特別受益・寄与分に期限が設けられる!?士業・専門家のための所在不明土地関連の改正のポイント

期限

相続登記の義務化のための要綱案が2021年2月10日に法制審議会民法・不動産登記法部会第26回会議において決定され、2021年4月21日国会で成立しました。相続登記義務化に大きな注目が集まりましたが、要綱案においては、特別受益・寄与分の期限や土地所有権放棄制度の創設、所在不明共有者への対応など、相続・不動産実務にまつわる専門家が押さえておべき改正内容も含まれています。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 特別受益による贈与及び寄与分については、改正後は相続開始から10年間経過すると主張することができなくなる
  • 土地の所有権を相続した相続人が土地を放棄できる制度が創設されるが、要件が厳しく専門家の手助けがないと実現は難しい
  • 所在不明共有者がいる土地について、その共有者の協力が得られなくても裁判手続きを経ることにより利活用のほか、土地共有持分を取得又は売却することができる制度が創設される

今回の記事では、相続・不動産専門家が知っておくべき、相続登記義務化とともに改正予定の所在不明土地に関する重要ポイントについてお伝えしていきます。

遺産分割に期間制限が設けられる!?

遺産分割協議

民法上は、遺産分割には期間の制限がありません。

そのため、相続発生後に遺産分割がされないまま、さらに相続を迎えると、相続人の相続(数次相続)が発生し、権利関係が複雑化するという問題がありました。

さらに、上記に加えて、特別受益としての贈与や寄与分の問題が加わると、相続分の算定がさらに複雑になるという問題もあります。そこで、改正後は、この相続分の算定がややこしくなる、特別受益と寄与分については、相続開始の時から10年という期間制限が設けられます。

つまり特別受益による贈与及び寄与分については、改正後は相続開始から10年間経過すると主張することができないことになります。遺留分侵害額請求権の除斥期間(相続開始時から10年間)と同じく10年というルールという設定がされるのでセットで押さえておきべき論点です。

改正要綱案により、10年の期間経過後は家庭裁判所における遺産分割での特別受益及び寄与分の主張ができなくなりますが、法定相続分を前提とした協議による遺産分割は排除していません。改正前においても、法定相続分と異なり、例えば全財産を配偶者が相続するという遺産分割協議はできることから、改正後も遺産分割協議において、法定相続分と異なる割合で特定の相続人に相続させることもできます。

あくまで、相続人間で揉めた場合は10年間経過すると特別受益と寄与分主張ができなくなるという理解をしておきましょう。

土地所有権の放棄ができる制度が創設される

所在不明土地

少子高齢化により地方の土地を手放したい人が増えてきます。
民法239条には、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」という規定がありますが、不動産の所有権の放棄はしたくとも、土地所有権を放棄することができるかどうかは,現行法上必ずしも明らかではなく、実務上はできない状態です。

そのため、土地が何もされないまま、管理不能な状況が発生していることから、所有者不明土地の発生を抑制するため、一定の要件の下で土地所有権の放棄を可能とする制度を創設されます。

放棄ができるのは、土地の所有権を相続した相続人

土地の所有権を放棄できる者は、相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により、その土地の所有権の全部又は一部を取得した者に限られます。

つまり、土地の所有権を相続した相続人に限定されます。
生前から所有している不要土地を放棄するということはできません。

放棄をするには、法務大臣への承認が必要

土地所有権を放棄を希望する相続人は、本人の意思だけでは放棄はできず、法務大臣への放棄の承認申請が必要です。その土地が共有の場合には、ほかの共有者も含めて共同で承認申請する必要があります。

なお、ほかの共有者については、相続により土地共有持分を取得するという要件は求められていません。土地所有権を相続した相続人が1人いれば共同で申請ができます。そのため、土地所有権の放棄の相談を受けた際には、相続で取得した相続人がいれば放棄できる可能性があるので確認をしてみてください。

法務大臣の承認後、国が管理に要する10年分の標準的な費用の相当額の負担金を納付が求められ、負担金を納付することにより国庫へ土地所有権が帰属します。

土地所有権放棄の要件が多く、ハードルは高い

改正要綱案では、法務大臣に対して承認申請対象の土地について承認する義務を負わせていますが、承認するための要件が多く、ハードルが高いものとなっています。

具体的には、承認申請対象地が以下のいずれにも該当しないことを求めています。

① 建物の存する土地
② 担保権又は使用及び収益を目的とする権利が設定されている土地
③ 通路その他の他人による使用が予定される土地として政令で定めるものが含まれ
る土地
④ 土壌汚染対策法第2条第1項に規定する特定有害物質(法務省令で定める基準を
超えるものに限る。)により汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがあ
る土地
⑥ 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限
る。)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要する
もの
⑦ 土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地
上に存する土地
⑧ 除去しなければ土地の通常の管理又は処分をすることができない有体物が地下に
存する土地
⑨ 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ通常の管理又は処分を
することができない土地として政令で定めるもの
⑩ ①から⑨までに掲げる土地のほか、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費
用又は労力を要する土地として政令で定めるもの

つまり、更地で賃借権、抵当権など他人の権利がない、境界が明示されており、隣接地とのトラブルがないなど土地の利用ができる状況で引き渡すことを求めているのです。

そのため、土地所有権を放棄するためには、その前提となる整備が必要なため専門家の協力を得なければ一般の方が放棄するのは難しいと思われる内容となっています。しかし、不承認事由に該当しなければ、承認をしなければならないと魏義務付けているため、要件を満たせば土地所有権は放棄できる制度となっています。

相続をした不要不動産の処分の方法として土地所有権放棄という制度が増えるため、相続手続きを携わった顧客に対するアドバイスの一つとして、今後はその調査とそれにかかる費用を確認をしてみるのも法改正後は選択肢の一つとなります。

所在不明共有者がいる土地の利用・管理・持分取得のための制度が創設

共有不動産を利用するためには,民法上、ほかの共有者のの協力を得て手続きを行うがあります。しかし、共有者の一部が不明である場合には,その者の同意をとることができず,土地の利用や処分が困難になる状況が発生していました。

空き家

そこで、不明共有者等に対して裁判手続きを行うことで残りの共有者の同意で土地の利用を可能とする制度及び不明共有者が有する共有持分を取得する制度が創設されます。

所在不明共有者を抜きに、土地の利用・処分が可能になる

共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加える(利用する)ことができる旨の裁判をすることができるようになります。

また、賃借権であれば5年、建物の賃借権であれば3年以内など、共有物の管理に関する事項についてはし、所在不明共有者を除いた他の共有者の持分の過半数の決定で行うことができるようになります。

他の共有者が所在不明共有者が有する共有持分を買い取り、又は売却することができる

共有者が,裁判手続きにより不明共有者の持分を相当額の金銭を供託して取得する制度特定の第三者に売却する権限を不明共有者以外の共有者に付与することを認める制度が創設されます。これにより、所在不明共有土地の解消を図ることができ、土地の利活用ができるようになります。

まとめ

  • 特別受益による贈与及び寄与分については、改正後は相続開始から10年間経過すると主張することができなくなる
  • 土地の所有権を相続した相続人が土地を放棄できる制度が創設されるが、要件が厳しく専門家の手助けがないと実現は難しい
  • 所在不明共有者がいる土地について、その共有者の協力が得られなくても裁判手続きを経ることにより利活用のほか、土地共有持分を取得又は売却することができる制度が創設される

相続登記の義務化のほかにも、所在不明土地に関する財産管理人制度、隣地所有者との相隣関係の見直しなど我々専門家としては密接に実務に関連する改正がなされます。2024年に改正が見込まれているので、所在不明土地問題で悩むお客様に将来に向けた提案ができるよう、ぜひ改正点は押さえてお来ましょう。

相続後の裁判実務を知っている弁護士だから話せる生前対策で押さえておきたいポイントとは?

遺産分割で揉めている調停事件は年々増え続けています。相続手続きを受任したところ、紛争性は少なく揉めないと思っていただろうと考えていたとしても、想像以上にこじれてしまったという案件を扱ったことがある先生も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

兄弟(相続人)全員が平等に相続すればいいのですが、生前に援助や生前贈与があったり、名義預金や使途不明金の発覚、介護や同居家族の配慮、土地建物の有無などの要因で、当時言えなかった不平不満が契機に、争族となってしまうということもあり得るのです。

「基本的に揉めそうな案件は弁護士に」というスタンスの先生方もいるでしょうが、その一歩手前の段階で、紛争になってしまった事態を想定して、生前対策の提案をすることが今後求められていきます。

今回、相続案件をを多く取り扱っている弁護士法人 法律事務所オーセンス 弁護士 堅田 勇気氏をお招きして、紛争案件に携わった経験から気を付けるべき相続後の紛争案件から考える生前からできる対策提案のポイントのほか、相続法改正によって変わった「遺留分侵害額請求」や「特別受益・寄与分」の取り扱いについても詳しく解説していただきます。
士業・専門家が知っておきたい失敗事例や将来の相続時を見据えた生前対策提案のポイントを詳しく解説しますので、ぜひご参加ください。

  • 遺産分調停における遺産の範囲と評価の取り決めの段取りと調停と訴訟の使い分け方法
  • 遺言無効を主張されたら?あやしい遺言が出てきた時の取り扱い
  • 使途名不明金、名義預金の範囲と取り扱いの考え方
  • 相続法改正後の遺留分侵害額請求の取り扱いと生前でできるアドバイス
  • 改正で期限が10年に!?特別受益、寄与分は実際にはどこまで認められる?
  • 紛争を終わらせる裁判を見据えた遺産分割での落としどころの作り方
【生前対策・家族信託コミュニティー~LFT~2021年5月定例会】
「専門家が知っておくべき相続における裁判所での遺産分割交渉の裏側」

【日   程】:2021年5月12日(水)
【時   間】:13:30 ~ 16:30
【参  加  費】:お一人様 11,000円(税込)

詳細はコチラ

 

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