農地を所有している方の相続対策、生産緑地の2022年問題の対策として、家族信託・民事信託を活用していきたい、一般の方もや同業の専門家からもそんな相談が受けるようになってきました。生産緑地を含む農地については、農地法という法律に規制があるため、必ずしも農地を信託できるとは限りません。
今回の記事では、どのように農地の信託スキームを考えていけばよいのかということをテーマにお伝えします。
- 農地のまま信託できない
- 現況が宅地であれば、登記地目が農地でも信託できる
- 現況が農地の状態で、将来の宅地転用に向けた対策を立案する場合には?
- 農地を宅地に転用し、家族信託・民事信託するための方法
それでは、どうぞ(^^)/
目次
農地のまま信託できない
農地についての判断ポイントは現在の利用状況が農地か、否かです
現況が農地の場合には、農地法の適用を受けるので、農業委員会の許可又は届出(以下、「農業員会の許可等」といいます。)がないと信託をすることができません(農地法3、5等)。
農地を信託財産とする信託契約は、農業委員会の許可等が効力発生要件です。
そのため、農地以外の金銭、アパートを信託財産とした場合には、農地以外については契約時から効力は生じますが、農地については信託契約の効力は生じません。
そして、農地のまま信託の受託者となれるのは、農業協同組合など一定の法人に限定されており、子など家族を受託者とする信託では、許可等を得ることは難しく、結果、信託を行うことはできません。
現況が宅地であれば、登記地目が農地でも信託できる
土地が農地法の適用を受けるかどうかのポイントは、登記簿上の地目ではなく、現在の土地の利用状況です。
相談事例でも多いですが、過去、市街区域内の農地を住宅建築に伴い宅地化したものの、地目変更登記をしないまま、アパートを建てたような事例では、現況が農地でなく宅地なので(固定資産納税通知書上も登記地目が畑など農地、現況が宅地として登録されているはずです)、その場合は、信託契約を行うことができます。
ただし、登記をするにあたっては、法務局は登記地目を基準に登記の受理判断をするので、前提ととして現況の利用状況に併せて、地目変更登記をする必要があります。
そのため、現況が宅地であれば、地目変更登記をすれば信託契約はできます。
意外と、信託を専門とする専門家でも現況と登記地目とで判断を見誤ってしまうポイントなので注意してみてください(^^)/。
現況が農地の状態で、将来の宅地転用に向けた対策を立案する場合には?
生産緑地など、将来の宅地転用を見越して家族信託を行いたいニーズに対しては、現時点が農地である以上は、信託契約はできません。宅地転用と同時に信託をすすめるか、農業委員会の転用許可等を得ることを停止条件に信託契約を行い、転用時に信託契約の効果を発生させるという対応をせざるを得ないのが現状です。
許可等を得られた時点で、信託登記手続きを行うことができるのですが、その際の登記申請手続きを農地所有者本人ができる判断能力があるのかという問題もあります。
そのため、認知症対策として信託を検討するのであれば、宅地転用と同時に進めるしかないと考えられます。
転用時に融資を受ける場合も、融資の際に委託者の連帯保証を求めるなどの対応もでてくるので、やはり信託と転用(融資を活用する場合は融資も)は、同時期で進める必要が実務的にでてきてしまいます。
信託を活用した融資の考え方については、別の記事で詳しく解説していますので、そちらを参照してみてください。
農地を宅地に転用し、家族信託・民事信託するための方法
農地を宅地に転用するためには農業委員会の許可又は届出を得る必要があります。
その方法は、農地法第4条と第5条の転用です。
農地法第4条転用
農地所有者自らが転用する場合に活用します。
具体的には、信託契約前に農地の所有者本人(財産管理を託す“委託者”)が宅地に転用します。
農地法第5条転用
農地を農地以外に転用する目的で行う権利移動がある場合に活用します。
具体的には、先に信託契約に伴い受託者に農地の所有権を移動させ、その後に受託者が宅地に転用します。
農地法第4条転用の場合には、農業委員会の許可等を得た後、農地所有者である親本人が農地から宅地への転用と建物建築を行います。農地から宅地への地目変更登記のタイミングは建物完成時となるため、建物完成後に初めて信託契約を行い、受託者に財産管理を任せる形になります。そのため、建物完成時迄は親本人の判断能力が求められることになるため、現時点から認知症対策としては活用できません。
農地法5条転用の場合には、農業委員会の許可等を得た後、信託契約を行い、受託者に農地の所有権が移転させます。そのため、農地転用、そして建物建築を行っていくのは受託者ができるので、認知症対策として家族信託を活用する場合には、農地法第5条転用の方法を採用すべきです。
その他、農地と信託、遺言の検討すべきポイントのほか、生産緑地で注意すべきポイントを下記の記事でも詳しく解説していますので、興味ある方は是非ご覧ください。
まとめ
- 農地のまま信託できない
- 現況が宅地であれば、登記地目が農地でも信託できる
- 農地を信託財産とするには、前提として農地から宅地への転用していく必要がある
- 転用を行う場合には、農地法4条と5条の転用の違いを理解しておく
- 認知症対策として信託を活用する場合には5条の転用ですすめるべき
将来、相続対策で生産緑地を活用処分できるように家族信託・民事信託で対策をしたいという相談に対しては、現時点で農地である以上は、信託をすることが難しいと回答をせざるを得ないのが現状です。
そのため、宅地転用予定の農地については、現時点では条件付信託契約を締結する、又は、信託はせずに、任意後見制度で対応するなど他の仕組みを検討する必要があります。
どのような仕組みがベストか専門家の腕が問われます。
状況に応じた提案ができるように、勉強しておく必要がありますね。
「2022年の生産緑地問題」が不動産に与える影響とその対策手法とは?
地方圏に限らず大都市圏でも空き家問題が年々問題となるなかで、新たに多くの住宅用地が生まることによって地価が暴落する「2022年問題」として不動産業界に大きな影響を与えると取リ沙汰されています。見方を変えるとビジネスチャンスになりえるポイントになります。
私たち士業、専門家は、この「2022年問題」に対し、どのように準備し対応すべきなのか。不動産コンサルタントから見るビジネスチャンスとそれに伴う士業・専門家が行うべき不動産対策を交えた生前対策提案手法をプロサーチ株式会社 代表取締役社長 松尾企晴氏 に解説していただきます。
- 不動産市況予測と相続を取り巻く環境を知る
- 2022年の生産緑地解除の影響とは
- どうなる?過熱したあの不動産対策
- 事例で考える土地資産家の生前対策と攻略方法
「2022年問題を見据えた生前対策×不動産コンサル提案方法」
※自宅・事務所からセミナー動画を視聴できます。
【講 師】:プロサーチ株式会社 松尾企晴(まつおきはる) 氏
セミナー内容
- 不動産市況予測と相続を取り巻く環境を知る
- 2022年の生産緑地解除の影響とは
- どうなる?過熱したあの不動産対策
- 事例で考える土地資産家の生前対策と攻略方法
待ったなし「生産緑地」2022年問題に向けて、どういう提案をすべきか?
三大都市圏(首都圏・近畿圏・中部圏)の生産緑地の総面積は1万ha以上あります。
2022年には、生産緑地の約8割が指定期間である30年の期限を迎え、相続対策の一環として多くの生産緑地が指定解除して宅地等へ転用することが予想されています。
しかし、都市農家の多くは高齢化・後継者不足の問題を抱えていることから、生産緑地の過半数が指定解除するでしょう。そんな中で、生前対策を行う士業・専門家はどのような取り組みをしていけばいいのか、士業・専門家が理解しておくべき生産緑地の考え方、営農義務など生産緑地制度の基礎から詳しく、税理士法人レディング 木下先生に解説していただいたセミナーです。
生産緑地の基本的な考え方と2022年問題の対策方法とは!?
※自宅・事務所からセミナー動画を視聴できます。
【講 師】:税理士法人レディング 代表税理士 木下 勇人 氏
セミナー内容
- 生産緑地の基本、営農義務と買い取り制度とは
- 生産緑地について押さえておくべき固定資産税・贈与税・相続税の税務上の特典
- 生産緑地の2022年問題に向けた選択肢を考える
- 農地、生産緑地は信託できるのか?信託での対応方法とは!?