【令和8年最新情報】成年後見が「補助」に一元化される?家族信託・任意後見実務への影響と士業のコンサル活用法を解説

令和8年1月27日、法制審議会民法(成年後見等関係)部会第33回会議において、成年後見制度の抜本的見直しを定めた「要綱案」が示されました。これまで四半世紀にわたり運用されてきた「後見・保佐・補助」という3段階の硬直的な枠組みは解体され、「補助」への一元化が図られます。

この背景には、「本人の能力不足を補う(代行決定)」から「本人の意思を最大限尊重し、必要な範囲だけ支える(意思決定支援)」へと、実務運用をシフトさせる狙いがあります。

このニュースを聞いて、「家族信託や任意後見のニーズが減るのではないか?」と不安を感じている実務家の方もいるかもしれません。しかし、結論から申し上げると、今回の改正は、士業による「オーダーメイドな生前対策コンサルティング」の価値をさらに高める追い風となっていると私は考えます。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 「補助」への一元化と「特定補助人」の新設:判断能力の程度で型にはめるのをやめ、一律に「補助」の枠組みで対応。特に支援が必要な重度者には、取消権等を持つ「特定補助人」を付す。
  • 「必要性」要件の明確化:単なる判断能力低下だけではなく、「現に保護が必要な状況か」が審判の条件に。家族信託等で周囲のサポート体制が整っているなら「補助は不要」とされる運用となる可能性がある。
  • 家族信託・任意後見と補助の「併存」ができる:現行法の「任意後見と成年後見の二者択一」から、家族信託、任意後見をメインにしつつ、足りない「取消権」「代理権」だけを補助で補うことが可能になる。
  • 「本人の意向尊重義務」の明文化:補助人には「情報の提供」「陳述の聴取」を通じた意向把握努力と、その尊重が法的義務として課される。
  • 改正後も残る「実務上のハードル」:補助人による家庭裁判所への年1回の報告義務、資産運用の制限、専門職補助人の報酬への不満といった構造的課題は依然として残る。

本記事では、法制審議会民法(成年後見等関係)部会第33回会議の資料に基づき、改正内容が「家族信託」や「任意後見」の実務にどのような影響を与えるのか、推測される改正の方向性と、我々実務家が今後どのような提案を顧客に行うべきか、解説します。

1. 成年後見制度の改正:なぜ補助への一元化なのか

現行の成年後見制度は、本人の事理弁識能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に当てはめる仕組みでした。しかし、この仕組みは「本人の能力の状態」によって一律に法的権限を制限するものであり、個別の生活実態や本人が望むライフスタイルに応じた柔軟な支援が困難であるという構造的な課題を抱えていました。

1-1. 現行制度の限界と批判:画一的な権利制限

特に「後見」類型では、日常生活に関する行為を除くほぼ全ての法律行為が取消の対象となり、本人の自己決定権を著しく損なうものでした。また、一度審判が下ると、本人の能力が劇的に回復しない限り「死ぬまでやめられない」という硬直性が、多くの高齢者やその家族から敬遠される最大の要因となっていました。

1-2. 「補助」への統合が意味すること:個別設計へのシフト

改正案では、これらを全て「補助」という名称に統合します。家庭裁判所が個別に「どの行為に同意が必要か」「どの範囲で代理権を与えるか」を審判するオーダーメイド形式へと変わります。これにより、「認知症だから一律に契約権を奪う」のではなく、「不動産の売却は不安だが、趣味の物品購入は本人の自由に任せる」といった、本人の状況に合わせた支援が可能になります。

2. 成年後見相当の方への「特定補助人」の設置

事理弁識能力を欠く常況にある(現行の成年後見相当の)方には、新たに「特定補助人」が付される仕組みが導入されます。

• 権限の範囲:代理権は「自動」で付与されない

特定補助人に選任されると、基本権限として以下の「取消権」「意思表示受領権」「保存行為権」という3点セットを持ちます。

1.取消権:不動産の処分や多額の借財などの重要な法律行為について、本人が行った契約を後から取り消して財産を守る権限。
2.意思表示受領権:本人に対する重要な通知(契約の解除通知など)を、本人に代わって有効に受け取る権限。
3.保存行為権:財産の現状を維持するための行為(家屋の修繕や、時効の中断など)を行う権限。

重要な点は、これまでの成年後見人と異なり、「包括的な代理権(何でも代行できる権限)」は持たないということです。 施設入所契約や不動産売却など、誰かが代わって手続きをする必要がある場合は、別途個別に「代理権付与の審判」を得る必要があります。つまり、権限は必要最小限に限定されるのです。

(法務省HP:法制審議会民法(成年後見等関係)部会第33回会議(令和8年1月27日開催)その他 法定後見制度見直しの案の概要(再掲)より引用)

3. 「保護の必要性」が家族信託実務に与える影響

今回の改正で、家族信託を活用されている方にとって最も重要なのが、「必要性がなければ、制度自体が開始しない」という構造となった点です。

「空箱」の補助人は認められない(同時審判の原則)

改正案では、土台となる「補助開始の審判」は、具体的な権限(代理権・同意権・特定補助人)を与える審判と「セットで同時に」行わなければならないとされています。権限を持たない「空箱」のような補助人は選任できません。

すべての権限に「必要性」が求められる

そして、セットとなる「代理権」「同意権」「特定補助人」の審判は、すべて判断能力の低下だけでなく「必要があると認めるとき」でなければできないと条文上明記されます。つまり、「具体的な権限を与える必要がない」と判断されれば、結果として「補助開始の審判」もなされないという取り扱いがされることになります。

3-1. 補助制度が使いやすくなっても「家族信託」は不要にならない

一部では「補助制度が柔軟になるなら、家族信託は不要になるのでは?」という声もありますが、事実は正反対です。要綱案(案)では、「本人の利益を保護するために必要がある」場合に補助が開始されます。 例えば、既に「家族信託」によって収益不動産の管理・修繕・売却権限が受託者に移転しており、生活費の支払いも信託口口座からスムーズに行われている場合を想定してください。本人に浪費癖がなく、周囲に見守りがあるなら、家庭裁判所は「信託によって財産管理体制は完結しており、これ以上公的な補助を開始する必要性はない」と判断し、申立てを却下する運用がされる可能性があります。

つまり、家族信託をあらかじめ組成しておくことは、改正後においても「裁判所の監督に頼らず、家族間で完結した財産管理を継続するためのツール」であり続けます。そして、家族信託を活用しつつ、必要に応じて後日、補助人を活用し信託財産以外の管理や本人の悪質商法に対する契約行為を取り消しするための取消権を行使するなどの運用ができるようになる、家族信託と補助はお互いを補完するツールになりえる可能性があるのです。

4. 【事例】父郎さんのケースで見る「家族信託×改正補助」の活用

具体的な事例で、改正後の実務がどう変わるか、より詳細な「権限のパズル」をシミュレーションしてみましょう。

【設定例】

本人(委託者):父郎さん(88歳)

認知症が進行。 自宅と月50万円の家賃収入があるアパートを所有。

受託者:長男・一郎さん

父のアパート管理を信託で引き受けている。

懸念点:

賃貸経営は一郎さんができているが、父が訪問販売で「数百万円の健康食品」を契約したり、不要な「外壁塗装工事」を勝手に発注してしまわないか心配。また、父が元気なうちは自由に使える財産を残すため信託財産以外にも預金や有価証券などの財産がある。

4-1. 改正前の課題

現行法では、取消権を得るためには「後見」を申し立てるのが一般的でした。しかし、後見が始まると成年後見人が受益権を代理行使して信託事務にも干渉(監督)してくる可能性があり、一郎さんの柔軟なアパート運営が阻害される懸念がありました。

4-2. 改正後の設計:ピンポイントの補助利用(ガードのみの追加)

改正後は、信託と補助を以下のように「役割分担」させます。

【信託・補助スキーム設計案】

攻めの管理・運用・承継(家族信託)
受託者・一郎が、アパートの賃貸管理、修繕、大規模リフォーム、将来の売却までを裁判所の許可なくスピーディーに行う。

守りのガードと身上監護(改正補助) 新しい補助制度では、補助人の権限を柔軟に限定し、家族信託の受託者の業務と利益相反させない設計が可能となりそうです。具体的には、一郎さんが補助人として以下の権限のみを持つように設定します。

  • 補助人の権限を個別に限定できる
     同意権(取消権)の対象となる行為は、従来の民法13条1項のような画一的なリストから選ぶのではなく、「家庭裁判所が個別に定めるもの」に限定されます。
  • 信託財産と無関係な権限設定
     補助人の権限を「訪問販売等による消費者被害を防ぐための取消権(同意権)」や「信託財産以外の不動産(自宅等)の大修繕・処分の同意権」に限定します。これにより、信託財産の運用を行う受託者の権限と、補助人の権限が利益相反するリスクを排除します。
  • 受益者権の行使(代理)を排除し、利益相反を回避
     代理権付与の審判において、「信託契約上の受益権行使(指図権や帳簿閲覧請求権、受益者代理人の選任等)」を代理権目録から除外します。これにより、補助人が受託者を監督する立場に立つことを防ぎ、円滑な信託運営を維持できることが期待されます。

将来的に父郎さんの判断能力が低下し、身上保護や信託外の財産の管理権限が必要となった段階で、上記のような限定的な内容で「補助開始」の申立てを行うことが想定されます。ただし、ここで紹介したような「利益相反を回避するための権限設定」が実務上どこまで柔軟に認められるかは、今後の家庭裁判所の運用指針や改正後の動向次第であり、現時点では不確定な要素も残っている点には注意が必要です。

このように、家族信託を「メインの管理ツール」とし、補助を「身上監護や信託外の財産の管理、特定の被害を防ぐためのオプション」として付加する設計が、新制度下でコンサルティング提案ができる可能性があります。

5. 任意後見と法定後見との「併存」ができるようになる

これまで、任意後見制度と法定後見制度は、原則としてどちらか一方しか利用できない「排他的」な関係にありました。

5-1. なぜ現行法では「排他的」なのか

その根拠となるのが、「任意後見契約に関する法律第10条3項」です。現行法では、法定後見が始まると任意後見契約は「終了」してしまいます。これは、複数の保護者が存在することで取引の相手方(銀行や不動産業者など)が混乱するのを防ぐためでしたが、実務上は「任意後見には取消権がない」という弱点を補えないという問題がありました。

ここで、現行の「任意後見契約に関する法律」第10条を確認してみましょう。

【任意後見契約に関する法律 第10条】
1.任意後見監督人が選任された後において、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始の審判等をすることができる。
2.前項の場合における後見開始の審判等の請求は、任意後見受任者、任意後見人又は任意後見監督人もすることができる。
3.第四条第一項の規定により任意後見監督人が選任された後において本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了する。

この規定があるために、任意後見を使いながら「足りない取消権だけを法定後見で補う」という柔軟な運用ができなかったのです。

5-2. 改正案による「併存」のメリット

今回の改正案では、この制約を大胆に緩和し、「任意後見と補助の併存」を認めようとしています。 任意後見人が本人の意思に基づき、生活全般の代理権を行使しつつ、同時に「補助」の審判を受けて、悪徳商法や不要な高額契約に対する「取消権」だけをピンポイントで確保できるようになります。 これにより、「任意後見は取消権がないから不安だ」という理由で任意後見を見送っていた依頼者に対し、新たな解決策を提示できるようになります。

6. 制度改正でも解消されない「実務上のハードル」と家族信託の必要性

ここまでは改正のメリットを中心に解説してきましたが、専門家として見過ごせない「変わらないハードル壁」についても触れておく必要があります。制度が一元化されても、補助は家族信託が持つ自由度には及びません。

6-1. 裁判所への報告義務は依然として残る

新しい制度に一元化されても、補助人には「年に一回、家庭裁判所への定期報告」をする義務が残っています。 具体的には、通帳のコピーや領収書を整理した収支報告書、財産目録の作成が求められます。「たとえ家族であっても、裁判所に通帳の中身をチェックされ、使い道を監督される」という心理的・事務的なプレッシャーは、改正後も家族にとって重い負担として残り続けます。

6-2. 資産の積極活用(投資・借入)は依然として難しい

改正案においても、借財(借金)や不動産の処分、大規模修繕などは、依然として「補助人の同意」や内容によっては「裁判所の許可」が必要な行為とされています。 そもそも法定後見(補助)制度の本質は「本人の現在の財産を減らさないための保守的な管理」にあるからです。そのため、例えば「老朽化したアパートを建て替えるための多額の融資」や「相続税対策を目的とした資産の組み換え」「株式の積極的な運用」といった行為は、本人にとっての「リスク」とみなされ、家庭裁判所が首を縦に振る可能性は極めて低いのが現実です。

6-3. 専門職補助人への継続的な報酬支払いというコストの問題

補助制度が一元化され、利用のハードルが下がったとしても、親族間に適任者がいない場合や、管理すべき資産が多額で紛争リスクがある場合には、依然として司法書士や弁護士といった専門職が補助人に選任されるケースが多いと予想されます。

専門職が選任されれば、当然ながら本人の財産から月額数万円(財産額によってはそれ以上)の報酬が発生し、これは本人が亡くなるまで一生涯続きます。年間数十万円、10年続けば数百万円というコストは、ご家族にとって無視できない経済的負担です。一方で、家族信託であれば、組成時の初期費用はかかりますが、家族が受託者となることで日々の管理報酬をゼロ、あるいは低額に抑えることが可能です。トータルコストの面でも、家族信託をメインにするメリットがあります。

6-4. 家族信託・任意後見との「併用」という選択肢が増えた

上記のハードルを考慮すると、資産の凍結を確実に防ぎ、受託者の裁量で「攻めの資産活用」や「柔軟な資産承継」を実現するには、依然として「家族信託」がベストのツールであることに変わりありません。

今回の改正は、家族信託・任意後見を否定するものではありません。「家族信託ではカバーできない『身上監護』や『契約の取消権』が必要になったときだけ、新しい法定補助を『サブ機能』として、ピンポイントで追加しやすくなる」など生前対策の提案の選択肢が増えたので、私たち専門家がより依頼者の状況に即した提案が求められる時代になってきたといえます。

要綱案には、補助人に対し「本人の意向尊重義務」が強く課されています。

情報の提供義務: 本人が判断できるよう、今の預金残高やケアプランの内容を説明する。
陳述聴取義務: 「本当はどこに住みたいのか」「最期はどう迎えたいのか」という本人の声を丁寧に聞き取る。

士業が補助人となる場合には、定期的な面談を通じて本人生活の質を高める提案を行う、「ライフコーディネーター」としての専門性がこれまで以上に求められるようになります。

まとめ

  • 「補助」への一元化と「特定補助人」の新設:判断能力の程度で型にはめるのをやめ、一律に「補助」の枠組みで対応。特に支援が必要な重度者には、取消権等を持つ「特定補助人」を付す。
  • 「必要性」要件の明確化:単なる判断能力低下だけではなく、「現に保護が必要な状況か」が審判の条件に。家族信託等で周囲のサポート体制が整っているなら「補助は不要」とされる運用となる可能性がある。
  • 家族信託・任意後見と補助の「併存」ができる:現行法の「任意後見と成年後見の二者択一」から、家族信託、任意後見をメインにしつつ、足りない「取消権」「代理権」だけを補助で補うことが可能になる。
  • 「本人の意向尊重義務」の明文化:補助人には「情報の提供」「陳述の聴取」を通じた意向把握努力と、その尊重が法的義務として課される。
  • 改正後も残る「実務上のハードル」:補助人による家庭裁判所への年1回の報告義務、資産運用の制限、専門職補助人の報酬への不満といった構造的課題は依然として残る。

今回の令和8年改正は、成年後見制度を「一律の制限」から「個別の支援」へと昇華させるものです。しかし、解説した通り、裁判所の監督事務や資産活用の制約といった「法定制度ゆえの限界」は厳然として存在します。だからこそ、「家族信託による柔軟な運用」をメインとし、「改正補助による取消権」を安全装置として添えるようなオーダーメイドの提案ができる士業こそが、求められてきます。

専門家・実務家向けセミナーのご案内

今回の法改正への対応を含め、現場で本当に役立つ「家族信託」や「生前対策」のコンサルティング手法を深く学びたい実務家の方に向けて、私が講師を務めるセミナーを定期的に開催しております。

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(注:本記事は令和8年1月27日の法制審議会部会資料に基づいた解釈であり、最終的な確定法案や施行時の運用とは異なる場合があります。実務適用の際は必ず最新の法令をご確認ください。)

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