長期にわたる家族信託での第二受益者複数スキームは要注意。受益者連続型信託契約作成のポイントとは?

設計

長男家族に子がいないため、長男相続後は次男に相続させたい、次の代に代々と資産を承継させていきたいなど連続型の信託を活用したいといったような相談を受ける機会があります。

信託契約時点の状況で専門家は信託スキームを設計しがちですが、将来、依頼者家族がどのような環境が想定されるかという、将来目線で連続型信託を設計する必要があります。なぜかというと、認知症対策の信託では信託開始から終了までの期間が数年~10年程度と遺言と同じイメージで取り組みをしても環境の変化という面で大きな違いはありませんが、10~20年と長い期間を想定される信託では環境変化に伴い信託契約で想定していなかった大きな変化が発生する可能性があるからです。

受益者型信託を設計する際に考慮すべきポイントとして信託契約を1つとするか、2つとするか判断に迷うケースがあります。
スキームによって家賃収入やローン(借入金)がある場合の返済方法など、設定時のみならず、第二受益者以降の金銭管理の仕組みをどのように行っていくのかという点も考慮して設計する必要があります。

今回の記事のポイントは下記の通りです。

  • 複数の子に財産を承継させたい連続型信託においては、第二受益者以降の受益者を1人にするか(2契約~)、複数にするか(1契約)によって金銭の交付、管理等が変わる
  • 1契約による複数受益者のスキームでは、受益権割合に基づく信託財産の給付等の仕組みが必要
  • 2契約による受益者1名のスキームでは、随時交付など柔軟な財産管理ができる
  • 既存ローンがある場合の金融機関の取り扱いとしては、①既存ローンはそのままにする、②委託者母から受託者長男に債務引受する、③応じないの3つがある

今回の記事では、受益者連続型信託を設計する際に考慮すべきポイントについて解説します。

受益者連続型信託の信託契約スキームを検討する際のポイント

相談事例

自宅、アパートの他、金融資産があるご家庭です。その他、アパートローンがあります。ご家族構成は長男と障がいがある長女の二人、長男と長女にはそれぞれ配偶者や子供はいません。
母の希望としては資産を長男に管理させ、母他界後は全て公平に財産を長男と長女に相続させ、長女他界後は長男に全て財産を相続させたいという意向があります。

家族関係図

母の財産
自宅、アパート3棟、金融資産、アパートローン

この事例では、受益者連続型信託という手法を活用できます。
ここで検討すべき要素の一つが、受益者連続型信託の契約を1契約にするのか、2契約にするのかという点です。

信託契約を1契約にした場合

母他界後の受益権は、信託契約で定めた受益権割合にもとづき長男・長女の準共有になります。専門家がスキームを設計する際には、母他界後のその後のお金の流れもイメージして設計する必要があります。

信託契約1契約時のお金の流れ

1契約であるため、管理する信託口口座は1つです。そのため、金銭の管理面は第二受益者以降も同様に一つの口座のみで管理できシンプルです。

注意しなければならないのは、第二受益者以降の金銭管理です。

仮に、受益権割合を2分の1ずつという形で設定したのであれば、第二受益者以降の家賃収入等にもとづく金銭の交付も2分の1ずつ行っていく必要があります。

よくある高齢者の財産管理のための信託のように受託者が受益者に対して必要な資金を随時給付するというようなスキームは使えないのです。
なぜかと言うと、仮に障害がある長女に必要な資金として100万円を給付した場合、信託財産は100万円減ります。そうすると、長女に給付したぶんだけ信託財産が減ることになり、受益権の割合が崩れてしまうのです。

受益権を準共有にしたスキームにおいては、受益者の有する受益権割合に基づいてそれぞれに同額の資金を交付するなどのスキームを作っておく必要があります。

また、信託変更や信託終了に関する権利なども原則、全ての受益者の一致によらなければ意思決定できなくなるので、この点も注意して、全員一致によるのか、それとも特定人のみで意思決定できるようにするのか検討する必要があります(信託法149、164)。

信託契約を2契約にした場合

信託財産をそれぞれ2分の1ずつとして設定して、それぞれの信託契約の第二受益者を長男のみ、長女のみとするスキームにおいては、受益権(≒信託財産)が1名のみに帰属するため、信託期間中、信託終了時とともにシンプルに考え設計できます。

信託契約2契約1

信託契約2契約2

障害がある長女を第二受益者として設定した信託契約は、母他界後も継続し、長男を第二受益者として設定した信託は、母他界後は受託者及び受益者の合意で終了させるというスキームです。

この形をとることで受益権という権利関係の考え方はシンプルになり、信託財産からの必要な資金の給付も受託者の判断で随時行えます。ですが、信託契約が2契約あるため、管理する口座を信託契約ごとに2つ作る必要があり、アパートの入居者からの家賃収入を信託口口座にそれぞれ半分ずつ入金してもらうなど手間が増えます。

お金の流れ契約2

そのため、アパート等の管理は自主管理とはせず、間に不動産管理会社を入れ、借主からは管理会社の口座に家賃を入金してもらい、管理費用等を控除した残金を2つの信託口口座に受益権割合に基づき入金してもらう、賃料管理用の口座で別途帳簿管理するなど金銭管理の仕組みをつくる必要があります。

不動産管理会社を入れた場合のお金の流れ

信託財産に融資(借入金)がある場合の信託の取り扱い

既存アパートローンがある不動産について、家族信託・民事信託する場合には、金融機関との調整が必要です。

信託の対応方法のマニュアルがある金融機関、マニュアルがなく顧客ごとに判断する金融機関などがありますが、大きく分けると、金融機関としては、下記3つの対応をとることが多くあります。

①既存ローンはそのままにする
②委託者母から受託者長男に債務引受する
③応じない

①既存ローンはそのままにする

家賃収入は受託者である長男が管理する信託口口座に入金されますが、ローンは母のままなので、母の個人口座から引き続きローンを返済する必要があり、返済資金相当額を信託配当として母個人の口座に送金する必要があります。

ローンはそのまま

また、母他界後はローンは法定相続されるため、母他界後に信託契約で受益権を取得する第二受益者、または帰属権利者とローンを引き継ぐ者を一致させるためには別途法定相続人及び金融機関との間で債務引受手続きする必要があります。

②委託者母から受託者長男に債務引受する

免責的債務引受により、債務者である委託者の債務はなくなり、引受人である受託者が債務の負担を負い、受託者は信託財産からローンを返済できます。

債務引受

また、母死亡により債務が相続されることはなく、以後の債務引受手続きする必要はなくなります。そのため、第二受益者以後も同様に、各受益者の個人口座を経ずに信託財産(信託口口座)から直接返済できます。

③応じない

既存機関で債務引受ができない場合やそもそも家族信託に対応できない場合で、家族信託を実行することを優先する場合には、家族信託の取り組みをしている他の金融機関への借り換えを検討します。

家族信託・民事信託に関する融資の考え方、取り扱いについては下記の記事で詳しく解説していますので、確認してみてください。

【信託を活用した融資の基本】信託内借入と信託外借入の2つの違いとは!?

家族信託融資(信託内借入・信託外借入)を活用した相続対策と債務控除の問題とは!?

家族信託融資で必要な保証意思宣明公正証書の要件と手続の流れとは!?

まとめ

  • 複数の子に財産を承継させたい連続型信託においては、第二受益者以降の受益者を1人にするか(2契約~)、複数にするか(1契約)によって金銭の交付、管理等が変わる
  • 1契約による複数受益者のスキームでは、受益権割合に基づく信託財産の給付等の仕組みが必要
  • 2契約による受益者1名のスキームでは、随時交付など柔軟な財産管理ができる
  • 既存ローンがある場合の金融機関の取り扱いとしては、①既存ローンはそのままにする、②委託者母から受託者長男に債務引受する、③応じないの3つがある

受益者連続型信託を活用することにより、一次相続後の二次相続、三次相続の問題まで解消できるという大きなメリットがあります。その分、専門家としては信託契約のみならず実際の金銭の管理や、ローンの返済方法など、想定されるリスクを検討し、提案しなければならないのでより創造力が試されることとなります。

場合によっては、リスクを想定し、顧客の要望である連続型信託ではなく一代限りの信託というように提案していく必要もあるので、よりよい提案ができるよう設計方法を模索してみてください。

家族信託契約書を作成する際にどのように設計・起案していますか?

家族信託というのは、士業・専門家にとって遺言や成年後見では対応できなかった範囲をカバーできる「一手法」です。自由度が高い分、お客様のニーズにあわせた対策を設計できます。しかし、一方で、オーダーメイドの契約書というのは経験も必要。そして、制度の歴史も浅く十分な判例もない状況も重なって、なかなかハードルが高く感じる方もいらっしゃるでしょう。

特に、家族信託契約書作成になると士業・専門家の技術が問われます。
もし、間違った信託契約書を作成してしまうと、本来支払う必要がない税金が課税されてしまう、金銭を管理する信託口口座が開設できない、一つの条項がないだけで不動産の売却処分等ができないといったリスクが発生してしまいます。
ここができるのとできないのとでは、士業・専門家にとっては大きな差でもあります。
今回、家族信託組成数200件を超える信託サポート件数TOPクラスのリーガルエステートがその信託契約書の最新情報とともに、作成手法について解説します。

こんな方にオススメです

・これから家族信託をやっていきたいと思っている方
・家族信託契約書を起案する方
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セミナーでは、家族信託契約の内容と法務、税務の中でも特に重要なことをダイジェストでお伝えします。

【士業・専門家のためのゼロから始める家族信託契約書解説セミナー】

今回のセミナーでは、主に以下のようなことをお伝えしようと思っています。

  • 間違った信託契約書を作成した場合の3つのリスク
  • 無駄な税金を払わず、預金口座凍結を防ぐための家族信託契約スキームの徹底解説
  • 契約書で要注意!自益信託と他益信託。契約時に想定外の税金がかかることも!?
  • 不動産所得がある顧客には要注意!知っておきたい損益通算禁止のリスクと回避方法
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  • 信託終了時に想定外の税金が!?信託契約で絶対もれてはいけない契約条項
  • 適切な資産承継を考えるためには出口戦略(終わり方)が重要

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