なぜ経営管理ビザは「難しい」と思われるのか? 渉外をこれから始める士業が知るべき“3つの壁”と突破口

外国人クライアントから「日本で会社を作って、ビジネスをしたい」という相談を受けた際、我々士業は会社設立登記の手続きを思い浮かべます。しかし、クライアントが日本に居住して事業を行う場合、避けては通れないのが在留資格「経営・管理」(通称:経営管理ビザ)の取得です。

多くの専門家が、この経営管理ビザの取得は「難しい」と耳にしますが、その「難しさ」の正体は何なのでしょうか?

それは単に手続きが複雑だから、というだけではありません。クライアントが直面する構造的な障壁と、それを乗り越えるために専門家が果たすべき役割に、その本質はあります。

今回の記事のポイントは下記の通りです。

  • 在留資格「経営・管理」の取得支援は、会社設立等の登記手続と不可分一体であり、その実体要件の充足が成否を分ける。
  • 申請における「難しさ」は、主に①先行投資リスク②事業計画の立証責任③資本金形成過程の説明責任、という3つの実践的な障壁に集約される。
  • 事業所の物理的独立性や資本金の形成的側面は、事業の安定性・継続性を測るための客観的指標として、当局により厳格に審査される。
  • 事業計画書は、申請者の構想を当局が理解し得る法的・経営的言語に翻訳した「立証資料」としての役割を担う。
  • 専門家の介在価値は、手続代行に留まらず、クライアントが直面する法的・財務的リスクを予見し、管理可能な課題へと転換させる点にある。

本稿では、渉外案件をこれから手がける士業がクライアントを成功に導くために知っておくべき障壁を「3つの壁」として整理し、その具体的な突破口を解説します。

1. 経営管理ビザを難しくさせる「3つの本質」とは

経営管理ビザの取得がなぜこれほどまでに専門家を悩ませるのか。その理由は、この在留資格の審査に特有の、避けて通れない3つの論点に集約されます。これらを深く理解することが、全ての戦略の出発点となります。

1-1. 答えが見えない「裁量審査」

経営管理ビザの審査は、要件を埋めれば通るものではありません。資本金500万円や事業所の確保といった形式要件は、あくまでスタートラインです。

審査のポイントは「この事業は、日本で安定的・継続的に行われるか」という、審査官の裁量判断にあります。この「明確な正解がない」点こそが、我々専門家の役割を単なる申請代行から、客観的証拠で事業の将来性を証明する「立証コンサルティング」へと変えるのです。

そして、この立証活動は闇雲に行うわけではありません。例えば、入管が公表している「赤字事業の継続性に関するガイドライン」などは、裁量判断の中身を読み解くための重要な羅針盤となります。専門家は、こうした基準を深く理解し、審査官が納得する論理と証拠を戦略的に構築することが求められます。

1-2. 先に「実体」を求める厳しい考え方

第二に、日本の在留資格審査は、「これから頑張ります」という未来への期待や計画だけでは許可を出しません。申請時点ですでに「事業の実体が客観的に存在していること」を求めます。

事務所が本当に存在するのか、資本金は確実に入金されているのか、会社は法的に設立されているのか、といった物理的・法的な「実体」を先に作らせるのです。これは、安易な起業による社会的な混乱を防ぎ、事業に失敗した場合のリスクを最小限に抑えたいという行政側のリスク管理思想の表れです。

しかしこの思想が、後述する「先行投資リスク」という、申請者にとって大きなハードルを生み出す原因となっています。

1-3. 事業が成功することの「立証責任」という重圧

第三に、審査において、「この事業は失敗する可能性がある」と入管側が証明する必要は一切ありません。その逆で、「この事業は成功し、安定・継続します」ということを、申請者側が全ての証拠をもって証明しなければならないのです。

これが「立証責任」の重圧です。少しでも説明が足りなければ、「立証不十分」として不許可となります。我々専門家は、クライアントの代理人として、この重い立証責任を背負い、審査官が抱くであろうあらゆる疑問や懸念を先回りして潰していく、緻密で網羅的な立証活動を展開する責任を負っているのです。

2. 実務の壁①:許可前の「先行投資」とそのリスク管理

クライアントが最初に直面する、最も分かりやすく、そして厳しい壁が先行投資のリスクです。これは先に「実体」を求める思想(本質②)が直接的に生み出す課題です。

2-1. なぜ許可前の投資が必要なのか?:「本気度」を証明する構造

クライアントの「まだ許可も出ていないのに、なぜオフィス契約や500万円の送金が必要なのか?」という当然の疑問に対し、我々は明確に答えなければなりません。

これは、事業を開始するための許可を得るために、事業の準備が完了していることを先に示さなければならない、という困難なジレンマです。出入国在留管理庁(入管)は「本気で事業をやる人間にだけ、ビザを出す」という姿勢を貫いています。

・事業所の確保は、「いつでも撤退できる腰掛け起業ではない」ことの物理的な証明です。
・資本金500万円は、事業を立ち上げ、当面の赤字を乗り越えるための「体力の証明」に他なりません。

入管は、申請者が夢のために覚悟があるかどうかを、これらの先行投資を通じて厳しく見極めています。この「保証なき先行投資」という構造こそ、専門家として最初にクライアントと共有すべき壁の正体です。

【重要】資本金要件の厳格化に関する動向

なお、2025年現在、政府内でこの資本金要件を現行の「500万円」から「原則3,000万円以上、かつ常勤職員1名以上の雇用」へと大幅に引き上げる案が最終調整に入っています。

この改正が施行されれば、先行投資リスクは質・量ともに劇的に増大します。本稿執筆時点では現行要件が適用されますが、クライアントへアドバイスをする専門家は、この法改正の動向を常に注視し、最新の情報を提供することが不可欠です。

2-2. 専門家としての具体的対策(突破口)

この壁を乗り越える我々の役割は、単なる手続きの案内人ではなく、クライアントのリスクを管理するプロジェクトマネージャーです。

リスクの「見える化」と合意形成:
最初の相談段階で、不許可になった場合にクライアントが失う可能性のある金額を具体的な一覧表にして提示すべきです。

例えば、「オフィス契約関連費用(敷金、礼金、仲介手数料、前払家賃):約100万円」「資本金(事業を開始できなければ塩漬けとなる資金):500万円」「設立費用・専門家報酬:約50万円」といった形で、最悪のケースを想定した具体的な数字を示し、「このリスクを理解した上で進みますか?」と明確な意思確認(インフォームド・コンセント)を行います。

このステップが、後の信頼関係の土台となります。

・賃貸借契約書の専門家レビュー:
クライアントが契約寸前のオフィスの契約書に潜むビザ申請上の落とし穴を見つけ出すのが我々の仕事です。最低でも以下の点は、専門家の目で確認しなければなりません。

  • 使用目的: 契約書の使用目的欄が「住居」となっていないか?必ず「事務所」「店舗」等の事業用となっていることを確認します。
  • 契約期間: あまりに短い契約期間(例:半年未満の定期借家契約など)は、事業の継続性を疑われる要因となります。最低でも1年以上の契約期間が望ましいでしょう。
  • 契約名義: 設立前の会社名は使えません。原則として発起人(クライアント)個人の名義で契約し、設立後に法人名義に変更できるか、その可否と手順を貸主側に確認しておく必要があります。
  • 事業所の実態: シェアオフィスの場合、個室ブースが確保され、社名を掲示できるなど、他の法人と明確に区分された独立した区画であることが必須です。コワーキングスペースのフリーアドレス席などは認められません。

リスクヘッジとしては「停止条件付契約」の提案:
不動産オーナーや管理会社に対し、「本契約は、借主である〇〇が、日本の在留資格『経営・管理』の許可(または変更許可)を得ることを停止条件として、その効力を生じるものとする。万一、許可が得られなかった場合、貸主は受領済みの敷金等を速やかに借主に返還するものとする」といった趣旨の停止条件条項を盛り込む交渉を提案します。

もちろん全ての物件で受け入れられるわけではありませんが、この提案をするだけで、専門家としての価値は飛躍的に高まります。

ただし、この種の特約は貸主側のリスクとなるため、交渉は容易ではないのが実情です。特に都心部の人気物件などでは、受け入れを拒否されるケースも少なくありません。あくまで高度な交渉を要する選択肢の一つとして捉え、クライアントに過度な期待をさせないよう配慮することも、専門家のリスク管理の一環と言えるでしょう。

3.実務の壁②:説得力ある「事業計画」の構築

第二の壁は、広範な「裁量審査」(本質①)と100%の「立証責任」(本質③)が複合的に絡み合う、申請の最重要関門です。説得力のある事業計画書を作成し、審査官の「大丈夫だろう」という裁量判断を引き出さなければなりません。

3-1. なぜ事業計画書で失敗するのか?:客観性の欠如

不許可となる計画書の共通点は、その内容が客観性に欠け、審査官に事業の実現可能性が伝わらないことです。

審査官が知りたいのは、その事業の「なぜ(Why)」「何を(What)」「どうやって(How)」、そして何より「なぜ、あなたが(Why You)」やるのか、という一貫した論理です。この論理的説明が構築できず、各項目がバラバラの願望の羅列になっている状態が、この壁の正体です。

3-2. 専門家としての具体的対策(突破口)

我々の役割は、クライアントの事業構想を整理し、審査官を納得させられる論理的な説明資料へと再構築することです。

  • 「3つのなぜ」で計画の骨格をあぶり出す:
    複雑なフォーマットを埋める前に、まずクライアントに①なぜ、このビジネスなのか? ②なぜ、今なのか? ③なぜ、あなたがやるのか?という3つの質問を投げかけ、その答えを徹底的に深掘りします。これが計画書全体の基礎となります。
  • 「定性的表現」を「定量的記述」に翻訳する:
    クライアントの抽象的な表現を、客観的なデータ(ファクト)で裏付け、具体的な記述へと翻訳していきます。「多くの顧客が見込めます」→「統計によれば、ターゲット市場の規模は年間〇〇円であり…」といった具合です。
  • 収支計画を「希望」から「約束」に変える:
    収支計画は、クライアントが審査官に提出する「経営の実現可能性を示すもの」です。売上の根拠、経費の漏れ、黒字化までの資金繰りなどをシミュレーションし、計画に圧倒的なリアリティを持たせます。

    特に、人件費については、役員報酬だけでなく、社会保険料の会社負担分まで計上することが、計画の信頼性を担保する上で不可欠です。
  • 業種別のチェックポイント:
    • 飲食店の場合: 店舗の座席数、客単価、想定回転率から売上を積算します。仕入先の確保や、食品衛生責任者の資格取得なども具体的に記述します。
    • 貿易業の場合: 具体的な取扱商品、輸出入の相手国、既に確保している(あるいは見込みのある)取引先を明記することが重要です。
    • ITコンサルティングの場合: 自身の技術力や実績を客観的に示すポートフォリオや、具体的な契約(あるいは見込み)案件の提示が説得力を持ちます。

4.第3の壁:資本金の「来歴」の証明

最後の壁は、「立証責任」(本質③)が最も色濃く反映される領域です。資本金500万円の「存在」だけでなく、その「正当な来歴」まで証明しなければなりません。

4-1. なぜ資金の「来歴」が問われるのか?:「見せ金」を疑う入管の視点

入管は性悪説に立ち、「この500万円は、ビザを取るためだけに一時的に誰かから借りてきた『見せ金』ではないか?」という強い疑いの目で見ています。この疑いを晴らす責任は、100%申請者側にあります。通帳の最終ページに500万円と印字されているだけでは、何一つ証明したことにはならないのです。

4-2. 専門家としての具体的対策(突破口)

我々の役割は、クライアントの財務状況を深くヒアリングし、証拠を整理し、資金の形成過程を論理的に説明することです。

  • シナリオ別の「証拠パッケージ」を指示する:
    資金の源泉に応じて、収集すべき証拠は異なります。専門家は、最適な「証拠パッケージ」を具体的に指示しなければなりません。(例:給与蓄積なら過去数年分の給与明細と取引履歴、親族贈与なら贈与契約書と贈与者の資力証明など)
  • 「資本金形成過程に関する説明書」を作成する:
    集めた証拠をただ提出するだけでは不親切です。専門家は、それらの証拠が何を意味するのかを解説する説明資料として、資金のクリーンな形成過程を文書で構築します。説明、証拠、結論をセットで提示することで、審査官の疑問を先回りして解消します。

5. 案件受任時に陥りがちな「4つの落とし穴」と専門家の注意点

「3つの壁」を乗り越える戦略に加え、渉外初心者の専門家が陥りがちな、より実践的な注意点を4つ紹介します。

5-1.「登記さえすれば良い」という誤解と事業目的の罠

会社設立登記で設定した「事業目的」と、ビザ申請で提出する「事業計画書」の間に不整合があると、申請の信憑性が大きく損なわれます。専門家は、定款作成段階からビザ申請を完全に見据え、事業計画と寸分違わぬ事業目的を設計するようクライアントを導く必要があります。

5-2. 安易な「名義貸し」への関与がもたらす致命的リスク

ビザが取れないクライアントのために、一時的に日本人を代表取締役として登記し、実質的な経営を外国人が行うといった「名義貸し」への関与は、虚偽申請とみなされ、発覚した場合は在留資格の取消しはもちろん、関与した専門家も刑事罰の対象となる可能性や、士業としての懲戒処分の対象となる深刻な事態を招きます。

5-3.「共同経営者」のビザ問題という見過ごされがちな論点

複数の外国人が共同で起業する場合、資本金500万円の要件は会社一つに対してですが、全員が「経営・管理」ビザを取得しようとすると、事業規模が複数の経営者を必要とするものであることを合理的に説明する必要があります。安易に「全員が役員です」とすると、過剰な役員構成と判断され、不許可のリスクが高まります。

5-4. 許可後の「更新」を見据えないサポートの危険性

ビザの取得はゴールではなくスタートです。初回の許可を得るためだけに、実現不可能なバラ色の事業計画を立ててしまうと、1年後の更新時に事業実績を示せず、クライアントは在留資格を失ってしまいます。我々専門家は、常に更新を見据え、地に足のついた事業計画の策定を支援する責務があります。

6.まとめ

  • 在留資格「経営・管理」の取得支援は、会社設立等の登記手続と不可分一体であり、その実体要件の充足が成否を分ける。
  • 申請における「難しさ」は、主に①先行投資リスク②事業計画の立証責任③資本金形成過程の説明責任、という3つの実践的な障壁に集約される。
  • 事業所の物理的独立性や資本金の形成的側面は、事業の安定性・継続性を測るための客観的指標として、当局により厳格に審査される。
  • 事業計画書は、申請者の構想を当局が理解し得る法的・経営的言語に翻訳した「立証資料」としての役割を担う。
  • 専門家の介在価値は、手続代行に留まらず、クライアントが直面する法的・財務的リスクを予見し、管理可能な課題へと転換させる点にある。

経営管理ビザの「難しさ」は、専門家がその本質と構造を理解すれば、乗り越えられない壁ではありません。むしろ、それらの壁をクライアントと共に乗り越えるプロセスにこそ、我々専門家の真の介在価値があります。

今後、単なる手続きはテクノロジーに代替されていく一方、法律や制度はより複雑化していきます。クライアントが真に求めるのは、書類作成の代行者ではなく、事業計画やリスク管理まで踏み込んで助言できる、信頼できる「ガイド」です。

ビザの取得で終わらず、その後の更新や事業成長まで長期的に寄り添うパートナーへ。我々の役割をそう定義することで、渉外実務は、専門家として圧倒的な価値を発揮できる、やりがいに満ちたフィールドとなるでしょう。

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