認知症対策としての家族信託の基本~書籍ブログその7~

みなさん、こんにちは。生前対策・家族信託コンサルタント司法書士の斎藤です。

好評いただいている”ゼロから始める「家族信託」活用術” 。書籍ブログの原稿第7回目を公開します。
今回は、家族信託の基本である認知症対策における家族信託の設計を解説しています。この設計をしっかり理解しておかないと、思わぬところで、誤った運用となっていしまいます。今回の記事を読めば、終了時も基本となる信託の設計をマスターできると思います。

書籍化前の原稿ですので、誤字脱字はご了承ください。それでは、どうぞ(^^)/

第3編 認知症対策おける家族信託の設計
1.家族信託の設計

(1)父郎さんの事例の信託スキームの再確認

長男一郎さんが承継する自宅とAアパート(受託者一郎さん)、長女花子さんが承継するBアパート(受託者花子さん)の2つに信託契約を分け、それぞれが受託者として信託財産を管理し、父郎さんの亡き後は、それぞれに信託財産が帰属するスキームです。

信託スキーム設計1
委託者    父郎さん
受託者    一郎さん
受益者    父郎さん
信託財産   自宅、一郎さん相続予定のAアパート、現金
信託終了事由 父郎さんの死亡
帰属権利者  一郎さん

信託スキーム設計2
委託者    父郎さん
受託者    花子さん
受益者    父郎さん
信託財産   花子さん相続予定のBアパート、現金
信託終了事由 父郎さんの死亡
帰属権利者  花子さん

(2)家族信託のスキームの検討

信託を利用しようとする者が、依頼者の事情、最終的に何をしたいのか、将来何もしないとどういったことになるかなど、全体像のヒアリングをし、家族信託を使った場合の対策とそれ以外の生前対策方法などを検討し、スキームを設計していきます。その中で、家族信託を設計する際に下記事項を決めていきます。

① 家族信託の目的

家族信託には、さまざまなパターンがあるため、まず大きな方向性を決めます。大きく分けると下記の通り5つあります。

・認知症対策
認知症対策で信託を検討する場合には、その後、委託者兼受益者である本人が意思判断能力を喪失した場合に信託に関して変更、終了などの意思決定に関与できる人が不在となります。その場合にその後も受託者に一任でいいのか、受託者を監督又はサポートするために信託監督人や受益者代理人などが必要かどうかを検討する必要があります。父郎さんの事例は認知症対策の事案です。

・生前の財産管理対策
財産管理を後継者に任せたい、後継者にそろそろ経営を任せたいが、株価評価が高くて後継者に自社株式を譲渡できないなど、本来であれば生前贈与等により後継者に財産を譲り隠居したいといったケースです。まだ、本人が元気なため一定程度財産管理や経営に関与したいといった場合には指図権者を設定の上(詳細は第6編で説明します)、まずは家族信託をし、株価評価を下げながらタイミングを見計らって生前贈与するといったことができます。

・遺産分割対策
家族信託後の信託財産は民法上の相続財産ではないため、法定相続人のうち、行方不明者、前妻との間の子、判断能力がない者などがいても、信託終了後に遺産分割協議を要することなく信託契約で定めた帰属権利者に残余財産として帰属します。ただし、遺留分の問題は残ります。

父郎さんの事例では、自宅とAアパートは一郎さん、Bアパートは花子さんが相続する予定ですので、帰属権利者としてそれぞれ信託契約を分けて承継予定者を定めました。

・共有財産対策
家族信託の機能として、自益信託(委託者兼受益者)の場合には、課税関係がないということは先述した通りです。共有者が持っている共有持分について受託者を特定の1名とする信託契約をそれぞれすることにより、名義を1本化し、受益権とすることができます。共有解消方法として売買、交換、贈与、遺言、死因贈与に代わる手段の一つとして家族信託を活用することができます。

・数次相続対策(受益者連続)
自分が亡き後は妻、妻亡き後は長男というように、次の世代までの財産の承継先を決めたいという場合に活用できます。相続後の問題のみならず、認知症対策・生前の財産管理対策・遺産分割対策・共有財産対策を組合わせることにより、生前から死後までの一貫した対策をすることができます。

②信託財産

信託契約により組み込む財産と信託財産としない財産を決めます。先述した通り、信託財産は信託契約の内容に従い財産管理と資産承継がされますが、信託していない財産(年金は信託財産となりませんし、債務は信託できません)は、一般原則通り民法の規定に従うことになるので、生前であれば任意後見、亡き後は遺言、生命保険などの対策を検討する必要があります。

また、不動産のみを信託財産としてしまうと、敷金の返還や管理費用などをどこから捻出するのかという問題が発生します。固定資産税の納税通知書は先述したとおり、不動産の名義人である受託者に送付されますし、収益物件であれば賃料収入が発生しますが、自宅の場合には特にないため、不動産の修繕費用等を捻出する必要があることから、不動産管理費用として現金も併せて信託させる必要があります。そこで、父郎さんの事例では、現金も一部信託財産としました。現金を信託財産とし
て組み込むことで、信託契約の定めに従い、自宅の管理修繕費用や施設の費用、生活費などを、受託者の判断で支払うことができるようになり、預貯金の認知症対策としても有用です。

③ 家族信託を使って何をするのか(受託者の権限)

家族信託を使って何をしたいのが、具体的に内容を決めます。例えば、不動産であれば、管理修繕、賃貸、売買、建替え、測量・分筆、担保設定など、どこまで行えるようにするのか、また現金についても施設など日常生活費の支払いや借入金があればローンの支払いまで行うのか、自社株であれば議決権行使等、受託者に具体的に何をしてもらうのかということを検討していきます。

④ 家族信託の当事者を決める

家族信託の当事者は、委託者、受託者と受益者です。更に受益者を保護するために、信託監督人、受益者代理人を付けるかどうかなど検討し、信託に関する当事者を設定していきます(詳細は90頁参照)。

父郎さんの事例では、委託者兼受益者として父郎さん、受託者として一郎さん、花子さんとし、それぞれ帰属させる財産をそれぞれ信託財産とする内容で当事者を設定しました。

⑤いつまで家族信託を続けるのかを決める

家族信託をいつまで続けるのかを決めます。先述した通り、終わらせ方は非常に重要です。依頼者の将来を想定して、委託者兼受益者の死亡までとするのか、受益者連続型とし、例えば「父及び母の死亡」など、複数人の死亡により終了させるのか、それとも任意のタイミングで終了させる(合意終了)か、依頼者の事情を考慮して検討していきます。

一郎さんの事例では、一郎さんの生前の財産管理と遺産分割対策のための家族信託なので、父郎さんの死亡により終了としました。

⑥ 信託スキーム設計のポイント

信託の設計は多種多数あり正解はありません。あまり複雑にし過ぎると思いもよらない想定外の問題(突然終了し、みなし贈与など)が発生することがあります。ポイントは下記の通りです。

・複雑にし過ぎず、なるべく簡素に設計する

・信託契約書数はいくつにするか検討する
例えば、当事者ごと(委託者別、第二受益者別、残余財産帰属先別)、財産ごと(損益通算はどうするか)など

・終わらせ方に注意
軽減措置は使えるか、相続になるか、贈与にならないか、死亡で終了させるのか、受益者連続(受益権取得)にし、合意終了にするのかなど

・誰に帰属させるのか
特定人に帰属させるか、法定相続人の協議など

今日の記事はここまで

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