2026年3月、最高裁判所事務総局家庭局から「令和7年(2025年)1月~12月における全国の家庭裁判所の成年後見関係事件の概況」が公表されました。
2019年に最高裁が「後見人には身近な親族を選任することが望ましい」との考え方を示して以降、実際の運用現場で親族後見人がどれほど認められているのかは、我々実務家にとって常に気になるところです。お客様から「成年後見は家族がなれないと聞いたのですが…」と相談を受けた際、最新のデータに基づく正確なアドバイスができるかどうかで、専門家としての信頼度は大きく変わります。
さらに、2026年には成年後見制度の抜本的見直し(「補助」への一元化など)を盛り込んだ民法などの改正案が国会に提出され、制度そのものが転換期を迎えています。
今回の記事のポイントは下記のとおりです。
- 令和7年(2025年)の成年後見関係事件の申立件数は合計43,159件となり、対前年比で約3.2%の増加傾向が続いている。
- 申し立ての原因と動機は、依然として「認知症」 と「預貯金の解約」がトップ。
- 専門家の後見人等への就任割合は約83.6%と高いが、そもそも親族後見を希望するケースが全体の約19.7%(昨年約21.3%)と減少している。
- データから逆算すると、親族後見人の認容率は約89.3%。一定の条件を満たせば、高い割合で親族後見が認められている。
- 親族後見における後見監督人の選任率は約19.6%、成年後見制度支援信託等の利用率は約40.3%。残る約4割は親族の単独後見が認められている可能性がある。
- 【最新動向】2026年に改正案が国会へ提出。2028年施行見込みで「補助への一元化」や「終身制の廃止(有期型の導入)」など、より使いやすい制度への大改正が控えている。
本記事では、最新の統計データから現在の成年後見制度の運用状況と親族後見人の選任状況を読み解くとともに、国会に提出された改正案の概要にも触れ、今後の生前対策実務にどう活かすべきかを解説します。
目次
2019年3月18日付け最高裁の親族後見への方針変更の内容
司法書士や弁護士が成年後見人として多く就任している実情を見直すため、2019年に最高裁判所は以下の考えを明らかにしました。
【最高裁と専門職団体との間で共有した後見人等の選任の基本的な考え方】
◯ 本人の利益保護の観点からは、後見人となるにふさわしい親族等の身近な支援者がいる場合は、これらの身近な支援者を後見人に選任することが望ましい
◯ 中核機関による後見人支援機能が不十分な場合は、専門職後見監督人による親族等後見人の支援を検討
◯ 後見人選任後も、状況の変化に応じて柔軟に後見人の交代・追加選任等を行う
この見解が各家庭裁判所に通知されてから数年が経過し、現在の運用状況はどのように変化しているのでしょうか。
【令和7年1月~12月】家庭裁判所の成年後見制度運用状況
1.成年後見関係事件の申立件数の推移
成年後見制度の利用件数は増加傾向にあり、令和7年(2025年)では合計43,159件となっており、全体の申立件数は対前年比で約3.2%の増加となっています。
○ 後見開始の審判の申立件数は29,233件(前年は28,785件)
○ 保佐開始の審判の申立件数は9,743件(前年は9,156件)
○ 補助開始の審判の申立件数は3,302件(前年は3,026件)
○ 任意後見監督人選任の審判の申立件数は881件(前年は874件)

2.成年後見制度全体の利用者数
成年後見制度全体の利用者数はおよそ26万人に達し増加傾向にあるものの、推計される認知症高齢者の数に比べると、まだ利用が進んでいないのが現状です。

3.申し立ての原因と動機は認知症で預貯金の解約がトップ
成年後見申し立ての原因ときっかけは、認知症・金融機関での預貯金の解約がトップです。
全国銀行協会による「認知症に伴う預金引き出しの例外規定」の指針は出ているものの、原則は成年後見制度の利用であるため、今後も「口座凍結」が申立ての最大の動機になりそうです。


4. 専門職が成年後見人等になるケースは全体の約8割超を占める
親族以外の専門家等が成年後見人等に選任されたものは、全体の約83.6%を占めており、平成24年以降、専門職が親族を上回る状態が続いています。

5.市区町村長申し立てが前年より増加している
申立人の内訳を見ると、親族ではない「市区町村長申し立て」が10,139件(前年9,980件)にのぼり、全体の約23.7%を占めています。 財産管理を任せる親族がいない、あるいは申立てに協力する親族がいない「おひとりさま」等の利用が増えていることが読み取れます。専門職の就任割合が高いのは、親族後見が認められないからというより、そもそも親族が関与できないケースが増加している背景があります。

6.成年後見人等による不正案件の状況
成年後見制度がスタートした当初は、本人のことをよく理解している身近な親族が後見人になるケースが多くを占めていました。しかし、そこで問題となったのが「後見人(親族)による本人の財産の使い込み」です。
マスコミ報道では専門職の不祥事が取り上げられがちですが、統計上は親族後見による不正案件が依然として多くを占めています。この問題を解決するため、平成24年(2012年)から「後見制度支援信託」が開始され、専門職など第三者後見人の選任割合が親族を上回るようになりました。
第三者後見人の選任割合の増加や、後見制度支援信託・預貯金の活用といった不正防止に向けた裁判所の取り組みの結果、平成26年をピークに不正の件数・被害額は減少傾向にあります。我々専門家が後見人や後見監督人として関与することは、こうした親族による財産流用リスクを抑え、本人の財産を保全する上で非常に重要な役割を果たしていると言えます。

令和7年(2025年)の成年後見概況から推察する親族後見人の運用状況
では、実際に親族が後見人に立候補した場合、どの程度の確率で認められているのでしょうか。統計データから紐解いてみましょう。
1.親族後見希望者は、全体の約19.7%しかいない
令和7年の終局事件のうち、申立書に「親族が成年後見人等の候補者として記載されている事件」は、全体の約19.7%にとどまっています。そもそも親族が後見人を希望していないケースが圧倒的に多いのが現状です。

2.親族後見人候補者の認容率は約89.3%
次に、データから親族後見人の認容率を概算してみましょう。
【親族後見人認容率の計算式(令和7年概算)】
成年後見、補佐、補助の認容終局事件の総数(39,860件) × 親族候補者あり(約19.7%) = 親族候補者概算 約7,852件
実際の親族後見人選任数(約7,014件) ÷ 親族候補者概算(約7,852件) = 親族後見人認容率 約89.3%
親族間で対立がある、財産が多岐にわたるといった特別な事情がない限り、約9割近い高い確率で親族後見が認められている実情がわかります。我々専門家も「親族は後見人になれない」という古い認識を改め、お客様に正しい情報を提供する必要があります。
親族後見における後見監督人と後見制度支援信託の利用率
親族後見が認められる際、実務上、家庭裁判所ごとに運用は異なりますが、家庭裁判所が一般的に親族を後見人として選任するための条件として、下記のものがあります。
・本人の推定相続人から同意があること
・親族後見人候補者の年齢、居住環境、資産状況、経歴などに問題がないこと
・管理する財産が少ない
上記に該当しない場合や管理する財産が多い場合(目安:1000万円~)には、後見人等による横領防止のために後見監督人がつくか、後見制度支援信託・預貯金の利用が求められます。
例えば、認知症の父郎さん(預貯金3,000万円)の財産を長男一郎さんが親族後見人として管理する場合、手元に数百万円を残し、残りは信託銀行等に預ける「後見制度支援信託」を利用するケースが一般的です。
1.親族後見での監督人選任率は約19.6%
令和7年のデータによると、成年後見監督人等が選任されたものは「1,375件(前年1,321件)」でした。これを実際の親族後見の件数(約7,014件)で割ると、監督人選任率は約19.6%となります。
※内訳:弁護士726件、司法書士474件、社会福祉協議会121件など。
2.親族後見での成年後見制度支援信託等の利用率は約40.3%
年は異なりますが、令和6年の「後見制度支援信託等の利用状況等」のデータによると、新たに後見制度支援信託等を利用した件数は2,830件(信託792件+預貯金2,038件)でした。これを実際の親族後見の件数(約7,014件)から推計すると、利用率は約40.3%となります。
つまり、親族後見が選任されたケースのうち、約6割は「監督人」か「支援信託等」が利用されており、残りの約4割は(管理財産が少ない等の理由で)親族の単独後見が認められていると推察できます。
【最新動向】2026年国会に改正案提出!2028年に向けた「補助一元化」とは?
本記事で解説した現行制度の運用状況に加え、成年後見制度そのものが現在、大きな転換期を迎えています。
直近の最新情報として、2026年4月3日、政府は成年後見制度の抜本的な見直しを盛り込んだ民法などの改正案を閣議決定し、国会に提出しました。この改正案が成立すれば、2028年頃を目処に新制度がスタートする見込みです。主な改正のポイントは以下の通りです。
- 「補助」への一元化:現在の「後見・保佐・補助」の3類型が整理され、新しい「補助」カテゴリーに一本化されます。本人のニーズに合わせて支援の範囲を個別に柔軟に設定できるようになります。
- 「終身制」の廃止:一度利用すると原則として亡くなるまでやめられなかった現行制度が見直され、必要な期間だけ利用し、本人の能力回復等に合わせて利用を終了(オプトアウト)できるようになります。
- 後見人の交代が柔軟に:これまで横領などの不正がない限り難しかった後見人の交代が、より柔軟に行えるようになります。
こうした「補助への一元化」や「有期型への転換」により、成年後見制度はより利用者の実情に寄り添った使いやすい制度へと変わっていくことが期待されています。
この2028年スタート見込みの「成年後見制度の改正(補助一元化)」に関する詳細な概要や、今後の実務に与える影響については、下記の別記事にて詳しく解説しています。ぜひ併せてご確認ください。
▶詳細はこちら
まとめ
- 令和7年(2025年)の成年後見関係事件の申立件数は合計43,159件となり、対前年比で約3.2%の増加傾向が続いている。
- 申し立ての原因と動機は、依然として「認知症」 と「預貯金の解約」がトップ。
- 専門家の後見人等への就任割合は約83.6%と高いが、そもそも親族後見を希望するケースが全体の約19.7%(昨年約21.3%)と減少している。
- データから逆算すると、親族後見人の認容率は約89.3%。一定の条件を満たせば、高い割合で親族後見が認められている。
- 親族後見における後見監督人の選任率は約19.6%、成年後見制度支援信託等の利用率は約40.3%。残る約4割は親族の単独後見が認められている可能性がある。
- 【最新動向】2026年に改正案が国会へ提出。2028年施行見込みで「補助への一元化」や「終身制の廃止(有期型の導入)」など、より使いやすい制度への大改正が控えている。
今後、専門家は「親族は後見人になれない」と一律に説明するのではなく、「親族後見は認められやすいが、一定以上の財産があると支援信託の手続きや監督人報酬が発生し、柔軟な資産運用や相続税対策はできなくなる」と正しく伝えることが重要です。
さらに、2028年に見込まれる「補助一元化(有期型の導入等)」という大きな制度改正を控える今、生前対策の提案は新たな局面を迎えています。 制度がより柔軟になる一方で、お客様ごとの資産状況や意向、身体の状況に合わせた「家族信託」「任意後見」、そして「新しい補助制度(法定後見)」の使い分けが専門家に求められるようになります。将来の制度変化を見据え、現時点で取りうるベストな選択肢を比較提案することが、顧客の信頼獲得に直結していくでしょう。
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