高齢者の預貯金払戻しルールが変わる!?相続専門家が知っておきたい全国銀行協会の金融取引の考え方とは?

高齢者預金

2021年2月18日に全国銀行協会から高齢者との金融取引、親族との代理等に関する考え方が発表されました。この発表は2月19日の日本経済新聞朝刊にも取り上げられ、相続専門家が注目したニュースです。

私もそうですが、相続対策の専門家が受ける相談内容として、最近多いのが、本人確認が厳格化されているなか金融機関での預貯金の管理ができなくなる、凍結する可能性があることから、財産管理対策として家族信託や任意後見の活用の相談を受ける機会が増えてきています。

全国銀行協会の発表では、高齢者、とりわけ代理権がない親族との取引方法についても言及したことから話題になった内容です。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 金融機関の高齢者や代理人との取引を行う際の銀行窓口の参考となる指針に過ぎない
  • 今までと同じく、認知判断能力が低下した顧客本人との取引の基本は成年後見制度が原則
  • 認知症高齢者本人の代わりに、親族が預金引き出しや解約については、診断書の提出のほかに複数の行員による面談、医療介護費の内容の確認、ビデオ会議など非対面ツールの利用などを示している
  • 代理人届を提出した親族との取引は従来通り認めているほか、財産管理契約も容認している

全国銀行協会の高齢者、代理取引の指針について、専門家として押さえておきたいポイントについて解説していきます。

金融機関の高齢者や代理人との取引を行う際の銀行窓口の参考となる指針に過ぎない

銀行

まず、前提として押さえておきたいのは、2021年2月18日に公表された、「金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会 福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版) 」は全国銀行協会に加盟する金融機関が銀行窓口対応の参考となる考え方としてまとめたものであり、直ちにこの資料の内容に拘束され、全国統一で運用されるものではないということを理解しておく必要があります。

本考え方は、銀行の窓口等において、高齢のお客さま(特に認知判断能力 の低下した方)や代理の方と金融取引を行う際の参考となるよう取引のポイントや、好事例等を掲載している。

(金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)より引用)

資料の中でもあるとおり、加盟する金融機関が高齢者との窓口取引等の参考となる取引の事例やポイント等を紹介しています。
私も信託などで付き合いのある金融機関に問い合わせてみましたが、それぞれの金融機関で本資料以前につくられた高齢者取引における社内マニュアルなどがあり、それぞれの金融機関でマニュアルをもとに現在は運用しているという話を聞きます。
当然、この指針が発表されたため今後各金融機関で社内マニュアルを制作、改定、見直しをする際に参考となる可能性は高いですが、直ちに拘束されるものではないため、すぐに運用がされるものではありません。

わかりやすく例えていうと、法律や倫理、規則等とは別に士業・専門家も加盟する団体などの指針があり、その指針に沿って各事務所の組織運営を行っていると思いますが、その指針と各事務所における運営と同じイメージで考えるとわかりやすいです。

そのため、高齢者、代理取引等の運用については各金融機関に個別に確認することが今まで通り必要になります。

ただし、その指針の考え方については、各金融機関が今後この方向で進んでいく可能性があるため、理解はしておく必要があります。

認知判断能力が低下した顧客本人との取引の基本は成年後見制度

認知判断能力が低下した顧客本人との取引
▷ 認知判断能力の低下した本人との取引においては、顧客本人の財産保護の観点から、親族等に成年後見制度等の利用を促すのが一般的である。
▷ 上記の手続きが完了するまでの間など、やむを得ず認知判断能力が低下した顧客本人との金融取引を行う場合は本人のための費用の支払いであることを確認するなどしたうえで対応することが望ましい

法定代理人との取引
▷法定代理人(成年後見人等)との取引は、法的な裏付けのある代理権者との取引となることから、法定代理人であることを確認のうえ、各行の取引手順に則って対応する。

(金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)より引用)

原則的な考え方としては、認知症による判断能力が低下した場合の取引については、基本として成年後見制度の利用を従来通り求められ、その利用を促しています。しかし、成年後見制度の利用者総数は 2019年12月末で約 22 万人にとどまっており、成年後見制度の煩雑さから利用がすすまず、財産が凍結してしまっている事例が多いのが現状です。そこで、成年後見制度を利用していない(法的な代理権がない)親族からの本人のための医療費、生活費などの支払いに応じるため、下記の考え方を示しています。

親族など無権代理人との取引が認められる可能性がある事例を紹介している

無権代理人との取引
▷親族等による無権代理取引は、本人の認知判断能力が低下した場合かつ成年 後見制度を利用していない(できない)場合において行う、極めて限定的な対応である。成年後見制度の利用を求めることが基本であり、成年後見人等 が指定された後は、成年後見人等以外の親族等からの払出し(振込)依頼には応じず、成年後見人等からの払出し(振込)依頼を求めることが基本である。 ”
▷ 本人が認知判断能力を喪失していることを確認する方法としては、本人との面談、診断書の提出、本人の担当医からのヒアリング等に加え、診断書がない場合についても、複数行員による本人面談実施や医療介護費の内容等のエビデンスを確認することなどが考えられる。対面での対応が難しい場合には、非対面ツールの活用等も想定される。
▷ 認知判断能力を喪失する以前であれば本人が支払っていたであろう本人の医療費等の支払い手続きを親族等が代わりにする行為など、本人の利益に適合することが明らかである場合に限り、依頼に応じることが考えられる。
▷ 無権代理の親族等からの払出し依頼に応じることによるリスクは免れないものの、真に本人の利益のために行われていることを確認することなどにより、当該リスクを低減させることができる。
▷預金が僅少となり、投資信託等の金融商品しかまとまった資産として残っていない顧客の医療費や施設入居費、生活費等の費用を支払うために、親族等から本人の保有する投資信託等の金融商品の解約等の依頼があり、やむを得ず対応する場合、基本的には上記の預金の払出し(振込)の考え方と同様であるが、投資信託等の金融商品は価格変動があることから、一旦、解約等を行った場合、預金と異なり、原状回復が困難である。この点に鑑み、金融商品の解約等については、より慎重な対応が求められる。

(金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)より引用)

あくまで成年後見制度の利用が基本であり、代理権がない親族からの取引対応は限定的な対応であることを述べています。
金融手続きができない高齢社本人の代わりに、親族が代わりに医療費や介護費支払いのための預金引き出しや解約については、診断書の提出のほかに複数の行員による面談、医療介護費の内容の確認、ビデオ会議など非対面ツールの利用などを示しています。また、投資信託の解約については原状回復が困難なため預金よりも慎重な対応を求めています。

代理人届を提出した親族との取引は従来通り認めている

関係性構築

任意代理人との取引
▷本人から親族等への有効な代理権付与が行われ、銀行が親族等に代理権を付与する任意代理人の届出を受けている場合は、当該任意代理人と取引を行うことも可能(本人の認知判断能力に問題がない状況であれば、本人との取引が可能なケースもある)。

(金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)より引用)

従来から行われてきた、代理人届の提出された代理人との取引です。

まだ認知症になっていない、または認知症の診断を受けていても判断能力の著しい低下がない場合、事前に金銭を管理する口座を凍結させないために採れる有効な手段です。金融機関に代理人届を提出してもらい、代理人用のキャッシュカードを発行して利用する方法です。ですが、代理人となれる範囲に制限があり、金融機関によっては生計を共にし、同居する家族など、範囲が狭く設定される場合があり、ひとり暮らしの親の財産管理では使えない場合があります。

あくまで代理人届であるため、資産承継機能はなく、本人の相続後は、遺言又は遺産分割で資産承継先を定めることになります。

代理人制度を利用することにより、代理人が取引を行うことができますが、金融機関において、口座名義人である本人の判断能力が喪失したことと判断された場合には、代理人制度での取引ができなくなる可能性もあるので、注意してください。代理人届のほか、金銭を管理するための家族信託や商事信託の活用方法については別の記事で紹介していますので、興味ある方は確認をしておいてください。

【家族信託VS商事信託】どっちを使う?顧客に応じた活用方法とは?

財産管理契約でも金融取引が可能と示している

任意後見監督人が選任される前であっても、任意後見人が顧客本人の預金取引を代理できるよう、任意後見契約とともに委任契約を締結している事例もある。その場合は、任意後見監督人が選任される前であっても委任契約の受任者である任意後見人との取引が可能。

(金融取引の代理等に関する考え方および銀行と地方公共団体・社会福祉関係機関等との連携強化に関する考え方(公表版)より引用)

移行型任意後見における財産管理契約について、任意後見が発動するまでは預貯金の払い戻しなどに対して消極的な金融機関がある現状から、発動前の財産管理契約でも取引が可能と考え方は示しています。この内容にそって、今後金融機関の対応が変わることが期待されます。

まとめ

  • 金融機関の高齢者や代理人との取引を行う際の銀行窓口の参考となる指針に過ぎない
  • 今までと同じく、認知判断能力が低下した顧客本人との取引の基本は成年後見制度が原則
  • 認知症高齢者本人の代わりに、親族が預金引き出しや解約については、診断書の提出のほかに複数の行員による面談、医療介護費の内容の確認、ビデオ会議など非対面ツールの利用などを示している
  • 代理人届を提出した親族との取引は従来通り認めているほか、財産管理契約も容認している

全国銀行協会の発表した考え方は、あくまで全国銀行協会に加盟する金融機関の会員の参考とするための情報であり、会員各行に一律の対応を求めるものではないということです。

金融機関の個別の状況等により異なる対応が取られるケースもあり、異なる対応がとられる可能性がある点は留意してください。
今後は一定の条件、手続きを経れば、施設や医療費の支払いについては代理権がない親族でも預金口座の引き出しなどが行える可能性がありますが、診断書の提出など厳格な要件は求められる可能性があります。どの範囲までの引き出しが認められるか、どんな手続きが必要かは個別に確認が必要です。

【3月17日オンラインセミナー】
相続専門家が知っておきたいと相続税対策各種特例の設計活用方法

平成27年の相続税の改正に伴って、相続税申告の対象になる方は、全国で11万人規模に達し、相続相談を受けている中でも、相続税を心配する方も多いのではないでしょうか。税理士ならそれを素直に受け答えすればよいですが、それ以外の士業や専門家になると、「餅は餅屋に」ということですべて税理士に任せがちな先生も多いのではないでしょうか。

しかし、家族信託を含む生前対策や相続対策のコンサルティング業務をやっていきたいと考えている方は、税理士にすべてを任せていては、お客様の希望に沿った最適な提案ができない、といっても過言ではありません。お客様のご家族関係や資産状況を聞いて、問題点や課題を発見し解決策を提示するには、税務の概要と組み立て方は理解しておく必要があります。

今回、㈱イケダアセットコンサルティング 代表取締役兼公認会計士 池田幸弘 氏をゲスト講師にお迎えして、「生前対策提案の際にこれだけ知っておいたらいい」という基本的な対策方法、特例、さらに、2021年の改正ポイントも合わせて解説いただきます。

【生前対策・家族信託コミュニティー~LFT~2021年3月定例会】
相続専門家が知っておきたい相続税対策と各種特例の設計活用方法

・初回相談のキモ。財産状況と相続税の概算の把握の方法
・家族関係から、遺産分割案と財産管理対策を考慮する
・相談時のキモは財産切り離し対策と財産評価減対策
・小規模宅地、配偶者軽減など税務特例をフル活用するポイント
・相続専門家が押さえておくべき2021年税制改正のポイント

【日   程】:2021年3月17日(水)
【時   間】:13:30~16:30

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