相続対策として有効な提案が”生前贈与”です。
2023年税制改正大綱により、相続人に対する生前贈与の相続税対象期間が3年から7年へと延長されました。
相続税対象期間の延長の他に、専門家として改正点の中で注目しておきたいのが相続時精算課税制度の基礎控除額(累計2,500万円)の枠とは別に、毎年課税価格から110万円を控除できるようになったという点です。
今回の記事のポイントは下記のとおりです。
- 相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に贈与する場合に累計2500万円まで贈与税が非課税となる制度
- 相続時清算課税制度を選択すると、相続時点の相続財産に加えて、相続時精算課税制度で贈与した財産は、贈与時点の評価額で全て相続財産に加算され、相続税が課税される
- 2024年(令和6年)1月1日以降は、相続時精算課税制度の基礎控除額(累計で2,500万円)とは別に、毎年課税価格から110万円を控除できる
- 2024(令和6)年1月1日以後に生ずる災害により被害を受けた場合には、災害による被害相当額を贈与時の価額から控除できる
- 改正後も相続時精算課税制度は相続時への税金の先送りであることには変わらないため、贈与時点で節税効果が得られる他の贈与特例の活用も含めて慎重に検討すべき
相続専門家が知っておきたい相続時精算課税制度の概要と改正内容について解説します。
目次
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上(※令和4年3月31日以前の贈与は20歳)の子や孫に贈与する場合に累計2500万円まで贈与税が非課税となる制度です。まとまった財産の生前贈与を検討する際に、活用できる制度です。
贈与者が亡くなり相続発生した際には、相続時点の相続財産に加えて、相続時精算課税制度を活用して贈与した財産は、全て相続財産に加算され、相続税が課税されます。
つまり、贈与時点では非課税となるものの、最終的には相続財産に加えられるため、直接の節税になるわけではなく、先に贈与は受けられるものの、税金の発生のタイミングを贈与時から相続時に先送りするための制度です。
適用対象者
相続時精算課税制度を活用するためには、贈与者、受贈者について下記の要件を満たす必要があります。
贈与者
贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母
受贈者
贈与を受けた年の1月1日において18歳以上(※令和4年3月31日以前の贈与は20歳)の者のうち、贈与者の直系卑属(子や孫など)である推定相続人または孫
適用対象財産
贈与財産の種類、金額、贈与回数に制限はありません。
そのため、1回の贈与だけで使える制度ではなく、数年にわたって数回活用することも、金銭、不動産、信託受益権など財産の種類にかかわらず活用できます。
相続時精算課税制度を活用した場合の税金の考え方
相続時精算課税制度の概要を抑えるためには、贈与税と相続税の2点を理解する必要があります。
贈与税
相続時精算課税制度には累計2500万円の非課税枠があります。
この累計非課税枠2500万円までは、何回、どの種類の財産を贈与しても贈与税は非課税です。この累計2500万円を超過した場合には、贈与税が一律で20%課税されます。
贈与税の計算式
(贈与財産の価額-特別控除額(累計2500万円)×20%
相続時精算課税制度を利用すると、少額贈与でも贈与のたびに確定申告する必要があります。また、一度相続時精算課税制度を選択すると、110万円の非課税枠を活用した暦年贈与制度には戻せなくなります。この点については、後述する2023年税制改正大綱によると改正される予定です。
相続税
相続時点の相続財産に加えて、相続時精算課税制度の贈与対象財産を加算したものが相続税対象財産となります。
相続税対象財産から算出された相続税から既に納付済みの相続時精算課税制度の贈与税(2500万円超過部分の20%)が差し引かれ、最終的な相続税が確定します。計算の結果、相続税よりも相続時精算課税制度の贈与税を多く支払っていた場合には、超過部分につき相続税申告により還付を受けられます。
なお、相続時精算課税制度の対象財産の評価は相続時点ではなく「贈与時点」となり、贈与であることから小規模宅地等の特例が使えない点には注意が必要です。
相続税対象財産
相続時点の相続財産(※相続時の価額)+相続時精算課税制度の贈与対象財産(※贈与時の価額)
相続税
相続税-相続時精算課税制度の贈与税
このように、贈与額が2500万円以下に収まった場合でも、2500万円超過して贈与税20%を支払ったとしても、最終的な相続時点で計算するということになります。
相続時精算課税制度の特徴
相続時精算課税制度の特徴をまとめると下記の通りです。
・財産の所有権を相続時ではなく生前に移転できる
・税金の発生は相続時に先送りできる
・贈与税ではなく相続税で処理できる
相続時精算課税制度の活用事例
相続時精算課税制度の税金の発生は先送りにし、相続時ではなく贈与時に先に財産をもらえるという特徴から、下記のようなケースで活用されています。
・住宅資金や事業用資金などまとまった財産を贈与する
・賃料収入が見込まれる収益不動産の建物部分について相続時精算課税精度を活用して贈与するたなど、将来発生する家賃を親から子に移す
・値上がりが予想される財産を贈与する(※将来、相続財産に加算される価額は相続時点ではなく「贈与時点」となるため)
相続時精算課税制度の評価方法などから、値下がりが予想される財産や小規模宅地等の特例を活用したい財産については、相続時精算課税制度は活用しないほうがよいといった判断していく必要があります。
2024年以降の相続時精算課税制度を活用した贈与の改正点
2023年の税制改正大綱により、相続時精算課税制度について以下2点の改正がされる予定です。
・相続時精算課税制度の基礎控除額(累計で2,500万円)とは別に、毎年課税価格から110万円を控除できる
・災害など一定の被害を受けた場合には、贈与時の価額から当該災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除できる
以下、上記について解説します。
相続時精算課税制度でも110万円の暦年贈与が可能になる
相続時精算課税制度では相続開始の何年前に贈与したかにかかわらず、全額が相続税の課税対象財産として持ち戻しの対象となってきました。しかし、全て2500万の累計枠で処理するため110万円の毎年の非課税枠が使えないこと、少額贈与でも確定申告が必要なことから、使い勝手が悪くあまり利用されてきませんでした。
この点が改正され、相続時精算課税制度を選択した場合でも、暦年贈与課税と同じく110万円の基礎控除を活用できるようになります。また、年間110万円までの贈与であれば、確定申告も不要となります。改正後は相続時精算課税制度の活用に加えて、暦年贈与も並行活用できることになるため、まとまった贈与を検討する際に選択肢の一つとして活用が見込まれます。
改正時期
2024(令和6)年1月1日以後の生前贈与が対象となります。
災害による被害相当額を贈与時の価額から控除できる
相続時精算課税制度を選択した場合には、「贈与時点」と「相続時点」の財産評価額が異なる場合でも「贈与時点」の価額で相続財産に持ち戻し計算されます。そのため、贈与された土地、建物が、その後の災害によって被害を受けた場合でも、その被害に伴う評価減は一切考慮されませんでした。
この点が改正され、相続時精算課税制度を選択した場合において、贈与された土地、建物が災害によって一定の被害を受けた場合には、贈与時点の価額から、災害によって被害を受けた部分に相当する額を控除できるようになります。
改正時期
2024(令和6)年1月1日以後に生ずる災害により被害を受ける場合に適用がされます。以前の災害は対象になりません。
相続時精算課税制度を利用すべきか、提案時に検討が必要
相続時精算課税制度の改正により、相続時精算課税制度を選択した方が節税に繋がる人が増える見込みです。特に、まとまった財産の先に子供に移したいという場合では活用が見込めます。
しかし、その反面、基礎控除額以外の部分については、改正前と同様に相続時への税金の先送りにすぎません。税金の先送りをせず、贈与時で大きな節税効果が得られるという点では住宅取得資金贈与や教育・結婚子育て資金贈与など他の大型贈与のほうがメリットがあります。
他の贈与特例で活用できない、財産について相続時精算課税制度を選択するといった選択など活用方法を検討していく必要があります。
まとめ
- 相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子や孫に贈与する場合に累計2500万円まで贈与税が非課税となる制度
- 相続時清算課税制度を選択すると、相続時点の相続財産に加えて、相続時精算課税制度で贈与した財産は、贈与時点の評価額で全て相続財産に加算され、相続税が課税される
- 2024年(令和6年)1月1日以降は、相続時精算課税制度の基礎控除額(累計で2,500万円)とは別に、毎年課税価格から110万円を控除できる
- 2024(令和6)年1月1日以後に生ずる災害により被害を受けた場合には、災害による被害相当額を贈与時の価額から控除できる
- 改正後も相続時精算課税制度は相続時への税金の先送りであることには変わらないため、贈与時点で節税効果が得られる他の贈与特例の活用も含めて慎重に検討すべき
2023年税制改正大綱により相続税法上の生前贈与持ち戻し期間が3年から7年へと延長、相続時精算課税制度の制度見直しがされます。これに伴い、生前対策提案の考え方を見直していく必要があります。
生前贈与を実行できれば、次世代に資産を今のうちから移動できるため、節税効果のほ、あその後の財産管理対策が被羽陽となるメリットがあります。顧客にとって、どのような制度を利用すべきか、改正点を考慮の上、提案できるようにしていきましょう。
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