なぜ外国人投資家は日本の不動産を選ぶのか?市場動向から読み解く専門家の渉外サポート設計

事務所の次の柱をどうつくるか。そう考えたとき、今まさに大きなビジネスチャンスが、渉外不動産という分野にあります。円安、そして日本の市場に対する信頼を背景に、外国人投資家による不動産取得の動きは活発になる一方です。専門家への相談も年々増えていますが、この流れをただ見ているだけではもったいない。

彼らが「なぜ日本の不動産を選ぶのか」という市場背景を理解し、求められるサポートを的確にサービスへと昇華させること。それが私たち専門家がこのチャンスを掴むための、唯一の道です。

今回の記事のポイントは以下のとおりです。

  • 円安や市場の安定性を背景に外国人投資家の需要は拡大しており、専門家にとって大きなビジネスチャンスとなっている。
  • 不動産取得と在留資格(ビザ)は連動しないため、この点をクライアントに初期段階で明確に説明することが専門家の重要な責務である。
  • 宣誓供述書を要する渉外登記、外為法上の報告義務、納税管理人の選任など、非居住者特有の複雑な手続きには専門家のサポートが不可欠である。
  • 専門家の価値は単発の登記に留まらず、売却時の源泉徴収対応や、本国法が絡む渉外相続までを見据えた長期的なアドバイザー業務にある。

この記事では、外国人投資家の動向を読み解き、クライアントに説明すべき注意点、そしてそこから新たな収益機会を掘り起こす方法について、具体的なポイントを解説します。

1. なぜ今、外国人投資家が日本の不動産市場に注目するのか

私たち専門家が渉外不動産をビジネスとして捉える上で、最初に知るべきこと。それは「なぜ、外国人投資家は日本を選ぶのか」という彼らの動機です。

依頼者の投資心理を理解すること。それは、より的確なアドバイスとサービス設計の第一歩となります。

1-1. データで見る投資動向:投資用途とエリアの拡大

近年のデータは、外国人投資家の存在感が、量・質ともに高まっていることを明確に示しています。国土交通省の調査では、日本の不動産投資市場における海外投資家の割合は、2020年に34%に達するなど、高い水準で推移しています。

かつては東京中心部のオフィスビルが主な対象でしたが、今では物流施設、賃貸マンション、商業施設、ホテルと、投資対象は多様化しています。

さらに、投資エリアも東京一極集中から、大阪、名古屋、そして成長著しい福岡や札幌といった地方中枢都市へと関心は広がっています。これは、各都市の再開発事業や独自の経済成長が評価されている証であり、私たち地方の専門家にとっても大きなチャンスが訪れていることを意味します。

1-2. 投資を後押しする3つの要因:円安、収益性、市場の安定性

外国人投資家が日本市場に魅力を感じる理由。それは、主に3つの要因に集約されます。

◆歴史的な円安
海外の投資家にとって、現在の円安は日本の資産を非常に安価に購入できる、まさに絶好の機会です。
例えば、1ドル110円の時に約91万米ドルだった1億円の物件が、1ドル150円の現在では約67万米ドルで購入できます。為替だけで実質的に25%以上も安くなる計算となり、これほど強力な購入動機はありません。

◆主要都市と比較して高い収益性
東京の不動産利回りは、ロンドンやニューヨーク、香港といった他の国際金融都市と比較しても、依然として国債利回りとの間に魅力的な利回り差を保っています。物件価格が相対的に安価でありながら、安定した稼働率や比較的低い管理・修繕コストが、確実な純収益に繋がっています。

◆市場の安定性と透明性
日本は政情が安定しており、地政学的リスクが極めて低いと世界的に評価されています。法制度が整備されている点も重視されており、特に信頼性の高い登記制度は、権利関係を明確にし、海外投資家が安心して多額の資金を投じられる重要な背景となっています。

1-3. 専門家が理解すべき法制度上の優位性:諸外国との比較

渉外不動産実務の前提として、日本の法制度が国際的に見てどの程度開かれているのかを客観的に把握しておくことは、私たちの理解を深めます。日本の特徴は、諸外国と違い、国籍を理由とした不動産権利取得の制限が原則として存在しない点です。例えば、中国では土地はすべて国有で、外国人は所有権を持てません。タイやフィリピンなど、他の多くの東南アジア諸国でも、外国人の土地所有は原則禁止されています。

一方、日本では「重要土地等調査法」のような例外を除き、外国人が日本人とほぼ同じ条件で土地・建物の所有権を取得できます。

このような外国人による不動産投資規制の少なさが、海外の個人富裕層から大手機関投資家まで、幅広い資金を日本の不動産市場に惹きつける理由の一つとなっています。

2.外国人投資家に不可欠な専門家サポート:ビザ、手続き、税務という3つの論点

日本の不動産市場は外国人投資家にとって多くの魅力があります。しかし、投資の成功を阻む「手続きの煩雑さ」は、単なる事務的な問題ではありません。ビザ(在留資格)、法的手続き、そして税務という、投資そのものの成否を左右しかねない根本的な論点です。

本章では、この3つの論点を具体的に解説し、なぜ専門家のトータルサポートが不可欠となるのかを明らかにします。

2-1. 論点1:不動産とビザは「連動しない」という鉄則

渉外不動産実務において、私たちが初期段階で必ず伝えるべき、最も重要かつ危険な誤解があります。

それは、「日本の不動産を購入すれば、日本に住むためのビザ(在留資格)が取得できる、または有利になる」という考えです。この点を曖昧にしたまま手続きを進めると、将来クライアントとの間で深刻な信頼関係の毀損につながります。

◆「不動産を買えばビザが取れる」は、日本では通用しない

クライアントが抱きがちなこの期待は、きっぱりと否定しなければなりません。これは絶対に覆ることのない「鉄則」です。

【誤解の原因】
欧米等の「ゴールデンビザ」制度です。ポルトガルやギリシャ、あるいは米国のEB-5プログラムなど、一部の国では、多額の不動産投資が永住権や長期滞在資格の申請要件となっています。クライアントは、日本にも同様の制度が存在すると考えがちです。

【日本の現実】
日本に同様の制度は一切ありません。不動産の所有と在留資格の審査は、全く別のプロセスとして運用されています。日本の在留資格は、あくまで日本での「活動内容」に応じて許可されるものであり、資産の保有額が直接的な評価基準になることはありません。

「経営・管理ビザ」についても、不動産の所有は必須要件ではありません。審査の核となるのは、実現可能性の高い詳細な事業計画です。専門家として正確に伝えるべきは、「向こう数年間の収支計画、具体的な取引先の見込み、雇用計画など、事業の継続性と安定性を客観的な数字で示すこと」が求められるという事実です。

もしクライアントが不動産取得と事業経営の両方を望む場合、私たちは早い段階で在留資格申請を専門とする行政書士と連携し、それぞれの手続きを並行して進めるよう助言すべきです。

2-2.権利を守るための「手続きの論点」

不動産の売買契約が成立しても、それで終わりではありません。クライアントの権利を法的に確定させ、国のルールを遵守するために、専門家が主導すべき重要な手続きが続きます。

◆不動産登記:権利を公に示すための手続き

不動産の所有権を第三者に主張できるようにするため、所有権移転登記は不可欠です。これは司法書士の専門業務です。外国人クライアントの場合、以下の点で手続きが複雑化します。

  • 【住所を証明する書類】
    日本の住民票がないため、本国の公証人が認証した「宣誓供述書」などが必要になります。
  • 【本人確認と印鑑証明】
    実印の文化がないため、在外公館発行の「署名証明書」や、宣誓供述書がその代わりとなります。

この宣誓供述書の準備は、実務上、最も時間を要し、注意を払うべき点です。記載事項(氏名、住所など)が登記申請情報と一言一句違わないことはもちろん、どの国の公証役場で、どのような形式で認証を受けるべきか、事前に法務局と綿密な協議が必要となるケースも少なくありません。

◆外為法:国際的な資金の流れを報告する義務

居住者による不動産取得において、見落とされがちな法律の一つに「外国為替及び外国貿易法(外為法)」があります。

海外に居住している外国人などの「非居住者」が日本の不動産を取得した場合、原則として取得日から20日以内に、日本銀行を経由して財務大臣へ事後報告を行う必要があります。ただし、全ての取引が報告対象となるわけではなく、ご自身やご親族が居住するための不動産として購入した場合などは報告不要です。

この報告義務は、不動産を取得したご本人にあります。私たちの役割は、まず依頼者へ本手続きの存在を伝え、失念されることのないよう注意を促すことです。

また、この報告手続きは委任状がなくとも代理申請が可能です。必要に応じて専門家が代行することも、依頼者の負担を軽減する有効な手段と言えるでしょう。

2-3. 論点3:国境を越える「税務・管理の論点」

依頼者が海外に居住している場合、不動産購入後の税務処理が大きな課題となります。この課題に対応することこそ、専門家が付加価値を提供できる絶好の機会です。

◆納税の窓口:代理人としての「納税管理人」

非居住者は、日本国内での納税手続きを自分で行うことができません。そこで、以下の役割を担う代理人が必要になります。

  • 役割:固定資産税の納付、確定申告書の提出、税務署からの通知受領など
  • 解決策:「納税管理人」を選任し、税務署に届け出る。

納税管理人が扱う税金は、所得税に限りません。毎年課税される固定資産税・都市計画税の納付、不動産取得時に一度だけ課税される不動産取得税の申告・納付もその対象となります。専門家としては、単に税理士を紹介するだけでなく、海外の依頼者と円滑にコミュニケーションが取れる、渉外税務の経験が豊富な税理士と連携することが必要です。

◆納税義務:日本で得た所得は日本で申告

海外に住んでいても、日本国内の不動産から得た所得は、日本の税法に従って申告・納税しなければなりません。これが「国内源泉所得」の考え方です。

  • 対象となる所得の例 賃料収入(不動産所得)や、売却して得た利益(譲渡所得)など

不動産所得の計算は、総収入金額から必要経費を差し引いて算出します。この必要経費には、管理費、修繕費、減価償却費などが含まれます。適切な減価償却計算を行うことで、課税所得を圧縮できるため、専門的な知識が必要です。また、非居住者の所得税率は、原則として20.42%の分離課税となる点も、居住者との大きな違いです。依頼者が「知らなかった」では済まされないのが税金です。購入後の税務についても事前にしっかりと説明し、申告漏れのリスクを防ぐことが専門家の信頼に繋がります。

3. 外国人投資家に対して長期的なビジネスをどう構築するか

渉外不動産業務の最大の魅力は、一度きりの登記手続きで終わらない点にあります。これまでの複雑な手続きを解決する専門家としての役割を基盤に、クライアントの投資ライフサイクル全体を支援する、長期的なビジネスを構築することが可能です。

3-1. 出口戦略としての「不動産売却」サポート

投資である以上、必ず「出口戦略」が存在します。クライアントが将来、その不動産を売却する際には、再び私たち専門家の出番となります。ここでのサポートは、単なる登記手続きに留まらない、税務知識と連携が求められる業務です。

◆最重要ポイント:非居住者からの買主の「源泉徴収義務」

非居住者が売主となる不動産売買で、専門家が絶対に知っておかなければならないのが、買主側に課せられる所得税の源泉徴収義務です。これは、売主が非居住者である場合、買主が売買代金の支払時に10.21%を天引きし、国に納付しなければならないというルールです。買主は、個人、法人いずれの場合でもこの義務が課せられます。

このルールを知らずに決済を進めてしまうと、以下のような事態に発展しかねません。

  • 買主へのリスク
    源泉徴収を忘れた場合、納税義務は買主に残ります。後日、税務署から追徴課税を受け、売主と紛争になる可能性があります。
  • 取引の破談リスク
    決済直前にこの話が出ると、買主は予期せぬ義務に混乱し、不信感を抱きます。最悪の場合、売買契約そのものが白紙に戻るリスクもあります。
  • 専門家としての信頼失墜
    この重要事項について事前に助言できなかった専門家は、クライアントと相手方の双方から信頼を失います。

このリスクを回避するため、私たち専門家はプロとして取引全体を設計する必要があります。まず、この源泉徴収義務には例外があります。売買代金が1億円以下で、かつ買主が自己またはその親族の居住用として購入する場合など、一定の要件を満たせば、源泉徴収義務はありません。

私たちの役割は、売買契約を結ぶ前に、提携税理士と共にこの免除要件に該当するかを検討することです。該当する、該当しないにかかわらず、取引当事者に事前に説明し、安全な取引の枠組みを主導的に構築することが期待されます。購入時から関与している専門家だからこそ、依頼者の状況を深く理解し、スムーズで安心感のある出口戦略を支援できるのです。

3-2. 専門性が最も問われる「渉外相続」への備え

長期的な関係性の終着点にして、最も高度な専門性が問われるのが「渉外相続」です。これは、専門家として他者との差別化を図れる、付加価値の高い業務です。

◆論点1:準拠法の確定

外国人オーナーが亡くなった場合、最初の論点は「どの国の法律で相続手続きを進めるか(準拠法の確定)」です。

  • 原則
    日本の「法の適用に関する通則法」により、相続は被相続人の本国法(国籍国の法律)によると定められています。
  • 例外:反致(はんち)
    しかし、ここで国際私法特有の「反致」という論点が生じます。例えば、被相続人(アメリカ人)の本国法(アメリカの州法)が、「不動産の相続は、その不動産の所在地法による」と定めている場合、日本の法律(本国法)→アメリカの州法→日本の法律(所在地法)と、準拠法の指定が送り返されてきます。日本の通則法はこの反致を認めているため、結果として日本の民法が適用されることになります。

このように、準拠法がどの国の法律になるかを確定させるだけで、高度な法的知識と調査能力が要求されます。

◆論点2:海外の証明書類の収集と翻訳

準拠法が確定したら、次は相続人を確定するための証拠書類を海外から収集します。これが実務上の大きな論点となります。

必要となる書類は、遺言書の有無や有効性、そして被相続人の出生から死亡までの身分関係を証明する出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書など多岐にわたります。国によっては戸籍制度がなく、これらの書類を一つ一つ集める必要があります。これらの膨大な原文資料を翻訳し、日本の登記制度で求められる要件と照らし合わせる作業は、時間と労力を要します。

◆論点3:法務局との協議

渉外相続登記は、定型的な案件ではありません。そのため、申請前に管轄の法務局と綿密な事前協議を行うことが不可欠です。収集した書類で相続関係を証明する論理構成を説明し、登記官の理解を得ておくことで、スムーズな申請が可能になります。この対外的な交渉能力も、専門家として極めて重要なスキルです。

また、渉外相続手続きを見据えて、事前に遺言書作成の提案をするといった業務も外国人投資家に対して有効です。

4. まとめ

外国人による日本の不動産投資市場は、な成長軌道に乗っています。これは、私たち士業専門家にとって、ビジネスチャンスが到来していることを示しています。

  • 円安や市場の安定性を背景に外国人投資家の需要は拡大しており、専門家にとって大きなビジネスチャンスとなっている。
  • 不動産取得と在留資格(ビザ)は連動しないという「鉄則」があり、この点をクライアントに初期段階で明確に説明することが専門家の重要な責務である。
  • 宣誓供述書を要する渉外登記、外為法上の報告義務、納税管理人の選任など、非居住者特有の複雑な手続きには専門家のサポートが不可欠である。
  • 専門家の価値は単発の登記に留まらず、売却時の源泉徴収対応や、本国法が絡む渉外相続までを見据えた長期的なアドバイザー業務にある。

これらのポイントが示すのは、外国人投資家が直面する課題が、まさに私たち専門家の介在価値そのものであるという事実です。在留資格の誤解を解き、煩雑な渉外登記を完遂させ、国境を越える税務のルールを遵守し、そして将来の相続まで見据える。これら一連のプロセスは、断片的な知識では決して乗り越えられません。

求められているのは、単なる手続きの代行者ではなく、国際的な視野を持ってクライアントを安全に導く「渉外アドバイザー」としての役割です。この専門性を高めることは、事務所のサービスを高付加価値化し、他者との明確な差別化を図り、継続的な収益の柱を確立するための、極めて有効な戦略と言えるでしょう。

[otw_is sidebar=otw-sidebar-1]

関連記事

  1. 【2025年10月16日施行】「資本金3000万円」要件にどう対応する…

  2. 在日中国人の相続登記:「準拠法」と「公証書」の論点と実務対応

  3. 経営管理ビザを士業・専門家がビジネスチャンスとして使うためには?ビザの…

  4. 【2025年最新版】外国人の不動産購入は怖くない!司法書士が実務のポイ…

  5. 士業が知っておくべき外国人の会社設立と経営・管理ビザ

  6. 法改正後の登記における外国人の氏名のカタカナ・ローマ字運用とは?