創業オーナーの事業承継対策|種類株式と家族信託の使い方とは!?

関係性構築

今回の記事では、会社の事業承継における生前対策や家族信託についての活用事例について紹介します。得られた自社株式評価後の結果を元に、どのように提案を進めていくべきかをお伝えします。この記事を読むことで、どのようにコンサル業務を進めていくべきか考え方がわかるはずです。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 提案をすすめていくにあたって、今回の相談内容、問題は何か、その目的は、という軸は外さず、方向性を決めて、選択肢を絞っていくことがポイント
  • 株価評価が低い場合には、生前贈与または有償譲渡を検討する
  • 先代の経営権を確保する場合には、家族信託、種類株式を検討
  • 黄金株発行後、その後処理を考えておく

それでは、どうぞ(^^)/

複数の選択肢から提案を絞っていく

まず、最初におこなうべきことは、自社株式の評価と相続税診断ということは既にお伝えした通りです自社株式の評価方法については、以前の記事に詳しく解説していますので、確認してみてください。

事業承継対策を取り組むにあたって知っておきたい自社株評価のポイントとは?

おさらいも兼ねて、事例を改めて紹介します。

長男である社長からの相談です。
売上、経常利益の推移など会社の業績が良く、10年前から融資を受け新工場建設するなど事業を積極的に社長中心で進めています家族関係は、創業者である父(会長)の他、妻と専務姉(長女)がいます。
現在、会社の株は父が75%、母が25%所有しております。その他、父には、アパート、駐車場、本社の敷地、別荘、借地など不動産を複数所有している状況です。会社経営については、長男に任されています。
事業承継対策についてこれまで取り組んできませんでしたが、今後のことをそろそろ検討したいとのことで、今回、相談を受けました。

税理士に依頼して、自社株評価を確認したところ、業績は好調であるものの過去に積極的に投資した工場用地などの相続税評価が低く、株価評価は0円ということ、相続税も、株価評価が高くない状況から、手元の金融資産で賄えるため、納税資金の調達を検討する必要がないことわかりました。

まず、全体像を確認する、そして、診断の上方向性を決めて、更にその先の選択肢を検討していくということです。

どうしても、顧客相談においては、お客様はネットで情報を多数収集できるので、〇〇だったら、●●ならば、というように選択肢が多数に分岐して、無数に追い続けることになります。当然、お客様の話は聞く必要があり、ヒアリングすることでコミュニケーション、そこから信用を得ることができるので行うべき活動なのですが、専門家の立場としては、方向性を決めて、それぞれの選択肢のメリット・デメリットを考えて絞っていくことが大切です。

そもそも、今回の相談内容、問題は何か、その目的は、という軸は外さず対応していくことが肝要です。

株価評価が高くないため、株価評価を下げる対策をする必要はなく、納税資金もあるため、今回は株価評価がない現段階で後継者に自社株式を承継させていく方法を検討すべきという方向性で進めていくという方向性が見えました。

そして、まず自社株式の承継を絞り、現時点で承継するという方向性がみえたので、次にどのように承継させていくのかという選択肢を検討です。

今回、まず相談者に確認すべき材料として下記3つをお客様に意向を確認します。

① 自社株式の(財産権)の後継者長男への承継方法は?
② 父以外の母の株式についても名義を整理し、集約するか?
③ 父の経営権を残すのか?

この考え方によって、生前対策の手法が変わってくるからです。

現在、会社の業績はよいことから、今後、資産が増え株価評価も上がる可能性もあります。
そこで、まとめて母が所有する自社株式も含めて対策をとるべきとの私の判断の元、父及び母の自社株式を現時点で承継させることでここから先の提案をまとめていくことにしました。

株価評価が低い場合における自社株式の承継方法とは!?


自社株式を承継させる方法として下記3つが想定されます。

生前贈与

父母から後継者に生前贈与を子行う。

メリット
株価評価が0円のため、贈与税をかけず後継者に承継させることができる。

デメリット
経営権が完全に後継者に移ってしまう。
特別受益・遺留分(贈与時点ではなく相続時評価になり将来株価が上昇する可能性が高い)の問題がクリアできない。

有償譲渡(親族間売買)

1株1円の有償譲渡(売買)を行う。

メリット
株価評価が0円のため、資金調達コストをかけずに後継者に承継させることができる。
特別受益・遺留分の問題もクリアできる。

デメリット
経営権が完全に後継者に移ってしまう
株価評価がある場合には、購入資金の購入資金の調達と税務コストがかかる。

家族信託(自己信託)

委託者後継者、受託者父、受益者後継者の家族信託(自己信託)を行う。

メリット
父が受託者となるため、受託者として経営に携わることができる。

デメリット
受託者父の自己信託となってしまうので、父の認知症リスクがあり、信託終了のタイミングを見計らう必要がある。
他益信託の仕組みであり、みなし贈与、対価の支払いなどの設定が必要。

選択肢の検討

今回の相談相談事例では、自己信託(他益信託)の場合は、認知症リスクを回避することができないこと、設計の仕組みが複雑になること顧客が将来実際に導入したスキームを運用するのに、シンプルな方式をとったほうが良いと考え、今回の選択肢からは敢えて外しました。そして、相談者家族との間で現時点での資産承継をすすめること、将来の遺留分リスクをなくすために、1円での有償譲渡(親族間売買)を行うことがきまりました。

家族信託と種類株式(黄金株)の使い方

次に有償譲渡(親族間売買)とともに父の経営権を残すことも決まり、父の経営権を残す方法を決めていきます。
事前のヒアリング父が創業した会社に思い入れがあり、関わっていきたいという意向を感じていたので、提案書の中にあらかじめ経営権を残す方法を先に検討しておきました。

その方法は下記の2つです。

家族信託

有償譲渡(親族間売買)した自社株式を信託財産とし、委託者後継者、受託者法人、受益者後継者の家族信託を行う。

メリット
受託者用に一般社団法人(父のほか、家族を役員)を設立することにより、法人として自社株式を管理することができる。
指図権を父に設定することで、父の意向に従った議決権行使を行うことができ、最終的には、法人のみで意思決定を行う経営権移行型の信託を行うことができる。

デメリット
受託者法人設立コストがかかる。
※受託者を父とする信託も検討できますが、認知症対策にはなりません。

種類株式(黄金株式)を設定

後継者に生前贈与する際に父の手元に1株のみを残し、その株式黄金株式(拒否権条項)を設定する。

メリット
役員変更、定款変更、組織再編など重要決議につき父の関与を残すことができる。

デメリット
黄金株式の設定後の処理(相続、父の認知症リスクなど)をどうするか検討が必要。
登記簿、定款に種類株式の内容が公示される(取引先も登記簿を通して種類株式が発行されていることがわかる)。

家族信託、種類株式発行、いずれの方法も父の関与を残すことができます。
違いは受託者として管理するか、種類株式の黄金株として管理するかです。家族信託の場合は、普通株式のまま受託者が株主として管理するのに対して、種類株式の場合は父が種類株主として管理する(種類株式の後処理は検討必要)ことになります。
今回は、法人設立では、管理コストがかかるため、父個人が株主として関与できる種類株式を進めていくことになりました。

黄金株設定後の後処理をどうするか?

種類株式発行が決まると、次に考えなければならないのは、父の認知症対策及び相続後の種類株式の後処理対策です。何もしないでいると、良かれと思って発行した黄金株が残ってしまい、発行したことにより、黄金株の議決権行使ができなくなってしまうという問題が発生してしまいます。

種類株式条項として、拒否権条項(黄金株)に加えて、一定の事由が発生した場合に会社が買い取る条項(取得条項付種類株式)を設定を検討します(会社法2条19号、会社法107条、会社法108条)。

具体的には、下記のの取得事由発生で会社が純資産額の発行済株式総数で割った金額の1株相当額で会社が買い取る条項です。

・父の死亡
・父の役員退任
・株主である父の成年後見等の申し立て


この取得条項を加えることで、父の相続、判断能力喪失、経営を任せ退任する時には、会社、当該種類株式を買い取る、そして、買い取り後は当該株式を消却させることで種類株式(黄金株)は消滅し、残りの株式は普通株式のみとすることができます。

最終的に、相談者の要望を踏まえ、有償譲渡と種類株式の設定で自社株式対策を行うことに決定しました。

まとめ

  • 提案をすすめていくにあたって、今回の相談内容、問題は何か、その目的は、という軸は外さず、方向性を決めて、選択肢を絞っていくことがポイント
  • 株価評価が低い場合には、生前贈与または有償譲渡を検討する
  • 先代の経営権を確保する場合には、家族信託、種類株式を検討
  • 黄金株発行後、その後処理を考えておく

将来的に、ご家族がどのように事業を承継させたいのかという想いと自社株評価、そして相続税診断を経てスキームの立案に進めることが必要です。

自宅と金銭のみで、相続税も特にかからないといった家庭であれば成年後見制度の代用としての信託や資産承継としての遺言で対策はそれだけで済むかもしれません。でも、複数の不動産や自社株式を保有している場合には、顧客がどんな想いをもっており、無数の選択肢からどんな対策をとるべきか考えるという提案業務が発生します。

ヒアリングによって得た情報と顧客の要望を鑑み、選択肢を絞り込みと専門家としてのレコメンドを入れたうえで、最終的な対策を立案していくことが必要です。


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