生産緑地を信託したいという相談の対応方法とは!?

都市農地

生産緑地を所有している方から、その相続対策として家族信託・民事信託を活用できるかという問い合わせを受けることが増えてきました。同業の専門家からもそんな質問を受けます。

生産緑地を含む農地については、信託以外の贈与や遺言などの対策も含め、専門家は農地法という法律に規制があるため、農地法を理解して手続きを進めていく必要があります。
そして、必ずしも農地を信託できるとは限りません。

今回の記事のポイントは下記のとおりです。

  • 生産緑地(農地)のまま信託できない
  • 生産緑地の財産管理、資産承継対策は任意後見+遺言、もしくは停止条件付信託契約で対応すべき
  • 農地を信託財産とするには、前提として農地から宅地への転用していく必要がある
  • 転用を行う場合には、市街化区域と市街化調整区域どちらに該当するか農地の状況を確認しておく
  • 認知症対策として信託を活用する場合には5条転用ですすめるべき

士業・専門家が農地の信託スキームと実際の手続きを進めていく際のポイントと注意点をお伝えします。

それでは、どうぞ(^^)/

農地の大原則:農地のまま信託できない

農地については、農地法という法律に規制があります。
現在の利用状況が農地の場合には、農地法の適用を受け、農業委員会の許可又は届出(以下、「農業員会の許可等」といいます。)がないと信託をすることができません(農地法3、5等)

農地を信託するには、農業委員会の許可等が必要であり、農業委員会の許可等は信託契約の効力発生要件です。

そして、農地に該当し、農地法の適用があるのか、ないのかついての判断ポイントは現在の利用状況が農地か、否かです。

農地を農地の状態のまま、信託する場合には農地法3条の許可が必要となります。そして、信託の受託者となることができるのは、農業協同組合など一定の法人に限定されており、子など家族を受託者とする信託では許可等を得ることは難しく、結果、信託を行うことはできないと考えてください。

そのため、生産緑地のまま(つまり、農地のまま)、将来資産組換ができるように信託しておきたいという要望には応えられないのです。生産緑地の営農義務を解除されたときに活用できるようにするためという理由で、今の時点から信託をすることはできません。

どうしても、農地を農地のままで、子が管理し、承継できるような仕組みを作りたいということであれば、家族信託・民事信託をせずに、任意後見・成年後見や遺言で対応するなど他の仕組みで代用せざるを得ません。

農地と信託、遺言の基本的な考え方については、下記の記事で詳しく解説していますので、こちらを確認してみてください。

農地を信託財産とする際に検討すべきポイントとは!?

士業・専門家が農地を遺言・信託契約する際に注意すべき4つのポイント

どうしても農地を信託したいという相談に対しては条件付信託契約を提案する

農地を信託財産とするためには、農業委員会の許可等の手続きを経るまでは、農地部分についての信託契約の効力が生じません。そのため、農地については、農業委員会の許可等を得ることを条件とする条件付信託契約を締結するということも選択肢の一つです。

契約時点では、農地の信託契約の効力は生じないため、受託者の財産管理はスタートしません。
なお、信託契約の対象として農地以外の金銭、不動産などを併せて信託財産とした場合には、農地以外の部分については契約時点から効力を発生させることも可能です。あくまで、農地だけが効力が生じないということに注意しましょう。

農地については、将来、宅地転用を行うタイミングで農地法の許可等を得ることにより初めて信託がスタートします。

農地を信託するには、前提として宅地化をすすめることが必要

では、どんな農地であれば農業委員化の許可等を得て宅地転用をすすめることができるのでしょうか?
それは、市街化区域と市街化調整区域のどちらに該当するのか、を確認する必要があります。

市街化区域と市街化調整区域とは?

都市の健全な発展と秩序ある整備、つまり、快適な街づくりを行うための事項を定めた「都市計画法」という法律があり、都市計画方法に基づいて、行政により都市計画区域が定められています。都市計画区域は、市街化区域、市街化調整区域に区分されます(「線引き」とも言われます)。

家族信託・民事信託を検討する際に確認しておくべき要素として、信託を検討する農地が市街化区域に属するのか、市街化調整区域に属するのか確認をしておく必要があります。

市街化区域
既に市街地を形成している区域及び概ね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域
農地を宅地に転用して住宅やアパートを建てることができるエリアです。

市街化調整区域
市街化を抑制する地域
原則として、住宅やアパートを建てることは難しいエリアです。つまり、農地を宅地に転用し、住宅を建築するためには許可が必要です。例えば、世帯の構成員が分家し、自宅を建築するのにあたり、市街化区域内に土地を保有していないなど一定の条件を満たさない限り、許可を得ることはできません。

信託をしたいと相談を受けた農地が市街化区域に該当するのであれば、基本的には農地から宅地への転用ができるため、農業委員会の手続きを経て宅地転用と同時並行で信託契約を進めることができますが、市街化調整区域に該当する場合には、宅地転用が認められないことが多いため、信託契約を進めていくことは難しいと判断し、顧客に説明をするようにしてください。

また、農地が生産緑地の指定を受けている場合には、固定資産税・都市計画税の減免措置のほか、相続税・贈与税の納税猶予を利用するかの検討も必要です。生産緑地の税務上のポイントについては、下記の記事で詳しく解説していますので確認してみてください。

士業・専門家が生産緑地で見落としがちな税務のポイントとは!?

農地法4条と5条どちらを選択するかによって信託手続きの進め方が変わる

宅地化

農地を宅地に転用するためには、農業委員会の許可等の手続きが必要です。
その方法は、下記の通り、二つあります。

信託契約前に農地の所有者本人が、宅地に転用する「農地法4条の転用」と、先に信託契約に伴い農地の所有権を受託者(子)に農地の権利を移動させ、その後に受託者が宅地に転用するという「農地法5条の転用」の方法です。

農地法第4条転用の場合には、農業委員会の許可等を得た後、農地所有者である親本人が農地から宅地への転用と建物建築を行うため、認知症対策になりません。

農地法5条転用の場合には、農業委員会の許可等を得た後、信託契約を行い、受託者に農地の所有権が移転します。そのまま、受託者がその後の宅地転用、開発等を行っていけるので、認知症対策として家族信託・民事信託を活用する場合には、農地法第5条転用の方法を検討してください。

農地法5条転用の場合には、農業委員会の許可等を得た後、信託契約を行い、受託者に農地の所有権が移転します。そのまま、受託者がその後の宅地転用、開発等を行っていけるので、認知症対策として家族信託・民事信託を活用する場合には、農地法第5条転用の方法を採用を検討してください。

事例から考える農地を家族信託・民事信託する方法

ここで、具体的な農地の信託のスキームのイメージがつけられるよう事例を元に紹介します。

事例 高齢の親が所有する農地の宅地開発をしていきたい

現在、母と同居する長男からの相談です。
市街化調整区域に該当していた父の畑が、来年、市街化調整区域から市街化区域に区分区域が変更されます。父は畑の他、自宅、アパートなど複数の財産を所有しています。市街化区域に変更された際には、父の相続対策のため、畑を事業所用地に転用し、介護施設に貸し出す建物を建築予定です。しかし、父(84歳)は高齢であることもあり認知症の発症リスクがあり、区分区域が変更された時点において各種手続きができるかどうか不安があります。

具体的な家族信託・民事信託のスキームは下記の通りです。

① 畑が市街化調整区域の状態で、農地については条件付信託契約を締結する

委託者   父
受託者   長男
受益者   父
信託財産  建築資金(場合によってはローン借入権限を付加)
※畑(農地法所定の許可等を得ることを条件)
終了事由  父の死亡
帰属権利者 長男
※畑については、農業委員会の許可等を得る前のため、効力は生じていなく、信託契約時点では信託財産となっていません。当初は建築資金のみが信託財産となっています。

② 畑が市街化区域に該当後、農地法第5条の届出をし、農地転用の上、事業所を建築

委託者   父
受託者   長男
受益者   父
信託財産  事業所
畑→宅地(農地法第5条の届出を得ることで効力発生)
終了事由  父の死亡
帰属権利者 長男

最終的に農業委員会の5条届出を取得することにより、畑を信託財産とすることができます。受託者が信託財産として畑から宅地に転用し、建物を建築することで土地及び建物全てが信託財産となり、受託者である長男がその後の手続きを全て行うことができるようになります。

まとめ

  • 生産緑地(農地)のまま信託できない
  • 生産緑地の財産管理、資産承継対策は任意後見+遺言、もしくは停止条件付信託契約で対応すべき
  • 農地を信託財産とするには、前提として農地から宅地への転用していく必要がある
  • 転用を行う場合には、市街化区域と市街化調整区域どちらに該当するか農地の状況を確認しておく
  • 認知症対策として信託を活用する場合には5条転用ですすめるべき

将来、生産緑地を農地を活用処分できるように家族信託・民事信託で対策をしたいという相談に対しては、対象となる農地が市街化区域で、現時点で農地法の手続きを経て農地から宅地へと転用計画をすすめるなど進めていくのであれば信託はできますが、現在の利用状況が農地のまま信託をすることはできないため、将来的な対策としての農地の信託は難しいと言わざるを得ません。

そのため、宅地転用予定の農地については、現時点では農業委員会の許可等条件とする信託契約を締結する、又は、信託はせずに、任意後見制度、遺言制度で対応するなど仕組みを検討するしかないです。

生産緑地の営農義務などどのように対応していくのか、そして、財産管理、資産承継対策としてどのような方法を用いるべきか提案できるようにしておきましょう。

「2022年の生産緑地問題」が不動産に与える影響とその対策手法とは?

LFT20207月定例会

地方圏に限らず大都市圏でも空き家問題が年々問題となるなかで、新たに多くの住宅用地が生まることによって地価が暴落する「2022年問題」として不動産業界に大きな影響を与えると取リ沙汰されています。見方を変えるとビジネスチャンスになりえるポイントになります。

私たち士業、専門家は、この「2022年問題」に対し、どのように準備し対応すべきなのか。不動産コンサルタントから見るビジネスチャンスとそれに伴う士業・専門家が行うべき不動産対策を交えた生前対策提案手法をプロサーチ株式会社 代表取締役社長 松尾企晴氏 に解説していただきます。

  • 不動産市況予測と相続を取り巻く環境を知る
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待ったなし「生産緑地」2022年問題に向けて、どういう提案をすべきか?

三大都市圏(首都圏・近畿圏・中部圏)の生産緑地の総面積は1万ha以上あります。
2022年には、生産緑地の約8割が指定期間である30年の期限を迎え、相続対策の一環として多くの生産緑地が指定解除して宅地等へ転用することが予想されています。

しかし、都市農家の多くは高齢化・後継者不足の問題を抱えていることから、生産緑地の過半数が指定解除するでしょう。そんな中で、生前対策を行う士業・専門家はどのような取り組みをしていけばいいのか、士業・専門家が理解しておくべき生産緑地の考え方、営農義務など生産緑地制度の基礎から詳しく、税理士法人レディング 木下先生に解説していただいたセミナーです。

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