依頼者からの子ども複数人を受託者にしたいという依頼にどう対応するか?

家族信託が認知症対策など高齢者問題に効果的であるとして注目を集めています。特に、複数の子供がいるケースで、各受託者が財産管理をしっかりと行い、同時に相互監督も行いたいとのニーズがあります。士業・専門家がクライアントに対してアドバイスを行う際に重要となるのが、この受託者の選定です。

今回の記事のポイントは下記の通りです。

  • 受託者は1人でも複数でも選べるが、各ケースに適した設定を行うことが重要。
  • 複数受託者の場合、責任と業務が分散し、一人が欠けても信託財産の管理継続ができるが、意思決定過程が複雑化する可能性がある。
  • 信託監督人や受益者代理人といった役割を家族内で適切に配置することで、受託者間の相互チェックとサポートが可能になる。
  • 複数受託者のデメリットを緩和する策として、受託者ごとに別々の信託契約を作成する手法が考えられる。
  • 複数の信託契約を結ぶ際は、財産間での損益通算が不可能である点に注意が必要。

士業・専門家が依頼者の複数人を受託者にしたいという要望に対して、どう対応すべきか注意点も含めて解説します。

家族信託の受託者の役割と人数

家族信託の受託者は信託財産を管理・運用する責任を担います。
また、分別管理義務、善管注意義務、帳簿作成義務などもあります。法律上、特別な資格は要求されませんが、未成年者は選定できません。信頼性と能力が求められるため、選定には十分な配慮が必要です。

複数受託者の設定と注意点

受託者は一人だけでなく、複数人も設定できます。

複数受託者を設定することにより、受託者の責任分散やなんらかの理由(死亡、辞任等)で受託者が途中で減る場合でも、信託業務が継続できるといったメリットがあります。

その一方で、デメリットとしては下記のような問題があります。

受託者の意思決定が複雑化する

受託者の過半数の同意という意思決定が必要なことから、意見が割れたときの信託事務の処理ができなくなるといった問題が生じます。特に、信託不動産は複数受託者の名義で登記されるため、信託不動産を売却などの処分するためには、複数受託者全員の実印、印鑑証明書、登記識別情報が必要となります。施設に入居するなどのタイミングで必要性があったとしても、受託者の一人と意見が一致しない場合には、売却できません。

信託債務を各自が連帯して責任を負う

さらに、信託事務によって生じた債務は一人の受託者が行ったとしても、各受託者が無限責任を負い連帯債務になってしまいます。

信託口口座が開設できない

一部の金融機関では、複数の受託者による信託口口座の開設ができません。その場合には、受託者個人名義の信託専用口座にて管理する必要があります。

以上のようなメリットとデメリットを踏まえ、具体的な家族信託設計の際には、これらの要素をどのように最適化するかがポイントとなります。特に法的な観点から、リスクを軽減するかの計画と調整をしていきます。

複数受託者のメリットを活かしつつデメリットを排除する家族信託を提案する

信託契約において複数の受託者を設定する場合、意思決定の複雑性や管理の非効率性など、多くのデメリットが生じる可能性があります。そのため、受託者は1人にすべきです。

一方で、複数の受託者にはその多様な専門性や視点が資産管理にプラスとなるメリットもあります。そこで、受託者を一人に限定しながらも、複数の受託者がもたらすメリットを最大化する信託契約の設計の提案方法について検討します。

信託監督人と受益者代理人の活用を提案する

信託監督人と受益者代理人を設定することで、一つの信託契約において複数の当事者が関与する形を作ることができます。信託監督人は受託者の監督を行い、受益者代理人は受益者の意志を代行します。

信託監督人

信託監督人は、受託者の財産管理を監視し、必要に応じて是正勧告や報告を行う役割を果たします。特に受益者が高齢者や障害がある子などの場合に、信託監督人は非常に有用なポジションです。

通常、信託監督人は受託者の監督のみが権限とされますが、信託契約に条項を設けることで、一定の財産処分(例.不動産の処分、金〇〇万円以上の取引)について信託監督人の同意を必要とするなど、その権限を拡張することが可能です。

受益者代理人

受益者代理人は、受益者が自らの権利を行使できない場合にその代わりとなる役割を果たします。このポジションは特に、受益者が高齢である、あるいは判断能力が限定されている場合に重要です。受益者代理人は、受託者を監督するだけでなく、信託監督人と異なり、必要に応じて信託契約の変更や終了などの意思決定も行えます。

このように受託者は日々の財産管理と基本的な意志決定に専念し、大きな意思決定決定については信託監督人や受益者代理人と相談し、承認をもらうといった形をとることで、複数の受託者を設定する場合の意思決定が複雑化するというデメリットを緩和しつつ、その相互監督というメリットを享受することが可能です。

受託者ごと複数の信託契約書作成を提案する

信託契約を各受託者ごとに複数結ぶ方法は、信託財産が複数あるケースや、複数の受託者がいるケースで有効です。この方法により、信託契約ごとに受託者を1名とするシンプルな構造が実現し、各信託財産に対する権利関係と管理が明確になります。

受託者が他の信託契約の受益者代理人・信託監督人となる

複数の財産がある場合、それぞれの財産に特化した管理が求められます。例として、自宅、アパート、現金、株式などがあるケースで、長男には自宅と金銭、次男にはアパートと株式の管理を任せるような形で、各受託者に対応した信託契約を結ぶことができます。このようにして、各受託者が特定の財産に対して受託者単独の判断で管理を行うことが可能になります。

そして、各受託者が他の信託契約で信託監督人や受益者代理人になることで、相互監督が実現し、不適切な財産管理を防ぐことも可能です。

損益通算の制限に注意

各信託契約が独立した法的枠組みであるため、各信託財産間の損益通算はできない点には注意が必要です。一つの信託で利益が出ても、別の信託で損失が出た場合には、その損益を相殺することはできません。

複数の信託契約は財産管理の柔軟性を高めますが、その複雑性も増す可能性があります。士業・専門家は家族信託の設計段階で、これらの要点を総合的に考慮し、最も最適な方法を選ぶ必要があります。

まとめ

  • 受託者は1人でも複数でも選べるが、各ケースに適した設定を行うことが重要。
  • 複数受託者の場合、責任と業務が分散し、一人が欠けても信託財産の管理継続ができるが、意思決定過程が複雑化する可能性がある。
  • 信託監督人や受益者代理人といった役割を家族内で適切に配置することで、受託者間の相互チェックとサポートが可能になる。
  • 複数受託者のデメリットを緩和する策として、受託者ごとに別々の信託契約を作成する手法が考えられる。
  • 複数の信託契約を結ぶ際は、財産間での損益通算が不可能である点に注意が必要。

家族信託における受託者の選定と管理は多様な選択肢とそれぞれのメリット、デメリットを熟慮する必要があります。特に複数の受託者を設定する場合や、信託財産が複数ある場面では、その複雑性を適切に管理する戦略が求められます。依頼者の財産状況、家族構成を考慮して、最適な家族信託の仕組みとその後の運用プランを策定できるようにしてください。

家族信託契約書を作成する際にどのように設計・起案していますか?

家族信託というのは、士業・専門家にとって遺言や成年後見では対応できなかった範囲をカバーできる「一手法」です。自由度が高い分、お客様のニーズにあわせた対策を設計できます。しかし、一方で、オーダーメイドの契約書というのは経験も必要。そして、制度の歴史も浅く十分な判例もない状況も重なって、なかなかハードルが高く感じる方もいらっしゃるでしょう。

特に、家族信託契約書作成になると士業・専門家の技術が問われます。
もし、間違った信託契約書を作成してしまうと、本来支払う必要がない税金が課税されてしまう、金銭を管理する信託口口座が開設できない、一つの条項がないだけで不動産の売却処分等ができないといったリスクが発生してしまいます。
ここができるのとできないのとでは、士業・専門家にとっては大きな差でもあります。
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