【2025年10月16日施行】「資本金3000万円」要件にどう対応するか?改正経営管理ビザの論点整理

2025年10月16日、経営管理ビザを巡る実務は、許可基準が抜本的に改正されたことで、クライアントとの最初の対話から、我々が提示すべき選択肢まで、その全てを再考する必要に迫られています。

施行から間もない今、すでに来るべき変化の予兆は、相談内容の質的な変化として明確に現れ始めているはずです。これまでの画一的な手続き案内はもはや通用せず、クライアントが新基準をクリアできるのか、あるいは既存の資格をどう維持していくのか、より慎重な判断が求められます。

  • 適用基準の明確化:2025年10月16日の施行日を基準とし、その前日までに受理された申請には旧許可基準が、施行日以降の申請には資本金3000万円等の新許可基準が適用されます。
  • 新規申請の要件加重:資本金3000万円に加え、常勤職員1名以上の雇用、経営経験または学歴、日本語能力、第三者専門家による事業計画の確認が新たな必須要件として課されます。
  • 更新申請と経過措置既存の在留資格保有者には施行日から3年間(2028年10月16日まで)の経過措置が設けられますが、その期間中も公租公課の履行状況は従来以上に厳格に審査されます。
  • 厳格化の政策的背景:制度の濫用防止と形骸化への対策を目的とし、より事業基盤が強固で日本経済への貢献が期待できる、質の高い経営者を誘致する政策転換が背景にあります。

本記事では、改正後の新制度下で取り得る各選択肢の要件やメリット・デメリットを体系的に整理し、実践的な判断基準を解説します。

1.なぜ経営管理ビザは厳格化されたのか?

クライアントから「なぜ急に、こんなに厳しくなったのですか?」と聞かれた際、我々専門家は、その背景を丁寧に説明する必要があります。単に「国のルールが変わったからです」と答えるだけでは、クライアントの不安や疑問に寄り添うことはできません。今回の改正には、日本の未来を見据えた、明確な理由と目的があります。

1-1. 大きな方針転換:「量」から「質」へ

今回の改正で最も重要なポイントは、日本の外国人起業家受け入れ方針が、これまでの「量」を重視する姿勢から、「質」を重視する姿勢へと大きくシフトした点です。

これまでの資本金500万円という基準は、長年にわたって維持されてきました。しかし、時代の変化とともに、この基準が事業の実態を伴わない在留資格取得の抜け道として利用されるケースも指摘されるようになっています。

そこで政府は、より安定的で継続的な事業を行い、日本で雇用を生み出し、経済に貢献してくれるような、質の高い経営者に来てほしいという明確なメッセージを発したのです。新しい資本金3000万円という要件は、その事業への「本気度」や「継続性」を見るための、一つの分かりやすい目安と位置づけられています。

1-2. 厳格化を後押しした、4つの背景

この大きな方針転換には、いくつかの具体的な背景があります。

背景①:制度の「形骸化」への対応

国際的に見ても低かった500万円という資本金基準は、一部で「お金で買えるビザ」と見なされることもありました。実際に事業を行う意思がないにも関わらず、ペーパーカンパニーを作って在留資格を得る手段として使われるケースが増えていたことが、制度の信頼性を保つ上で課題となっていました。

背景②:社会的なイメージの回復

残念ながら、一部の経営管理ビザ取得者が関わるトラブル(例:無許可営業など)が報道されることで、制度全体に対するネガティブなイメージが広がりつつあったことも、無視できない背景です。国として、制度の健全性を示し、社会の信頼を回復する必要があります。

背景③:国際基準への調整(グローバルスタンダード)

他の先進国では、起業家ビジターを受け入れる際、より高額な投資や事業計画の実現可能性を厳しく問うのが一般的です。今回の改正は、日本の基準をそうした国際的なスタンダードに近づけ、世界中の優秀な起業家にとって、より魅力的な選択肢となることを目指す狙いもあります。

背景④:(実務家の視点)間接的な社会的コスト

公に発表されているわけではありませんが、我々のような実務家の間では、別の視点も指摘されていました。それは、ビザ取得者のご家族、特に子どもたちが日本の公教育を受ける際の日本語サポートなど、間接的に社会的なコストが増加しているという実態です。ビザのハードルを上げることで、こうした負担を考慮した側面も、恐らくあったのではないかと考えられています。

2.旧基準適用の成否を分けた「受理日」の壁とは

制度の移行期において、専門家の実務で最大の焦点となるのが、「新旧どちらのルールが適用されるか」という境界線です。この一点を正確に理解し、クライアントに伝えられるかどうかは、専門家としての信頼に直結する重要なポイントと言えるでしょう。

2-1.ルールの基本:明暗を分けるのは10月15日の「受理」

まず、最も重要な大原則から確認します。出入国在留管理庁が公式に示しているルールは、非常に明確です。

2025年10月15日(水)までに、申請が「受理」されれば、旧ルール(資本金500万円など)が適用される。

逆に言えば、申請の「受理」が10月16日(木)以降になれば、新しいルール(資本金3000万円など)で審査されることになります。これはクライアントにとって、計画の前提が根底から覆るほどの大きな違いです。

2-2. 移行期の落とし穴:「提出」と「受理」の決定的な違い

では、なぜ制度移行期の申請は、細心の注意が必要なのでしょうか。最大のポイントは、申請書を「提出した日」ではなく、役所に「受理された日」が基準になる、という点にあります。

もし、10月15日に書類を窓口へ持参しても、その書類に不備があれば、その場で「受理」はされません。

【実務上、起こりうるケース】

  • 署名の漏れや記載ミス
  • 添付書類の不足
  • 証明書類の有効期限切れ

このような不備があると、申請は「預かり」扱いになるか、一度持ち帰って修正するよう指示されます。そして、不備を直して再提出し、正式に「受理」されたのが10月16日以降になってしまえば、その時点で「新ルール」の適用が確定してしまうのです。

【専門家としてのポイント】 クライアントには、この「受理日」のリスクを十分に説明し、完璧な状態での申請準備を促すことが専門家の責務です。また、「旧ルールで申請できれば審査が甘くなる」というわけでは決してありません。事業計画の実現可能性などは、これまで通り厳しく見られるという点も、補足として伝えておくべき重要な情報です。

3. 【新規申請】クリアすべき「5つの新ハードル」を徹底解説

2025年10月16日以降の新規申請では、クライアントがクリアすべきハードルが、これまでとは比較にならないほど高く、そして多くなりました。我々専門家がクライアントに説明するため、その「5つの新ハードル」を一つずつ確認していきましょう。

3-1. ハードル①:資本金「3000万円」の大台

今回の改正で最もインパクトが大きいのが、この資本金要件です。これまでの500万円から一気に6倍の3000万円以上が求められることになりました。これは、事業の安定性・継続性を見るための、最も分かりやすい指標とされています。 (株式会社であれば払込済資本、合同会社等であれば出資総額、個人事業主であれば事業への投下資金が該当します。)

3-2.ハードル②:「常勤職員1名以上」の雇用が必須に

これまでは資本金500万円の代わりに常勤職員2名以上を雇用する、という選択肢がありましたが、新制度では全く異なります。「資本金3000万円以上」に加えて、「常勤職員1名以上」の雇用がセットで必須要件となりました。

【専門家としてのポイント】 この常勤職員は、日本人または永住者など、特定の在留資格を持つ者に限られます。採用活動はもちろん、雇用契約や社会保険の手続きも発生するため、社会保険労務士との連携が不可欠となる部分です。

3-3.ハードル③:「日本語能力」の証明【新規】

円滑な事業運営のため、一定の日本語能力も要件となりました。ただし、これは柔軟な運用がされており、申請者本人、または前述の常勤職員のどちらかが、以下のいずれかを満たせばよいことになっています。

  • 日本語能力試験(JLPT)でN2以上 など

3-4.ハードル④:経営者としての「実績」の提示【新規】

申請者本人が、経営者として事業を遂行できる能力があることを、客観的な経歴で示す必要があります。具体的には、以下のどちらかを満たすことが求められます。

  • 事業の経営や管理について3年以上の実務経験
  • 経営管理など、関連分野の大学院の学位(修士・博士など)

3-5.ハードル⑤:事業の「実体性」がより厳しく問われる【新規】

ペーパーカンパニーによる安易なビザ取得を防ぐため、事業の実体を証明する要件も厳格化されました。

  • 独立した事業所の確保 これまで一部認められていた自宅兼事務所は、原則として認められなくなります。クライアントには、独立したオフィス物件を確保する必要があることを、早い段階で伝える必要があります。
  • 専門家による事業計画の確認 作成した事業計画書について、中小企業診断士、公認会計士、税理士といった第三者の専門家から「この計画は妥当である」という確認を受けることが必須となりました。我々専門家も、こうした他士業との連携体制を準備しておくことが重要になります。

4.【更新申請】既存ビザ保有者への対応方法

今回の改正は、新規申請者だけでなく、既に経営管理ビザで事業を営んでいるクライアントの今後にも、大きな影響を及ぼします。既存クライアントへの適切な情報提供と、将来を見据えたコンサルティングは、我々専門家の重要な責務です。

4-1. まずは基本:「3年間の経過措置」を正確に理解する

既存のビザ保有者に対しては、急激な変化を緩和するため、2028年10月16日までの、3年間の特別な「経過措置」期間が設けられています。

この期間内の更新申請では、新しい基準(資本金3000万円など)をまだ満たせていなくても、即座に不許可となるわけではありません。現在の経営状況や、将来的に新基準を満たす計画があるかといった点を総合的に見て、更新の可否が判断されることになります。

4-2. 専門家が伝えるべき最重要ポイント:「猶予」ではなく「準備」の期間

専門家としてクライアントに最も強調すべきなのは、この3年間を「何もしなくていい猶予期間」ではなく、「新しい基準に適応するための準備期間」と捉えてもらうことです。

2028年10月17日以降の更新申請では、原則として新しい基準を満たしていることが求められます。事業計画の見直し、増資の検討、雇用の計画など、この3年間で具体的なアクションを起こすよう、我々から積極的に働きかけていく必要があります。

4-3.【要注意】経過措置とは無関係に厳格化される「公租公課」の審査

経過措置があるからといって、安心してはいけません。今回の改正で、経過措置の有無にかかわらず、全ての更新申請で、これまで以上に厳しくチェックされるようになった項目があります。それが、税金や社会保険料の納付状況、いわゆる「公租公課」の支払いです。

具体的には、以下の項目の支払いが厳しく審査されます。

  • 労働保険(雇用保険・労災保険)
  • 社会保険(健康保険・厚生年金保険)
  • 国税・地方税(法人税、消費税、法人住民税など)

【専門家としての最重要アドバイス】 たとえ会社の経営が黒字で順調でも、これらの支払いに漏れや滞納があれば、それだけで更新が不許可になるリスクが非常に高いということを、クライアントには明確に伝えなければなりません。税理士や社会保険労務士とも連携し、クライアントの納付状況を定期的に確認する体制を整えることが、これまで以上に重要になっています。

5. まとめ

  • 適用基準の明確化:2025年10月16日の施行日を基準とし、その前日までに受理された申請には旧許可基準が、施行日以降の申請には資本金3000万円等の新許可基準が適用されます。
  • 新規申請の要件加重:資本金3000万円に加え、常勤職員1名以上の雇用、経営経験または学歴、日本語能力、第三者専門家による事業計画の確認が新たな必須要件として課されます。
  • 更新申請と経過措置既存の在留資格保有者には施行日から3年間(2028年10月16日まで)の経過措置が設けられますが、その期間中も公租公課の履行状況は従来以上に厳格に審査されます。
  • 厳格化の政策的背景:制度の濫用防止と形骸化への対策を目的とし、より事業基盤が強固で日本経済への貢献が期待できる、質の高い経営者を誘致する政策転換が背景にあります。

今回の経営管理ビザの要件厳格化は、我々専門家にとって、実務のあり方を再考する大きな契機となります。これまで通用してきた知識や手続きの前提が覆され、より高度で、かつ個別具体的なコンサルティング能力が求められる時代に入ったと言えるでしょう。

特に、新規申請におけるハードルが格段に上がった一方で、既存の資格保有者には3年間の経過措置が設けられるなど、クライアントが置かれた状況によって、我々が提供すべき助言は全く異なります。クライアント一人ひとりの状況を正確に把握し、新制度の要件を丁寧に説明した上で、将来を見据えた計画的な事業運営を促すことが、専門家の重要な役割となります。

また、今回の改正は、他士業との連携の必要性を改めて浮き彫りにしました。事業計画の妥当性を評価する税理士や中小企業診断士、雇用に伴う労務管理を担う社会保険労務士など、それぞれの専門家が持つ知見を結集しなければ、クライアントの複雑な課題を解決することは困難です。

この変革を、単なる脅威ではなく、自らの専門性を高め、業務の付加価値を向上させる好機と捉えるべきではないでしょうか。最新の情報を常に収集し、クライアントに寄り添い、変化に柔軟に対応していくこと。それこそが、これからの時代に専門家として信頼を勝ち得ていくための唯一の道であると、私は考えています。


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