安易な連続型信託を設計するのは危険!?その出口戦略とは?

生前対策・家族信託コンサルタント 司法書士の斎藤です

本人亡き後の子、孫まで継続する財産管理のニーズで、受益者連続型信託を活用するケースの相談も増えてきていると思います。「自身の亡き後も障害のある子のために財産管理ができる仕組みをつくりたい」「先祖代々の土地を護っていきたい」など、一代限りの信託では、対応できないニーズへの対応のために、取り組んでいる専門家も多いでしょう。

そこで、今回は出口戦略から受益者連続型信託を検討してみます。自分のお客様の事例にあてはめて、是非検討してみてください(^^)/
それでは、どうぞ。

先祖代々の土地を護っていきたいという相談

こんな相談がありました。

高齢の父(85歳)の財産管理を継続したいという長男(60歳)からの相談です。子供は長男と長女(58歳)の2人です。
実家の他、貸しビルを所有しており、貸しビルが財産の多くを占めています。相続税は手元の金融資産でぎりぎり支払える見込みです。

長男は結婚しており、子供1人います。長女も結婚していますが、子供が2人います。長女の夫と父の折り合いが悪く、二人の関係はうまくいっておりません。父は先祖代々守ってきた土地をこのままの状態で次の世代に引き継ぎたいと思っていますが、子供たちは公平に相続し、その後の世代にも相続させることを望んでいます

こういった相談があった場合、真っ先に思いつくのが連続型信託のスキームだと思います。受託者を一般社団法人など法人を活用するスキームです。

委託者 父
受託者 法人
受益者 父
第二受益者
受益権割合 2分の1 長男
受益権割合 2分の1 長女
信託終了事由
受託者及び受益者の合意
(又は父及び●●の死亡も追加)

ここまでは、思いつくと思うのですが、その後の出口戦略も想定して検討していく必要があります

【1案】

長男・長女どちらか他界時に一方に財産をまとめます。父他界後にどちらかが亡き場合には、片方に寄せるプランだと、単独名義とすることができます。また、信託終了時に受益権2分の1が帰属することから、その評価に応じて相続税が課税されます。1親等の血族でないことから2割加算です。

登録免許税は、当初委託者父の法定相続人であるため、その他の軽減措置の適用を受ければ0.4%となります。連続型信託の登録免許税の軽減措置については前回のブログに記載していますので、そちらを参照ください。

受益者連続型信託の税務の落とし穴とは!?

ただし、今回の相談者の要望としては、そのあとの財産を自分の子に承継させたいことから上記スキームでは対応できません

【2案】

連続型とせず、1代限りの信託とする貸しビルとそのほかの財産評価額が大きくことなることから、長男、長女の単独所有とすることは難しく、共有財産とせざるを得ません
そのため、一代限りの信託では相談者の要望に対応できません

【3案】

第三受益者を前順位受益者の子など直系卑属(配偶者は含まない)とし、直系卑属が複数いる場合には、均等割合で取得させる受益権を細分化して取得させる仕組みだと、相談者の要望に沿えますが、最終的に不動産を帰属させる際には、受益権割合・受益者数に応じた共有物件化してしまいます

仮に受益者間の協議で誰がどの財産を取得するか決めるとする内容としたとしても、それぞれの物件間で評価額が異なることから、各受益者が有する受益権割合と取得する物件の評価額の差額については、税務上の問題を検討していく必要があります。
共有物件となったあと、譲渡等によりそれぞれの物件を単独所有とする場合には、譲渡所得税、登録免許税、不動産取得税など全ての税務コストがかかるので、より慎重な判断が必要となります。

ちなみに、第三受益者以降で信託終了し、現物不動産を帰属させる場合には、当初委託者の法定相続人でないことから、登録免許税の軽減措置の適用を受けることができません

このように連続型信託を用いる場合には、当初は依頼者のニーズに沿っていいのだが、出口戦略を考えると“????”という疑問点が多数発生してきます

長期的な視野で信託を考える必要がある!?

入り口だけで考えて設計してしまうと、出口のときに信託を組成した結果、より複雑になってしまい、結果やらないほうがよかったという事態になりかねません。そのため、信託設計時から、信託期間中、そして、出口戦略を考えて、設計をしていく必要があります。

そこで、今回の相談については、下記を提案しました

【4案(折衷案)】

3案で信託スキームを設計し、信託期間中に、全ての信託不動産を売却し、現金で交付する
または、資産組換する、一部不動産を換価し、受益者に交付するなどを行い、受益権評価を下げたうえで、将来、受益者間で不動産を取得すると協議で決めた特定の受益者に受益権を譲渡(売却・贈与など)し、単独所有としたのち、信託を終了させる。

当然、受益権譲渡に伴い、譲渡所得税、贈与税などを検討する必要がありますが、受益権のため、登録免許税は不動産1つにつき1000円取得税はかかりません。また、受益権を単独所有にした後であれば、信託終了時の共有化の問題は発生しません

ただし、このスキームは、信託設計時では、認知症対策という部分は解決しており、、形式上は共有化の問題はクリアしているように見えますが、実質は受益権が細分化しているので、問題は先送りしており、解決していません

信託期間中に受益権の問題を解決する必要があります

安易な連続型信託を設計するのは危険!?

受益権を細分化して、名義は受託者に、受益権は割合で後順位受益者に取得させるなど、家族信託を活用して共有対策で活用できる事例は多いです。そのとき、意外と見落としがちな出口戦略を考えていく必要があります。受益者が複数になった場合に、どのように信託を終了させるのかを考えておかないと、信託終了時に多数の共有者の物件となるよりややこしい状況をつくってしまう可能性もあるわけです。
そのリスクも含めて、本当に連続型信託でいくのか、それとも一代限りでいくのか、そもそも信託を使わないのかという選択肢も顧客に提示していかなければなりません

僕自身もそうですが、難しい知識を取得すると、実際に活用してみたくなるのが先生業特有の本音ですが、ここで一度本当に使ったほうがいいのかと一度自問自答してみるってことが必要です。そのとき、意外と見落としがちな出口戦略を考えていく必要があります。受益者が複数になった場合に、どのように信託を終了させるのかを考えておかないと、信託終了時に多数の共有者の物件となるよりややこしい状況をつくってしまう可能性もあるわけです

今回のような連続型信託など、事例にもとづく、信託設計時に落としてはいけない、法務・税務のポイントについて、5月8日に東京駅周辺にてセミナーを開催する予定です後日、改めてブログ・メルマガにて告知しますので、ご興味ある方は是非ご参加ください(^^)/

今回の記事は、ここまで。次回をお楽しみに。

家族信託相談を受ける際に、どのようなに顧客に設計・提案をしていますか?

生前対策スキームの提案をどのように行っていますか?

先生業の仕事は形に見えない仕事です。その見えない価値をお客様に伝える必要があります。お客様への提案時にどうあるべきか、どのように生前対策コンサル案件を受注していくか、生前対策案件の設計・提案・受注のためのノウハウをお伝えするセミナーを開催しています。

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日時 3月13日水曜日 9時30分~11時30分
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会場 株式会社東京八重洲ホール

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