礎控除額を考慮したうえで、遺産の価値を調整することが有効です。また、贈与税については、一定額以下の贈与は非課税となるため、非課税枠を活用することが考えられます。
渉外登記における税制上の注意点を把握し、適切な申告や納税を行うことで、外国人も円滑に日本国内の不動産取引や相続手続きを進めることができます。税法の専門家に相談することも、税務上の問題を避けるための重要なステップです。
5.渉外登記をサポートする弁護士・税理士・司法書士などの役割と選び方
渉外登記を円滑に進めるためには、専門家のサポートが不可欠です。司法書士、弁護士、税理士などの専門家が担当する業務と、それぞれの専門家が持つ特徴・対応範囲を知っておく必要があります。
5-1.司法書士
司法書士は、渉外登記のメインプレーヤーです。渉外登記手続や遺産分割協議書の作成など、法律に関する書類作成を行う専門家です。渉外登記においては、登記手続きや遺産分割協議書の作成を担当し、円滑な手続きをサポートします。司法書士には、登記手続きに関する知識が求められるため、渉外登記の経験が豊富な司法書士を選ぶことが重要です。
5-2.弁護士
弁護士は、法律全般に関するアドバイスを提供する専門家です。渉外登記においては、相続や贈与の法的手続きや、国際法に関する問題などを担当することが一般的です。弁護士には、多岐にわたる法律知識が求められるため、相続や贈与に関する専門知識を持つ弁護士を選ぶことが重要です。
5-3.税理士
税理士は、税務に関する専門家であり、相続税や贈与税の計算や申告、節税対策などを行います。渉外登記においては、国際税務に関する知識を持つ税理士が適切なアドバイスを提供できます。税理士には、国内外の税制や税法に関する深い知識が求められるため、国際相続や国際贈与に詳しい税理士を選ぶことが重要です。
渉外登記のサポートを受ける際は、司法書士、弁護士、税理士などの専門家と連携し、適切な手続きやアドバイスを得ることが重要です。専門家選びにおいては、その専門家の渉外登記関係の実績、経験、費用などを考慮しながら、自身のニーズや状況に適した専門家を見つけましょう。適切な専門家のサポートを受けることで、渉外登記の手続きをスムーズに進めることができるでしょう。
6.まとめ
本記事では、渉外登記の手続きを中心に解説しました。
内容をまとめると、以下のとおりです。
✓ 渉外登記は、日本国内での外国人による不動産取引や相続に関する登記手続きを指す
✓ 渉外登記において必要書類は多岐にわたるが各書類の有効期限や原本が還付できるかの確認が必要。不動産登記規則に基づき、不動産取引の登記において提出した署名証明書は原本還付できない ✓ 国際相続や国際贈与の際は、税制上の注意点や節税対策を理解することが重要。被相続人と相続人の国籍や居住地域、居住年数によって、国内財産のほか国外財産も含まれるのかどうか取り扱いが異なる ✓ 渉外登記手続きを円滑に進めるためには、弁護士、税理士、司法書士などの専門家のサポートが不可欠。専門家選びの際には、知識・経験、費用などを考慮して選ぶ |
渉外登記は、外国籍の当事者が関わる不動産取引や相続手続きの中でも特に複雑な手続きです。
そのため、適切な知識を持ち、適切な対応ができる専門家のサポートを受けることが求められます。
今回の記事で紹介したポイントや注意点を理解し、専門家の力を借りながら、円滑な渉外登記手続きを進めましょう。これにより、外国籍の当事者が関与する不動産取引や相続手続きも円滑に進めることができます。
この記事の監修
司法書士・行政書士事務所リーガルエステート 代表司法書士
斎藤 竜(さいとうりょう)
相談実績5000件超、実務経験10年以上の経験を持つ司法書士。
海外にまつわる相続やビジネスに関する法律、契約書作成、コンプライアンスに関するアドバイスなど、幅広い分野に対応。近年は、当事者の一部が海外に居住するケースなど国際相続の相談が多く、精力的に取り組んでいる。