【2024年施行予定】士業・相続専門家が知っておきたい相続登記義務化改正の3つのポイント

法務省によると、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず,又は判明しても連絡がつかない土地を所有者不明土地と定義しています。この所有者不明土地が発生する大きな原因として、法務省によると不動産の相続登記がされないことが約66.7%が相続登記がされないこと、そして、約32.4%が住所変更登記がされないことして上げられています。

そこで、相続登記と住所変更登記の義務化、所有者の連絡先情報の把握のための法案が2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において決定され、2021年4月23日国会での法案成立をしました。改正法は、2024年度をめどに施行される予定です。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 相続による不動産取得を知ったから3年以内に手続きを相続登記をしないと10万円以下の過料の対象となる
  • 住所変更登記も義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象になる
  • 相続人申告登記や義務化とセットで登記権利者のみの単独申請を認めるなど登記手続きの簡略化が予定されている
  • 不動産の所有権移転登記時に生年月日や海外居住者の連絡先の情報提供など連絡先確認のための情報の情報の提供が必要となる
  • 所有している不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できる

今回の改正は、登記の義務化の他、民法の改正も含まれています。
今回の記事では、相続や不動産などを専門とする士業・専門家が知っておきたい登記義務化のポイントについて解説していきます。

目次

登記義務化の3つのポイント

登記義務化

兼ねてから相続登記と住所変更登記を義務化することが検討されてきており、2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正等に関する要綱案(案)が決定されました。

所有者の情報を正確に反映させ、連絡をとれるようにするための方策として、要綱案における不動産登記の義務化に関連するポイントは下記のとおりです。

①相続登記の義務化
②住所変更登記の義務化
③法務局への所有者の生年月日、海外居住者の連絡先の提供

以下、それぞれについて解説していきます。

相続登記の義務化の改正ポイント

相続登記

相続登記の義務化に伴う改正ポイントは下記のとおりです。

相続(相続人が遺贈を受けた場合も含む)による不動産取得を知ってから3年以内に登記をしないと10万円以下の過料の対象

今まで相続登記には期限がなかったのですが、法改正後に相続により不動産の所有権を取得した者は、相続の開始及び所有権を取得したことを知った日から3年以内に不動産の相続登記をしなければならず、10万円以下の過料の対象となります。これは、遺言などの遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も同様です。

実務上、法定相続分による法定相続登記を申請した後に、遺産分割が成立したときは不動産を取得した者へ名義を変更する登記手続きを行いますが、この登記についても3年以内というルールが設けられました。

相続登記をする義務は免れる相続人申告登記(仮称)制度が創設

速やかに相続登記をできない場合には、相続人であることを申出をすれば相続登記をする義務は免れる制度((相続人申告登記(仮称))が設けられました。この申出がされた場合には、法務局(登記官)が登記記録に申出をした者の氏名住所などが記録します。

ただし、この相続人申告登記は相続登記そのものではなく、被相続人から相続人に権利が移転したということを示すものでありません。あくまで「登記簿上の所有者」が亡くなったことを示しているに過ぎないという登記です。

そのため、申出をした者がその後遺産分割協議が成立し不動産の所有権を取得した場合には、遺産分割の日から3年以内に登記をしなければなりません。

遺贈や法定相続登記後の遺産分割による更正登記が簡略化

遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)の所有権の移転の登記と法定相続登記後の遺産分割、相続放棄などの事由による所有権更正登記について不動産登記法上、他の相続人等との共同申請を求められていたものが簡略化されて、登記権利者が単独で申請することができるようになります。

住基ネットで、登記官が登記記録上の所有者が権利能力を有しないこと(死亡など)を把握した場合には、職権でその旨を登記記録に表示することができる

住民基本台帳ネットワークシステムで、登記官が登記記録上の所有者が権利能力を有しないこと(死亡など)を把握した場合には、職権でその旨を登記記録に表示することができるようになります。

住所変更登記の義務化の改正のポイント

住所変更登記

所有者の住所氏名変更登記の義務化に伴う改正ポイントは下記のとおりです。

自然人、法人がの住所氏名変更登記が義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象

不動産所有者の氏名、名称、住所等について変更があったときは、その変更があった日から2年以内に氏名若しくは名称又は住所についての変更の登記を申請しなければなりません。これに違反すると5万円以下の過料の対象となります。

登記官が住基ネット、商業・法人登記システムで把握した住所氏名等の変更情報を元に職権で登記できる

登記官が住民基本台帳ネットワークシステム又は会社などの法人情報を管理する商業・法人登記のシステムから所有者の氏名及び住所についての変更の情報を把握したときは、職権でその住所、氏名などの変更登記ができるようになります。ただし、所有者が個人の場合には、個人の申出があるときに限られます。

法務局への所有者の生年月日、海外居住者の連絡先の提供

通常の不動産登記に必要な情報に加えて、別途生年月日等の情報提供が義務付けられます。
詳細は下記のとおりです。

不動産取得時に自然人は生年月日等の情報の提供が義務付けられる

新たに不動産の所有権を取得する自然人は、登記申請時に氏名、住所の情報に加えて、生年月日等の情報の提供を求められます。個人の生年月日は登記記録上には公示されませんが、法務局内部において保有するデータとて取り扱われます。

そのデータは、法務局が他の公的機関から所有者の死亡に関する情報や氏名住所の変更した情報を取得するために活用されます。法務局に提出された氏名、住所、生年月日などの情報を元に住民基本台帳ネットワークシステムにおける定期的なデータ照会及び検索用のキーワードとして利用される予定です。

商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記記録に記録される

所有者が会社など法人であるときは、商業・法人登記のシステム上の会社法人等番号が登記記録に記録されます。

海外居住者は、その国内における連絡先(第三者も含む)を申告が必要。その連絡先が登記記録に記録される

不動産を取得する者が海外居住者の場合には、その国内における連絡先となる者の氏名又は名称等の申告及び登記が必要となります。
連絡先としては第三者も指定することができ、第三者の氏名又は名称、住所を登記することができます。
第三者を連絡先として登記するためにはその第三者の承諾があること、そしてその第三者が国内に住所を有することが要件とされています。

▶被害者保護のための住所情報の公開の見直し

登記記録に記録されている者(自然人であるものに限る。)の住所が明らかにされることにより、人の生命若しくは身体に危害を及ぼすおそれがある場合などの事由があるときは、その者からの申し出により、法務局から交付される登記事項証明書に住所を公開せず、住所に代わる事項を記載した登記事項証明書が交付されます。

所有不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))が発行される

所有不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できるようになります。

これまでの実務として固定資産税課税明細(名寄せ)を各市区町村で取得することにより、対象者の所有不動産を把握できていましたが、私道など非課税地については漏れているなどの課題があり、不動産権利証や隣地の登記記録を確認するなどで財産状況を確認していましたが、法務局で、所有財産一覧を発行してもらえるようになります。

しかし、実際には、住所と氏名が一致していなければ財産の紐づけができないため、現時点における登記記録上の住所氏名が変更されていないものがあることも想定されるため、正確な情報を反映しているかどうかは技術的な問題があります。そこで、当面は今までと同じ調査は併行し、名寄せと同じく所有不動産記録証明書は参考情報という形で利用することになりそうです。

まとめ

  • 相続による不動産取得を知ったから3年以内に手続きを相続登記をしないと10万円以下の過料の対象となる
  • 住所変更登記も義務化され、2年以内に手続きをしなければ5万円以下の過料の対象になる
  • 義務化とセットで相続人申告登記や登記権利者のみの単独申請を認めるなど登記手続きの簡略化が予定されている
  • 不動産の所有権移転登記時に生年月日や海外居住者の連絡先の情報提供など連絡先確認のための情報の情報の提供が必要となる
  • 所有している不動産の一覧情報(所有不動産記録証明書(仮称))を本人又は相続人から法務局に対して交付を請求できる

この相続登記・住所変更登記の義務化については、我々専門家としては知っておくべきポイントです。2019年の相続法改正で遺産分割や遺贈等を伴う相続登記、名義変更について登記の対抗力付与の問題とセットで認識しておくべきポイントです。

今回の改正は、不在所有土地問題と密接に関連する共有関係の整理など民法の改正も踏み込まれています。相続実務家としては、改正要綱案は確認しておくべき内容なので、一度内容を確認しておくことをおススメします。

相続後の裁判実務を知っている弁護士だから話せる生前対策で押さえておきたいポイントとは?

遺産分割で揉めている調停事件は年々増え続けています。相続手続きを受任したところ、紛争性は少なく揉めないと思っていただろうと考えていたとしても、想像以上にこじれてしまったという案件を扱ったことがある先生も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

兄弟(相続人)全員が平等に相続すればいいのですが、生前に援助や生前贈与があったり、名義預金や使途不明金の発覚、介護や同居家族の配慮、土地建物の有無などの要因で、当時言えなかった不平不満が契機に、争族となってしまうということもあり得るのです。

「基本的に揉めそうな案件は弁護士に」というスタンスの先生方もいるでしょうが、その一歩手前の段階で、紛争になってしまった事態を想定して、生前対策の提案をすることが今後求められていきます。

今回、相続案件をを多く取り扱っている弁護士法人 法律事務所オーセンス 弁護士 堅田 勇気氏をお招きして、紛争案件に携わった経験から気を付けるべき相続後の紛争案件から考える生前からできる対策提案のポイントのほか、相続法改正によって変わった「遺留分侵害額請求」や「特別受益・寄与分」の取り扱いについても詳しく解説していただきます。
士業・専門家が知っておきたい失敗事例や将来の相続時を見据えた生前対策提案のポイントを詳しく解説しますので、ぜひご参加ください。

  • 遺産分調停における遺産の範囲と評価の取り決めの段取りと調停と訴訟の使い分け方法
  • 遺言無効を主張されたら?あやしい遺言が出てきた時の取り扱い
  • 使途名不明金、名義預金の範囲と取り扱いの考え方
  • 相続法改正後の遺留分侵害額請求の取り扱いと生前でできるアドバイス
  • 改正で期限が10年に!?特別受益、寄与分は実際にはどこまで認められる?
  • 紛争を終わらせる裁判を見据えた遺産分割での落としどころの作り方
【生前対策・家族信託コミュニティー~LFT~2021年5月定例会】
「専門家が知っておくべき相続における裁判所での遺産分割交渉の裏側」

【日   程】:2021年5月12日(水)
【時   間】:13:30 ~ 16:30
【参  加  費】:お一人様 11,000円(税込)

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