信託契約書だけでは「専門家の責任」は果たせない?トラブルを防ぐ「家族信託重要事項説明書」とは?

近年、家族信託(民事信託)は、認知症対策や円滑な資産承継の切り札として、多くの士業・専門家の先生方が実務に取り入れ始めています。「組成件数が〇〇件を超えた」という実績を耳にすることも増えてきました。

しかし、その普及の裏側で、「信託契約後のトラブル」が増えていきかねない現状にも注意していく必要があります。

「受託者である長男が、他の兄弟に財産状況を教えない」
「信託口口座が作れず、結局、親の口座のまま管理していて使途不明金が出た」
「『こんなに手間がかかるなんて聞いていない』と受託者が辞任したがっている」

これらのトラブルの多くは、契約書の条文不備ではありません。
契約締結前の「説明不足」と、当事者間の「認識のズレ」が原因です。
私たち専門家は、法的に完璧な契約書を作るだけでは不十分です。

今回は、私の事務所で必須としている「家族信託重要事項説明書」の活用法について、実務の現場から徹底解説します。これは、士業の先生ご自身の身を守るため、そして顧客満足度を劇的に高めるための必須ツールだと考えています。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 家族信託のトラブルの大半は「法的不備」ではなく「家族間の感情と認識のズレ」から生じている。
  • 宅建業法のような法的義務がなくても、家族信託において「重要事項説明書」を作成・説明することは、専門家の善管注意義務として必須である。
  • 重要事項説明書には、契約書には書かない「実務上の手間」「税務リスク」「金融機関の対応」「終了後の出口戦略」を具体的に記載し、署名をもらうべきである。
  • この説明プロセス(家族会議)を経ることで、当事者の覚悟が決まり、結果としてコンサルティングフィーの高単価化・正当化につながる。
  • 「言った・言わない」の泥沼紛争を防ぐため、説明のプロセス自体を証拠化(ログ化)することが、専門家の身を守る最大の防御策となる。

なぜ「信託契約書」があってもトラブルが起きるのか?

専門家と顧客の視点の違い

私たち実務家は、依頼を受けるとまず「法的安定性」を考えます。

「信託法に基づき、瑕疵のない条項を盛り込むこと」「予備的受託者を定めること」「指図権をどうするか」……これらはもちろん重要です。

しかし、依頼者(委託者や受託者)にとって、難解な法律用語で埋め尽くされたA4用紙数十枚の契約書は、ただの「文字の羅列」に過ぎません。契約の席で彼らが「はい、わかりました」と頷いてハンコを押したとしても、その内実は「先生が言うんだから、大丈夫だろう」という士業の信頼に基づくものです。

ここに、トラブルの種があります。

顧客は、契約書に書かれた条文が、自分たちの信託契約後の日々の財産管理が明日以降、どう変わっていくのかということを具体的にイメージできていません。

実際に起きた「認識不足」によるトラブル事例

私の元に相談に来られた、ある他社組成案件のトラブル事例です。

【事例】
父(委託者)と長男(受託者)で信託契約を締結。次男(受益者代理人)も同意済み。不動産の管理と修繕、生活費の管理を長男が行う内容でした。

【トラブル発生】
同居の父の財産管理を担っていた長男は、日々の収支管理がどんぶり勘定になりがちで、親の介護を見ているのだから当然、という認識から、同居している自分の食費などの生活費の一部を信託財産から支出していました

慌てた長男は「自分のポケットマネー」を出そうとしましたが、税理士から「それは贈与になる可能性がある」と指摘されストップ。この支出について次男から「兄さんは、信託法上の分別管理義務を果たしていない。親の介護をしているとはいえ、信託財産から自分の生活費を支出するのは認められない。帳簿もつけていないとは何事か」と厳しく指摘され、解任請求に発展しました。

長男は言いました。

「契約の時、司法書士の先生は『これで安心です』としか言わなかった。『毎年帳簿をつけろ』『自分の生活費との領収書を分けろ』なんて、あんな分厚い契約書のどこに書いてあったんだ!」と。

これは、長男の怠慢でしょうか? いいえ、私は「専門家の説明責任の欠如」だと考えます。

「受託者になるということは、これだけの事務負担と法的責任を負うことですよ」と、契約前にきちんと伝えておくべきだったのです。

実務家を守る盾「重要事項説明書」の役割

宅建業法にはあるのに、なぜ信託にはないのか?

不動産を買うときは宅地建物取引士から、保険に入るときは募集人から、重要事項説明を受けることが法律で義務付けられています。数千万円、数億円の財産を動かす契約において、説明がないこと自体がリスクです。

しかし、家族信託(民事信託)には、法律上「重要事項説明書」の作成義務はありません。

だからといって、「作らなくていい」ことにはなりません。むしろ、自由設計の契約だからこそ、オーダーメイドの「取扱説明書」が必要なのです。

重要事項説明書は「言った・言わない」を防ぐ証拠資料となる

トラブルになった際、依頼者はこう言います。

「そんなリスクがあるなら、契約しなかった」
「先生はメリットしか説明してくれなかった」

このとき、契約書とは別に、平易な言葉で書かれた「重要事項説明書」があり、そこに「リスクについても説明を受け、理解しました」という署名・押印があればどうでしょうか?

それが、あとあと、先生がきちんと家族信託について口頭だけではなく文書でも説明したというエビデンスとなります。

私の事務所では、重要事項説明を行い、原則として委託者の推定相続人全員の署名捺印を得ることを徹底しています。家族関係などから推定相続人全員の同意を得ることが難しいケースもありますが、その場合には、家族信託に関連する当事者全員の署名を得られない限り、信託契約や信託登記は行いません。それほどまでに徹底しています。

重要事項説明書に盛り込むべき7つのポイント

では、具体的に何を説明すべきか。私の事務所で使用しているひな形のポイントは次の通りです。形式的なことではなく、「現場で揉めるポイント」を先回りして潰す内容にしています。

①信託の目的と「出口戦略」の具体化

「認知症対策」は入り口の話です。重要なのは出口です。

・「父が亡くなったら、この信託はどうなるのか?」
・「その時、不動産は売るのか、長男が引き継ぐのか?」
・「売却した場合の譲渡所得税は誰が払うのか?」

契約書には「信託の終了事由:死亡」としか書いていなくても、重説(重要事項説明)では「死亡後、不動産の名義変更手続きが必要で、その際にも登録免許税がかかること」まで踏み込んで説明します。

②受託者の「無限責任」と事務負担

受託者はボランティア感覚では務まりません。

善管注意義務・忠実義務: 自分の財産以上に慎重に扱わなければならないこと。
分別管理義務: 財布を完全に分けること。
帳簿作成義務: 毎年1回、貸借対照表や損益計算書に準ずる書類を作成し、報告すること。

これを伝えると、「えっ、そんなに大変なんですか?」と尻込みする方がいます。それでいいのです。

覚悟がないまま受託者になり、後で放置されるより、この段階で「税理士にサポート(有料)を依頼する」という判断を引き出すことが、専門家の仕事です。

③信託口口座(屋号付き口座)の限界

「信託専用の口座を作れます」と説明しすぎるのは危険です。金融機関ごとに対応は異なります。

・「作成できる金融機関は限られていること」
・「キャッシュカードが発行されない場合があること」
・「融資を受ける場合の制約」

これらを正直に開示し、「最寄りの銀行で自由に手続きできるわけではない」という不便さを事前に納得してもらいます。

④税務上のデメリット情報(超重要)

ここが最も訴訟リスクが高い部分です。

損益通算の禁止: 信託不動産の赤字を、他の所得等と相殺できないこと。
登録免許税の負担: 信託設定時と、終了時(所有権移転時)の2回コストがかかること。
特定贈与信託など特殊な特例との家族信託において適用ができる、できないかの説明

税理士と連携していない司法書士の先生が、ここをあいまいにしたまま進めてしまい、後で多額の税金が発生して損害賠償請求されるケースがあります。わからない場合は「税務については税理士に必ず確認してください」と明記し、責任分界点を明確にします。

⑤身上監護権がないことの確認

「家族信託をすれば、成年後見人は要らないですよね?」という誤解を解きます。

信託はあくまで「財産管理」です。施設入所の契約や医療同意などの「身上監護」権限は受託者にはないことを明確にし、必要であれば任意後見契約を併用する提案につなげます。

⑥遺留分に関するリスク

信託契約によって特定の相続人に資産を集中させる場合、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクがあることを明記します。信託の仕組みが遺留分対策として機能する可能性について議論はありますが、過去には裁判所の判断(地方裁判所レベル)で遺留分の対象となり得るとされた事例もあります。したがって、「信託なら遺留分を無視できる」と断定せず、最新の判例傾向や学説を踏まえ、対策にならない可能性も説明します。

⑦将来の法務税務解釈の可能性とリスクとメンテナンス

家族信託(民事信託)は、歴史の長い民法や会社法と異なり、実務上の判例や税務通達がまだ十分に蓄積されていない「発展途上の制度」であることを正直に伝えるべきです。

・将来の解釈変更リスク
現在は適法・有効とされているスキームや条項であっても、将来的な法改正、裁判所の判例変更、あるいは国税庁の新たな通達により、解釈が変わる可能性があること。
・契約内容の見直しの必要性
もし解釈変更が起きた場合、契約当初は予見できなかったとしても、信託契約書の条項変更(アメンドメント)や、場合によっては信託の早期終了といった対応が必要になるケースがあること。

これらを説明することで、「信託契約書を作ったら終わり」ではなく、「法改正に対応するために、専門家との継続的な関わりが必要である」という認識を、顧客に自然に持ってもらうことができます。

重要事項説明書は顧客満足度向上にもつながる

この重要事項説明書は、単なる「説明義務を果たすための資料」だけではありません。

顧客単価を上げ、依頼者の顧客満足度を向上させ、事務所のファン化させるための「プレゼンテーション資料」だと考えています。

家族全員を集めた「家族会議」の開催

私は、重要事項説明の読み合わせを、原則として委託者(親)、受託者(子)だけでなく、推定相続人全員(他の兄弟姉妹)を集めて行うことを推奨しています。

なぜなら、トラブルは「蚊帳の外に置かれた兄弟」から生まれるからです。

この場で、親自身の口から「なぜ、長男に託すのか」「なぜ、この契約が必要なのか」を語ってもらいます。専門家である私たちは、その想いを法的に翻訳し、重要事項説明書という客観的な資料を使って、家族全員の家族信託への理解向上につなげるとともに、家族の財産と資産、介護の問題をどのように今後向き合っていくのかという、家族全員の合意を形成するファシリテーターになれます。

「ここまでやってくれるのか」という信頼を生む

他事務所との差別化はここで決まります。

多くの事務所が、契約書を郵送して「実印押して送り返してください」で済ませる中、先生が膝を突き合わせ、リスクもデメリットも隠さずに、汗をかいて説明する過程を経ることができます。

「先生、ここまで厳しくリスクを指摘してくれてありがとう」
「これなら安心して兄貴に任せられるよ」

このプロセスを経ることで、顧客は「契約書作成代行」にお金を払うのではなく、「家族の安心と合意形成」に価値を感じてお金を払ってくれるようになります。これが、顧客満足度を向上させるポイントです。

継続業務(ランニング)への布石

重要事項説明で「受託者の事務負担の大変さ(帳簿作成など)」を具体的に理解してもらうことは、「自分たちだけでは無理だから、先生、今後も相談させてください」「毎年の計算書類の作成のサポートをお願いします」という、継続的な関係づくりへとつながります。正しく伝えることが、次の仕事を生むのです。

デジタル時代の重要事項説明(動画活用)

最近では、遠方の相続人がいる場合、Zoom等のオンライン会議システムを活用することも増えました。この際、説明の様子を(許可を得て)録画しておくことも有効です。

「あの時、確かに説明しましたよね? 皆さん頷いていましたよね?」という動かぬ証拠になりますし、遠方からの参加や、当日参加できなかった親族に動画を見てもらうことで、情報の非対称性を解消できます。

ITツールを活用し、記録を残すこと。これも現代の専門家に求められるリスク管理スキルです。

まとめ

  • 家族信託のトラブルの大半は「法的不備」ではなく「家族間の感情と認識のズレ」から生じている。
  • 宅建業法のような法的義務がなくても、家族信託において「重要事項説明書」を作成・説明することは、専門家の善管注意義務として必須である。
  • 重要事項説明書には、契約書には書かない「実務上の手間」「税務リスク」「金融機関の対応」「終了後の出口戦略」を具体的に記載し、署名をもらうべきである。
  • この説明プロセス(家族会議)を経ることで、当事者の覚悟が決まり、結果としてコンサルティングフィーの高単価化・正当化につながる。
  • 「言った・言わない」の泥沼紛争を防ぐため、説明のプロセス自体を証拠化(ログ化)することが、専門家の身を守る最大の防御策となる。

家族信託は、スタートして終わりではありません。そこから何十年と続く、家族の財産管理の長い旅の始まりです。

その長い旅路において、専門家が最初に手渡すべきは、難解な「契約書」という地図だけではなく、その地図の読み方や、嵐が来た時の対処法を記した「重要事項説明書」という羅針盤であるべきです。

手間はかかりますし、作成には時間も要します。

しかし、その手間を惜しまず、家族一人ひとりと向き合う姿勢こそが、AIには代替できない「士業としての人間力」であり、信頼の源泉です。

「先生にお願いしてよかった」

数十年後、信託が終了した時にそう言ってもらえるよう、今日から「契約書+重要事項説明書」の運用をスタンダードにしていきましょう。

「重要事項説明書の必要性はわかった。でも、ゼロから作るのは大変すぎる……」

ここまで読み進めていただいた先生は、きっとそう感じていらっしゃるのではないでしょうか。

「具体的に、どんな条文を入れればいいのか?」
「お客様には、どのタイミングで、どう切り出せばいいのか?」
「法的な正確さと、わかりやすさをどう両立させればいいのか?」

頭では理解していても、日々の業務に追われる中で、完成度の高い説明書を独自に作り上げるには膨大な時間がかかります。

試行錯誤をして、万が一にも記載漏れがあっては元も子もありません。

そこで、私の事務所で実際に使用し、数百件の契約現場でブラッシュアップを重ねてきた「家族信託・重要事項説明書」の作成ノウハウと実務フローを、余すことなく公開するセミナーをご用意しました。

このセミナーでは、単なるひな形の解説にとどまらず、

「なぜ、この条項が必要なのか(リスクの所在)」
「お客様が『ぜひ先生にお願いしたい』と納得する説明のトークスクリプト」

まで、徹底的に実務視点で解説します。

もう、先生が一人で悩み、時間を浪費する必要はありません。
すでに成果が出ている「重要事項説明書作成の実務」を、最短距離で手に入れてください。

▼【実例公開】トラブルを未然に防ぎ、高単価でも感謝される
「家族信託・重要事項説明書」作成&活用 実務セミナーの詳細はこちら

https://s-legalestate.com/important-information

先生のご参加を、心よりお待ちしております。

詳細・申込はコチラ

[otw_is sidebar=otw-sidebar-1]

関連記事

  1. 判例から学ぶ信託契約書の別段の定めと原則の規定の関係とは?

  2. 委託者の地位承継と「軽減措置」のリスクとは?専門家が重要事項説明書で回…

  3. 家族信託と商事信託どっちを使う?顧客に応じた活用方法とは?

  4. ”ゼロから始める「家族信託」活用術”の書籍原稿(ゲラ)を公開編その2

  5. 損益通算

    家族信託の損益通算禁止とは?顧客に信託提案する際に知っておくべき税務を…

  6. 【2019年6月特別養子改正】受益者連続信託と養子縁組どちらを提案すべ…