委託者の地位承継と「軽減措置」のリスクとは?専門家が重要事項説明書で回避すべき“説明責任”の内容を解説

家族信託の組成において、受託者や受益者の設計に力を入れる一方で、つい「定型文」で済ませてしまいがちなのが「委託者の地位及び権利」の承継条項です。しかし、ここには専門家の足元をすくう巨大な落とし穴が潜んでいます。

特に不動産を含む信託では、信託終了時の不動産取得税や登録免許税の「軽減措置」が受けられるかどうかが、依頼者の相続時の余計な税金を回避する重要な問題となります。専門家が依頼者家族の「想い」を優先するあまり、税務上のリスクを看過し、そのリスクを伝えていなかった、もしくは、口頭で伝えたつもりであったとしても、相続時に「言った、言わない」で依頼者家族と揉めてしまったら……。後日、依頼者家族に届く数百万円の納税通知書は、そのまま専門家への損害賠償請求へと姿を変えるかもしれません。

本記事では、委託者の地位承継にまつわる税務の盲点と、専門家が守るべき「説明責任」の果たし方について解説します。

今回の記事のポイントは下記の通りです。

  • 委託者の地位・権利は「相続」の対象であり、放置すると権利者が分散し信託がデッドロックに陥る
  • 不動産取得税の軽減措置を受けるには、帰属権利者が「委託者の相続人」であることが絶対要件である
  • 軽減措置の適用には「自益信託(委託者=受益者)」が維持されていることが前提となる
  • 「代襲相続人」にならない第三者(親が健在な甥など)への承継は、軽減措置の対象外となるため要注意
  • 重要事項説明書に「あえて希望するスキームのリスク」を明記し、署名を得ることが専門家の最大の防衛策となる

委託者の地位・権利を巡る実務の現状

家族信託がスタートした後、委託者は「信託財産の拠出者」としての役割を終えたように見えます。しかし、信託法上、委託者は「信託の変更(149条)」「受託者の解任(58条)」「信託の終了(164条)」など、信託の根幹を揺るがす強力な権利を保持しています。

これらは、別段の定めをしない限り「相続」されます。自益信託において当初委託者兼受益者が死亡した際、もし「委託者の地位」の承継先を定めていなければ、その地位は法定相続人全員に準共有されます。結果として、受託者の管理に反対する相続人が一人でもいれば、信託の変更も終了もできないという、問題が発生するのです。

税制上の「軽減措置」という高すぎる壁

専門家が最も注意しなければならないのが、地方税法(不動産取得税)と登録免許税法における軽減措置の要件です。

信託終了時に、信託不動産を帰属権利者に名義変更する際、通常は不動産取得税と登録免許税がかかります。これの「軽減措置」を受けるには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  1. 自益信託が継続していること(信託期間中、委託者と受益者が同一人であること)
  2. 委託者自らが受ける場合(当初委託者への返還)
  3. 委託者の相続人が受ける場合(委託者死亡により、自益信託のまま終了し、相続人が取得する場合など)

ここで特に見落としがちなのが、「自益信託の継続」という要件です。例えば、信託の途中で受益権を第三者に譲渡したり、他益信託(当初から委託者≠受益者)の形態をとっていたりする場合、たとえ最後は相続人が財産を取得したとしても、不動産取得税の非課税規定は適用されません。経済的な実態として「相続」と同視できる場合に限定されているからです。

ここで、専門家が把握しておくべき具体的な「税率」の差を整理しましょう。軽減措置が受けられない(=第三者への移転とみなされる)場合、負担は数倍に跳ね上がります。

不動産取得税の税率比較

  • 原則(軽減なし・第三者取得):3%(土地・住宅)/ 4%(非住宅)
  • 軽減措置適用(相続人取得):非課税(0%)

登録免許税の税率比較

  • 原則(軽減なし・その他事由):2.0%(固定資産税評価額に対して)
  • 軽減措置適用(相続人取得):0.4%

例えば、評価額5,000万円の不動産であれば、軽減措置が受けられる場合は登録免許税20万円(取得税0円)で済みますが、軽減措置が受けられない場合は登録免許税100万円+不動産取得税150万円=合計250万円ものコストが発生します。

【事例解説】親が健在な「甥」への承継と、専門家の過失

ここで、実務で実際に起こり得る、極めて危うい事例を見てみましょう。

【事例:Aさんのケース】

  • 委託者・当初受益者: Aさん(80歳、独身。実子はいない)
  • 受託者・帰属権利者: Bさん(Aさんの甥。AさんはBさんを実の息子のように可愛がっており、全ての財産を譲りたいと考えている)
  • Aさんの親族関係: Aさんの兄弟であるCさん(Bさんの親)は健在

【信託スキームの設計】

Aさんの希望に基づき、専門家は以下のような設計を行いました。

  • 形態: 自益信託(当初はAさんが受益者)
  • 帰属権利者: 甥のBさん。
  • 委託者の地位承継: 「本件信託に係る委託者の地位は、委託者の死亡によりBが承継する」

【なぜ軽減措置が使えなかったのか?】

このケースにおいて、Aさんの法定相続人は「兄弟であるCさん」です。Bさんの親(Cさん)が健在である以上、BさんはAさんの「相続人」ではありません(代襲相続が発生しないため)。

地方税法第73条の7第4号(不動産取得税)および登録免許税法第7条第1項第2号(登録免許税)では、信託終了に伴う税務上の非課税・軽減要件を「委託者の相続人が受ける場合」かつ「自益信託であること」と厳格に限定しています。たとえ自益信託としてスタートし継続していたとしても、受け取るBさんが相続人に該当しないため、税務上は「受贈者(第三者)」扱いとなります。結果として、本来であれば相続並みの低コストで済むはずの名義変更に、数百万円もの想定外の税金が発生してしまったのです。

専門家に求められる「説明責任」の正体

専門家が負う責任は「依頼者の希望を実現すること」だけではありません。「その希望を実現するために払う代償(リスクやコスト)」を適切に可視化し、理解させることまでが含まれます。

家族信託における「説明責任」とは、単に法律を伝えることではなく、クライアントが直面する経済的な不利益(今回で言えば不動産取得税・登録免許税の発生)を具体的に提示し、その上で意思決定を仰ぐプロセスそのものを指します。

重要事項説明書を「防衛」と「信頼」のツールにする

信託契約書は「合意内容」を記すものですが、重要事項説明書は「納得のプロセス」を記録するものです。

今回の事例のようなリスクがある場合、重要事項説明書には以下の内容を盛り込むべきです。

  1. 軽減措置の適用の有無: 現状の設計(自益信託の継続であっても)ではBさんは相続人に該当しないため、非課税および登録免許税の軽減にはならない旨。
  2. 代替案の提示: 税負担を避けるための他の承継順序(一旦、親のCさんを経由するなど)の提案と、それに対する委託者の意向。

これにより、専門家は法的防衛線を張ることができ、クライアントも「後からそんな話は聞いていない」という事態を避けられます。

まとめ

  • 委託者の地位・権利は「相続」の対象であり、放置すると権利者が分散し信託がデッドロックに陥る
  • 不動産取得税の軽減措置を受けるには、帰属権利者が「委託者の相続人」であることが絶対要件である
  • 軽減措置の適用には「自益信託(委託者=受益者)」が維持されていることが前提となる
  • 「代襲相続人」にならない第三者(親が健在な甥など)への承継は、軽減措置の対象外となるため要注意
  • 重要事項説明書に「あえて希望するスキームのリスク」を明記し、署名を得ることが専門家の最大の防衛策となる

家族信託の設計は、法務・税務・感情が複雑に絡み合います。特に「委託者の地位」にまつわる税務リスクは、後から取り返しがつかない事態になりかねません。

プロとして、依頼者の想いを形にするのと同時に、リスクをきちんと可視化して伝える勇気を持ってください。そのための強力な武器が、当事務所が推奨する「重要事項説明書」です。

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