受益者代理人と信託監督人とは?活用時の注意点と契約書の定め方を詳しく解説

長期にわたって財産管理を継続する家族信託スキームを設計する際には、受託者による財産管理業務が適切に行っているか監督できるよう、受益者保護を目的に選任を検討されるのが、受益者代理人と信託監督人です。

実務では受託者による信託事務の監督等を目的に設置することを検討される役職です。しかし、受益者代理人と信託監督人はそれぞれ権限が異なるため、誰を当事者として設定すべきか、いずれの役職を担ってもらうべきか検討が必要となります。

今回の記事のポイントは下記の通りです。

  • 家族信託では、受益者自らが受託者の信託事務監督と信託に関する意思決定をする必要があるが、監督と意思決定を第三者である受益者代理人と信託監督人に任せられる
  • 受益者代理人とは、受益者のためにその権利を代理で行使する者をいい、受託者の監督及び受益者意思決定を担うが、受益者は受託者監督を除いて権限を失う
  • 信託監督人とは、受益者が現存する場合に、受益者のために受託者を監視、監督する者をいい、信託監督人が選任されても受益者の権利は維持される
  • 信託監督人の権限は監督業務であり、受託者の処分行為への同意や代理権を付加するには別途定めを設ける必要がある
  • 受益者代理人と信託監督人は、信託契約当初から定めることも、事後的に設置することも可能
  • 受益者代理人と信託監督人は信託契約で定めても当然には就任しないため、予め就任承諾をもらっておくべき
  • 受益者代理人と信託監督人は信託事務の監督や受益者の代理権限など重要な権限を有するため、身近な親族を選任すべき。専門家がなる場合には、長期にわたる監督業務等ができるか体制づくりが必要

受益者代理人と信託監督人の活用方法、契約書の定め方と注意点について解説します。

受益者代理人と信託監督人とは?

家族信託では、受益者が受益権として信託財産に対する権利を有し、受益者自らが受託者の業務を監督し、信託に関して意思決定します。しかし、高齢に伴う財産管理ができなくなるなどの事情により、受益者が権限を行使できなくなってしまう場合に備えて、受益者の代わりに権限を行使する人を配置しておく必要があります。

受益者代理人と信託監督人とともに、いずれも受益者が存在する場合に選任されます。
※家族信託では活用されるケースはほとんどありませんが、「信託管理人」は、受益者が不在となるケース(いまだ生まれていない子を受益者にした場合など)で選任されます。

受益者の権利としては、信託に関する「意思決定権限」と「監督権限」の2つがあります受益者代理人と信託監督人では、有する権限が異なります。

受益者代理人とは

受益者代理人とは、受益者のためにその権利を代理で行使する者をいいます(信託法第139条①)。

受益者代理人が設定されると、受益者は受託者監督等を除いて権利を行使できなくなります(信託法139④)。そのため、受益者自らが信託に関する意思決定(信託変更、信託終了など)する場合には、その権限を失うため注意が必要です。

受益者代理人は、受益者が重度の知的障害者であったり認知症であったりする場合や、複数の受益者が存在する場合には、すべての受益者の一致によって信託に関して意思決定することが原則となってしまうため(信託法第105条1項)、統一的な窓口となる受益者代理人においてその権利を行使したいときなどに活用します。

受益者代理人の権限

受益者代理人には、信託契約に別段の定めがある場合を除き、その代理する受益者の権利(損失てん補責任等の免除を除く)に関する一切の裁判上又は裁判外の行為する権限があります(信託法139条①)。そして、その受益者代理人に代理される受益者は、受託者を監督する権利及び信託行為において定めた権利を除き、その権利を行使できなくなります(信託法139条④)。

後述する信託監督人においては、設置しても受益者は単独で権利行使できますが、受益者の権利行使の有無が大きな違いです。

受益者代理人の資格

未成年者及びその信託の受託者は受益者代理人となれませんが(信託法第144条、124条)、それ以外の者は、個人・法人を問わず受益者代理人となれます。

対象となる受益者の範囲

受益者代理人は、代理する受益者を指定したうえで選任します(信託法138条1項)。

受益者が複数人いる場合に、特定の受益者の代理人として定めた場合には、後述する信託監督人と異なり、特定の受益者のためだけに、受益者代理人の権限を行使します。

受益者代理人の報酬

受益者代理人は、信託契約に受益者代理人が報酬を受ける旨の定めがある場合に限って、受託者に報酬を請求できます(信託法144条、127条③)。

・信託契約に定めあり →報酬を請求できる
・信託契約に定めなし →報酬を請求できない

信託監督人とは

信託監督人とは、受益者が現存する場合に、受益者のために受託者を監視、監督する者をいいます(信託法第131条①、132)。例えば、受益者が高齢者や未成年者であるなど、受益者が受託者を監視・監督することが困難な場合等に選任します。

信託監督人の権限

信託監督人には、信託契約に別段の定めがある場合を除き、受益者が持つ「受託者を監督する権利」を受益者のために行使できます。信託監督人は、受益者の代理権を有しないため、受益者の権利を代わりに行使できません。

信託監督人に代理権限を付加する場合には、信託法132条1項但し書きの別段の定めを活用することになります。例えば、一定の財産の処分(不動産の処分、一定額以上の支払など)をするには信託監督人の同意が必要とするなどの定めを設けることにより、受託者の権限を制限することもできます。

信託監督人の資格

未成年者及びその信託の受託者は信託監督人となれませんが(信託法137条、124条)、それ以外の者は、個人・法人を問わず信託監督人となれます。

対象となる受益者の範囲

信託監督人は、受益者のために、誠実かつ公平に権限を行使しなければなりません(信託法133条②)。つまり、信託監督人は受益者が複数人いる場合に、特定の受益者のみのためだけに行動することは原則として認められません。受益者代理人と異なり、受益者全員のために監督する必要があります。

信託監督人の報酬

信託監督人は、信託契約に信託監督人が報酬を受ける旨の定めがある場合に限って、受託者に報酬を請求できます(信託法137、127③)。

・信託契約に定めあり →報酬を請求できる
・信託契約に定めなし →報酬を請求できない

受益者代理人と信託監督人の設定方法と注意点

受益者代理人と信託監督人の選任方法には、①信託行為(信託契約)による指定と②裁判所による選任の2つの方法があります。

受益者代理人の設定方法

信託契約において受益者代理人となるべき者を指定する定めを設けられます(信託法138条)。

・信託契約に定めあり →選任できる
・信託契約に定めなし →選任できない

なお、後述する信託監督人は信託契約に定めがなくても必要が生じた場合には利害関係人の申立てにより裁判所が選任できます。しかし、受益者代理人は定めがなければ選任することはできません。

受益者代理人の設定条項の定め方

信託契約において定めを設けることにより、受益者代理人を設置することができます。また、当初から定めることも、将来定めることも契約条項により決められます。

<受益者代理人として定める場合>
第○条(受益者代理人)
本件信託の受益者代理人は次の者とし、本契約の効力が発生したときから就任する。
住所
氏名
生年月日
2 受益者代理人がいる場合には、信託法及び本契約に基づく受益者の権利行使その他意思決定は、受益者代理人により行われるものとする。
3 ・・・・・・・・・・・

<将来定める場合>
第○条(受益者代理人)
信託監督人が信託事務処理上必要と認めたときは、信託監督人の任意の判断で書面により受益者代理人を選任できる。
2 ・・・・・・・・・・・・・・・

受益者代理人設置の注意点

受益者代理人設置に関しては、下記の点について注意が必要です。

受益者代理人を信託契約で定めても当然に就任しない

信託契約書に特定人を受益者代理人として定めたとしても、信託契約の当事者は委託者及ぼ受託者ではないため、受益者代理人は当然には就任しません。受益者代理人候補者の就任承諾があって初めて就任するため、別途、候補者の就任承諾書を取りつけるなどの実務対応が必要です。

なお、受益者代理人候補者に対して、相当の期間を定めて就任の承諾するかどうかを催告しても、当該候補者からの確答がなかったときには、就任の承諾しなかったものとみなされます(信託法138条②③)。

なお、受益者代理人候補者に対して、相当の期間を定めて就任の承諾するかどうかを催告しても、当該候補者からの確答がなかったときには、就任の承諾しなかったものとみなされます(信託法138条②③)。

受益者代理人の権限を明確にする

専門家が作成する信託契約において、例えば、「受託者及び受益者の合意」「受託者及び受益者代理人の合意」と条項によって使い分けしているケースが散見されます。受益者代理人は原則、受益者の権利を行使できるため、「受託者及び受益者の合意」において、受益者に権限を残している趣旨なのか、又は、受益者代理人がいる場合には、当然に受益者代理人が権限を行使できるのか解釈がわかりづらいという問題が発生してしまっています。

そこで、誰が合意当事者なのか明確にするために、「受託者及び受益者(受益者代理人がいる場合は、受託者及び受益者代理人)の合意」など、契約条項の定め方を明確にしましょう。

受益者代理人候補者を身近な家族から選任する

受益者代理人は信託変更、信託終了など信託に関して重要な意思決定権限をも有するため、候補者を適切に選任する必要があります。司法書士や行政書士、弁護士などの専門家を選任することもできますが、信託事務処理の監督のほか、家族の財産管理に関する重要な意思決定を担う権限をも有することになるので、できれば就任することは避けるべきです。

できれば、受託者と同様に財産管理の役割を担えるような身近な親族から選任すべきです。

信託監督人の設定方法

信託契約において信託監督人となるべき者を指定する定めを設けられます(信託法131条)。

・信託契約に定めあり →選任できる
・信託契約に定めなし →選任できない

なお、受益者が受託者の監督を適切に行えない特別の事情があれば、利害関係人の申立てにより裁判所が信託監督人を選任できます(信託法131条④)。

信託監督人の設定条項の定め方

信託契約において定めを設けることにより、信託監督人を設置できます。また、当初から定めることも、将来定めることも契約条項により決められます。

<信託監督人を定める場合>
第○条(信託監督人)
受託者が本契約の趣旨及び目的に則り、受益者の利益のためにその権限を行使し、かつその義務を果たしていることを監督するために、本件信託に関し、次の者を信託監督人に指定し、本契約の効力が発生したときから就任する。
住所
氏名
生年月日
2 信託監督人は第〇条第〇項の規定に従い、受益者とともに受託者を監督し、本件信託の目的に照らして相当と認めるときは第〇条の解任権限を行使できる。
3 ・・・・・・・・

<将来定める場合>
第○条(信託監督人)
受益者は信託事務処理上必要と認めたときは、任意の判断で書面により信託監督人を選任できる。
2 ・・・・・・・・・・・・・・・

信託監督人設置の注意点

信託監督人設置に関しては、下記の点について注意が必要です。

信託監督人を信託契約で定めても当然に就任しない

受益者代理人と同様に、信託契約書に特定人を信託監督人として定めたとしても、信託契約の当事者は委託者及ぼ受託者ではないため、信託監督人は当然には就任しません。受益者代理人候補者の就任承諾があって初めて就任するため、別途、候補者の就任承諾書を取りつけるなどの実務対応が必要です

なお、信託監督人候補者に対して、相当の期間を定めて就任の承諾するかどうかを催告しても、当該候補者からの確答がなかったときには、就任の承諾しなかったものとみなされます(信託法131条②③)。

信託監督人の権限を明確にする

専門家が作成する信託契約において、信託監督人のみ定めているケースが散見されます。信託監督人は原則、受託者の監督権限のみを有し、受益者の代理人としての権利行使ができません。

そのため、信託監督人の役割を広げるには、受託者の行為について信託監督人の同意を要するなど処分制限条項を設ける、信託監督人に受益者の一部の権利行使についての代理権限を与えるなどの検討が必要です。

専門家は信託監督体制が内部構築できていなければ信託監督人をやるべきではない

司法書士や行政書士、弁護士などの専門家を信託監督人に選任することもできますが、成年後見業務と同様に、受託者の金銭の管理など信託事務を長期にわたって監督できるのか、という実務運用体制が必要です。

場合によっては、信託監督人という当事者ではなく、外部のアドバイザーとして受託者や親族からの相談業務に応じる、信託事務の一部をサポートするといった対応も考えられます。私の事務所では、信託監督人、受益者代理人は親族に任せ、信託監督人という立場ではなく、外部のアドバイザーとして信託事務の運用サポートをしています。

運用体制については、各事務所の事務所体制とも密接に関連するので、サポートをどのようにすべきか検討してみてください。

まとめ

  • 家族信託では、受益者自らが受託者の信託事務監督と信託に関する意思決定をする必要があるが、監督と意思決定を第三者である受益者代理人と信託監督人に任せられる
  • 受益者代理人とは、受益者のためにその権利を代理で行使する者をいい、受託者の監督及び受益者意思決定を担うが、受益者は受託者監督を除いて権限を失う
  • 信託監督人とは、受益者が現存する場合に、受益者のために受託者を監視、監督する者をいい、信託監督人が選任されても受益者の権利は維持される
  • 信託監督人の権限は監督業務であり、受託者の処分行為への同意や代理権を付加するには別途定めを設ける必要がある
  • 受益者代理人と信託監督人は、信託契約当初から定めることも、事後的に設置することも可能
  • 受益者代理人と信託監督人は信託契約で定めても当然には就任しないため、予め就任承諾をもらっておくべき
  • 受益者代理人と信託監督人は信託事務の監督や受益者の代理権限など重要な権限を有するため、身近な親族を選任すべき。専門家がなる場合には、長期にわたる監督業務等ができるか体制づくりが必要

長期にわたって財産管理を継続する家族信託スキームを設計する際には、受託者による財産管理業務が適切に行っているか監督できるよう、「受益者代理人」「信託監督人」の設置を検討していく必要があります。

しかし、役割・権限がそれぞれ違うことから、依頼者の家族の状況によってどちらを採用すべきか慎重な判断が必要です。家族信託は、まだまだ、正解やゴールが確立していない状態、だからこそ、どのように対応するか、日々模索が必要です。そのため、信託、生前対策の設計時点だけでなく、中間、出口戦略も見据えて、検討していく必要があります。日々、最新実務を取り入れて研鑽していきましょう。

家族信託契約書を作成する際にどのように設計・起案していますか?

家族信託というのは、士業・専門家にとって遺言や成年後見では対応できなかった範囲をカバーできる「一手法」です。自由度が高い分、お客様のニーズにあわせた対策を設計できます。しかし、一方で、オーダーメイドの契約書というのは経験も必要。そして、制度の歴史も浅く十分な判例もない状況も重なって、なかなかハードルが高く感じる方もいらっしゃるでしょう。

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