行政書士の平均年収はなぜ低い?実態と収入アップの方法を解説

行政書士を目指している方、またすでに行政書士として活躍している方にとっても、行政書士の平均年収は気になるポイントではないでしょうか。令和4年度の行政書士試験の合格率は12.13%と低く、難易度の高い国家資格ですが、資格を取得しても高収入が見込めないのでは困ります。

今回の記事のポイントは以下のとおりです。

  • 行政書士の平均年収は580万円ほど。初任給は20万円ほど
  • 独立開業する場合は年収1,000万円を見込めることがある
  • 行政書士は仕事内容によっても報酬が異なる
  • 年収を増やすには、独立開業・ダブルライセンス・業務内容の見直しの3つを検討する

本記事では、行政書士の年収の実態と、年収を増やすためにできる具体的な方法について紹介しています。ぜひご覧になり、行政書士の仕事で高年収を実現してください。

参考:令和4年度行政書士試験/都道府県別試験結果一覧

1.行政書士の平均年収

賃金構造基本統計調査(令和4年)によれば、「法務従事者」と「公認会計士・税理士」の年収は以下のとおりです。

職種 月収平均 年間賞与平均 年収平均
法務従事者 565.5千円 2927.9千円 9713.9千円
公認会計士・税理士 476.8千円 1744.8千円 7466.4千円

一方、厚生労働省の職業紹介サイトでは、行政書士の年収は約580万円と紹介されています。そのため、公認会計士や税理士、弁護士や裁判官などの法務従事者と比べると、年収は低めであると考えられます。

参考:令和4年賃金構造基本統計調査

参考:厚生労働省「行政書士 – 職業紹介」

1-1.事務所に勤務する場合

行政書士の働き方は、次の2つに大別できます。

・事務所に勤務する
・独立開業する

年収は、働き方によっても異なります。事務所に勤務している場合は、年収は400~600万円程度が一般的です。

なお、事務所に勤務する場合、行政書士も一般企業の会社員と同じで、早く昇進したり営業実績が高くインセンティブを受け取ったりすると高年収を実現できます。

そのため、営業力が優れている行政書士であれば、数年で年収600万円程度に到達することがあります。反対にいつまでも与えられた業務だけをこなしている場合は、40代、50代になっても年収400万~600万円程度です。

1-1-1.行政書士1年目の給料

行政書士1年目の給与は、一般企業の新入社員と同じく20万円ほどです。ただし、事務所や企業に資格手当制度がある場合は、少し増えることもあるかもしれません。

1-1-2.行政書士の男性女性別年収

正社員として働く行政書士においては、年収に男女差はありません。

しかしパートとして勤務している場合は、正社員よりは勤務時間が短い傾向にあり、賞与がない・少ないため、年収も低くなることがあります。育児や家事と両立するためにパート勤務する方は女性に多いため、トータルで見ると平均年収も女性のほうが低くなると考えられます。

1-2.独立開業する場合

事務所に勤務する限りは、事務所の給与体系に沿って給与や賞与が支払われます。営業によるインセンティブがある場合でも、基本となる給与・賞与から大きく外れた収入を得られるわけではありません。

しかし、独立開業する場合は別です。仕事を多くこなせばこなすほど収入を増やせるため、年収1,000万円を目指すことも可能です。

また、事務所に勤務する場合とは異なり、勤続年数や役職などによって基本給が決まることもありません。営業力に優れているなら、開業1年目から高年収を実現できる可能性もあります。

2.行政書士の仕事内容別の報酬目安

行政書士事務所では、業務内容ごとに報酬(手数料)を設定していることが一般的です。事務所に勤務している行政書士の給与に反映されるわけではありませんが、独立開業するときには収入に大きく影響するため、報酬の相場を知っておくことは大切です。

行政書士の主な業務である次の5つに分けて、報酬相場を見ていきましょう。

・書類作成
・遺言書の作成・執行
・許認可申請
・融資制度の申請代行
・相談業務

2-1.書類作成

行政書士は、行政機関に提出する書類の作成・申請の代行をします。

たとえば、企業が有する知的資産をまとめた知的資産経営報告書を作成する場合であれば、1件あたり60万~70万円の報酬が目安となります。行政書士の資格だけでなく、経営に関する専門的な知識が必要な書類ですが、高額報酬を期待できる業務のひとつです。

2-2.遺言書の作成・執行

行政書士は遺言書の作成だけでなく、執行もおこなうことがあります。自筆証書遺言書の作成をサポートする場合は5万~10万円程度公正証書遺言書の作成をサポートする場合は10万~20万円程度の報酬が相場です。

また、遺言をした方が亡くなり、遺言を執行するときは、20万~30万円程度の報酬を受け取れます。遺言執行手続きには、遺言書どおりに相続を進めるだけでなく、金融資産や動産の名義変更手続きなども含まれます。

遺言書がないときや遺言書どおりの相続をしないときには、遺産分割協議書を作成することが一般的です。行政書士が遺産分割協議書の作成をサポートするときは、5万円程度の報酬を受け取ります。遺言書の作成・執行と比べると比較的難易度が低いため、高単価の業務です。

2-3.許認可申請

行政機関などに許認可を申請する手続きも、行政書士が請け負います。たとえばNPO法人を設立するときは、行政庁での認証を受けなくてはいけません。行政書士が書類の作成・提出を代行するときの報酬は、15~25万円程度が目安です。

旅館業許可の申請手続きを行政書士が代行する場合は、20~30万円程度が目安となります。なお旅館・ホテルを開業するときは、旅館業許可だけでなく、飲食店営業許可や消防法令適合通知書の申請なども必要になることが多いため、さらに多くの報酬を期待できます。

また、外国籍の方が日本国籍を取得するための手続きである帰化許可申請を代行するときは、1件あたり20~30万円程度が報酬目安です。業務内容は複雑ではありますが、慣れればスムーズにでき、1ヶ月に数件こなすことも可能です。

2-4.融資制度の申請代行

日本政策金融公庫の創業融資や自治体の融資制度などを利用する企業のサポートも、行政書士がおこなうこともあります。一律に報酬が決まるほかの業務とは異なり、融資制度の代行業務の報酬額は、融資額によって決まる成功報酬制であることが一般的です。

融資額や融資制度にもよりますが、日本政策金融公庫の創業融資であれば融資額の3~5%程度が目安となります。高単価となり効率性の高い業務ですが、融資を受けられないときは収入もなくなる点に注意が必要です。

2-5.相談業務

行政書士が請け負う仕事のひとつに、相談業務があります。たとえば相続対策や許認可申請などについて、相談を受けることも多いでしょう。

行政書士事務所にもよりますが、相談業務は無料で対応しているところも多いです。相談から実務につながるため、無報酬であっても相談業務に注力することは大切なことだといえます。

3.行政書士の年収はなぜ低い?

行政書士全体の年収は、ほかの士業と比べて高い水準とはいえません。厚生労働省の職業紹介サイトによれば、平均年収は約580万円、ハローワーク求人案件の月額平均賃金は26万円です。

行政書士の国家試験の難易度は高く、何年も勉強をして合格を勝ち取った方も多いでしょう。もちろん、すべてがお金のためではありませんが、資格獲得のための労力に比べて報酬が少ないと感じる方もいるのではないでしょうか。行政書士の年収が低くなる理由について見ていきましょう。

3-1.雇われ行政書士の年収は低め

行政書士の平均年収が低いのは、事務所などに雇用されて働く雇われ行政書士の年収が低いからです。平均で500万円程度で、一般の会社員と変わらない水準とされています。

企業規模が小さい場合は、さらに平均年収は低くなります。行政書士が勤務する事務所は小規模のところも多く、雇われ行政書士として働く限り、高年収は見込みにくいでしょう。

3-2.開業行政書士の平均年収は高め

独立開業して働く場合は、雇われ行政書士よりは平均年収が高めになります。また、雇われ行政書士と同程度、あるいは少なめしか稼げない場合でも、定年がないため生涯年収が高くなる可能性もあります。

ただし、すべての開業行政書士が高年収ではありません。多くの顧客がついてコンスタントに報酬を得られない場合には、雇われ行政書士よりも年収が低くなることや、廃業を余儀なくされることもあります。

3-2-1.都市部と比べると地方は年収が低め

都市部のほうが企業案件などが多いため、年収も高額になる傾向にあります。いっぽう、個人の顧客をメインで対応する地方の開業行政書士は、取り扱う案件が小規模で、年収も低めになりがちです。

ただし、都市部は維持費も高額になる点に注意しましょう。事務所を借りる場合なら、家賃の負担は地方部よりも高くなります。また、物価も高めのため、高年収でも生活にゆとりを感じないかもしれません。

3-2-2.個人差が大きい点に注意が必要

開業行政書士の平均年収が高いのは、一部の行政書士の年収が高いからです。一部の行政書士を除くと、雇われ行政書士よりも年収が低い方も少なくありません。

開業すれば収入が増えると安易に考えるのではなく、開業後のプランを丁寧に立てておくことが必要です。たとえば営業や集客、経営効率化の方法なども慎重に検討し、勝算があると判断できてから開業してください。

4.行政書士が収入を増やす方法

行政書士は難易度の高い国家資格ですが、取得すれば誰もが高年収を得られるというわけではありません。実際に弁護士や公認会計士、税理士よりも低年収であるケースも多く、難関資格に見合わないと感じることもあるでしょう。

行政書士が高年収を目指すなら、次の3つの方法を検討してみてください。

・独立開業する
・ダブルライセンスを取得する
・業務内容を見直す

それぞれの方法について、具体的に説明します。

4-1.独立開業する

行政書士が事務所に勤務している限り、高年収を期待することは難しいでしょう。営業能力などを買われて事務所の共同経営者などになれば別ですが、一社員として働く場合は限界があります。

高年収を目指すのであれば、独立開業がおすすめです。ただし、独立開業すれば、かならずしも高年収を得られるというわけではありません。ほかの事務所との差別化を図り、また、事務所の立地などにもこだわり、綿密に計画を立ててから独立しましょう。

4-2.業務内容を見直し、専門性を高める

業務内容を見直すことでも、年収を上げることが可能です。

たとえば相続関連に特化した行政書士事務所として開業すれば、遺言書の作成から執行、遺産分割協議書の作成までトータルで対応できます。また、利用者側も「相続関連ならこの事務所」と認識できるため、依頼しやすくなります。

4-3.ダブルライセンスを取得する

行政書士も十分に対応できる業務の種類が多い仕事ですが、関連のある資格を取得すると、さらに活躍の場が広がります。たとえば司法書士の資格も取得すれば、許認可申請だけでなく会社設立登記の手続きにも対応でき、起業する方に向けてワンストップのサポートをおこなえます。

また、社会保険労務士も、おすすめのダブルライセンス向けの資格です。社会保険労務士は社会保険関連の手続きの代理ができるため、行政書士として会社設立の書類作成をおこなうだけでなく、雇用契約書の作成や報酬制度の確立、就業規則の策定などもサポートできます。

4-4.副業も取り組む

時間に余裕がある場合は、副業にも取り組んでみてはいかがでしょうか。たとえば、文章を書くのが得意なら、法律関係のWebライターとして働けます。

また、文章があまり得意でない場合は、法律関係の記事の監修をするのもおすすめです。ほかのWebライターが執筆した文章が法律的に正しいかどうかチェックするだけのため、執筆よりも短時間で終わります。

自治体や商業施設などのイベントで、法律相談をする仕事もあります。法律相談をとおして地域で顔が知られるようになれば、事務所への集客にもつながるでしょう。

5.まとめ

本記事では、行政書士の年収実態と年収を増やす方法について解説しました。内容をまとめると、以下のとおりです。

  • 行政書士の平均年収は580万円ほど。初任給は20万円ほど
  • 独立開業する場合は年収1,000万円を見込めることがある
  • 行政書士は仕事内容によっても報酬が異なる
  • 年収を増やすには、独立開業・ダブルライセンス・業務内容の見直しの3つを検討する

事務所や企業に勤務する場合、高年収を期待することは難しくなります。行政書士資格を取得するまでの道のりを思うと、割に合わないと感じる方もいるかもしれません。

高年収を目指すのであれば、独立開業することと、ほかの行政書士事務所との差別化が必要です。ダブルライセンスや業務内容の見直しを実施し、ぜひ高年収を実現してください。

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