受託者を帰属権利者とした場合の登記は移転登記?変更登記?

家族信託・民事信託が普及し、信託を組成した後、数年後に受益者が亡くなり信託が終了するといったケースが増えてきていると思います。

信託財産に自宅やアパートなど不動産が含まれている場合には、信託契約で定めた帰属権利者に信託不動産を帰属させる名義変更登記手続きが必要です。その中でも、登記手続きの取り扱いが明確となっていないのが、”受託者個人”を帰属権利者と定めた場合の登記手続きです。法務局によっても異なる取り扱いがされています。

今回の記事のポイントは下記の通りです。

  • 信託終了事由発生後、清算受託者は清算後に信託契約で定めた帰属権利者に信託財産を引き渡す
  • 信託終了後に信託財産に不動産がある場合には、帰属権利者に対して信託不動産の名義変更登記手続きをする
  • 信託不動産を受託者個人に名義変更する際には、①原則通り、所有権移転及び信託抹消登記する方法と②受託者の固有財産となった旨の変更及び信託抹消登記する方法がある
  • 移転登記では受託者個人が登記権利者兼登記義務者となるが、変更登記では登記権利者受託者個人、登記義務者が受益者の相続人又は登記権利者兼義務者が受託者個人と法務局によって対応が異なっている

受託者個人を帰属権利者と定めた場合の登記手続きの考え方を解説します。

信託終了後に行う清算手続きとは?

家族信託の終了事由が発生した場合には、信託が終了した時以後の受託者(清算受託者)は、信託財産に属する債権の回収や債務の支払いをします。これらの手続きを経たうえで、帰属権利者等に対して残余財産を引き渡すことになります(信託法177条)。
信託法上、残余財産は下記の順序で帰属します(信託法182条)。

第1順位 信託行為において指定された者(帰属権利者・残余財産受益者)
第2順位 上記定めがない場合は、委託者又はその相続人その他の一般承継人
第3順位 上記により定まらないときは、清算受託者

帰属権利者等の定めがなければ相続人、清算受託者に信託財産は帰属されますが、帰属権利者を定めている信託契約がほとんどのため、実務上は帰属権利者に信託財産を引き渡すことになります。

帰属権利者と残余財産受益者の違いとは

帰属権利者は、信託契約において残余財産の帰属すべき者として指定された者をいいます。これに対して、残余財産受益者とは、信託契約において残余財産の給付を内容とする受益債権にかかる受益者として定められた者をいいます(信託法第182条)。

(残余財産の帰属)
第百八十二条 残余財産は、次に掲げる者に帰属する。
一 信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(次項において「残余財産受益者」という。)となるべき者として指定された者
二 信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下この節において「帰属権利者」という。)となるべき者として指定された者

帰属権利者も残余財産受益者も、信託終了後に残余財産の帰属を受ける、給付を受ける、つまり受け取ると地位にあるとは同じです。ただし、違う点が1点あります。

残余財産受益者は、信託契約の効力がスタートしてから言葉の通り受益者の立場も有するのに対して、帰属権利者は信託契約終了前までは受益者としての何らの地位も有しません。帰属権利者は信託が終了し、清算手続きになって初めて受益者としてみなされ権利行使ができます(信託法第183条6項)。

(帰属権利者)
第百八十三条
6 帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす。

帰属権利者と残余財産受益者のどちらを採用すべきか?

残余財産受益者は信託の終了前から受益者としての権利行使ができるため、信託契約の変更や終了など信託に対して権利行使ができます。それに対して、帰属権利者は信託契約期間中は権利行使ができません。実務上、委託者と受益者が同一人である自益信託の形を採用していることが大多数を占めます。信託期間中から、財産を託した委託者兼受益者以外の、残余財産を受ける第三者が信託に介入するのは好ましくない場合には帰属権利者、関与させるべき場合には残余財産受益者として選択してください。

私の事務所では、遺言の活用と同じく、信託を託した当事者以外の第三者が介入すべきではないという判断から”帰属権利者”を採用しています。

信託終了後、信託不動産について所有権移転及び信託抹消登記が必要

信託の終了事由が発生した場合に、信託財産の中に不動産があるときは、清算手続きの終了後、信託契約の定めに従い、信託不動産を帰属権利者に所有権として引き渡すことになります。そのため、不動産については、受託者から帰属権利者等への名義変更登記手続き、すなわち、所有権移転登記及び信託抹消登記を同時に申請する必要があります(不登法第104条①)。

信託の抹消登記は受託者が単独で申請できますが(不登法第104条2項)、所有権移転登記は残余財産帰属権利者等が登記権利者、受託者が登記義務者として共同申請します(不登法第60条)。

例えば、「受益者父の死亡」を終了事由、帰属権利者を母と定めたケースでは、母を登記権利者、父を登記義務者とする共同申請で帰属権利者を母とする所有権移転登記手続きをします。上記の図のケースでいうと信託登記は受託者である長男が信託登記を抹消し、これらの所有権移転登記と信託抹消登記は同時に申請します。

受託者個人を帰属権利者と定めた場合の登記手続きが明確となっていない

信託終了時に信託不動産について受託者個人を帰属権利者として定めた内容となっている場合には、信託財産に属する不動産が受託個人の固有財産に帰属することになります。
この場合の登記手続きについて法務局において、2つの取り扱いがされています。

①所有権移転及び信託抹消登記
②受託者の固有財産となった旨の変更及び信託抹消登記

どちらの登記手続きで行うべきか、2022年3月現在、法務省の通達等で取扱いが明確化されておらず法務局ごとに運用が異なり、見解も分かれている状況です。

所有権移転及び信託抹消登記

所有権移転及び信託抹消登記においては、登記簿上の所有者は受託者であることから、登記権利者兼義務者として実質受託者が単独申請で登記手続きができます。

受託者長男を帰属権利者として定めた場合の登記の申請も通常通り、下記の内容で手続きができます。

【登記の目的】所有権移転及び信託登記抹消
【原因】所有権移転 令和4年3月1日信託財産引継
    信託登記抹消 信託財産引継
【権利者】長男
【義務者】 (信託登記抹消申請人)長男

登録免許税も委託者の相続人に移転させるなど要件を満たせば、軽減措置が適用できるため1000分の4です。軽減措置の適用がない場合には1000分の20となります。登録免許税の軽減措置の適用の考え方については、下記の記事で詳しく解説しています。

一代限りの信託終了時の登録免許税軽減措置適用のポイントとは!?

受託者の固有財産となった旨の変更及び信託抹消登記

登記簿上の所有者が受託者であり登記簿上の所有者に変更(移転)がないため、所有権移転登記ではなく、権利の変更登記(受託者の固有財産となった旨の登記)をするという見解です。

この登記手続きでは、権利の変更登記を申請することになり、信託の登記の抹消と同時に申請する必要があります(不登法第104条①)。権利の変更登記は、受託者が登記権利者兼義務者となるのでなく、受託者が登記権利者、受益者が登記義務者となって共同申請するという特例が設けられています。そのため、受託者個人に帰属させる変更登記を申請する際、受益者が死亡しているため、誰が登記義務者となるのかという部分が問題となります。

登記の申請書は下記の通りとなります。

【登記の目的】受託者の固有財産となった旨の登記及び信託登記抹消
【原因】変更の登記令和2年8月1月信託財産引継
    信託登記抹消 信託財産引継
【権利者】長男
【義務者】受益者(?)
      (信託登記抹消申請人)長男

登録免許税は実質的に所有権の移転の登記であることから1000分の20となり、委託者の相続人に移転させるなど軽減措置の要件を満たせば1000分の4となります。また、登記申請においては、登記義務者である受益者については登記識別情報の提供を要しないとされています(不登法104条2項)。

受託者の固有財産となった旨の登記では誰が登記義務者となるか?

過去、とある法務局では受益者の相続人全員が登記義務者となるため、受益者の法定相続人全員を登記義務者とする登記するように指摘を受けたこともあります。相続後の資産承継対策として信託しているにもかかわらず登記義務者として相続人全員の印鑑証明書が必要となると法定相続人全員の協力を得なければいけなくなるため、資産承継対策として意味をなさないことになりかねません。

法務局から指摘を受けた際の信託契約においては受益者代理人を定めていたことから、受益者代理人を登記義務者、帰属権利者である受託者を登記権利者として登記手続きをすることを法務局側に提案し、法務局の了解も得られ登記は受理されましたが、変更登記となった場合の登記義務者の取り扱いは注意が必要です。

信託法第183条6項において、「帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす。」とあることから帰属権利者を受益者(兼受託者)と解釈し、変更登記を受託者個人が登記権利者兼登記義務者として実質単独申請できるとも考えられます。

いずれにしても、受託者個人を帰属権利者として場合の登記手続きについて明確な先例、通達がないため実際に登記申請を行う際には法務局ごとに取り扱いが異なるという点は留意しておく必要があります。

受託者個人が帰属権利者となるスキームでは、信託終了時を見据えたスキーム設計が必要

受託者の固有財産となった旨の登記は、信託法改正以前においては、受託者が信託債務などの履行に迫られ、適当な買い主がいない場合にやむを得ず受託者が適正価格で裁判所の許可を得て買い受ける場合を想定した、いわゆる「委付」を原因とする登記手続きです。信託法改正後は、信託財産を受託者が買い受けるなど利益相反行為にあたるものとして禁止されています。ただし、許容条項がある、受益者の承認を得たときなど、受益者の利益が害されるおそれがない場合に該当するときは例外的に認められています。

このような改正の経緯に鑑みると、受託者の固有財産となった旨の登記は、信託期間中に受託者が受託者の立場で利益相反行為に該当する場合に用いる手続きであり、だからこそ受益者が登記義務者になることについては理解ができます。ですが、受益者死亡による信託終了後の帰属権利者としての立場で信託不動産を取得する手続きでは受益者の存在がないため、変更登記ではなく、移転登記で行うべきというのが個人的な考えです(もし、この信託終了時の手続きで法務局の事例など情報お持ちの方は是非、個人的にご連絡いただけるとありがたいです)。

いずれにしても2021年8月時点では、受託者が信託終了に帰属権利者とするスキームにおいては、最終的な信託不動産を帰属させる際の処理の方法が確定していません。

まとめ

  • 信託終了事由発生後、清算受託者は清算後に信託契約で定めた帰属権利者に信託財産を引き渡す
  • 信託終了後に信託財産に不動産がある場合には、帰属権利者に対して信託不動産の名義変更登記手続きをする
  • 信託不動産を受託者個人に名義変更する際には、①原則通り、所有権移転及び信託抹消登記する方法と②受託者の固有財産となった旨の変更及び信託抹消登記する方法がある
  • 移転登記では受託者個人が登記権利者兼登記義務者となるが、変更登記では登記権利者受託者個人、登記義務者が受益者の相続人又は登記権利者兼義務者が受託者個人と法務局によって対応が異なっている

家族信託・民事信託はどうしても設計時点に意識がいきがちですが、終了時の出口戦略を考えながら設計していく必要があります。また、法務、税務など多岐にわたる注意点があるため、法務、税務の専門家と連携しながら組成していく必要があります。

信託契約締結後に、受益者の判断能力がなかったり、当事者が死亡した場合には、将来問題が発生した際に信託契約を見直すといったことができません。将来の問題点を見据えながら設計をしていくようにしていってくださいね。

家族信託契約書を作成する際にどのように設計・起案していますか?

家族信託というのは、士業・専門家にとって遺言や成年後見では対応できなかった範囲をカバーできる「一手法」です。自由度が高い分、お客様のニーズにあわせた対策を設計できます。しかし、一方で、オーダーメイドの契約書というのは経験も必要。そして、制度の歴史も浅く十分な判例もない状況も重なって、なかなかハードルが高く感じる方もいらっしゃるでしょう。

特に、家族信託契約書作成になると士業・専門家の技術が問われます。
もし、間違った信託契約書を作成してしまうと、本来支払う必要がない税金が課税されてしまう、金銭を管理する信託口口座が開設できない、一つの条項がないだけで不動産の売却処分等ができないといったリスクが発生してしまいます。
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