事業承継対策を取り組むにあたって知っておきたい自社株評価のポイントとは?

生前対策や家族信託で士業や関連業種と提携していると、普段付き合いがない層からの相談を受けることもあり、場合によっては会社の事業承継の相談を受ける機会も出てきます。

不動産を中心としたスキームは多くの専門家も取り組み始めています。特に法務系の士業に多いのですが、事業承継となるとハードルを高く感じてしまう専門家が多くいらっしゃるかと思います。僕もそうでしたが、最初に何から手を付けていいかわからないという経験があります。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 事業承継対策においては、まず自社株評価と相続税試算から入る
  • 自社株評価にあたっては、決算書3期分・会社謄本・定款を預かり、専門の税理士と連携する
  • 非上場株式の評価方法には、純資産価額方式と類似業種比準価額方式があり、有利な評価方法を選択できる
  • まずは自社株評価により、事業承継対策の方向性を検討できる

これから会社の事業承継対策でどのように、家族信託や生前対策の提案をしていくかについて取り上げます。

事業承継対策の相談の初回で行うべきポイント

売上、経常利益の推移など会社の業績が良く、10年前から融資を受け新規事業を立ち上げるなど、事業を積極的に社長中心で進めています。家族関係は、創業者である父(会長)の他、妻と専務姉(長女)がいます。会社経営については、長男に任されています。

事業承継対策についてこれまで取り組んできませんでしたが、今後のことをそろそろ検討したいとのことで、今回、相談を受けました。皆さんだったら、まず何から進めますか?考えてみてください。

会社状況と創業者の個人資産の現状把握から着手する

このような相談があったときやるべきことは、会社の現状把握を確認することです。

・会社経営の方向性
・持ち株比率
・自社株評価と相続税の試算

将来的に、ご家族がどのように事業を承継させたいのかという想いと持ち株状況、自社株評価、そして相続税がわからないとスキームの立案に進められません。

会社経営者の場合、不動産オーナーと異なり、資産構成が不動産、金融資産、自社株など、多岐にわたることからどこから取り組むべきか、経験が少ないと、専門家としても困惑します。まずは、不動産オーナーと同じく、全体の方向性と財産評価するべきです。特に自社株と経営者が所有している個人資産の評価は重要ポイントです。

自社株の評価額次第で、株価評価減対策するのか、そして、生前贈与、事業承継税制を活用するかなど、選択肢が多岐にわたります。自社株の評価は、資産税に精通した税理士と連携して行えば、十分対応できます。

現状把握に必要な資料4点セット

まず、お客様に用意いただく資料として下記の資料です。

・決算書3期分
・会社謄本
・定款

上記3点があれば、ざっくりした会社状況を知るための会社の株主構成(決算書の別表3(1)同族会社の判定に関する明細書)、役員構成、株式内容のおおよそは把握できます。

決算書をよく読み込むと、会社保有不動産や法人保険の概要も把握できます。また、隠れた創業者個人の財産、つまり創業者個人からの借入金、未払い役員報酬(社長側から見ると“債権”)、社長個人への貸付金(創業者からみると“債務”)があるかなど把握できるのです。

1株あたりの評価については決算書の純資産額(総資産-負債)を発行済み株式数で割ることで、ざっくりとした評価額は把握できます。初回面談時に大まかな方向性の見当つけ、実際の自社株評価は税理士と連携するという次のステップにつなげていけるのです。

まずは、初回相談で決算書3期分、会社謄本、定款の3点を預かり、次回以降の自社株価評価と対策提案に進みます。

自社株の評価方法とは?

中小企業の株式は、非上場株式に該当します。
贈与税や相続税を算出するための非上場株式の原則的な評価方法としては、下記の3つがあります。

・類似業種比準方式
・純資産価額方式
・配当還元方式

その他にも、特例として配当還元方式という方法もありますが、会社の株式数が少ない少数株主の評価する場合に使う方法です。会社の支配権を有する同族株主等については、原則的評価方式により評価します。

詳細は税理士との連携が必要ですが、創業者の事業承継対策を考えていく際は、会社の支配権を有する同族株主に該当することがほとんどなので、法務系の専門家は類似業種比準方式と純資産価額方式の考え方をざっくりと知っておく必要があります。

類似業種比準方式とは

類似業種比準方式とは、上場株式の類似業種の株価、1株当たりの配当金額、年利益金額及び純資産価額(帳簿価額によって計算した金額)を基とし、会社の1株あたりの評価を計算する方法です。

簡単にいうと、創業者の会社と事業内容が類似している上場会社(例えば、運送業であれば運送業のヤマト運輸をイメージ)の株式の価額を参考にしつつ、他の要素「配当」、「利益」、「純資産」を考慮し、更に、創業者の会社の規模に応じた調整率(規模に応じて70~50%と変わります)を乗じて算出します。

計算式は下記のイメージです。

1株当たりの株価=事業内容が類似している上場会社の株価×配当、利益、純資産を考慮した割合×会社規模に応じた調整率

このように、評価する会社の資産状況(純資産)のみを基準として算出するわけではないため、のちほど解説する純資産価額方式とは計算方法がまるで異なるということを知っておいてください。

純資産価額方式とは

純資産価額方式とは、会社の資産及び負債を元に1株あたりの株価を計算する方法です。

決算書の中の貸借対照表にある資産と負債をそれぞれ相続税評価額、法人税法上の帳簿価額で計算し、1株あたりの純資産価額を計算します。会社財産を相続税評価していくイメージです。

純資産方式の場合だと、会社の所有財産と負債を基準に考えるため、業績が良く資産が多い会社だと株価評価は高くなりがちです。

類似業種比準方式と純資産価額方式のどちらを採用すべきか

類似業種批准方式では同業の上場会社の株価と比較するため会社が所有している資産はあまり影響しません。そのため、一般的には純資産価額方式の方が株価評価が高くなり、類似業種方式の方が株価評価が低くなる傾向にあります。

株価評価は納税者側で有利な方を選択できるので、株価評価にあたっては純資産価額方式と類似業種批准方式の両方計算する必要があるということを知っておいてください。

自社株評価ができると、他の財産を含めた創業者の全体的な資産構成がわかるようになります。

一度の相談ですべてを解決できない

継続

専門家の立場でいうと全ての資産や問題を一度で解決したいと考えがちですが、ここは一旦立ち止まる必要があります。創業オーナーが別途借地や別荘など、資産を売却するなど処分するのが難しい資産を所有していることもあります。

これらをまとめて解決しようとすると依頼者との面談において検討すべき課題が多岐にわたり、家族間の話し合いがまとまらなくなる可能性があります。

まずは、何から手を付けて解決していくのか、その順番は??など順序や手順を考えて進めていく必要があります。課題を細分化し、優先順位をつけていくことが大切です。今回の相談では事業承継の進め方について相談を受けたので、まずは、自社株から進めることにしました。

事業承継対策は自社株評価から対策を検討していく

依頼者の自社株を評価した結果、積極的に事業を拡大させてきたことから、売上高、経常利益とともに順調に推移しています。

類似業種比準価額方式では株価評価が高くなりました。しかしながら融資を受け新規事業を進めてきた結果、新規事業用の不動産取得しており資産評価額が相続税評価となりなるため、相続税評価価格に基づく純資産価額方式で計算すると、株価評価がゼロ円に近い状態となりました。そのため、自社株評価は純資産価額方式を採用し、株価評価がない今の時点で、自社株の生前贈与実行していくべきという方向性が見えてきたのです。

このように事業承継対策では、自社株の評価額をわからないと、生前贈与、信託、種類株式の設定など、その後どのような対策を講じるべきか立案ができないのです。まずは、自社株の評価する、そのために必要な情報を取り寄せることから始めていくということを知っておいてください。

まとめ

  • 事業承継対策においては、まず自社株評価と相続税試算から入る
  • 自社株評価にあたっては、決算書3期分・会社謄本・定款を預かり、専門の税理士と連携する
  • 非上場株式の評価方法には、純資産価額方式と類似業種比準価額方式があり、有利な評価方法を選択できる
  • まずは自社株評価により、事業承継対策の方向性を検討できる

自社株評価が高いか、それとも低いかによって生前対策・家族信託のスキームの進め方も大きく異なってきます。株価評価が高ければ株価評価を下げる対策を併せて検討していく必要があるからです。

そのあたりの見当をつけて、事業承継対策のスキーム設計を進めていくようにしていきましょう。

家族信託契約書を作成する際にどのように設計・起案していますか?

家族信託というのは、士業・専門家にとって遺言や成年後見では対応できなかった範囲をカバーできる「一手法」です。自由度が高い分、お客様のニーズにあわせた対策を設計できます。しかし、一方で、オーダーメイドの契約書というのは経験も必要。そして、制度の歴史も浅く十分な判例もない状況も重なって、なかなかハードルが高く感じる方もいらっしゃるでしょう。

特に、家族信託契約書作成になると士業・専門家の技術が問われます。
もし、間違った信託契約書を作成してしまうと、本来支払う必要がない税金が課税されてしまう、金銭を管理する信託口口座が開設できない、一つの条項がないだけで不動産の売却処分等ができないといったリスクが発生してしまいます。
ここができるのとできないのとでは、士業・専門家にとっては大きな差でもあります。
今回、家族信託組成数350件を超える信託サポート件数TOPクラスのリーガルエステートがその信託契約書の最新情報とともに、作成手法について解説します。

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  • 間違った信託契約書を作成した場合の3つのリスク
  • 無駄な税金を払わず、預金口座凍結を防ぐための家族信託契約スキームの徹底解説
  • 契約書で要注意!自益信託と他益信託。契約時に想定外の税金がかかることも!?
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  • 適切な資産承継を考えるためには出口戦略(終わり方)が重要

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