受託者の利益相反行為とは?利益相反行為の概要と許容条項の定め方を詳しく解説

受託者が委託者所有の不動産に同居する、無償で居住用として利用する、といった事例が家族信託では多く取り扱います。その際に注意しておかなければならないのが、受託者の利益相反という問題です。

専門家は、将来想定される利益相反行為を考慮の上、信託スキームを立案する必要があります。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 利益相反行為とは、ある行為が一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為を指し、利益相反行為に該当するか否かは行為の実質ではなく形式・外形で判断される
  • 信託の受託者についても利益相反行為の制限があり、対象としては、①自己取引、②信託間取引、③代理人受託者間取引、④間接取引の4つがある
  • 自己取引、信託間取引違反は無効(信託外第三者がいれば取消)、代理人受託者間取引、間接取引は受益者による取消の対象となる
  • 将来予想される利益相反行為に対しては、利益相反行為許容条項を定めておくことで受託者による信託財産の利用が可能となる
  • 利益相反行為許容条項は、どのような行為(許容する契約内容(使用貸借、賃貸借、売買など)、契約目的、許容する取引内容の条件の範囲など)まで認めてるのかをある程度具体的に信託契約で定めておくべき

受託者の利益相反行為の考え方と許容条項の定め方について解説します。

利益相反行為とは?

ある行為が、一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為を指します。
本人の代理人的な地位にある者は本人の利益のために行動すべきであり、代理人個人の利益を追求してはいけないという立場にあります。そこで、本人と代理人間との行為、取引について一定の制約があるのです。代理人的な地位にあるものは本人の代わりに契約などの行為ができることから、行為の相手方の取引窓口が代理人個人であると、自分もしくは第三者のために有利な契約をしてしまう可能性があります。

そこで、判例・通説は行為の動機や意図、行為内容が本人にとって不利益となっているかという実質的判断ではなく、代理人と本人との行為という行為の外形上で判断するという形式面での判断をしています。

一般的な事例としては、民法では未成年者と親権者間の行為、成年後見人と成年被後見人との行為は特別代理人の選任を求められ、親権者、成年後見人は本人を代理できません(民法826、860)。成年後見人について成年後見監督人がいるときは成年後見監督人が代表の(民法851Ⅳ)、会社法では、株式会社と取締役との利益相反取引について、株主総会又は取締役会の承認が必要です(会社法356、365)。

受託者の利益相反行為

受託者は受益者の利益のために行動すべき立場であり、受託者個人の利益を追求してはいけないという忠実義務を負っています(信託法30)。そのため、信託法では、受託者が信託財産に関して自己又は第三者のために取引する場合を利益相反行為としています(信託法31)。

受託者の利益相反行為の4つの類型

信託法で制限している受託者の利益相反行為は4つあります。

・自己取引
・信託間取引
・受託者代理人間取引
・間接取引

以下、上記4つを解説します。

自己取引

一番イメージがしやすい、受託者と受託者個人間の行為です。
信託財産を受託者個人の固有財産とする(不当に低い金額で信託財産を受託者個人で購入する)、また受託者個人の固有財産を信託財産にする(不当に高い金額で信託財産に売却する)といった行為が該当します。

自己取引に該当する行為は無効です(信託法31④)。
受益者の追認を得ることにより当該行為の時に遡って有効となります(信託法31⑤)。ただし、受託者が自己取引で得た財産を第三者に転売するなど、信託外の第三者が関係した場合には、取引の安全性を考慮し、当該第三者が自己取引が利益相反行為に該当することを知っていた時、又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者による取消の対象となります(信託法31⑥)。また、受託者は信託法の一般規定による任務懈怠責任により損失填補、原状回復義務を負います(信託法40)。

信託間取引

複数の信託の受託者となっている場合における、信託財産間の行為です。
受託者が父と母それぞれから信託を受けている場合であって父の信託財産の一部を母の信託財産に移してしまうといった行為が該当します。

自己取引と同様に信託間取引に該当する行為は無効です(信託法31④)。
受益者の追認を得ることにより当該行為の時に遡って有効となります(信託法31⑤)。ただし、受託者が受託者間行為で移動させた財産を第三者に転売するなど、信託外の第三者が関係した場合には、取引の安全性を考慮し、当該第三者が自己取引が利益相反行為に該当することを知っていた時、又は知らなかったことにつき重大な過失があったときに限り、受益者による取消の対象となります(信託法31⑥)。また、受託者は信託法の一般規定による任務懈怠責任により損失填補、原状回復義務を負います(信託法40)。

受託者代理人間取引

受託者の行為(取引)の相手方が第三者であるものの、第三者の代理人として受託者個人が該当する場合の行為です。
受託者と会社間の契約において受託者が会社の代表取締役に受託者個人がなっている場合、受託者と会社の代表取締役が同一人となってしまい実質受託者個人で取引内容を決定できるため、制限を受けます。

代理人受託者間取引に該当する行為は、当該第三者が利益相反行為の事実を知っていた時、又は知らなかったことに重大な過失があったときに限り、受益者による取消の対象となります(信託法31⑦)。信託外の第三者保護のため当然には無効にはなりません。また、受託者は信託法の一般規定による任務懈怠責任により損失填補、原状回復義務を負います(信託法40)。

間接取引

受託者が、第三者と行為(取引)をすることで、信託財産と受託者個人の利益が相反する行為を間接取引といいます。
受託者個人が負う債務について、信託不動産を担保に抵当権を設定するような行為が該当します。民法や会社法では本人と代理人との関係で判断しますが、信託法では範囲を広げ、受託者個人のみならず、受託者の利害関係人も含んでいる点について注意が必要です。
本来は民法や会社法では対象とならない、受託者の配偶者や子などが利益を受ける場合も含まれます。そのため、受託者の子のローンを担保するため、信託財産に抵当権を設定するような行為も含まれるのです。

信託法31条1項4号
 信託財産に属する財産につき固有財産に属する財産のみをもって履行する責任を負う債務に係る債権を被担保債権とする担保権を設定することその他第三者との間において信託財産のためにする行為であって受託者又はその利害関係人と受益者との利益が相反することとなるもの

代理人受託者間取引と同様に間接取引に該当する行為は、当該第三者が利益相反行為の事実を知っていた時、又は知らなかったことに重大な過失があったときに限り、受益者による取消の対象となります(信託法31⑦)。信託外の第三者保護のため当然には無効にはなりません。また、受託者は信託法の一般規定による任務懈怠責任により損失填補、原状回復義務を負います(信託法40)。

利益相反行為が予想される場合には、許容条項を設ける

利益相反行為をしたとしても、次の例外に当てはまる場合は禁止されてません(信託法31Ⅱ)。

信託契約で利益相反行為を許容する定めがあるとき
・重要な事実を開示した上で、受益者の承認を得たとき
・相続その他の包括承継により、信託財産が固有財産へ帰属したとき
・信託の目的を達成するための合理的な必要性と認められる場合で、受益者の利益を害さないことが明らか、又は様々な事情を総合的に考慮して正当な理由があるとき

家族信託を使うスキームは高齢の委託者兼受益者の財産管理するためにつかうことが多くあり、信託契約後に受益者の承認が得られないという可能性が高いです。そのため、信託を扱う専門家としては、顧客の状況に鑑み、将来利益相反行為が予想される際には、契約書作成の段階で利益相反行為許容条項を定めておくという対策が必要です。

利益相反行為許容条項の定め方

利益相反行為許容条項については、単に「受託者が自己取引・間接取引ができる」という条項で足りるのかという論点があります。立法担当者寺本昌広氏著の「新しい信託法」が参考になります。同書籍によると、下記の通り述べています。

~第1号にいう「信託行為の…の定め」があるといえるためには、どの程度の具体的な定めが要求されるのかという問題がある。一般論としていえば、例外として許容される行為が他の行為と客観的に識別可能な程度の具体性をもって定められ、かつ、当該行為について許容することが明示的に定められていなければならず、受益者の承認を得たことによる例外(第2号)が認められるためには当該行為について重要な事実を開示することが必要であることに鑑みても、信託行為に単に「自己取引ができる」という程度の定めがあるだけでは足りないというべきである。他方、自己取引を許容する信託行為の定めがあるとしても、実際に受託者が自己取引をするに当たっては、当該受託者は、別途善管注意義務を負うことから、個別・具体的な取引条件まで常に信託行為で明らかにしておくべきものとまではいえないだろう。
~寺本昌広氏著「新しい信託法」から引用~

つまり、具体的な取引内容、条件までの個別詳細な明示までは不要であるものの、重要な事実を開示するという観点からどのような行為(許容する契約内容(使用貸借、賃貸借、売買など)、契約目的、許容する取引内容の条件の範囲など)まで認めてるのかをある程度具体的に信託契約で定めておく必要があるということです。

具体的には、下記のような形で取引内容、条件などを明示しておくことで、定めた範囲で受託者が同居のため、信託不動産を利用するなどを定めておくことで、当該定めが定める条件において受託者が信託財産を利用できます。

信託不動産である居住用不動産を受託者に使用貸借する場合

委託者兼受益者は、受託者及びその家族が受益者とともに信託不動産を自己の生活の本拠として、無償で使用することを承諾する。

信託不動産である居住用不動産を受託者が経営する会社に賃貸借する場合

委託者兼受益者は、下記に定める条件を満たした場合に限り、受託者が経営する株式会社●●●●の事業所として賃貸借することを承諾する
・2社以上の不動産会社に対して賃貸条件についての意見を求めること
・信託不動産近隣の賃貸相場と同程度の賃貸内容とする賃貸借契約とすること

まとめ

  • 利益相反行為とは、ある行為が一方の利益になると同時に、他方への不利益になる行為を指し、利益相反行為に該当するか否かは行為の実質ではなく形式・外形で判断される
  • 信託の受託者についても利益相反行為の制限があり、対象としては、①自己取引、②信託間取引、③代理人受託者間取引、④間接取引の4つがある
  • 自己取引、信託間取引違反は無効(信託外第三者がいれば取消)、代理人受託者間取引、間接取引は受益者による取消の対象となる
  • 将来予想される利益相反行為に対しては、利益相反行為許容条項を定めておくことで受託者による信託財産の利用が可能となる
  • 利益相反行為許容条項は、どのような行為(許容する契約内容(使用貸借、賃貸借、売買など)、契約目的、許容する取引内容の条件の範囲など)まで認めてるのかをある程度具体的に信託契約で定めておくべき

家族信託・民事信託を活用すれば、将来の財産管理ができます。しかし、信託契約で定めていない事項については、委託者、受益者の判断能力がなければ信託契約の変更ができないというリスクもあるのです。委託者が元気であれば、認めていたであろう利益相反行為については承認、追認ができなければその行為が無効、取消の対象となってしまいまねません。そのためには、どのようなことが将来想定されるのかを考慮して信託契約を設計、立案していきましょう。

家族信託契約書を作成する際にどのように設計・起案していますか?

家族信託というのは、士業・専門家にとって遺言や成年後見では対応できなかった範囲をカバーできる「一手法」です。自由度が高い分、お客様のニーズにあわせた対策を設計できます。しかし、一方で、オーダーメイドの契約書というのは経験も必要。そして、制度の歴史も浅く十分な判例もない状況も重なって、なかなかハードルが高く感じる方もいらっしゃるでしょう。

特に、家族信託契約書作成になると士業・専門家の技術が問われます。
もし、間違った信託契約書を作成してしまうと、本来支払う必要がない税金が課税されてしまう、金銭を管理する信託口口座が開設できない、一つの条項がないだけで不動産の売却処分等ができないといったリスクが発生してしまいます。
ここができるのとできないのとでは、士業・専門家にとっては大きな差でもあります。
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