信託金銭で購入した不動産で信託登記漏れ。事後的に登記手続きをする方法とは?

最近、家族信託・民事信託を組成した後、何の手当もされていない、問題となる契約書がでてきた、などの相談を受ける機会が以前よりも増えてきました。

多くの士業の先生が信託を取り組み始めたものの、知識不足、経験不足から誤った状態で今に至ってしまっているようです。けれども、紛争など当事者の問題がでてこないから間違いが表面化していないため、契約後は特に何も問題が生じなかったものの、その後、依頼者の相続や信託した財産の処分という場面で問題が発覚してしまうという事態に陥ってしまっています。

そんな中、最近受けた相談でも、信託金銭を活用して不動産を購入したものの、信託登記が漏れてしまっていたという事例を取り扱いました。

今回の記事のポイントは、下記の通りです。

  • 信託財産で購入し、信託財産を売却して得た財産は当然に信託財産となる
  • 信託契約後に信託金銭で購入した信託不動産は、所有権移転登記と信託登記を同時に行う必要がある
  • 信託した不動産の信託登記が漏れてしまった場合においても事後的に信託登記のみを受託者で行うことも可能

信託登記が漏れてしまった物件の対処方法について解説していきます。

信託登記が漏れてしまった事例

とある専門家に信託契約を依頼したという方からの相談でした。

信託契約後数年経過し、受託者が管理する信託金銭を用いて収益物件を購入したとのことです。

信託法上、受託者が管理する財産は、信託契約で定められた信託財産のほか信託財産に属する財産の管理、処分、滅失、損傷、その他の事由により受託者が得た財産も当然、信託財産となります(信託法16①)。

(信託財産の範囲)
第十六条 信託行為において信託財産に属すべきものと定められた財産のほか、次に掲げる財産は、信託財産に属する。
一 信託財産に属する財産の管理、処分、滅失、損傷その他の事由により受託者が得た財産

例えば、「賃貸用不動産(アパート等)と金銭」を信託財産とした場合、賃貸用不動産が信託財産となるほか、信託中に賃貸用不動産から得られた「賃料収入」、金融機関に預けた預貯金から得られる利息、賃貸用不動産を売却した際の「売却代金」、売却後の金銭で購入した「新たな不動産」も当然、信託財産となります。

今回のケースでも、信託財産である金銭を用いて、受託者である息子が信託契約で定めた内容に基づき収益物件を購入できます。

相談者は家族信託契約を結んでいること、信託した金銭で購入することを、不動産仲介会社の営業担当者に伝えました。
ですが、売主方との売買交渉の中、家族信託していることを失念してしまい、不動産登記手続きを担当する司法書士にも伝えず、売買契約、代金支払い、物件引き渡し、購入後の所有権移転登記手続きの一連の流れが済まされてしまったとのことです。

その後、確定申告を担当する顧問の税理士さん経由で信託不動産に信託登記が入っておらず、受託者個人名義の所有不動産として登記されていることが判明したのです。

既に、信託登記が漏れてしまい、所有権移転登記がされている物件の対応をどうするか、苦慮しました。

信託登記の申請方法とは?

信託登記の申請方法ですが、その申請手続きについて不動産登記法第98条に定められています。

(信託の登記の申請方法等)
第九十八条 信託の登記の申請は、当該信託に係る権利の保存、設定、移転又は変更の登記の申請と同時にしなければならない。
2 信託の登記は、受託者が単独で申請することができる。
3 信託法第三条第三号に掲げる方法によってされた信託による権利の変更の登記は、受託者が単独で申請することができる。

つまり信託の登記は、不動産登記法第98条1項により売買による所有権移転の登記と同時に申請する必要があります。
この条文をそのまま解釈すると、売買による所有権移転登記と信託の登記は同時に申請しなければならず、所有権移転登記後に、後から信託登記のみを申請することはできないと読み取れてしまいます。今回の事例では、その売買による所有権移転時に信託登記がなされていないという事態が生じてしまっているのです。

そこで、どう対応するか次の2つの方法考えました。

・売買による売主から買主(受託者個人)への所有権移転の登記を抹消し、再度受託者名義への所有権移転及び信託登記を申請する。
・信託の登記のみを後から追加で登記できる方法を模索する。

間違った登記を抹消し、再度所有権移転登記及び信託登記する方法

この方法をとると、確かに条文通りシンプルに手続きします。ですが、再度、不動産の売主に協力してもらう他、抹消登記の費用、そして、再度の所有権移転登記費用のコストがかかりすぎることから、現実的ではありません。

所有権移転登記は、土地の固定資産税評価額の1.5%、建物については2%の税金がかかること、そして、不動産取得税も別途かかります。今回の事例は2億円の収益物件の売買であることからその税金を2重に負担してしまうということになってしまうのです。また、同時申請を求めてしまうと、委託者と受託者という信託当事者ではない第三者(今回のケースでいうと収益物件の売主)の強力がないと登記手続きができません。

後から追加で信託登記する方法

そこで、文献にあたり、登記の先例等を調べ、解決方法を模索しました。信託登記の追加の方法です。信託登記のみであれば、所有権移転登記及び不動産取得税のコストを掛けずに申請でき、かつ、収益物件の売主の関与なく登記手続きを進められます。

調べたところ、昭和41年10月31日民事甲第2970号民事局長電報回答に下記のような内容があります。

信託財産の処分等及び信託財産の原状回復の場合には、必ずしも同一の申請情報をもって同時に申請する必要はない

現在の信託法改正以前の、この当時においても、所有権移転登記と信託登記は同時に申請することを求められていましたが、信託財産の処分による所有権移転登記してしまった場合でも、事後的に信託登記しても差し支えないという先例です。

そこで、収益不動産の所在地を管轄する法務局の登記官に上記回答が信託法改正後の現時点でも適用されるべきという照会をしたところ、信託登記のみの追加申請が認められました。

まとめ

  • 信託財産で購入し、信託財産を売却して得た財産は当然に信託財産となる
  • 信託契約後に信託金銭で購入した信託不動産は、所有権移転登記と信託登記を同時に行う必要がある
  • 信託した不動産の信託登記が漏れてしまった場合においても事後的に信託登記のみを受託者で行うことも可能

信託後に期間が経過して、資産の売却、購入など、資産変動が生じてくる事例が増えてきます。取り組み始めている専門家が増えているとはいえ、制度を知らない専門家も多くいるのが現状です。

今回の事例のように、受託者の個人名義で登記されてしまうと、信託不動産であることを示せず、受託者個人の財産として登記されてしまうといった事態になってしまいます。場合によっては、受託者個人の名義のままでいると、購入資金の出所はどこなのか、贈与ではないのかといったみなし贈与のリスクや、そのまま相続が発生した場合の相続手続きにおけるリスクなども生じかねません。

信託契約に携わった専門家が、顧客と関係ができていればその後の財産の処分などの定期的なアドバイスもできたはずです。一度契約が済んだ後は関係がないという状況だと、アドバイスも何もされず、このような問題が発生してしまうのです。

顧客の家族環境、生活状況、財産の変動など、生前対策や家族信託を取り組んでいくとなると、その後の環境の変化が発生します。契約したその場限りではなく、顧客と関係性を継続して作っていく、そのためには何をすべきか、顧客との接点づくりを考えていくことが必要です。

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